2018年02月11日

胃手術後ドレナージ

ドレーン・カテーテル・チューブ管理

『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』より転載。
今回は胃手術後ドレナージについて説明します。

《胃手術後ドレナージについて》

主な適応
幽門側胃切除術、胃全摘術など
膵液瘻を生じる危険がある場合(D2以上のリンパ節郭清、膵臓・脾臓の合併切除など)、吻合部縫合不全のリスクが高い場合
目的
術後腹腔内に貯留する血液・リンパ液などの排出、術後合併症の早期発見・対応
合併症
手術によるもの:出血、膵液瘻、縫合不全など
ドレーン留置によるもの:逆行性感染、疼痛、組織損傷、スキントラブルなど
抜去のめやす
食事開始後、排液の性状・量ともに変化がなければ抜去する
観察ポイント
勤務交替時とラウンドごとに排液の量・性状、固定部の状態を観察する
ケアのポイント
接続の確認 : クレンメの開放忘れ、排液バックに圧がかかっていない、接続外れ、ドレーンの固定が不十分など、重大な合併症につながるリスクがあるため注意する。
閉塞予防 : ドレーンに詰まりや屈曲がないか注意し、排液が流れやすいようにドレーンを固定する。詰まりやすいドレーンの場合には、適宜ミルキング
を行う

 

〈目次〉

胃手術後ドレナージの定義

ドレナージとは創傷から質的、量的に異常に体腔内に貯留した液体を体外へ除去することで、このために用いるチューブのことをドレーンという。後述するように、胃手術後においては、主に膵液瘻と縫合不全への対処を目的として留置される。

ドレナージの起こりは、フランスの外科医シャセニャック(Édouard-Pierre-Marie Chassaignac、1804-1879)が患部からゴムまたはガラス管を用いて排膿したのが、最初である。その後、ペンシルベニア大学婦人科教授のペンローズ(Charles Bingham Penrose、1862-1925)は、閉腹時にコンドームの中に束ねたガーゼを詰めて留置することを提唱し、術後感染の予防に効果をあげた1

以来、開腹手術後に腹腔内にドレーンを留置しておくことは、外科医にとって当然の作業とされてきた。

 

胃手術におけるドレナージの適応と禁忌

表1胃手術におけるドレナージの適応と禁忌

胃手術におけるドレナージの適応と禁忌

 

1ドレナージの適応に関する最近の傾向

手術手技や無菌操作の進歩により、術後合併症の発生率が下がるにつれて、術後にドレーンを留置する意義が徐々に薄れてきた。

逆に、ドレーンを長期に留置することで、逆行性感染の危険性や、離床の妨げとなるなどの欠点が指摘されるようになっている。

今日では、術後のドレーン留置の有用性についての科学的根拠はあまりないとされ、大腸癌においては複数の臨床試験やメタアナリシスで術後の予防的ドレナージの意義は否定されるに至った。胃癌手術に関してのエビデンスはいまだないものの、同様の報告はある2-5

 

2合併症リスクで異なるドレナージの適応

胃癌手術と大腸癌手術との相違は、膵周囲のリンパ節を郭清する点にある。標準手術とされるD2リンパ節郭清では膵上縁に沿って膵被膜の剥離が行われるので、膵液瘻の危険がある。癌の進行度によっては、脾臓や膵体尾部を合併切除することもあり、膵液瘻のリスクはさらに高まる。

膵液のドレナージが不良だと、腹腔内膿瘍を形成し消化管吻合部の縫合不全を生じたり、剥き出しになった血管の切離断端が融解して出血するなど、二次的合併症が続発する危険を伴う。

早期に術後合併症を予見し治療を開始することは、合併症が重症化するのを防ぐために重要である。その意味で、D2以上のリンパ節郭清や膵臓・脾臓を合併切除するなど膵液瘻を生じる危険がある場合、あるいは併存疾患や全身状態などの理由で吻合部の縫合不全のリスクが高い場合には、基本的にドレーンを留置する適応があると考える。

膵液瘻のリスクの少ないD0、D1郭清や、縫合不全の少ない胃部分切除術などでは、予防的ドレナージは省略可能であろう。

 

ドレーンの挿入経路と留置位置

1切除範囲と再建法

胃癌の場合、胃の遠位側に病変がある場合には遠位側2/3を切除する幽門側胃切除術(図-a参照)、胃の上部に病変がある場合や病変が胃全体に広がっている場合には胃全摘術(図-b参照)が標準術式である。

胃手術後ドレナージ

幽門側胃切除術後の再建法としてはビルロートI法が広く行われている。しかし、胆汁性残胃炎の発症を避けるため、ルーワイ法も行われる。

胃全摘術後の再建法は、ルーワイ法が一般的である。

 

2術後のドレーン留置部位

ドレーンの挿入経路と留置位置は、主要な合併症である膵液瘻と縫合不全への対処を意識して決定する。

胃癌根治術でD2リンパ節郭清を行った場合には、膵上縁の郭清部位において膵液瘻のリスクがある。

縫合不全は、幽門側胃切除術では残胃十二指腸吻合部(または十二指腸断端)に多く、胃全摘術ではそれに加えて食道空腸吻合部に生じやすい。

幽門側胃切除術では右側腹部からドレーンを刺入して十二指腸断端から膵上縁に留置する(図1)。

図1幽門側胃切除術におけるドレーン留置位置

幽門側胃切除術におけるドレーン留置位置

 

胃全摘術ではさらに食道空腸吻合部後面を通すように先端の位置を決める(図2)。

図2胃全摘術におけるドレーン留置位置

胃全摘術におけるドレーン留置位置

 

通常の胃全摘術ではドレーン挿入は1本で足りるが(図2-a)、脾臓を合併切除する場合には膵尾部からの膵液瘻に対処するため、左側腹部からもう1本ドレーンを刺入し、左横隔膜下に先端を留置する(図2-b)。

膵体尾部合併切除も併施した場合には、膵液瘻の危険性がさらに高くなるため、正中創左側の腹壁から膵臓断端に向けて、最短距離で直線的にドレーンを1本追加している(図2-C)。

 

3ドレーンの留置時の注意点

ドレーンの形状はさまざまな種類があり、各ドレーンの特性をよく理解して使用する(→『ドレーンチューブ』参照)。

筆者らは通常、マルチスリット型(ブレイク)ドレーン(図3-①)を低圧持続吸引システムと接続して留置している。ただし、膵液瘻や縫合不全の治療のために入れ替えまたは新たに挿入する場合には、入れ替えが容易で洗浄・造影が可能なチューブ型ドレーン(ファイコンなど、図3-②)を用いている。

図3胃手術後ドレナージで用いる主なドレーン

胃手術後ドレナージで用いる主なドレーン

 

ドレーンにより直接吻合部や断端などを圧迫しないよう注意を払う必要がある。

皮膚との固定の際は、呼吸や体動でドレーンがずれるのを防ぎ、刺入部の皮膚の痛みを軽減するため、1cm程度のあそびを作って固定し、さらに挿入部から離れた皮膚にもテープで固定する(図4)。

図4胃手術後ドレナージの固定

胃手術後ドレナージの固定

 

術後合併症とドレーン管理のポイント

1胃癌術後合併症

日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)で実施された臨床試験(JCOG0110)によると、進行胃癌に対して脾臓を温存したD2リンパ節郭清を行った場合、17%の患者に何らかの合併症が発生している6

多いものは腹腔内膿瘍(4.0%)、縫合不全(3.2%)、膵液瘻(2.4%)、腹腔内出血(1.6%)、肺炎(1.6%)であった。脾臓摘出を併施した場合には、膵液瘻(12.6%)、腹腔内膿瘍(7.9%)、縫合不全(4.3%)とさらに高率であった。

 

2胃切除の主な合併症とドレーン管理

胃切除の主な合併症は、縫合不全、膵液瘻とそれに続発する腹腔内膿瘍が挙げられる。これらに関して、適切に挿入されたドレーンから得られる情報は多い。異常をいち早く察知して対処するために、排液の性状・量について経過を追って観察を怠らないことが大切である。

 

①出血

手術当日から翌日にかけては術後出血に注意を払う。ドレーンから血性の排液が認められた場合には、その性状(血性、淡血性など)や量を経時的に観察する。

通常は時間経過に伴って、性状は血性から淡血性に変化し、排液量も減少し、自然に止血される。一方、ドレーンから100mL/時以上の出血がつづく場合には、血管塞栓術や緊急開腹止血術を考慮しなければならない。

出血の多寡を評価するには、排液だけでなく、血圧や脈拍などのバイタルサイン、呼吸状態、採血結果などのデータも参考にする。

 

②膵液瘻

膵液瘻では、術後1~3日後から排液が赤黒くなり、7日目前後で甘酸っぱい臭気を伴う粘稠かつ灰白色の排液になり、さらに感染を生じると膿汁に変化する。

膵液瘻の診断には、排液中のアミラーゼ値の測定が有用で、時間経過とともにアミラーゼ値が上昇し、数千単位となれば膵液瘻を発症していると判断できる。

感染を併発すると、発熱や腹部症状(腹痛や腹部膨満感)、採血による炎症反応の上昇がみられる。

膵液瘻が長引くと、動脈切離断端が破綻し、突然の腹腔内出血を生じることがある。

膵液瘻の診断のためには腹部造影CT検査を行い、腹腔内の膵液貯留の有無を検索する。膵液瘻が疑われる場合は、ドレーンは抜去せずに留置を継続し、洗浄、持続吸引などの対策をとる。

効果的にドレナージできない場合には開腹手術が検討されるが、CTガイド下穿刺によるドレナージ術は安全で有効な方法である。

 

③縫合不全

食道や十二指腸の血流不全や吻合部の緊張のため、胃切除術後の縫合不全は胃十二指腸吻合部(または十二指腸断端)や食道空腸吻合部に比較的多い。

術後4~7日目に胆汁・腸液様の排液が認められた際は縫合不全を疑い、水溶性造影剤(ガストログラフィンなど)による経口やドレーンからの造影検査を行って縫合不全の有無を確認する。

治療は、ドレナージ術が有効であればドレーン留置を継続し、絶飲絶食のうえで中心静脈栄養管理を行う。また、縫合不全部位の減圧目的に経鼻胃管(→『経鼻胃管』参照)を挿入し、間欠的低圧持続吸引を行うことも有用で、通常1~2週間程度の保存的加療で治癒することがほとんどである。

経過中に発熱や腹部症状が増悪した場合には、ドレナージ不良が原因で腹腔内膿瘍を形成している可能性があるため、早急に造影CT検査による検索を行う。腹腔内膿瘍を認めた場合には、通常超音波下あるいはCTガイド下穿刺によるドレナージ術を行う。場合により緊急開腹ドレナージ術を行うこともある。

 

3ドレーン抜去

長期間の留置に伴う逆行性感染の問題もあり、すみやかに抜去することが推奨される7。食事開始後ドレーン排液の性状・量ともに変化がなければ、ドレーン抜去を行う。

抜去前には膵上縁ドレーンの排液アミラーゼ値を確認しておく。ドレーン抜去後も抜去部位からの滲出液を観察する。

 

胃手術後ドレナージの利点と欠点

ドレーンはその機能に応じて、①予防、②診断、③治療の目的で使用される。予定手術で挿入されるドレーンはこのうち①にあたる。

利点と欠点を表2に示す。

表2胃手術後ドレナージの利点と欠点

胃手術後ドレナージの利点と欠点

 

胃手術後ドレナージのケアのポイント

ドレーンが入っている患者のどのような状態が“正常”なのか、“異常”なのかを見きわめることが、日々の看護師としての重要な役割である。そのためには、ドレーンが何のために挿入されているのか目的を理解し、観察を行う必要がある。

 

1胃手術後に行われるドレナージ

術後ドレーンの種類は、大きく「閉鎖式」と「開放式」に分けられるが、胃癌の術後のドレーンは閉鎖式が主であり、ドレーンを通して滲出液などを排液バックに誘導するものである。

排液バックの種類によっては、持続的に圧をかけて排液できるものがある(低圧持続吸引システム、図5)。

図5低圧持続吸引システムの一例

低圧持続吸引システムの一例

重大な合併症を防ぐチェックポイント
□クレンメで閉塞されたままになっていないか?
□排液バックに圧がかかっているか?(ロック状態)
□ドレーンの接続部が外れていないか?
□ドレーンの固定は十分か?

その利点としては、逆行性感染が起こりにくい、排液の量・性状の確認がしやすいなどが挙げられる。

しかし、観察を怠るとドレーンがクレンメで閉塞されたままであったり、排液バックに圧がかかっていなかったり、ドレーンの接続が外れる、ドレーンの固定が不十分で抜けてしまうなど、重大な合併症につながる可能性があるため注意が必要である。

 

2術後ドレナージの観察・管理のポイント

表3ドレーン管理の注意点

ドレーン管理の注意点

 

①ドレーンの観察

排液の量・性状を観察することはもちろんであるが、ドレーンの固定状況を観察することも重要な看護師の役割である。体動や発汗などで固定用テープが剥がれやすいため、固定部を観察し、固定方法を剥がれにくいよう工夫する。

観察のタイミングとしては、異常を早期発見するためにラウンドごとに観察することが望ましい。特に勤務交代時は、看護師2名でドレーン固定部や排液の異常がないか、指差し呼称して確認することが重要である。

 

②トラブルの予防

ドレーン管理における注意点は表3に示すとおりであるが、最も多いトラブルはドレーンの閉塞である。

ドレーンに詰まりや折れ曲がりがないか注意し、排液が流れやすいようにドレーンを固定する。詰まりやすいドレーンの場合には、適宜ミルキングを行う(ただし、J-VAC®ドレナージシステムはシリコン製のため、ミルキングローラーは使用しない)。排液量が多い場合には、ドレーンの間欠的低圧持続吸引が適している。

 


[Profile]
和田郁雄
東京都立墨東病院上部消化管外科医長
久保田直美
東京都立墨東病院看護部(11B病棟)副看護師長

*略歴は掲載時のものです。

 



本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

[出典]『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』(編著)窪田敬一/2015年7月刊行

ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版

著作権について

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