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2017年04月26日

エレバトリウム(イレパトリウム)|整形外科手術器械(3)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、整形外科の手術で使用される『エレバトリウム(イレパトリウム)』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の経験などに基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

エレバトリウム|整形外科手術器械(3)

 

〈目次〉

 

骨(膜)起子と呼ばれるエレバトリウムは骨の周辺で使用する器械

骨周辺の組織を持ち上げる

エレバトリウム(イレパトリウム)とは、骨起子や骨膜起子のことで、骨や骨膜を起こすとき(持ち上げるとき)に使用する器械です(図1)。

図1エレバトリウムは骨起子

エレバトリウムは骨起子

先端部で骨や骨膜を起こします(持ち上げます)。

 

エレバトリウムは、一般的には「エレバ(ト)」や「イレパ(ト)」と略されて呼ばれることが多いです。また、メーカーによっては、略されたまま製品名になっていることもあります。

 

memo呼び方がさまざまなエレバトリウム

エレバトリウムの英語表記は「elevators」となりますが、こちらもそのまま「エレベーター」という製品名になっていることもあります。

 

骨を扱う診療科では欠かせない器械

エレバトリウムは、骨の周辺で使用する器械のため、整形外科はもちろん、の骨を扱う耳鼻科、頭蓋骨を扱う脳外科、肋骨を扱う呼吸器外科、口腔内上顎骨・下顎骨を扱う口腔外科・形成外科、などでも利用されます。

エレバトリウムは、骨と軟部組織の間に入れて、骨や骨膜を起こしますが、場合によってはテコの原理を使うこともあります。

また、骨や骨膜を起こすだけでなく、軟部組織の剥離や深層での操作や圧排にも使用されます。

 

エレバトリウムの誕生秘話

開発者は、筋鈎で有名なDr.ランゲンベック

エレバトリウムが開発された経緯や人物など、詳しい記載や記録をたどりましたが、確実な文献は残っていませんでした。

しかし、現在存在するエレバトリウムのなかで、最もスタンダード(標準)な種類として、「ランゲンベック」という型があります。この名前は、『筋鈎(ランゲンベック扁平鈎)』でも出てきましたが、筋鈎の開発者のドイツ人医師のベルンハルト・フォン・ランゲンベック(Bernhard von Langenbeck;1810-1887)と同一人物だと推測されます。

 

鈎が大きすぎたため、サイズの小さいエレバトリウムが開発された!?

筋鈎(ランゲンベック扁平鈎)』を開発したDr.ランゲンベックは、現代でもその功績を称えられる優れた外科医です。

また、軍医でもあったDr.ランゲンベックは、四肢や末端組織の切断手術や、整形外科領域での治療において、特に高名でした。多くの患者さんを手術する際、それまで使用していた開創や圧排用の鈎類では対応しきれなくなり、エレバトリウムのように多様に使える器械を開発したのかもしれません。あるいは、四肢や末梢の切断手術の際、小さな骨を移動させたり、軟部組織から剥離するために持ち上げるなどの必要性にかられて、開発されたとも推測できます。

 

わが国の整形外科学を確立した医師 神中氏もエレバトリウムを開発した

エレバトリウムが、わが国に持ち込まれた詳細の経緯は不明です。しかし、エレバトリウムのなかには、日本人の名前がついているものがいくつかあります。そのなかの一つが、医師 神中正一(じんなかせいいち)氏(1890-1953)です。

Dr.神中は、九州大学整形外科学教室の第2代教授を務めた医師で、わが国初の本格的な整形外科の教科書『神中整形外科学』(1939年刊行)を発行した人物です。この教科書は、Dr.神中が亡くなった後も、弟子たちの手で改訂を重ね、整形外科医のバイブル的な書物となっています。

Dr.神中は、手術の腕が良く、とにかく熱心に研究や治療にあたっていたようです。多くの功績を残すとともに、多くの医療器械の開発にも熱心に取り組まれていたと言われています。

 

memoDr. 神中の残した功績

Dr.神中は、戦傷によって身体障害が激増した当時、戦傷者の職業復帰を目的とした施設の運営に熱心に協力しました。また、リハビリテーション施設の充実や、PT(理学療法士:physical therapist)やOT(作業療法士:occupational therapist)の導入を強く訴えていました。外科的な治療にとどまらず、その先の社会復帰にも目を向けた医師でした。

 

エレバトリウムの特徴

サイズ

エレバトリウムの全長サイズは、種類や形状や用途にもよりますが、おおむね20cmを中心に、前後数cmのサイズをラインナップしているメーカーが多いようです。

また、先端部分の幅や厚さのサイズにもバリエーションがあります。

 

形状

エレバトリウムの形状の基本型としては、長細い平たいスプーンのような、“カニスプーン”のスプーン側に似た形状をしています(図2)。先端の幅や厚さ、彎曲の程度はさまざまで、用途に合わせて細かくバリエーションがあるのが特徴です。

図2エレバトリウムの先端部の形状

エレバトリウムの先端部の形状

先端部は長細く、カニスプーンのように平たい形状です。

 

材質

エレバトリウムの材質は、ステンレス製です。

 

製造工程

素材を型押しし、余分な部分を取り除き、各種加工と熱処理を行い、最終調整を行います。

 

価格

価格は、5,000円台から20,000円台まで、幅広く設定されています。先端の太さや全体的な長さなど、サイズや形状(タイプ)により、違ってきます。

しかし、使用シーンが似ているラスパトリウムよりは、やや安価な設定です。これは、エレバトリウムの先端は、軽く彎曲させる加工や、面取りなどの手間は必要ですが、ラスパトリウムと違い、刃物の部分がありませんので、加工の手間としてはやや少ないためであると考えられます。

 

寿命

エレバトリウムもほかの器械と同様に、寿命の設定があるわけではありません。

使い方、そのものについても個々で違ってくることの多い器械です。組織に挟み込んだり、てこの原理を利用することもあるので、使用方法による金属疲労に気を配りましょう。

また、メンテナンスや洗浄や滅菌の過程などでの扱いにも注意が必要です。

 

エレバトリウムの使い方

使用方法

エレバトリウムは、関節の手術などで頻繁に使用される器械です。たとえば、膝関節の拘縮手術では、線維組織を剥離する必要がありますが、この場面では、さまざまな器械が使用されます。線維化が強い場合には、剪刀類やシェーバーが用いられることもあります。特に、鈍的な剥離が必要な場合には、エレバトリウムが活躍します。

また、徒手整復が不可能な小児の橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)の手術では、骨折部の背側に1cm程度の切開を加え、皮下、腱間を剥離し、骨片間にエレバトリウムを挿入し、てこの原理で転位した末梢骨片を整復することもあります(図3)。

図3エレバトリウムの使用例

エレバトリウムの使用例

骨折部にエレバトリウムを挿入して、てこの原理で整復しています。

 

類似器械との使い分け

エレバトリウムと言えば、セットのように名前が出るのが「ラスパトリウム(ラスパ)」という器械です。名前が似ているため、紛らわしく思えますが、使用用途は全く逆です。また、外観は似ていますが、先端部に違いがあります(表1)。

表1エレバトリウムとラスパトリウムの違い

エレバトリウム(elevetors)

骨(膜)起子。骨や骨膜を起こす。圧排、軟部組織の剥離を行う。
ラスパトリム(raspatories)

骨膜剝離子。骨膜を剥離する。

(『高砂』一般外科手術器械 総合カタログ. より写真引用)

 

禁忌

エレバトリウムの禁忌はありませんが、先端のサイズや形状に多くのバリエーションが存在します。用途にあった選択が必要です。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

多種多様な形状のエレバトリウムの使用用途

エレバトリウムと外観が似ており、手術中に取り間違えの可能性がある器械といえば、同じようなシーンで使用されるラスパトリウムがあります。

また、同じエレバトリウムでも、多種多様な形状があるため、取り間違いには注意しましょう。特に、軟部組織の剥離や組織保護には、先端が薄くストレートに近いエレバトリウムを使用します。一方、組織の圧排であれば先端が弱彎(じゃくわん)になったもの、太い神経の保護には強彎(きょうわん)のものなどのように、用途に合ったエレバトリウムを選択することが大切です。

器械を管理する際は、整形外科用、歯科用、形成外科用など、診療科ごとに管理されていることが多いでしょう。

 

memo手術部位によって使い分けるエレバトリウム

手術の対象部位によってエレバトリウムには、下記のように使い分けられます。

下腿や大腿骨の骨折:ランゲベック型エレバトリウム

手の外科手術:ラスパトリウムと一体になったもの

脊椎の手術:先端がごく細い形状の黄色靭帯用

 

使用前はココを確認

手術中、エレバトリウムを当てることで組織を傷つけることがないように、先端部分の亀裂や欠損などを確認しておきましょう。また、厚みがある種類のエレバトリウムでは、その側面にも同様の確認をしておきましょう。先端部分が彎曲しているタイプであれば、中心線のズレがない(ゆがみがない)ことも確認しておきます。

 

術中はココがポイント

器械出しの際、エレバトリウムの持ち手部分がドクターの手に当たるよう渡します。看護師は先端寄りを持ち、エレバトリウムの大きさに関わらず、ドクターが確実に柄を握れるようにします(図4図5)。

図4エレバトリウムの手渡し方例(1)

エレバトリウムの手渡し方例(1)

柄と先端部の間を持ち、ドクターに手渡します。

 

図5エレバトリウムの手渡し方例(2)

エレバトリウムの手渡し方例(2)

ドクターが柄の部分を持てるように手渡します。

 

使用後はココを注意

エレバトリウムが術野から戻ったら、使用前と同様、先端部分の不具合がないかを確認します。付着物があれば生食ガーゼなどでふき取っておきましょう。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄の手順(1)~(3)は、ほかの器械類と同じです。

(1)手術終了後は、必ず器械カウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落としておく
(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合は、必ず付着物を落としておく

 

(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは鈎が引っかからない場所に置く

エレバトリウムは基本的に、1本の長い器械です。洗浄用ケース(カゴ)に並べる場合は、ほかの器械と重ならないよう、余裕を持って置きましょう。

また、洗浄ケース(カゴ)の目が粗い場合、細いエレバトリウムでは、飛び出してしまうことがあります。雑に並べると、ほかの器械と重なり合ってしまい、金属同士が洗浄工程でぶつかり合って先端部がゆがんだり欠けたりしますので、丁寧な扱いを心がけましょう。

 

滅菌方法

ほかの器械類と同様に、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。滅菌完了直後は、非常に高温なため、ヤケドをしないように注意しましょう。

 

 


[参考文献]


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験


Illustration:田中博志

Photo:kuma*


協力:高砂医科工業株式会社


著作権について

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