2017年06月22日

熱中症

『手術ナーシング』2016年3月号<体温管理>より抜粋。
熱中症について解説します。

 

Point

  • 熱中症は,人間の体温維持機構が破綻したときに発症します。
  • 新しい重症度分類が提唱され,広く用いられるようになっています。
  • 重症熱中症の予後は,冷却完了までの時間によって決まります。

飯田淳義
(岡山大学医療教育統合開発センター)

竹原裕子
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学)

氏家良人
(川崎医科大学救急総合診療医学講座特命教授)

 

〈目次〉

 

はじめに

2015年,2016年と暑い夏が続きました。暑い夏には熱中症患者が増加します。もちろん気温が高いと熱中症に罹患しやすいのですが,気温だけでなく湿度も重要な因子であることがわかっています。

熱中症に罹患する人はどんな人でしょうか。

熱中症は学校での体育やクラブ活動中,また職場での労働作業中のみならず,自宅で就寝中でも発症します。熱中症の半数以上は,日常生活のなかで発症しているのです。

罹患する年齢をみると,1990年代から若年者の発症が漸減傾向にあるのに比べ,高齢者では発症数が増加傾向にあります。また熱中症による死亡数は1995年以降,増加傾向にあります。

男女比では発症数と同様に男性に多く,年齢では80歳代にピークがあります。

人の命を奪ってしまうこともある,怖い病気「熱中症」。この知っているようで知らない熱中症について,ここでは発症様式,分類,治療について,順番にみていきましょう。

 

人間の体温調節

体温調節の仕組み

そもそも人は,どうして熱中症になるのでしょうか。高体温の何がよくないのでしょうか。

私たち人間の身体は,体温を一定に保たなければ生命を維持できません。それは身体の各種機能にとって最適である温度範囲が限られているからです。たとえば,生体内の各種生化学反応を司る酵素反応の至適温度は平常体温に設定されています。

人間の全身の体温を一定に保つよう制御している体温調節中枢は,視床下部にあります。視床下部は体温を一定に保つためにいくつかの対策を行っており,それらの仕組みが破綻したときに体温は異常高温となり,熱中症として治療が必要になります。

私たちの体温は「代謝で産生する熱」と「外部との熱交換」の2つの要因によって決定されます。視床下部による体温制御は,このバランスに介入しているのです。

「代謝で産生する熱」はじっと安静にしていても,心臓は動いていますし呼吸もしているため,生きている以上はどうしてもゼロになりません。したがって「外部との熱交換」がうまくできなければ,いくら安静にしていても体内に熱が蓄積していって,致死的な高体温となることがあります。

 

高体温の影響

高体温になると,臓器損傷が起こります。熱そのものによる一次的な臓器損傷と,脱水や循環不全による二次的な臓器損傷があります。

たとえば中枢神経系が熱に弱いことは古くから指摘されており,とくに小脳状核,外包,被殻外側,視床内側,海馬などの部分が熱に弱く,最終的に脳萎縮をきたします。

また大量の発汗が続くと体液量の減少,組織灌流量の低下に至り,疲労感,ふらつき,嘔吐などの症状が出現します。やがて視床下部の体温調節中枢が機能しなくなると,発汗が生じなくなり,ますます状態が悪化し,意識障害や肝腎機能障害,凝固障害など,生命が危険に曝されることになります。

 

発熱と熱中症の違い

ところで,人間の体は感染症などでも体温が上がります。これは,微生物がもたらす外因性の発熱物質を引き金として,視床下部における体温の設定値が上昇するからです。

このように視床下部の体温設定値が上がり,内因的な調節により高体温となることを発熱と呼びます。内分泌疾患などでも同様です。

発熱は,視床下部の設定値が上がることで,内因的な調節により能動的に高体温となっているのに対し,熱中症では,暑熱環境下で外因的な要因により受動的に高体温となっている点が異なります(図1)。

図1高体温になる過程(文献5より引用)

高体温になる過程

 

では風邪など感染症で解熱薬を用いることがありますが,熱中症の高体温には有効なのでしょうか。解熱薬は,体温設定値の上昇を抑制することで解熱効果をもたらします。

熱中症では感染症の発熱と異なり,視床下部の体温の設定値が変化していません。したがって,熱中症に解熱薬を用いても意味がありませんし,それで治療を終えることは許されません。

 

熱中症の病態

体温上昇を抑える仕組み

人間の体温上昇を抑える仕組みを,詳しくみてみましょう。

体内では,生命維持のために行われるあらゆる代謝活動によって,常に熱が産生されています。また肉体運動によっても筋肉から多くの熱が発生します。

人間は恒温動物であり,中心温(深部体温,核温ともいいます)が37℃近辺に厳密に維持されているのは,その温度が,体内の酵素が効率よく働くための最適な温度だからです。

体内で産生された熱は血流にのって全身をまわります。全身の皮膚の直下には毛細血管が網目のように広がって分布しており,血液が毛細血管を流れる間に外気温によって冷却されます。その冷えた血液が再び中枢に還流することで体温上昇を防いでいます。

体が熱くなると体表が赤くなるのは,冷却の効率を上げるために皮下の毛細血管が拡張するからです。その血液からは,汗腺を通じて汗が大量に作り出され,それが表皮から蒸発することで気化熱を奪います。

このほか体表では放熱,対流,伝導といった機序で血液を冷やし,体温上昇を防いでいます。これらのうち最も効率がよいのは気化で,しかも湿度が低いほうが効果が高くなります。

 

体温上昇を抑える要素と熱中症の危険因子

さて体温上昇を抑える仕組みをみたところで,それらの効果に影響する要素をみてみましょう。

 

外的環境

体温上昇を抑える効果に大きく影響するのは,気温,湿度,輻射熱,風の強さ,日射,衣服など,体から熱を効率よく捨て去ることができる外的環境かどうかです。これは屋内だとエアコンや扇風機などで調節可能であり,屋外でも日陰への退避,帽子や風通しのよい速乾性衣服の利用などでも一定の効果があります。

そのため,そういった環境を変えられない状況,たとえばスポーツの試合の最中や,寝たきりの状態などでは,熱中症の危険が高まることになります。

 

心機能

熱交換の効率に影響を与える2つ目の因子は,心機能です。熱い血液を体表に送り出し,冷やされた血液を心臓へ迎え入れて再び送り出すのは心臓の収縮力,すなわちポンプとしての作用です。

持病に心不全があると,暑熱環境下に置かれた場合,心臓の働きが熱の汲み出しに十分対応できず,結果として体内に熱がうっ滞することになります。

つまり心疾患は,熱中症の危険因子ということになります。

 

循環血液量

さらに,もう1つの重要な要素として,熱の運搬役となる血液そのものの量,つまり循環血液量があります。

体内の水分不足が進行すると,熱の運搬役である血液そのものが減少し,熱運搬の効率が下がります。これも,熱が体内にうっ滞する原因となります。したがって,夜中にトイレに行くのを避けるために夜間の水分摂取を控えることは,脱水傾向を招くため,熱中症予防には不利になります。

連続する猛暑日と熱帯夜は,とくに高齢者の体力を奪い食欲を落として,徐々に脱水が進行します。その結果,数日経ってから体調不良で受診(または救急搬送)して熱中症の診断を受ける高齢者が少なくありません。

***

熱中症の起こり方をまとめると,まず気温が高くなると放熱の効果が上がらなくなります。多湿環境では汗が乾かず気化熱が奪えなくなり,風が吹かなければ対流の効果も望めません。

体表温度の上昇が長時間に及ぶと,発汗に伴う脱水症状が進行するとともに,拡張した末梢血管に血流が滞留することと相まって,熱の運搬役である循環血液量の減少につながります。

体内からの熱の汲み出しが滞ると,体温維持機構が破綻して体温が上昇しはじめ,熱中症に陥ることとなります(図2)。

図2体温調節と熱中症の起こり方(文献5より引用)

体温調節と熱中症の起こり方

 

細胞レベルでは,体温が40℃になると酵素の変性が起こりはじめ,41℃でミトコンドリア機能の低下による酸化的リン酸化(各細胞内のエネルギー産生)が停止し,各臓器障害へとつながっていきます。42℃以上では,さらに組織細胞の器質的破壊が始まり,多臓器不全に陥ります。具体的な各臓器障害は表1の通りです。

表1熱中症時の各臓器における反応(文献8より引用)

熱中症時の各臓器における反応

 

熱中症の定義と分類

さて,今まで人間の体の体温調節機構と,その破綻により熱中症に陥る過程をみてきました。

熱中症とは一般的に,「暑熱環境における身体適応障害によって発生する状態の総称」と定義されます。その症状は多彩で,重症度も軽症から最重症まであります。従来から熱中症は,熱失神,熱痙攣,熱射病などと分類されてきました。現在では重症度によってⅠ〜Ⅲ度の3段階に分類する新分類も広く用いられています。

では従来の分類からみていきましょう。

 

熱中症の旧来の4分類

熱失神(heat syncope)

末梢血管の拡張と,発汗/不感蒸泄の増加に伴って,相対的に循環血液量が減少することにより発生する起立性低血圧,つまり立ちくらみの一種です。悪心,頭痛めまい,頻脈を起こすこともあります。

 

熱痙攣(heat cramps)

発汗によるナトリウム欠乏で筋肉の興奮性が亢進し,大腿や下腿に筋肉の痛みや攣縮が生じる状態です。作業後など疲労した筋肉に発生しやすくなります。いわゆるこむら返りです。重症例でみられる全身痙攣とは区別します。

また,平滑筋が痙攣すると腹痛と嘔吐が起こることもあります。低張液を飲むと症状を誘発したり増強させたりするため,注意が必要です。なお,予後は良好です。

 

熱疲労(heat exhaustion)

脱水によって体温上昇と脱力をきたしますが,意識障害は認めません。まだ体温調節能力は保たれており,発汗がみられます。したがって,体温は熱射病ほど高くありません。脱水と末梢血管拡張を伴う循環血液量の減少が本態です。

症状は,初期に頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感,集中力や判断力の低下などがみられ,続いて頻脈や血圧の低下,電解質異常が認められます。まず,涼しくて風通しのよい場所へ移って安静にし,水分と電解質を補給しましょう。

 

熱射病(heat stroke)

熱中症の最重症型です。深部体温は一般的に40℃を超え,皮膚は暑く乾燥して紅潮しており,せん妄や痙攣,昏睡などの中枢神経症状を呈することが多いです。自律的な体温調節機能は失われ,高体温によって細胞が破壊され,中枢神経障害,肝/腎障害,横紋筋融解などをきたします。

体温のコントロールなどの適切な治療を積極的に行っても,生命を失うこともまれでなく,生存できたとしても,永続的な後遺症(しばしば中枢神経障害)をのこすこともあります。

 

熱中症の新分類

従来は上記のような分類を用いていましたが,それぞれの定義に混乱がみられたり,重症度を把握しにくいなどの問題が指摘されていました。また,熱中症では予防,早期発見,早期診断が重要であることから,専門家以外にも理解しやすい分類と疾患概念が必要とされました。

このような背景を踏まえて,1999年に安岡らによる熱中症の新分類が提案されました。この新分類の特徴は3点に集約されます。

まず,重症度によってⅠ〜Ⅲ度の3段階に分類して単純化し,熱中症を軽症から重症まで1本の軸で連続的に捉えることができるようにしました。

次に,障害を受ける標的臓器を明確にして重症度をわかりやすくしました。その標的臓器とは,中枢神経系,肝/腎,血液凝固系の3つです。

そして最後に,それぞれの重症度に対応する治療も明確にしました(図3)。

図3日本救急医学会熱中症分類2015(文献9より引用)

日本救急医学会熱中症分類2015

 

Ⅰ度

軽症群です。症状はめまい,失神,立ちくらみ,筋肉痛,筋痙攣(こむら返り)を伴い,意識障害は認めません。発汗を大量に認めることがあります。通常は入院を必要とせず,安静にして水分と電解質を経口的に補給します。

 

Ⅱ度

中等症群です。症状としては頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感などです。病態としては脱水と電解質異常があり,末梢循環不全に進行する可能性があります。

ただし意識障害,肝・腎機能障害,血液凝固障害はいずれも認めません(1つでも認めたら,それはⅢ度熱中症です)。横紋筋融壊に伴うクレアチンフォスフォキナーゼ値(creatine phosphpkinase;CPK)の上昇は認めることがあります。

Ⅱ度熱中症は入院治療の必要があり,安静と体温管理,十分な水分とナトリウムの補正を行います。さらに重症化する可能性があるため注意が必要です。ややわかりにくい定義ですが,熱中症のうち,Ⅰ度とⅢ度のどちらにもあてはまらないものすべてと考えてください。

 

Ⅲ度

重症群です。①不穏,意識レベル低下といった意識障害,全身性痙攣,運動失調に表れる小脳症状などの中枢神経症状,②肝・腎機能障害(AST,ALT,BUN,Creatの上昇),③血液凝固障害(急性期DIC診断基準にてDICと診断)のうち,どれか1つでも認めたらⅢ度とします。

体温に関しては,「40℃」という数字にこだわると,重症例の見逃しや初期治療の遅れにつながる可能性があるため,固執する必要はありません。深部体温で39℃,腋窩温だとさらに低く,38℃でもⅢ度熱中症はありえます。

Ⅲ度熱中症も入院治療が必要で,体温管理,水分電解質管理に加えて呼吸循環管理,DIC治療などが必要になるため,集中治療室で治療を行うことが一般的です。診療上,熱中症がⅢ度かどうかの判断が重要です。Ⅱ度かⅢ度か迷う場合にはとりあえずⅢ度として治療を開始します。

また,多臓器不全に陥ることもまれでなく,その場合は高率に死亡します。

 

熱中症の応急処置と治療

次に,熱中症の応急処置と集中治療について,やや詳しくみていきましょう。

熱中症の死亡率は,異常高体温が持続した時間と直接相関関係にあります。そのため,現場での迅速かつ適切な初期対応が重要です。

 

熱中症の初期対応

緊急事態の認識

まず,緊急事態であることを認識しなければいけません。もし意識レベルに変調があれば,重症熱中症であるため,速やかな救急要請,搬送を行ってください。

 

安静

応急処置の第1歩は,発症の原因となった暑熱環境を改善することです。運動や労働はすぐに中止し,日陰や風通しのよい場所,冷房の効いた部屋などに移動させて,安静にさせます。

 

冷却

汗の蒸発と放熱を促進するために,衣服は脱がせましょう。水をスプレーしたり湿った布で身体を覆って扇風機などで送風し,気化熱を奪う蒸散法が,現実的かつ効果的です。アイスパックなどを腋窩や頚部に当てる方法も用いられますが,それほど大きな効果は期待できないようです。

 

補給

熱中症の多くは,水分と塩分の喪失を伴っています。経口摂取が可能であれば,経口的に水分と塩分を補給します。ブドウ糖と同時に摂ると,小腸での吸収効率が高まります。

 

I度熱中症の治療

熱痙攣,熱失神が含まれます。

熱痙攣では,低ナトリウム血症の頻度が高いことが知られています。横紋筋融解症や腎障害の有無を確認し,もし腎障害を認めたらⅢ度熱中症として扱います。

熱痙攣は水分と電解質の補給で比較的容易に改善します。市販のスポーツドリンクを飲ませるときは,それだけでは塩分が足りないため,500mLペットボトルに食塩をひとつまみ程度足すとなおよいです。ただし,食塩のみを投与するのは推奨されません。

熱失神においても,暑熱環境の改善や安静,水分と電解質の補給で比較的容易に改善します。しかし,熱失神と決めてかかると,ときに不整脈や貧血てんかん,脳血管障害などの病態が隠れていることがあるため,注意が必要です。

 

Ⅱ度熱中症の治療

従来の分類では熱疲労と呼ばれていました。どちらにしてもⅢ度熱中症(熱射病)と連続した病態であるため,ここで進行を食い止めることが重要です。受診時の体温にこだわらず,意識の変調があればⅢ度熱中症です。治療の要点は,涼しい環境の確保と補液です。急速冷却が必要になることはあまりありません。

高齢者や,重篤な基礎疾患を有する場合,電解質異常が存在する場合,または数時間治療しても症状が改善しない場合は,入院治療の適応です。

健康な若年者で電解質などの異常がない場合は,数時間の治療と観察の後に帰宅させる場合もありますが,その場合でも24〜48時間の安静と十分な水分摂取を指導します。またたとえば,冷房のない自宅へ帰してはいけません。

 

III度熱中症の治療

中枢神経系,肝/腎,血液凝固系が主要標的臓器となりますが,とりわけ中枢神経系は異常高体温による損傷を受けやすく,冷却までの時間が予後を左右します。

Ⅲ度熱中症の治療にはゴールデンタイムがあると認識し,少しでも早く冷却を開始しなければいけません。治療の目標は,とにかく迅速な冷却と臓器不全のサポートです。

また,Ⅲ度熱中症ではしばしば意識障害や痙攣を伴い,嘔吐や誤嚥のリスクが高くなっています。もし気道に不安があれば,積極的に気管内挿管を考慮します。

衣服はすべて脱がし,補液を開始します。冷やした輸液製剤を用いることが多いようですが,それ自体に大きな冷却効果はありません。

体表冷却を開始しつつ,酸素投与,心電図モニタリング,尿道カテーテル挿入などを行います。

 

冷却

体温は直腸温,膀胱温などの深部体温で管理します。腋窩温などの体表温は環境の影響を受けやすいためです。

体表冷却法は蒸散法が実際的であり,広く行われています。体表に水を噴霧したり,濡らしたガーゼなどで覆って扇風機で送風し,気化熱を奪います。水より揮発性の高いアルコールを用いる方法は,アルコールが経皮的に大量に吸収されるおそれがあるため,とくに小児などには行いません。

頚部や腋窩,鼠径部へ氷嚢などを当てる方法,冷水による胃洗浄の方法もありますが,補助的手段です(表2)。

表2各種冷却方法の長所・短所(文献7より引用)

各種冷却方法の長所・短所

 

目標は深部体温で39℃とし,その後は冷却速度を落とします。38℃まで低下したら冷却を中止します。

重症熱中症では,視床下部の体温中枢が機能しないため,アセトアミノフェンなどの解熱薬の効果は期待できません。また,悪性高熱や悪性症候群で使用されるダントロレンの効果も期待できないようです。

 

痙攣の治療

通常,他の原因による痙攣と同様に,まずジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬を使用します。ほとんどの場合はコントロールできますが,繰り返す場合や無効の場合は気管内挿管,人工呼吸管理としてミダゾラムやプロポフォールの持続投与を行います。

クロルプロマジンは,その抗コリン作用が冷却に不利に働くおそれがあること,また痙攣の閾値を下げる可能性があることから,慎重に使用します。

 

輸液/電解質補正

発汗による体液喪失を伴う場合は,大量の輸液が必要になります。ただし,とくに高齢者においては,もともと低心機能である場合があるため,注意が必要です。体液量と電解質をチェックしながら補液を続けます。冷却と大量補液で大抵の低血圧は改善します。

しかし,体液の不足がないにもかかわらず低血圧が持続する場合は,カテコールアミンを使用します。カテコールアミンは,理論的には末梢血管を収縮させて熱放散を抑制してしまう可能性がありますが,熱中症における不利益は現在のところ証明されていません。

電解質異常は,高ナトリウム血症と低ナトリウム血症の両方の可能性があります。これは自由水の摂取量と関連しています。いずれにしても急速な補正は危険を伴うことがあるため,ゆっくりと補正することが多いです。

 

横紋筋融解症の治療

CPKが5000IU/L以上であるなら,横紋筋融解症を合併していると認識して,治療しなければいけません。

尿は,濃縮とミオグロビンのため赤褐色調になります。ミオグロビンは尿細管壊死を起こし,腎障害へとつながります。横紋筋融解症では大量の血液成分が筋肉内に移行して血管内脱水をきたしており,さらに腎保護のために大量の輸液が必要になります。時間尿で4mL/kgを目標としている施設もあります。

十分な補液を行っても利尿が得られない場合は,マンニトールなどの浸透圧利尿薬を使用します。フロセミドなどのループ利尿薬は推奨されません。

また,理論的には重炭酸ナトリウムを使用して尿をアルカリ化することが尿細管保護作用に働くと考えられますが,その有効性はまだ証明されていません。

もちろん肺水腫や高カリウム血症,酸血症など急性腎不全をきたした場合は,早期に透析導入を検討します。

 

凝固異常の治療

DICの合併頻度も低くありません。異常高体温による血管内皮障害や血小板機能障害が原因と考えられており,18〜36時間以内が発症のピークです。DICに対しても,重要な治療はやはり冷却です。また,フサンなどのDIC治療薬も使用されることが多いです。

 

識別診断

何らかの原因で意識障害,高熱をきたす病態が鑑別診断の対象になります。とくに,感染症との鑑別は容易ではありませんが,丁寧な病歴所見と身体所見が基本になることは変わりません。

しかし,検査や鑑別のために冷却が遅れてはいけません。繰り返しになりますが,重症熱中症では冷却のスピードがそのまま予後を左右します。

 

熱中症の後遺症

通常,熱中症による神経障害は可逆的ですが,一部では重症熱中症において,小脳失調など後遺症が認められることが報告されています。

後遺症のなかで最も多く報告されているのは運動失調や構音障害,眼振などの小脳失調です。他に錘体路障害,錐体外路障害,脊髄障害,高次機能障害,嚥下障害などの報告もあります。

日本における熱中症の実態を調査するため,日本救急医学会が中心となって観察研究が行われました。2006年と2008年に行われた(最終報告はそれぞれ2008年,2010年)ため,Heatstroke STUDY2006,および2008と名付けられています。

それらの結果を検討してみると,中枢神経系後遺症を発症する患者さんの危険因子が浮かび上がってきます。

まず重症度ですが,中枢神経系後遺症を発症した患者さんは,ほとんどがⅢ度熱中症でした。

そこで,Ⅲ度熱中症で後遺症なく生存退院した患者さんと,残念ながら後遺症を発症した患者さんとで比較してみます。それによると,中枢神経系後遺症を発症しやすい要因は高齢者であること,来院時の意識レベルが悪いこと,来院時の体温が高いことでした。一方,性別や血圧などは関係なさそうです。

また治療に目を移すと,病院受診から深部体温を38℃まで冷却するためにかかった時間が長いと,中枢神経系後遺症を発症する可能性が高まります。したがって,冷却処置に関する時間的要因は,後遺症発症にかかわる重要な因子であることがここでも示されたといってよいでしょう。

 

おわりに

熱中症は,一度罹患すると再罹患しやすくなることがわかっています。つまり,予防が重要です。

また同じ気温・湿度でも,暑さに慣れていないと罹患しやすくなります。暑熱順化といって,暑さにある程度慣れておくと発症しにくくなります。熱中症予防の基本は,暑熱順化の獲得,暑熱環境からの逃避,体調管理,情報の活用です。日ごろから運動で汗を流しておくことが効果的です。

また,暑い日中の運動は避けましょう。睡眠不足や二日酔いも熱中症のもとになります。高温環境の評価や,熱中症発症のメカニズムを知ることも重要です。

なお本コラムではいくつかのテキスト,論文を参考にしていますが,とくに「熱中症〜日本を襲う熱波の恐怖〜」(日本救急医学会編集,へるす出版)に内容の多くを依拠しています。熱中症についてさらに深く,また疫学的観点や国・地方自治体の対策などについて学びたい方はぜひ一読をお勧めします。

 


[引用・参考文献]

  • (1)日本救急医学会専門医認定委員会(編):救急診療指針改訂第4版.へるす出版:2011.
  • (2)日本救急医学会(監):標準救急医学第4版.医学書院:2009.
  • (3)和田 攻ほか(編):図解救急・応急処置ガイド:救急・応急時に必ず役立つ基本手技と処置のすべて(Medicalpractice,臨時増刊号).文光堂:1998.
  • (4)公益財団法人日本体育協会:スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック:http://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid/776/Default.aspx(2016年9月閲覧)
  • (5)日本救急医学会(編):熱中症〜日本を襲う熱波の恐怖〜.へるす出版:2011.
  • (6)安岡正蔵ほか:熱中症(暑熱障害)Ⅰ〜Ⅲ度分類の提案;熱中症新分類の臨床的意義.救急医学,23:1119-1123,1999.
  • (7)Judith Tintinalli J, et al.: Tintinalli's Emergency Medicine: A Comprehensive Study Guide, 7th ed: p1342, 2010.
  • (8)三宅康史:熱中症の予防と対策:http://www.sonpo.or.jp/archive/publish/bousai/jiho/pdf/no_258/yj25818.pdf(2016年9月閲覧)
  • (9)日本救急医学会:熱中症ガイドライン2015:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf(2016年9月閲覧)

[Profile]
飯田淳義(いいだ あつよし)
岡山大学医療教育統合開発センター
2006年岡山大学医学部卒業。岡山赤十字病院で初期研修を修了後,心臓病センター榊原病院心臓血管外科を経て,現在岡山大学病院高度救命救急センターと岡山大学医療教育統合開発センターを兼務。

竹原裕子(たけはら ゆうこ)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学
2008年岡山大学医学部卒業。岡山大学病院で初期研修を修了後,国立岩国医療センター外科,岡山大学病院高度救命救急センターを経て,現在岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学。本章ではかわいいイラストを担当。

氏家良人(うじけ よしひと)
川崎医科大学救急総合診療医学講座特命教授
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救急医学講座教授,岡山大学病院高度救命救急センター長を経て,現在川崎医科大学救急総合診療医学講座特命教授。一般社団法人日本集中治療医学会理事長。

 

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2016医学出版
[出典]手術ナーシング2016年3号

手術ナーシング2016年3号

p.88~「熱中症」

著作権について

関連記事

  • その症状、もしかしたらマムシ咬傷かも?!|キケンな動植物による患者の症状【9】 [08/22up]

    嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。 この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイント... [ 記事を読む ]

  • 胸痛に関するQ&A [09/11up]

    『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。 今回は「胸痛」に関するQ&Aです。 胸痛の患者からの訴え 「胸が痛みます」 「胸に違和感があります」 「圧迫されるような感じがあります」 ... [ 記事を読む ]

  • 黄疸に関するQ&A [02/26up]

    『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。 今回は「黄疸」に関するQ&Aです。 黄疸の患者からの訴え 「身体が黄色っぽいといわれました」 「白目が黄色く見えます」   〈黄疸... [ 記事を読む ]

  • インフルエンザ【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【19】 [10/31up]

    来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか? 本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんに... [ 記事を読む ]

  • 平均皮膚温と平均体温|体温とその調節 [11/13up]

    看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。 〈前回の内容〉 発汗|体温とその調節 今回は、平均皮膚温と平均体温について解説します。 〈目次〉 核心温と外層温 サーカディアン・... [ 記事を読む ]

いちおし記事

夢は医者と結婚!?猛禽ナース現る!

無職の旦那に代わって働くもも子。そんな中、イケメン研修医と彼を狙う猛禽ナースが現れて… [ 記事を読む ]

破傷風|災害時に起こりやすい感染症

小さな傷からも感染する可能性があるのが破傷風。治療法・予防など改めて確認しておきましょう。 [ 記事を読む ]

人気トピック

もっと見る

看護師みんなのアンケート

忘れられない患者さん、いますか?

投票数:
846
実施期間:
2018年06月26日 2018年07月24日

実録! わたしの周りの「浜田師長」

投票数:
779
実施期間:
2018年06月29日 2018年07月27日

洒落にならないほど怖い心霊体験ありますか…? 

投票数:
762
実施期間:
2018年07月03日 2018年07月31日

看護師は見た! 院内恋愛の修羅場事情

投票数:
703
実施期間:
2018年07月06日 2018年08月03日

新人ナース限定!誰にも言えない「甘え」や「弱音」抱えてない?

投票数:
556
実施期間:
2018年07月10日 2018年08月07日

落ち込んだ心を救ってくれたあの人の一言

投票数:
266
実施期間:
2018年07月17日 2018年08月14日

新人ナースのICU配属 アリ?ナシ?

投票数:
543
実施期間:
2018年07月13日 2018年08月14日
もっと見る

今日の看護クイズ 挑戦者41

以下の選択肢は、認知症のある入院患者さんへの対応について説明したものです。治療環境の視点から、最も正しいものはどれでしょうか?

  • 1.自宅では薬カレンダーを使用して内服の自己管理をしていたが、入院となったので看護師管理とした。
  • 2.点滴を抜去してしまうので、両手を抑制した。
  • 3.膀胱留置カテーテル管理中だが、尿意を訴えるので「おしっこは管が入っていますからトイレには行かないようにしてください」と説明だけした。
  • 4.治療上、医師よりベッド上で安静の指示があった。長時間の臥床になるため、適宜、体位を調節するようにした。
今日のクイズに挑戦!