2017年08月13日

心囊ドレナージ

ドレーン・カテーテル・チューブ管理 完全ガイド

『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』より転載。

今回は心囊ドレナージについて説明します。

〈目次〉

 

《心囊ドレナージについて》

主な適応
心囊液貯留あるいは心タンポナーデ
目的
心囊液、心タンポナーデにおける貯留液を体外に排出させ、心房、心室の圧迫を解除する
心囊液の性状を観察・検査し、心囊液貯留の原因を検索する
合併症
心筋損傷(出血、心タンポナーデ増悪)、肺損傷(気胸、血胸)、肝損傷・胃損傷(出血、感染)、チューブによる機械的心筋損傷・不整脈(出血、心室性不整脈、心房細動)、逆行性感染(縦隔洞炎)
抜去のめやす
排液量:「<100mL/日」となれば抜去を考慮する
色・性状:「淡血性」から「漿液性」になることがめやす
観察ポイント
特に術後2時間以内は心タンポナーデを起こしやすいため、症状やバイタルサイン、排液をよく観察する
ケアのポイント
患者理解 : ハイリスクな処置・治療のため、患者の疼痛・不安などのケアを行う
感染予防 : 易感染状態のため、滲出液の管理に注意する

 

心囊ドレナージ

 

心囊ドレナージの定義

心膜は、心臓および大血管の基部を包む袋状の膜である。心膜腔には正常時15~50mLの心囊液が存在し、摩擦を減少させるはたらきをしている。

さまざまな病態により心囊液が増加すると、心膜腔内圧が上昇し心臓が圧迫され拡張障害を引き起こし、種々の症状が発現する(図1)。

図1心囊液貯留の状態

心囊液貯留の状態

 

右房への静脈還流が減少し心拍出量が低下し、心臓のポンプ機能が失われた状態を「心タンポナーデ」という。

心囊ドレナージは、心囊液貯留あるいは心タンポナーデにおける貯留液(血液、リンパ液、膿などの分泌物)を体外に排出させ、心房、心室の圧迫を解除する。

治療と並行して、採取された心囊液の性状(色調や混濁の有無、あるいは粘稠度合い)を観察し、検査(生化学的検査、細胞診や培養)することで、心囊液貯留の原因検索に役立てる。

心囊穿刺に引き続く経皮的持続心囊ドレナージ術(図2)や、外科手技的な開窓によるドレナージが行われる。

図2心窩部アプローチの心囊穿刺

心窩部アプローチの心囊穿刺

 

 

心囊ドレナージの適応と禁忌

心タンポナーデでは、心囊液を排除しないと血行動態と臨床症状が改善しない。そのため、心囊ドレナージが必要不可欠であり、かつ唯一の治療法であるといえる。

心囊液貯留の病態把握のためには、貯留量よりも、その貯留速度(慢性/急性)や多岐にわたる原因疾患(表1)の鑑別が重要である。

表1心囊液貯留をきたす主な原因疾患

心囊液貯留をきたす主な原因疾患

 

慢性疾患による心囊液貯留では、心膜はゆっくり伸展するため、心膜腔内圧は緩徐に上昇する。「浮腫」を中心にした症状が出現する。

急性の心囊液貯留では、たとえ心囊液量が少なくても、心膜の伸展が追いつかず、心膜腔内圧は急激に上昇する。症状の中心は「低血圧」である。

特に急性の心囊液貯留では、迅速な原因究明が重要である。なぜならば、心囊ドレナージの適応外になる場合があるからである。心破裂や急性大動脈解離といった疾患に対する心囊ドレナージは、副次的な出血を招くことがあり、しばしば致死的な状況に陥る。原疾患の治療(つまり外科手術)を最優先すべきである。

血行動態の維持が困難な場合や、原疾患治療がすぐにはできない環境などでは心囊ドレナージを行う余地はあるが、根本的な治療にはなりえないことを認識しておく。

 

心囊ドレナージの挿入経路と留置部位

心臓超音波検査では、心囊液貯留はエコーフリースペース(echo free space)として描出できる(図3)。

図3心臓超音波検査

心臓超音波検査

 

心囊ドレナージ施行の際は、心臓超音波検査を行い、適切な挿入経路を選択する。

 

1経皮的持続心囊ドレナージ術

経皮的持続心囊ドレナージ術では、皮膚穿刺部位から心囊まで他臓器や腫瘍などに接触せずに到達できる経路を選択することが重要である。

局所麻酔にて行う。また、透視室で施行するほうが安全であり、合併症を減らすことができる。

一般的には、剣状突起下の若干左側寄りからアプローチすることが多い。ほかには、心尖部外方や左胸骨縁第4肋間から施行されることもある。

心囊液が吸引できることを確認したら、セルジンガー法(Seldinger法)にてドレーンを挿入する(心囊穿刺用としてセット化されたものが便利である、図4)。

図4Argyle™アスピレーションセルジンガーキット

Argyle™アスピレーションセルジンガーキット

 

心囊液を緩徐に持続的に排出させるために、原則としてドレーンを心囊内に留置する。

 

2開窓術による心囊ドレナージ

他臓器が介在するために安全に穿刺できない場合は、外科的な開窓術(図5)による心囊ドレナージを行うべきである。

図5外科的開窓術による心囊ドレナージに頻用されるアプローチ

外科的開窓術による心囊ドレナージに頻用されるアプローチ

 

局所麻酔でも可能ではあるが、かなり疼痛を伴う処置であり、基本的には全身麻酔で行う。

 

①剣状突起下心囊ドレナージ術

外科的なアプローチとして、剣状突起下心囊ドレナージ術がよく行われる。

剣状突起をまたぐように上腹部正中を小切開して横隔膜に沿って剥離すると、容易に心囊に到達することができる。このアプローチでは開腹しないように注意する。

 

②胸骨傍前側方切開心囊ドレナージ術

心囊に最も近いアプローチは、胸骨傍前側方切開心囊ドレナージ術である。

胸骨左側の第4肋間を小切開して心囊に到達できる。このアプローチでは肺損傷に注意する。

 

心囊ドレナージの合併症

心囊ドレナージに起因する合併症を以下に示す(表2)。

表2心囊ドレナージに起因する合併症

心囊ドレナージに起因する合併症

 

心囊ドレナージを要する患者は全身状態不良なケースが多く、施術による合併症が発生した場合、致命的状況に陥ってしまう。

気管挿管、電気的除細動などの準備を整え、血行動態をモニターする。集中治療室での管理を原則とすべきである。

 

1心囊内周辺組織の損傷

心囊ドレナージにおいて最も重篤な合併症は、心囊内周辺組織の損傷である。

施術中に心筋損傷をきたさないように、心臓超音波検査や胸部CTで位置関係を検討する。心臓と心膜に局所的に癒着が認められる場合もあり、注意すべきである。

肺損傷による気胸、血胸、あるいは意図しない開腹による肝損傷や胃損傷なども、施術時に発生しうる合併症として挙げられる。

体動にともなって、ドレーンによる機械的損傷が発生しうるため、ドレナージ開始後はベッド上安静とする。

 

2肺水腫

急速な心囊ドレナージが肺水腫を招く可能性がある。排液は緩徐に行う。

 

3不整脈

ドレーンと心臓が接触することによる不整脈が発生することもある。心室性期外収縮が頻発するようであれば、留置位置についての再検討が必要である。

 

4逆行性感染

ドレーン管理が長期に及ぶと逆行性感染(ドレーンを介した感染)の危険性が高くなる。

貫通部皮膚創を清潔に保つことを心がける。また、適正な抗生物質の予防的投与や、感染発現前のドレーン抜去が望ましい。

 

心囊ドレナージの利点と欠点

1経皮的持続心囊ドレナージ術

経皮的持続心囊ドレナージ術は局所麻酔で施行可能であり、侵襲が少ない。しかし、ドレーンの留置位置は自由に設定できず、完全には排液できない場合もある。

使用できるドレーンが細く、心囊液の性状によっては排液できない可能性がある。また、試験穿刺において血性の心囊液が吸引された場合、周辺組織損傷による血液吸引との判別が困難になる。

 

2開窓術による心囊ドレナージ術

外科的な開窓術による心囊ドレナージは、原則として全身麻酔が選択されるため、麻酔による不利益も考慮しなければならない。

太いドレーンをねらった場所に留置することが可能であり、粘性の高い心囊液や感染性膿の排液には、きわめて有効である。

ドレーンを利用して心囊内を洗浄することができる。

 

 

心囊ドレナージのケアのポイント

1心タンポナーデの観察

心囊ドレナージからの排液が有効に行われないと、心囊液が貯留し心タンポナーデを生じることがある。

心タンポナーデは術後3日間、特に術後2時間以内に起こることが多い。血圧や脈圧の低下、中心静脈圧(central venous pressure:CVP)の上昇、頻脈、胸部X線での心陰影の拡大などがみられる。

 

2ドレーン接続・固定部の観察

ドレーンと排液バックの接続を確認する。体動や移動によって、テープ固定や接続が外れていないか、誤抜去、屈曲がないか観察する。

 

3排液の観察

排液量の増減や性状の変化、ドレーンの閉塞がないか、一定時間ごとに排液を観察する(表3)。

適宜ミルキングを行い、凝血を予防する。

表3心囊ドレナージの排液量と性状の観察

心囊ドレナージの排液量と性状の観察

 

 

 

4患者理解

心囊ドレナージは、心囊穿刺や開窓術といったハイリスクな処置や治療が行われるため、患者の感じる①疼痛・不快感、②不安などに対するケアが求められる。

 

①疼痛・不快感

心囊ドレーンは、閉塞予防のために28~32Frの太いドレーンを使用することがあり、患者が感じる疼痛は増強する。

患者からの訴えのみでなく、血圧や脈拍の上昇、苦痛表情の観察を行う。

体位調整や、ドレーン固定の工夫によっても、疼痛や不快感の軽減となる。そのうえで、医師の指示に従い、鎮痛薬の使用を検討する。

 

②不安

共感的理解を示し、病状と術後経過の十分な説明を行う。

患者の理解・協力が得られるように、可能であれば術前オリエンテーションを行う。そのうえで、医師の指示に従い、鎮静薬の使用を検討する。

 

5感染予防

術後は易感染状態であるため、ドレーンはできるだけ早期に抜去することが望ましい。

ドレーン挿入部に、滲出液の染み出しがあると感染をきたしやすい。

ドレーン挿入部の発赤、腫脹、熱感、血液データ(白血球やCPRなど)を観察し、感染徴候の早期発見に努める。

滲出液は細菌の培地となりやすい。そのためドレーンの圧迫や屈曲、閉塞を予防し、ミルキングや体位交換で貯留した液の排出を促す。

検査や処置など移動の際は、逆行性感染予防のため排液バックをドレーン挿入部より高く持ち上げない。

 

 


[Profile]
田中慶太
国家公務員共済組合連合会虎の門病院循環器センター外科医長
成瀬好洋
国家公務員共済組合連合会虎の門病院循環器センター外科部長
達増和佳奈
国家公務員共済組合連合会虎の門病院看護部(3階南病棟)チーフナース

*略歴は掲載時のものです。


[引用・参考文献]

  • (1)西水千恵,井出恵伊子:心臓手術後のドレーン管理における看護上の留意点.臨牀看護 2003;29(6):943-948.2007:44-46.
  • (2)Schiavone WA. Cardiac tamponade: 1 2 pearls in diagnosis and management. Cleve Clin J Med 2013;80(2):109-116.
  • (3)Heart Disease DDX.Org. http://heartdiseaseddx.org/pericarditis(2015年6月1日アクセス)
  • (4)成瀬好洋:心臓外科手術後ドレナージ.臨牀看護 2003;29(6):831-833.
  • (5)清水潤三,曽根光子:はじめてのドレーン管理.メディカ出版,大阪,2007.

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

[出典]『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』(編著)窪田敬一/2015年7月刊行

ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版

著作権について

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