胃瘻(胃ろう/PEG)に関する基礎知識

『病院から在宅までPEG(瘻)ケアの最新技術』より転載。

 

今回は胃瘻(胃ろう/PEG)に関する基礎知識について説明します。

 

倉 敏郎
町立長沼病院院長
佐々木宏嘉
町立長沼病院内科・消化器科部長

 

Point

  • PEGの適応は「経腸栄養の投与経路」と「減圧目的」である。特に経腸栄養の投与経路として行う場合、ゴールは「経口摂取の再開」となる。
  • 内視鏡検査の絶対禁忌、補正できない出血傾向、内視鏡通過困難な咽頭食道狭窄、胃前壁と腹壁を近接できない場合、PEGは実施できない。
  • PEGの施行にあたっては、患者・家族と医療者間で十分に情報を共有し、倫理面を重視したインフォームドコンセントを行うことが重要。

 

〈目次〉

 

はじめに

胃瘻とは、胃と体表面が通じた瘻孔のことです。
以下に述べるような目的のために、内視鏡を用いて胃瘻を造設することを、PEG(percuta-neous endoscopic gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)と呼びます。

 

PEGの適応

PEGの適応は、「経腸栄養の投与経路」「減圧目的」の2つに大きく分けられます(図1文献1より)。

 

図1PEGの適応

PEGの適応

 

1経腸栄養の投与経路

経腸栄養の投与経路の適応として該当する場合を以下に示します。

 

  1. 経口摂取が困難である(血管疾患、認知症、神経難病などが基礎疾患にある)。
  2. 経口摂取ができても、誤嚥性肺炎を繰り返す。
  3. 腫瘍などにより咽頭・食道・胃噴門部が狭窄している。
  4. 長期成分栄養が必要である(クローン病など)。

図2は、ASPEN(American Society for Paren-teral Enteral Nutrition:アメリカ静脈経腸栄養学会)が推奨する、栄養管理手段についてのアルゴリズムです。

 

図2栄養療法と投与経路のアルゴリズム─ASPENガイドライン─

栄養療法と投与経路のアルゴリズム-ASPENガイドライン-

 

「When the gut works, use it」という言葉がありますが、これは「消化管機能が働いている限り、できるだけ経腸栄養によって、生理的条件に近い栄養療法を行うことが有利」ということを示しています。

 

では、「腸管が働いている限り経腸栄養を行う」ことのメリットは何でしょうか?

 

ここで、逆に経静脈栄養(主に中心静脈栄養)の問題点を考えてみましょう。

 

経静脈栄養では腸管を使用しないため、さまざまな問題が生じます(図3)。

 

図3TPN(中心静脈栄養)の問題点

TPN(中心静脈栄養)の問題点

 

よく、カテーテル刺入部からの感染が問題になりますが、何より重要なのは、腸管の萎縮による腸管免疫機能の低下です。

 

腸管は、実は、人体の中で一番表面積が広い臓器であり、かつ免疫機能の中心的役割を果たしています。そのため、TPN(total parenteral nutrition:中心静脈栄養)のみでは、腸管の萎縮によるbacterial translocation(バクテリアルトランスロケーション、MEMO)が起きやすく、敗血症を引き起こしかねないのです。

 

MEMObacterial translocation(バクテリアルトランスロケーション)

腸管粘膜を通じて、腸内細菌や有害物質(エンドトキシンなど)が循環血液中に侵入する現象。

 

2減圧目的

減圧目的の胃瘻(減圧胃瘻)は、癌性イレウスに対するドレナージチューブとして用いられます。これにより、患者はから挿入するイレウスチューブの長期留置から解放されます。

 

さらに、PEGによる減圧とHPN(home paren-teral nutrition:在宅静脈栄養)を組み合わせることで、在宅ターミナルケアを実施しやすくなり、患者のQOL向上に寄与します。

 

PEGのめざすゴール

1ゴールは経口摂取の再開

胃瘻造設のゴール、すなわち「何を目指してPEGを行うか」は、「もう一度、口から食べていただくこと」に尽きます。

 

もちろん、重症の遷延性意識障害(いわゆる植物状態に近い患者)の場合は、そこまでの回復は望めません。しかし、意思疎通がある程度可能な患者であれば、PEGから経腸栄養を開始し、体力を回復させ、ある程度リハビリテーションを行うことによって、経口摂取が再開できる可能性があります。

 

町立長沼病院の例を紹介します(図4)。

 

図4経口摂取への復帰の内容(例)

経口摂取への復帰の内容(例)

 

当院には専門のST(speech therapist:言語聴覚士)がいないので、病棟スタッフが誤嚥などを注意深く観察しながら努力したデータです。

 

データによると、216例中35例(16.2%)で何らかの経口摂取が可能となりました。このうち、重度の遷延性意識障害の135例を除くと81例中35例(43.2%)となり、約4割の患者で経口摂取を再開できたことがわかります。

 

2訓練可能な体力をつける

以前、このデータを発表した際、「それはPEGの適応が甘すぎるからではないのか?」「PEGの前に十分な嚥下訓練を行えば、経口摂取可能だったのでは?」という質問を多数いただきました。

 

しかし、まずは経腸栄養を早期に行い、体力の増進を図ることが先決で、胃瘻からの安定した栄養補給によってはじめてリハビリテーションが可能な体力・気力がついてくるのではないでしょうか。

 

「卵が先か?鶏が先か?」と悩む前に、患者のためになるのなら、迷わずPEGの選択肢を提示し、積極的に経腸栄養を進めていくことが大事ではないかと思います。

 

「PEGを使って再び食べていただく」という目標は、インフォームドコンセントの際に患者に説明するとよいでしょう。

 

PEGの禁忌

PEGの禁忌についても覚えておきましょう。「第1回PEGコンセンサスミーティング」で話し合われ、報告された事項を紹介します(文献2)。

 

1PEGの絶対禁忌

PEGの「絶対禁忌」は、以下の状況とされています(表1)。

 

  1. 患者状態などにより、内視鏡検査ができない(内視鏡検査の絶対禁忌)場合
  2. 補正できない出血傾向
  3. 内視鏡の通過が困難な咽頭・食道の狭窄(細径内視鏡、特に経鼻内視鏡の普及によって適応症例が増えてきている)
  4. 胃前壁を腹壁に近接できない状況:胃が持ち上がり胸腔内に隠れている場合、あるいは横行結腸が胃の前面に存在し、よけて穿刺できない場合など。

表1PEGの絶対禁忌

PEGの絶対禁忌

 

2PEGの相対禁忌

表2に、PEGの相対禁忌とその対策を挙げます。

 

表2PEGの相対禁忌と対策

PEGの相対禁忌と対策

 

このうち、特に表2⑩に関しては「30日以上の予後が見込めるもの」とされていますが、対象患者の一般状態を考えると、この項目を正確に判断することが一番難しいところです。

 

倫理面を考慮したインフォームドコンセント

医療行為は、すべからく医療者(特に主治医)と患者の同意に基づいて行われるべきものですから、PEG施行の是非についても、患者本人と相談するのが原則です。

 

しかしながら、PEGを対象とする多くの患者は、脳血管障害や認知症などの基礎疾患をもっており、意思疎通が困難です。そこで、代理意思決定者としての家族の意見が非常に重要となります。

 

医療者と患者・家族が互いに十分な情報を共有し、望まれるPEGを施行するためには、十分なインフォームドコンセントが必要です。

 

そのため、以下のような内容を提供し、双方の納得を得るようにします(図5文献3より)。

 

  1. 胃瘻は栄養補給の道を確保し、患者の生命を維持するもの
  2. 胃瘻は患者・家族が再び生活の場に帰るための条件
  3. 胃瘻には個別性があり、予期せぬトラブルもそれぞれ異なること

図5PEGのインフォームドコンセントとは

PEGのインフォームドコンセントとは

 

具体的に説明内容に入れるべき項目としては、「PEGの目的」「PEGの手技」「起こり得る偶発症」「PEG後に予想される患者の経過・生活」があります。

 

これらを簡潔にまとめ、同意書にサインをいただく際に(あるいは前もって)渡せるよう、準備しておくとよいでしょう(文献3)。

 

(事例紹介)「食べる」ための胃瘻

胃瘻は、つくること自体がゴールではなく、栄養療法の「スタート」です。そして、めざすべきゴールは「再び口から食べること」です。

 

ここでは、経腸栄養を行い、経口摂取を再開できた例を提示します。

 

患者の情報

71歳男性。基礎疾患にパーキンソン症候群があり、これまでも2度、誤嚥性肺炎で入院治療を行っている。るい痩が次第に著明となり、歩行も困難になってきている。肺炎のため3度目の入院となったときには、意識レベルも低下し、重篤な状態となっていた。

 

絶食、抗生物質投与、高カロリー輸液等の急性期治療を行い、幸い、肺炎は改善へ向かった。

 

1胃瘻の造設から栄養剤投与開始まで

肺炎が改善した時点で、PEG造設と経腸栄養について、まず家族と相談し、了解を得ました。その後、患者本人にも同様に説明し、同意が得られたため、PEG造設を行いました。

 

術中・術後に大きなトラブルはなく、約2週間後には栄養投与量を目標維持カロリー量(1,200Kcal)に増やすことができました。

 

2経腸栄養と並行して経口摂取を開始

そのころから、スタッフと相談し、ADLアップを計画しました。

 

座位保持・端座位から開始し、リハビリテーションが進むとともに意識状態が清明になることが認められたため、嚥下訓練を開始しました。経腸栄養と併用してゼリーから経口摂取を開始したところ、スムーズに摂食されました。

 

その後、ADLアップと経口摂取量の増量を徐々に行ったところ、約2か月後には歩行器での歩行が可能となり、全粥を摂取することができました。体重も少しずつ増加し、BMI(body mass index、体格指数)もPEG施行前15.5であったのが、17.8まで改善しました。

 

3か月後には、経腸栄養を中止し、経口摂取のみで栄養維持が可能となりました。しかし、服薬だけはむせることが多いためPEGカテーテルからの投与としています。

 

3可能ならADLアップも並行して実施

この患者では、胃瘻からの経腸栄養を行うことで栄養状態が改善すると同時に、積極的にADL向上を図っています。その結果、意識状態の改善・体力の回復が得られ、経口摂取の再開に至ったという、まさしく「再び口から食べることをめざしたPEG造設」が可能であったケースです。

 

また、パーキンソン症候群の場合、病状をコントロールするため、安定した投薬の継続が必要となりますが、胃瘻からの投与により投薬継続が可能でした。

 

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)倉敏郎,西堀恭樹,西堀佳樹:経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG).Medicina2006;43:1298-1301.
  • (2)鈴木裕,上野文昭,嶋尾仁他:第1回PEGコンセンサスミーティング̶より安全なPEGを目指して.在宅医療と内視鏡治療2006;7:68-70.
  • (3)津川信彦:PEGの後期合併症.経皮内視鏡的胃瘻造設術PEG.日総研,名古屋,2001:75-83.
  • (4)PEGドクターズネットワーク:PDNセミナー胃ろうと栄養テキストブック.PDN,東京,2004:.21-24.
  • (5)Gauderer MWL, Ponsky JL, Izant RJ Jr. Gastrostomy without laparotomy; A percutaneous endoscopic technique.J Pediatr Surg 1980; 15: 872-875.
  • (6)ASPEN Clinical Pathways and Algorithms for Delivery of Parenteral and Enteral Nutrition Support in Adults.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社

 

[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社

SNSシェア

看護知識トップへ