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2017年01月10日

患者さんが転倒骨折! 要介護5の状態になった責任はどこに?

看護師さんにとって、医療事故や医療訴訟は決して他人事ではありません。
医療訴訟になった事例を元に、医療事故の予防・対処方法や、看護師さんが知っておくべき医療に関する法律などについて、やさしく解説します。
自分の身は自分で守れるように、実際の現場をイメージしながら読んでください。
第2回は、「知らない間に患者さんが転倒骨折した事例」についてのお話です。

 

 

大磯義一郎、森 亘平
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)

 

知らない間に患者さんが転倒骨折した事例

人物紹介:レビー小体型認知症の患者さん(山田さん)、山田さんの長女
看護師(春香さん)、ケアマネージャー(施設勤務)

注意:登場人物の名前は、すべて仮のものです。

 

【実際に起こった医療事故例②:患者さんの転倒

ある医療法人が運営する介護老人保健施設に、レビー小体型認知症で、介護認定「要介護 1」の82歳の女性(山田さん)が入所していました。ある日、看護師の春香さんが、自室のベッド横で転倒している山田さんを発見しました。

山田さんは骨折しており、手術を行いましたが、咀しゃく機能は全廃し、言語機能にも著しい障害が残り、「要介護 5」の状態になってしまいました。

注意:登場人物の名前は、すべて仮のものです。

 

山田さんは、自室で転倒してしまったそうですね。
このように、患者さんが転倒し、怪我をした場合は、医療訴訟に発展してしまうことがあります。
どのような状況で、事故は発生したんですか?

春香さんは、50分ごとにお部屋の見回りをしていたんですが、見回り時には、山田さんはすでに転倒した後だったみたいです。
そのため、転倒したときの状況はわかっていません。

看護師さんが、常に患者さんのそばにいることはできないですからね。
それでは、本件について、入居時の取り決めや、転倒前の様子など、医療事故の背景から訴訟の結末まで解説します。

 

〈目次〉

 

医療事故が発生した背景と原因

本件は、患者さんが転倒してしまった事例です。転倒や転落は、皆さんの施設でもしばしば発生しているものと思われます。本件における、医療事故の背景の詳細や、看護師さんの対応を見て、どこに問題があったかを一緒に見ていきましょう。

 

1記憶障害や遂行機能障害が進行したため、介護施設に入所

山田さん(82歳、女性)は、レビー小体型認知症により、ある医療法人が運営するグループホームに入所していました。しかし、認知症による記憶障害や遂行機能障害が進行したため、同法人が運営する介護老人保健施設に入所することになりました。

この時、山田さんの介護認定は「要介護 1」で、歩行時はシルバーカーを使用していました。また、精神症状は、被害妄想や感情失禁も認められていました。日常生活自立度は、「A1」でした。

 

memo障害高齢者の日常生活自立度

厚生労働省の介護保険制度には、障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)の判定基準があります。このランクは、生活の自立ができる「J」から、準寝たきりの「A」、寝たきりの「B」・「C」と基準が分かれています。

*詳細は厚生労働省のサイトをご参照ください。

 

2家族からの要望を受け、施設側も目標を掲げる

山田さんの入所にあたり、山田さんの長女から、「母は、歩行不安定なため、歩行時はシルバーカーが必須です。たまに、シルバーカーを忘れて歩行することもあるため、転倒しないように気をつけてほしい」と希望が出されました。

施設のケアマネージャーは、長期目標は「下肢筋力の低下を防いで、安全に移動ができること」、短期目標は「転倒、怪我を防ぐこと」として、施設サービス計画書に下記5点を掲げました(表1)。

表1施設が掲げた施設サービス計画書の概要

歩行中はふらつきなどに注意し、見守り、または危険のないように介助を行う。
シルバーカーを使用せず歩行している時は、シルバーカーを手渡し、危険のないように見守り、または介助を行う。
自室にいる時も危険のないように見守りを行う(その都度ナースコールの説明を行う)。
歩行訓練などのリハビリを行う。
自室内の環境整備を行う(ポータブルトイレの設置や、床などが濡れていないか注意する)。

 

3一度目の転倒! 大きな問題にはならなかった

入所翌日の午前2時40分頃、山田さんの部屋でドンと物音がしたため、看護師の春香さんが部屋に確認に行きました。すると、山田さんが転倒していました。しかし、幸いにも山田さんには特段、外傷や可動域制限は生じませんでした。

なお、山田さんが転倒した理由は、わからないままでした。

 

4二度目の転倒!! 骨折により重度の障害が残り、要介護5の状態に

ところが、約1週間後の午後3時10分から午後4時頃、山田さんは、自室ベッド横の足元側で再び転倒してしまいました。

その結果、山田さんは、上口唇挫創、下顎部挫創、両側関節突起骨折、歯槽骨骨折、下顎体部骨折を負傷しました。手術は行われたものの、山田さんの咀しゃく機能は全廃し、言語機能にも著しい障害が残り、「要介護 5」の状態となってしまいました。

今回も、山田さんが転倒した理由はわからないままでした。

この結果、山田さん、および山田さんの長女は、施設を運営する医療法人に対し、約3,000万円の損害賠償請求を行いました。

 

医療事故から学ぶこと ~ ガイドラインなどにある予防策を行い、安全配慮義務を果たそう

Point!

  • ガイドラインなどに沿った看護や医療行為を行っていれば、訴訟で敗訴する危険性も少なくなります。また、訴訟に巻き込まれるリスクも減ります。
  • 自分の行おうとする行為が適法か、否かを判断するためにも、ガイドラインなどを適切に使用しましょう。

医療機関は入院している患者さんに対し、安全配慮義務を負っている

通常、医療機関は、入院患者さんに対し、安全配慮義務を負っています。安全配慮義務を尽くさず、入院患者さんが転倒し、怪我をしてしまった場合には、損害賠償責任を負うこととなります。

法的には、安全配慮義務として、事故当時、一般的に医療機関に求められる程度の転倒防止策を行うことが求められています。そのため、それすらも行わなかった結果、患者さんが転倒・転落した場合には、医療機関側は損害賠償責任を負うことになります。

 

ガイドラインに沿った対応を行っていれば、訴訟の危険性は減る

万が一、患者さんの転倒・転落が原因で訴訟になったとしても、ガイドラインなどに従って業務を行っていたことが証明できれば、敗訴する危険性は少なくなります。

また、患者さん側の弁護士も、医療施設側にガイドラインなどに反する行為がなければ、そもそも弁護を引き受けないことが多いため、紛争化自体を防止することもできます。

 

memo『転倒・転落防止対策マニュアル』を確認しよう!

本件でも話題になったガイドラインに、『転倒・転落防止対策マニュアル』(都立病院医療安全推進委員会)があります。これは、患者さんの転倒・転落を防止するための対策法が約30ページにわたって、詳しく記載されています。病棟勤務の看護師さんだけでなく、すべての看護師さんが、一度は目を通しておいてほしいガイドラインです。

なお、本ガイドラインは、平成21年3月に改訂されています。

 

看護記録などに日々の業務を記録しておくと、訴訟時、信頼性の高い証拠になる

ガイドラインなどに沿った業務を行うことは、もちろん大切なことですが、万が一のトラブルに備えて、業務内容を記録化することも重要です。これは、訴訟になった場合、看護記録など、日常業務で作成している文書が、最も信頼性が高い証拠として、裁判で取り扱われるからです。

せっかく、ガイドラインなどに沿った適切な業務を行っていたとしても、それが記録化されていなければ、裁判ではなかったことにされかねません。自分の身を守るためには、適切な業務を心がけるとともに、そのことをしっかりと記録化することまで忘れないようにしてください。

看護記録などに記録しておくと良いこと

  • 何時何分に巡回したか?
  • 患者さんに変わった様子はなかったか?

 

本件の結末 ~ 判決が覆り、医療法人の勝訴(損害賠償は発生しなかった)

本件では、地方裁判所は、巡回看視を怠ったとして、医療法人の過失を認め、約2,700万円の損害賠償責任を認めました。しかし、その後、高等裁判所では、地方裁判所の判決をひっくり返し、山田さんと、山田さんの長女の請求を棄却し、医療法人の責任は認められませんでした。

 

医療者側の主張が認められて良かったですが、患者さんの転倒を予防するのは、気をつけていても難しいです。
ずっと患者さんのそばにいることもできないですから…

患者さんの転倒や転落は、日常に潜む医療事故ですので、まずは、ガイドラインなどに書いてあることを必ず実行してください。
実は、本件では、医療機関の安全配慮義務だけでなく、契約違反も裁判で争われていたんです。
こちらは、第2話『看護師さんや医療機関が負っている、安全配慮の義務と契約を守る義務』で紹介します。

 

〈次回〉

第2話:看護師さんや医療機関が負っている、安全配慮の義務と契約を守る義務

⇒『ナース×医療訴訟』の【総目次】を見る

 


[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
森 亘平
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員


Illustration:宗本真里奈


著作権について

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