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2017年03月16日

外科医が考える手術看護のエキスパートとは~オペナースに望む10のこと

『オペナース』2016年第1号<目指せ! 手術看護のエキスパート!!>より抜粋。
外科医が考える手術看護のエキスパートとは??

Point

  • 手術看護のエキスパートとは,知識や技術,人間性を併せ持った全人的なものだと考えます。
  • 手術看護にはコミュニケーション力が非常に大切です。
  • 外回り看護師がその手術のマネジメント役として重要です。

奥山隆
(獨協医科大学越谷病院 外科 講師)

奥山美里
(元獨協医科大学越谷病院 中央手術部看護師(手術看護認定看護師))

大矢雅敏
(獨協医科大学越谷病院 外科 教授)

 

〈目次〉

 

はじめに

手術看護の業務は器械出し,外回り,麻酔看護,術前・術後訪問と多岐にわたり,病棟や外来の看護師と比較するときわめて特異的です。

今回,「外科医が考える手術看護のエキスパートとは」というテーマに対して,一外科医が考える理想のエキスパート像を列記しました。

理想は現実とは異なりますが,手術を前に精神的に追い込まれた患者さんのことを考えると,少しでも理想に近づけようとすることが重要であるとの思いから,あえて外科医の理想をそのまま述べました。

異論もあると考えますが,手術看護のエキスパートとは高度な知識や技術をもち合わせるという狭いものではなく,豊富な経験や豊かな人間性をも併せ持った全人的なものだと思います。

本コラムでは手術室看護師として勤務を始めた時点から,エキスパートになるまでに必要と考えられる能力を述べます。

 

外科医として手術室看護師に望む10のこと

1手術室看護師としての自覚

手術室看護師には早い時期から高い能力が求められています。これは手術看護の業務は手術室という言わば密室で行われており,看護師同士の連携が得にくく,大声を出しただけでは部屋の外には伝わらないため,現場にいる手術室看護師がその手術のマネジメントをしなければなりません(図1)。時には入職1年目の新人看護師でも1人で手術の担当を任されることもあり,これらは若い手術室看護師にとって大きな精神的負担となると思います。

図1手術看護の現場

手術看護の現場

手術場(左)は広いですが,手術が行われる手術室(右)は狭く,通常出入口は閉じられており密室です。

近年では医療事故の報道などにより国民の医療への関心が高まり,手術室で問題が生じると手術室看護師の質や責任をも問われる時代となっています。さらに術式や器具も日々高度,複雑化し,常に新しいものへと変化しています。また,一昔前までは敬遠されていた高度の合併症を有する患者さんへの手術適応も拡大され,現在ではこのような患者さんにも日常的に手術が行われています。

このように手術を取り巻く状況は厳しいものとなり,手術看護にも常に新しい知識と技術を求められる状況です。

一般に新人手術室看護師が一人前に成長するには5年を要すると考えられています(1)。これには個々のモチベーションや努力が関与しますが,その王道は尊敬できる先輩を真似し,それを自分自身に吸収することだと思います。早い時期にいろいろな意味でのセンスのよい先輩を見つけ,真似をしながら学ぶ姿勢は自分自身をより早く成長させるコツであると思います。

何年手術看護を経験しても,手術室は自分に向いていないと思うことがあると思います。エキスパートへの道は苦労も多いと思われますが,常に高いモチベーションを維持し,経験と知識を積み上げていくことが必要だと考えます。

 

2笑顔力

外科医にもいえると思いますが,誰のために医療を行っているのかを常に考えて行動しなければなりません。

多くの診療科を有し,手術件数が多い病院では,時として休憩ができずに勤務を続ける状況もあります。これから手術を受ける患者さんに,溜まった疲労やイライラからルーチンの業務をこなすだけの姿勢で対応することは絶対に避けなければなりません。医療は人と人との触れ合いで行われるため,いかなる状況においても心のゆとりを持ち相手に接しなければならないと思います。

したがって,私たち医療に携わる者は笑顔で患者さんに対応できるように,自己のマインドコントロールができる能力を養っておく必要があります。いかなる人でも極度の不安を抱いているときに,周囲から微笑みかけられることは,なによりも心の安定剤となります。また,常に相手を思いやり,笑顔が絶えない人の周囲は自然と明るくなり,よい雰囲気づくりにも役立ちます。

 

3コミュニケーション力

手術はチーム医療であり,決して外科医だけが行うものではありません。実際の現場経験から思い起こすと,手術室でのコミュニケーションは手術室看護師が中心となっています。つまり現場のムードメーカーとしての役割や外科医,麻酔医,コメディカルなどのチーム内のパイプ役として重要な働きをしています。手術室看護師と入室時に交わしたたわいない会話が,その後の帰室時までの心地よい雰囲気をつくる契機となった経験はしばしばあります。

複数の人間が一緒に仕事をしていくうえでコミュニケーションは必要不可欠であり,手術に限らず医療において最も必要なツールであると考えます。実際にチームワークがうまくとれて手術が無事終了したときに,疲れを感じさせない充実感を経験したことは職種を問わずあると思います。そして,それは結果的に必ず患者さんの利益につながると考えます。

逆に,コミュニケーションがうまくとれていない手術現場はきわめて危険な状況であり,思いも寄らないトラブルが発生する可能性があります。したがって,手術というきわめて非日常的な行為を行う手術室では,それに携わるすべての人が積極的にコミュニケーションをとる意識を持つことは非常に大切です。

 

4知識に対する向上心

日進月歩で手術のアプローチ法や器具の開発,改良がなされ,10〜20年前と比べると同じ手術であっても様相ががらりと変わることもあります。したがって,その変化に自分の知識が追い付いているか常にセルフチェックを行わなければ,気がついたときには時代遅れなことをしている場合もあります(図2)。

図2手術の今昔

手術の今昔

20年前と比べると開腹手術の割合が減り,鏡視下手術の割合が劇的に増えています。それに伴い手術の様子や使用する機器も様変わりしています。

私自身が若い先生に教えるときは,教えられたことを後で調べ,確認することを勧めています。これは,私の教えが間違っているかもしれませんし,自分で調べている過程で付加的な知識を得られる可能性があることがその理由です。

日常の勤務で疲れ果て,本を開くことが億劫なときもあると思いますが,現在はインターネットで大抵のことは調べることができます。自身に知識の向上心があれば,ちょっとした空き時間を有効に使うことができます。また,定期的に研究会や学会に参加することは,新しい知識の吸収と自身のモチベーションを高めるために有益です。

 

5技術に対する向上心

初心者が技術を学ぶ場合も,まずはベテラン看護師の動きを見てそれを真似るのが早いと思います。一般的に看護師業務のなかで技術を要するものは多くないと思いますが,器械出しについては個々の能力が非常に重要で,常にその技術を磨く向上心が必要です。

近年,消化器外科領域では従来の開腹手術から鏡視下手術へと大きく移行しています。鏡視下手術では手術内容をビデオに記録しておくため,私たち外科医は術後に手術ビデオを観て手術を学ぶことが多くなりました。同様に,実際の器械出しや手術室全体をビデオ撮影するなど,手術内容のビデオを学習材料にすることは有用であると思います。

器械出しでも外回りでも,経験の浅い看護師はまず先輩の技を学び習得し,真似できれば一人前に,さらにそれを改良してよりよいものに昇華できればエキスパートと呼べると思います。

 

6手術の先を読める

手術ではアプローチ法の違いや周囲の状況などから多少手順が異なることはありますが,同じ術式であれば手術進行は大抵同じであると思います。実際に外科医の学ぶ手術書や先輩の作成した手術ノートを学べば,それらの手術手順を覚えることができます。

ところが器械出しに慣れていないころに,覚えてきた手術手順が少しでも違うとパニックを起こし,頭の中が真っ白になってしまった経験が誰にでもあると思います。

手術室看護師にも外科医と同じように手術ビデオを観て学ぶことが,器械出しや手術の先を読む訓練に有用であると思います。

手術看護のエキスパートは何度も同じ手術を経験しており,多少手術の手順が違っても対応することができ,そのような場面があってもその先を読むことができるのです。

 

7外回りの能力

外科医の立場からいうと,器械出し看護師に対しては外科医がフォローできる部分もありますが,外回り看護師に対してはフォローすることはほとんどできません。

外回り看護師の業務は多く,その範囲も多岐にわたるため,その手術を効率よく進めるために外回り看護師の果たす役割は非常に大きいと思います。そのため,外回り看護師には器械出し看護師以上にその力量やセンスが求められ,現場でもベテラン看護師がその任務に当たることが多くみられます。

器械出し業務時は手術の流れを止めてしまう可能性があり,教わることを躊躇してしまうと思います。一方,外回り業務時は,器械出し時に比べると時間的余裕はあると思います。

外回り業務は行うべきことも多く,手術看護に重要であるため,先輩看護師から納得がいくまで教わり,また先輩看護師の動きをよく観察し,メモをとるくらいの勤勉さが必要なのではないでしょうか。

 

8急変時への対応能力

手術中の急変に対しては通常以上に,冷静に物事を判断する能力が求められます。この能力も多くの経験を積み,自分自身の引き出しを増やすことで,適切な判断や対応をすることができるようになります。

急変が発生したときに外科医や麻酔科医が落ち着いていればよいのですが,そうでない場合もあります。その際には手術室看護師の役割は非常に重要で,時には外科医や麻酔医を落ち着かせる役になることもあります。自分自身の知識,技術,人間性などすべてを動員し,事態の対応に当たらなければなりません。

ただし,述べるまでもありませんが,判断に迷う場合は1人ですべて対応しようとせずに,速やかに他の手術室看護師や医師の応援要請を行うべきです。

 

9手術室全体を見る能力

ある程度の経験を積むと,今度は手術室全体をコントロールする能力が求められます。

手術室のリーダー業務では,手術室全体のコントロールを行うため,各手術場の進行状況を把握し,緊急手術の受け入れや人の配置などの計算ができる能力が求められます。さらに麻酔科を中心とする各科医師とのコミュニケーションも重要で,緊急手術の受け入れの際にはその緊急度などの情報も十分に得て,他の手術室看護師や病棟看護師とも連携し対応に当たらなければなりません。緊急手術の依頼が重なった場合には,麻酔医や依頼医らと相談し,受け入れる順番を決めなければなりません。

まさに,コミュニケーション能力や臨機応変に考え動ける能力,マネジメント能力など総合力を要します。

 

10職場改善の意識を持つ

どんなによい職場にも改善すべき点は存在すると思います。それを常にチェックして改善していくことが,手術室全体の質を向上させ,最終的には患者さんの利益につながります。

医療の世界でも知識や技術は日進月歩で進み,現在の常識が数年後には非常識となることさえあります。そのため,常に内外を問わずアンテナを張り,現行の業務内容に対するチェックや新しい知見についての情報収集を怠らないようにする意識が必要です。

さらに,他のスタッフの意見も尊重してよく話し合い,スッタフ全員で職場がよい方向へ向かわせる姿勢が大事であると思います。

 

おわりに

一外科医が考える手術看護のエキスパートについて,その理想像を述べました。原稿を記述していて改めて手術室看護師に求められるものの多さと,それに伴う精神的・肉体的苦労の多さを感じました。

日頃から手術室でみる手術室看護師の笑顔の裏には,大変な苦労が隠れていることを考えると,私自身も身を引き締めなければならないと思いました。

外科医側からすると手術看護のエキスパートには知識や技術も大事ですが,一番大事なものは人間性で,そのなかでもコミュニケーション能力ではないかと考えます。

おわりに,今回の一外科医が考えるエキスパートの理想像が,これから手術看護のエキスパートを目指す人のみではなく,手術看護に携わる看護師の方々に意識向上の一助となれば幸いです。

 

謝辞 稿を終えるにあたり原稿作成にご協力いただきました,獨協医科大学越谷病院 中央手術部看護師および同外科医局員の皆さまに厚く御礼申し上げます。

 


[引用文献]

  • (1)佐藤紀子・若狭紅子・土蔵愛子ほか:手術室看護の専門性とその獲得過程に関する研究.東京女子医科大学看護学部紀要,3:19-26,2000.

[Profile]
奥山隆(おくやまたかし)
獨協医科大学越谷病院 外科 講師
1994年 獨協医科大学医学部卒業。2007年より現職

奥山美里(おくやまみさと)
元獨協医科大学越谷病院 中央手術部看護師(手術看護認定看護師
1999年 獨協医科大学付属看護専門学校卒業,同年 獨協医科大学越谷病院 中央手術部,2007年 手術看護認定看護師資格取得。

大矢雅敏(おおやまさとし)
獨協医科大学越谷病院 外科 教授
1980年 東京大学医学部卒業。2010年より現職。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2016 医学出版
[出典]オペナース2016年第1号

オペナース 2016年第1号

P.19~「外科医が考える手術看護のエキスパートとは」

著作権について

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