心不全に関するQ&A
【大好評】看護roo!オンラインセミナー
『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。
今回は「心不全」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
〈目次〉
- 1.心不全ってどんな病気?
- 2.心不全ではどんな代償機構が働くの?
- 3.心不全って何が原因なの?
- 4.心不全にはどんな分類があるの?
- 5.心不全ではどんな症状が出現するの?
- 6.心不全の特徴的な検査所見は?
- 7.心不全ではどんな治療が行われるの?
- 8.心不全の看護のポイントは?
心不全ってどんな病気?
心不全とは、全身に血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下し、身体の各組織が必要とする血液を送り出せない状態のことをさします。静脈系に血液がうっ帯することから、うっ血性心不全ともいいます。
ポンプ機能および心拍出量が低下すると、しばらくは代償機構が働きますが、代償機構にも限界があり、やがて心不全に至ります。
心不全ではどんな代償機構が働くの?
心不全で働く代償機構は、まず、心臓の内腔の拡大です。収縮する前に強く引き伸ばされるほど強く収縮し、心拍出量が増加します。また、交感神経が興奮してアドレナリンなどが分泌され、心筋の収縮力増加、心拍数の増加が起こります。さらに、腎臓からレニンが分泌され、レニンの作用によって、アンジオテンシンⅠが生成され、さらにアンジオテンシンⅡの作用によってアルドステロンの分泌が増加します(memo1)。アンジオテンシンには血管収縮作用と昇圧作用があります。副腎皮質から分泌されるアルドステロンには、水やナトリウムの再吸収を促進し、体液量を増加させる働きがあります。これらの作用の結果、血圧が上昇し、血液循環量が増加します。
ところが、このような状態が続くと心筋に過度の負荷がかかり、代償機構はかえって心不全を悪化させることになります。
memo1レニン―アンジオテンシン―アルドステロン系
レニンの分泌によって起こる一連の作用のことをいう。レニンは、腎動脈の血圧の低下や血流の低下によって、腎臓の糸球体傍細胞から分泌される。レニンは、血漿中のアンジオテンシンノーゲンに作用してアンジオテンシンⅠに変換する。アンジオテンシンⅠは、アンジオテンシン変換酵素によってアンジオテンシンⅡになる。アンジオテンシンⅡがアルドステロンの分泌を促進する。
心不全って何が原因なの?
心不全の原因には、心筋にかかる負荷の増大、心筋の障害、刺激伝導系の異常、弁の障害、心肥大などがあります。
心筋にかかる負荷には、前負荷と後負荷があります。前負荷とは心臓に戻ってくる血液量による圧力、後負荷とは心臓から血液が出て行くときの抵抗のことです。高血圧などによって、どちらかの負荷が慢性的に心筋にかかると、心筋の収縮力が低下してしまいます。
心筋の障害は、心筋梗塞や心筋症などによって起こります。刺激伝導系の異常による頻脈(ひんみゃく)や徐脈(じょみゃく)などによっても、心筋の収縮がうまく行われず、血液が十分に拍出できません。
弁の障害には、弁が開きにくい狭窄(きょうさく)と、弁が閉じない閉鎖不全があります。狭窄していると、狭いところに血液を押し出そうとするために心筋が疲れ、やがて心室壁が肥厚(ひこう)します。そうすると心内腔が狭くなって拡張が不十分になり、拍出量が低下します。閉鎖不全があると、血液が逆流してしまいます。
心肥大は、冠動脈や弁の異常のほか、原因不明とされている拡張型心筋症と肥大型心筋症でも見られます。
心不全にはどんな分類があるの?
経過による心不全の分類には、急性心不全と慢性心不全があります。急性心不全は、急性心筋梗塞や心タンポナーデ(memo2)などにより、突然、心臓のポンプ機能が低下します。慢性心不全は、慢性的に経過するもので、状態は比較的安定していますが、急性増悪をきたすこともあります。
部位による分類には、左心が障害される左心不全と、右心が障害される右心不全があります。左心不全に続いて右心不全が起こることが多く、その状態を両心不全といいます。
心不全ではどんな症状が出現するの?
右心不全と左心不全とでは、症状が異なります。それは、右心から送り出す血液と、左心から送り出す血液の循環ルートが異なるためです。まず、それぞれの循環ルートを復習しましょう(図1)。
右心(右心房、右心室)は、上・下大静脈から受け取った二酸化炭素と老廃物を多く含んだ静脈血を、肺動脈(静脈血)へ押し出します。血液の流れは、上・下大静脈→右心房→三尖弁→右心室→肺動脈弁→肺動脈となります。肺動脈へ押し出された血液は肺でガス交換を経て、肺静脈へ流れます。これを肺循環といいます(図2)。
左心(左心房、左心室)は、肺静脈から受け取った酸素を多く含んだ血液を、大動脈へ押し出します。血液の流れは、肺静脈→左心房→僧帽弁→左心室→大動脈弁→大動脈となります。動脈へ押し出された血液は、全身の組織でガス交換を行い、静脈へ流れます。これを体循環といいます(図2)。
右心不全では、右心室が血液を送り出せず、その手前の右心房と全身の静脈に血液がうっ滞し、右心房圧と静脈圧が上昇します。その結果、①浮腫(memo4)、胸水・腹水の貯留、②頸静脈の怒張、③肝腫大、④腸管浮腫による食欲不振、などの症状が出現します。
左心不全では、左心室が血液を送り出せず、その手前の左心房と肺静脈に血液がうっ滞し、左心房圧と肺静脈圧が上昇します。その結果、肺うっ血から肺水腫を起こし、呼吸機能障害(息切れ、呼吸困難など)が現れます。また、全身の臓器に十分な血液が送られず、全身倦怠感、尿量の減少、浮腫、消化不良などが起こります。
memo3ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association ; NYHA)による心機能分類
Ⅰ度 | 身体活動に制限はなく、日常生活に支障をきたさない。 |
---|---|
Ⅱ度 | 身体活動に制限がある。安静時には症状がなく、日常生活において、易疲労感、動悸、呼吸困難、狭心症症状を生じる。 |
Ⅲ度 | 身体活動に高度の制限がある。安静時には無症状であるが、日常生活以下の労作においても、易疲労感、動悸、呼吸困難、 狭心症症状を生じる。 |
Ⅳ度 | ごく軽度の労作や安静時にも心不全症状がある。いかなる軽度 の労作によっても、症状が悪化する。 |
memo4浮腫
皮下組織の細胞外、すなわち組織に、水分が異常に増加した状態である。心不全では、①右心室の障害によって静脈に血液がうっ帯して静脈圧が上昇し、水分が血管外に漏れる、②左心室の障害によって、腎臓への血流量が減少するため、尿が生成されないという2つの理由から浮腫が生じる。
心不全の特徴的な検査所見は?
心不全の検査所見では、肺野における副雑音、心肥大、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の上昇、などが認められます。
副雑音は、肺水腫を起こしていると肺の底部で聴取されます。
心肥大は、胸部X線写真をもとに心胸郭比を用いて評価します(図3)。心不全では、50%以上に拡大します。
BNPは、おもに心室で合成されるホルモンで、心室負荷や心肥大などによって分泌が亢進します。とくに左心室の障害で値が上昇します。BNPの基準値は18.4pg/mL以下です。
心不全ではどんな治療が行われるの?
慢性心不全は、薬物療法と生活指導が中心です。
薬物療法には、①強心薬(ジギタリス製剤、カテコールアミン系薬)、②血管拡張薬(硝酸薬、ACE阻害薬)、③降圧・心負荷の軽減薬(カルシウム拮抗薬、β遮断薬)、④利尿薬(ループ利尿薬)が使用されます。
強心薬は、心筋の収縮力を高める働きがあります。ジギタリス製剤は、消化器症状(食欲不振、悪心・嘔吐)、循環器症状(頻脈、高度な徐脈)、視覚症状(光がないのにチラチラ見える)、神経症状(めまい、頭痛)の副作用があります。これらの副作用が出現していないかどうか観察することが大切です。
動脈拡張薬(ACE阻害薬など)は、末梢動脈を拡張して後負荷を軽減し、心拍出量を増加させます。静脈拡張薬(硝酸薬など)は、末梢静脈を拡張して静脈還流を減少させ、前負荷を軽減して肺うっ血を除去します。
生活指導は、心不全を増悪させないことが目的です。心臓に負荷がかからないように、安静にしたり行動を制限する、水分が過剰に貯留しないように、水と塩分の摂取を制限する、などの生活指導を行います。
心不全の看護のポイントは?
心不全を増悪させない生活指導が、看護のポイントの1つです。心負荷が軽減するように、それぞれの患者の心機能に見合った活動に制限するよう指導し、患者ができない部分は援助します。入浴、便秘による怒責も心負荷がかかるので注意が必要です。
呼吸困難が出現している場合は、体位を工夫して緩和します。臥床すると、心臓に戻る血液量が増大して肺うっ血が増強し、呼吸困難が増悪するため、起座位やセミファーラー位が適しています。
⇒〔病気のなぜ?〕記事一覧を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版