全身麻酔後、覚醒状態でも枕は入れてはいけない?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「全身麻酔後の覚醒状態」に関するQ&Aです。

 

金沢愛弓
多根総合病院手術室主任
奥谷 龍
大阪市立総合医療センター麻酔科
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

全身麻酔後、覚醒状態でも枕は入れてはいけない?

 

舌根沈下を予防するため、枕の使用は避けましょう。

 

〈目次〉

 

枕の使用は舌根沈下のリスクを招く

枕を使用すると、頭頸部前屈による舌・咽頭間の距離が短くなるため(図1)、舌根沈下しやすい状態にあります。そのため、全身麻酔後は枕を使用しないようにしてください。

 

図1枕の使用が舌根沈下を招く

枕の使用が舌根沈下を招く

 

覚醒時、睡眠時は舌、口腔底、軟口蓋、咽頭の筋群が緊張しているので、気道が閉塞することはありません。しかし、枕を入れていると頭頸部前屈になるため、舌と咽頭間の距離が短縮されることで舌根沈下しやすい状況になります。

 

枕なしでも舌根沈下には注意が必要

舌根沈下をすぐ判断できるよう、SpO2をチェック

抜管後、患者の状態は不安定であり、継続した全身状態の観察が必要です。抜管前に、麻酔科医は患者が十分覚醒しているか確認するため、離握手などの従命反応の有無を観察します。

 

しかし、抜管後に覚醒しているように見えても、麻酔薬の影響や使用した薬剤の効果が残っているため、状態が変化する可能性があります。そのため、手術後は枕を入れないようにし、意識が消失しても舌根沈下を予防できるようにする必要があります。

 

また、舌根沈下を起こしているかをすぐ判断できるように、SpO2の値に注意しておく必要があります。いびき呼吸も舌根沈下を起こしている可能性のあるサインの1つであり、注意して観察する必要があります。

 

舌根沈下を起こしたときの対応

舌根沈下を起こしているときの対策としては、まず、顔を横に向ける、側臥位にする方法があります。また、頭部後屈・顎先挙上法(図2-①)が挙げられます。そうすることで、舌根による気道の閉塞を改善することができます。ただし、この方法は頸椎損傷がある患者に対しては行うことができないので、下顎挙上法(図2-②)を行います。

 

図2舌根沈下時の対策

 

①頭部後屈・顎先挙上法

頭部後屈・顎先挙上法

 

②下顎挙上法

下顎挙上法

 

それでも状態が改善しないときや、気道の開放維持を容易にするために、経エアウェイ、経口エアウェイを利用することもあります。それ以外にも、ラリンジアルマスク、マスク換気、気管挿管などの方法もあり、これらの緊急処置はすぐに開始できるように必要な物品を準備しておく必要があります。

 

舌根沈下しやすい原因

舌根沈下しやすい原因として、口蓋垂、扁桃腺が大きい、肥満、マランパチ分類(*1)でクラスⅢ・Ⅳ(舌基部が肥大しており舌根沈下しやすい)が挙げられます。これらの情報がある患者に対しては、術前より注意して観察を行う必要があります。

 

また、生後1年までの乳児は、鼻呼吸が主で、気管に対して鼻腔が小さいことから上気道閉塞を起こしやすくなります。術後は気をつけて観察しましょう。

 

マランパチ分類挿管困難を予測するために用いる。

クラスⅠ:軟口蓋、口蓋垂、口峡、口蓋弓が見える。
クラスⅡ:軟口蓋、口蓋垂、口峡が見える。
クラスⅢ:軟口蓋および口蓋垂の基部のみ見える。
クラスⅣ:硬口蓋しか見えない。

 

「枕がないと眠れない」という患者さんもいます。

 

術後数時間経過してしっかりと覚醒していれば、低い枕をしてもいいと思います。ただしSpO2はモニタリングしたほうがよいでしょう。

 

コラム全身麻酔からの覚醒後、“ こんなときどうする? ”

吐物・吐血・分泌物などで気道が閉塞している

 

手術や麻酔などの影響により、抜管後に嘔吐したり、鼻腔・副鼻腔や口腔・咽頭の手術では、軟口蓋の後面に血液がたまっていることがあります。

 

覚醒時は咽頭・咽頭反射が減弱しているため、これらの吐物・吐血・分泌物などで誤嚥する危険性が高く、気道が閉塞する場合もあります。患者の呼吸状態を注意深く観察し、早期に発見することが重要です。分泌物などをすぐに吸引できるように準備をし、膿盆やガーゼも横に用意しておきましょう。嘔気を訴えていれば制吐薬などを投与するなどの対処が必要となります。

 

喉頭浮腫や麻酔薬の影響などで自発呼吸が困難

 

抜管後、自発呼吸が困難な場合は頭部後屈顎先挙上や、経口・経鼻エアウェイ、再挿管などの処置が必要となります。喉頭浮腫によりマスク換気や挿管が難しい場合は、ステロイドを投与したり、緊急で気管切開を行うことが必要です。

 

そのためにも、抜管後は患者のバイタルサインや全身状態に気をつけて観察することが重要です。また、急変に伴う再挿管の可能性に備えて、必要物品がそろっているかも確認しておきましょう。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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