手術当日の内服薬は麻酔科医や病院によって違うけれど、決まりはないの?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「術前の内服薬」に関するQ&Aです。

 

神移 佳
大阪市立総合医療センター麻酔科医長

 

手術当日の内服薬は麻酔科医や病院によって違うけれど、決まりはないの?

 

原則手術当日朝まで継続ですが、経口血糖降下薬だけは必ず中止してください。

 

〈目次〉

 

術中の低血糖は危険

手術中は、血圧心電図、SpO2 が必ずモニタリングされています。麻酔科医、外科医、看護師がこれらの数値をモニター画面で常に監視しているので、呼吸状態と循環動態の異常にはすばやく対処することができます。

 

しかし、血糖値はそのつど採血してみないとわからないため、血糖値の異常には自然と対応が遅くなってしまいます。血糖値の上昇はある程度は容認できますが、血糖値の低下を見すごしてはなりません。低血糖状態は、へのエネルギー供給が断たれた状態であるため、脳に大きな障害を引き起こす可能性があります。

 

一般的に術前は絶食となるので、経口血糖降下薬を手術当日に内服すると、手術中に血糖値が予想以上に下がる可能性があります。さらに全身麻酔では低血糖の症状がわからなくなり、低血糖状態を見すごして脳に大きな障害を引き起こす可能性があります。

 

経口血糖降下薬以外に手術当日に中止する内服薬は?

迷うところに降圧薬があります。降圧薬は数多くの種類があり、血圧を下げる作用機序もそれぞれ異なります。

 

特に注意するのはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬です。ロサルタンカリウムニューロタン )、バルサルタン(ディオバン )、カンデサルタンシレキセチル(ブロプレス)、テルミサルタン(ミカルディス)などは、全身麻酔薬との相互作用で血圧が下がりすぎるということが報告されています。しかしながら、絶対的な決まりや明確な基準があるわけではありません。

 

手術当日に内服薬すべてを中止するのはよくない?

術前内服指示で、“手術当日の朝の内服薬はすべて中止”というのをよく見かけます。多くの手術では翌日には常用薬が内服できるようになり、内服できない場合でも注射薬で代用しているため、困ることがないのが現状です。内服できない状態を十分にカバーできる体制があれば、問題ないと考えられます。

 

病院内でのルールを徹底する

手術当日の内服薬の継続と中止に関しては、はっきりとした基準やガイドラインはありません。そのため、術前の内服薬に関しては、病院内、病棟内でのマニュアルを作成し、各スタッフが統一した認識をもつことで病棟業務の負担軽減と医療安全の向上につながります。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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