抗血栓薬のヘパリンによる代替療法は必要?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「抗血栓薬のヘパリンによる代替療法」に関するQ&Aです。

 

石川彰
大阪市立総合医療センター消化器外科(現医誠会病院消化器外科医長)
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

血栓薬のヘパリンによる代替療法は必要?

 

休薬による血栓塞栓症の発症リスクが高く、受けられる手術の出血リスクが高ければ、通常抗血栓薬を休薬し、ヘパリンによる代替療法を行います。

 

〈目次〉

 

ヘパリンによる代替療法って?

外科手術においては、抗血栓薬を服用しているままでは、出血のリスクが高くなってしまいます。一方で抗血栓薬を休薬してしまうと、どうしても血栓塞栓症の発症リスクは上がります。血栓塞栓症のハイリスク症例においては、できる限り短期間の休薬で周術期を乗り切ることが重要なのです。

 

最近では休薬による血栓塞栓症の発症リスクを懸念し、抜歯や白内障手術、出血リスクの少ない内視鏡検査、また術後出血への対応が容易な体表小手術等では、術前に必ずしも抗血栓薬を休薬する必要はないとされています。

 

一方で、出血リスクを伴う内視鏡処置や大手術等においては術前に抗血栓薬の休薬を行い、さらに血栓塞栓症の発症リスクの高い症例ではヘパリンナトリウム(以下、ヘパリン)による代替療法が勧められています。(文献1,2

 

なぜヘパリンなの?

ヘパリンはワルファリンカリウム(以下、ワルファリン)とともに抗凝固薬に分類されます。

 

ワルファリンの血中半減期は通常約40時間、抗凝固作用は投与後12~24時間に発現し、48~72時間持続します。したがって、少なくとも術前3日前には休薬する必要があります(→術前の休薬について)。

 

ヘパリンは血中半減期が短く、術前4~6時間前の投与中止により抗凝固作用はほぼ消失するため、休薬期間中の血栓塞栓症の発症リスクを最小限に抑えることが可能です。また、プロタミン硫酸塩の投与により術前にヘパリンの効果を中和することも可能であり、扱いやすい薬剤なのです。

 

ヘパリンによる代替療法はどんな方法で行う?

ワルファリンを服用している場合のヘパリンによる代替療法を図1に示します。

 

図1ワルファリンを服用している場合のヘパリンによる代替療法(文献2

ワルファリンを服用している場合のヘパリンによる代替療法

 

大手術の場合は、術前3~5日前からワルファリンを休薬するとともに、ヘパリン1.0~2.5万単位/日程度を持続静注し、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)が正常対照値の1.5~2.5倍に延長するように投与量を調整します。

 

術後は出血傾向がないことを確認後、できるだけすみやかにヘパリンを再開します。

 

病態が安定したらワルファリンの投与を再開し、プロトロンビン時間国際標準比(prothrombin time:International Normalized Ratio:PT-INR)を見ながらヘパリンを中止します(表1/文献2)。

 

術後は創部やドレーン排液の観察はもとより、血液検査での貧血の進行、さらには血栓塞栓症にも注意を払う必要があります。

 

表1抜歯や手術時の対応(文献2

 

クラスⅡa
  1. 1.至適治療域にPT-INR をコントロールした上での、ワルファリン内服継続下での抜歯。
  2. 2.血小板薬の内服継続下での抜歯。
  3. 3.至適治療域にPT-INR をコントロールした上での、ワルファリン内服継続下での白内障手術。
  4. 4.抗血小板療法継続下での白内障手術。
クラスⅡa´
  1. 1.消化管内視鏡による観察時の抗凝固療法や抗血小板療法の継続(エビデンスレベルC)。生検な どの低危険手技時もポリペクトミーなどの高危険手技時もワルファリンを中止ないし減量しPTINR を1.5 以下に調整(エビデンスレベルC)。低危険手技時の抗血小板薬の休薬期間はアスピリ ンで3 日間、チクロピジンで5 日間、両者の併用で7 日間、高危険手技時の抗血小板薬休薬期間 はアスピリンで7 日間、チクロピジンで10 ~ 14 日間(エビデンスレベルC)。血栓症や塞栓症 のリスクの高い症例ではへパリンによる代替療法を考慮。
  2. 2.術後出血への対応が容易な場合のワルファリンや抗血小板薬内服継続下での体表の小手術。
  3. 3.出血性合併症が起こった場合の対処が困難な体表の小手術やペースメーカ植込み術での大手術に 準じた対処。
  4. 4.大手術の術前3 ~ 5 日までのワルファリン中止と半減期の短いヘパリンによる術前の抗凝固療法 への変更。ヘパリン(1.0 ~ 2.5 万単位/ 日程度)を静注もしくは皮下注し、リスクの高い症例で は活性化部分トロンボ時間(APTT)が正常対照値の1.5 ~ 2.5 倍に延長するようにヘパリン投与 量を調整する。術前4 ~ 6 時間からヘパリンを中止するか、手術直前に硫酸プロタミンでヘパリ ンの効果を中和する。いずれの場合も手術直前にAPTT を確認して手術に臨む。 術後は可及的速やかにヘパリンを再開する。病態が安定したらワルファリン療法を再開し、PTINR が治療域に入ったらヘパリンを中止する。
  5. 5.大手術の術前7 ~ 14 日からのアスピリン、チクロピジンおよびクロピドグレルの中止、3 日前か らのシロスタゾール中止。その間の血栓症や塞栓症のリスクが高い症例では、脱水の回避、輸液、 ヘパリンの投与などを考慮する。
  6. 6.緊急手術時の出血性合併症時に準じた対処。
クラスⅢ
  1. 1.抗血栓療法の中断。  抗血栓療法の中断が避けられない場合は、ヘパリン、脱水の回避、輸液などの代替療法を考慮する。

 


[文献]

  • (1)藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣,他:抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン.日本消化器内視鏡学会雑誌2012;54:2073-2102.
  • (2)循環器病の診断と治療に関するガイドライン.循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)2014年4月10日、日本循環器学会HP閲覧

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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