高血圧に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「高血圧」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

高血圧の患者からの訴え

  • 「健診で高血圧を指摘されました」

 

〈高血圧に関連する症状〉

〈高血圧に関連する症状〉

 

〈目次〉

 

高血圧ってなんですか?

高血圧とは、血圧が高い状態です。血圧には個人差がありますが、繰り返し測定して、最高血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、あるいは最低血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上であれば、高血圧と診断されます。

 

最高血圧だけで高血圧かどうかを判断しがちですが、最低血圧が90mmHg以上の時にも高血圧となりますので、両方の数値を覚えておくようにしましょう。また最高血圧130mmHg以上、最低血圧85mmHg以上は正常高値血圧とよばれています。

 

図1高血圧と判断される数値

高血圧と判断される数値

 

血圧を決める因子には何があるの?

血圧とは、心臓から送り出された血液が、動脈の内壁を押す力のことです。

 

血圧を決める因子は2つあります。1つは、末梢血管の抵抗性です。血液がスムーズに流れるか、それとも流れにくい状況かなど、血管の抵抗性によって血圧が変わります。特に、末梢血管が広がりにくいと血液が流れにくくなり、血圧は増加します。

 

図2血圧を決める因子

血圧を決める因子

 

血圧を決めるもう1つの因子は、心拍出量です。心拍出量は、心臓のすぐ手前の静脈の内圧(中心静脈圧)と心臓の収縮力によって決まります。心拍出量が多いほど循環血液量が増え、血圧は高くなります。

 

最高血圧、最低血圧って何?

心臓は、収縮と拡張を繰り返して血液を送り出しています。収縮期は、左室が収縮して血液を全身に送り出している時期です。収縮期には、心臓から拍出された血液によって動脈にかかる圧力が増加し、これが最大に達した時の値が最高血圧(収縮期血圧)です。

 

一方、拡張期は血液が左房から左室に流れ込んで左室が拡張している時です。収縮期に動脈にかかった圧力がなくなって血圧が最も小さくなった時の値が、最低血圧(拡張期血圧)です。

 

血圧はどうやって調整されているの?

私たちの身体には、血圧を一定に保つための仕組みが備わっています。

 

図3血圧の調整

血圧の調整

 

1つは、心臓血管中枢による自律神経系を介した調節です。大動脈と頚動脈には、血管の伸展を感知する受容体(圧受容器)があります。血圧が上昇して受容体が引き伸ばされると、その情報が延髄にある心臓血管中枢に伝えられます。すると、心臓血管中枢は、自律神経を通じて心拍数を減少させ、また、血管を拡張させるように命令を出します。その結果、血圧は低下します。

 

もう1つは、ホルモンによる調節です。副腎髄質ホルモンであるアドレナリン、ノルアドレナリンは、血管の平滑筋を収縮させることにより、血圧を増加させます。循環血液量が減少して血圧が低下した場合には、下垂体後葉からバゾプレッシンが分泌され、集合管での水の吸収を増加させます。その結果、循環血液量が増加し、血圧は上昇します。

 

腎臓に流入する血液量が減少すると、レニン・アンギオテンシン系が働いて、アンギオテンシノーゲンがアンギオテンシンに変化します。アンギオテンシンは血管を収縮させて血圧を上昇させるともに副腎皮質からアルドステロンを分泌させます。アルドステロンは遠位尿細管でのNa+の再吸収を増加させるため、同時に水分の貯留が起こって循環血液量が増加し、血圧が上昇します。

 

また、循環血液量が増加して心房が伸展した場合には、心房性ナトリウム利尿ペプチドが分泌されます。このホルモンは、利尿を促すことによって循環血液量を低下させ、血圧を下げます。

 

用語解説腎血管性高血圧とレニンアンギオテンシン系

糸球体には、循環血液量をモニターする構造である傍糸球体(ぼうしきゅうたい)装置が存在しています。傍糸球体装置は、糸球体の輸入細動脈の血管壁の一部である傍糸球体細胞と、これと隣り合う遠位尿細管の上皮細胞の作る緻密班(ちみつはん)から成ります。

 

輸入細動脈を流れる血液量が減少して血圧が低下すると、傍糸球体細胞がこれを感知してレニンというホルモンを分泌します。レニンは血中のアンギオテンシノーゲンに作用し、アンギオテンシンⅠを遊離させます。アンギオテンシンⅠは、血液中でアンギオテンシン変換酵素によってアンギオテンシンⅡに変換され、末梢血管を収縮させて血圧を上げるとともに、副腎皮質にも作用し、鉱質コルチコイドであるアルドステロンの分泌を促進します。

 

アルドステロンは、遠位尿細管でのNa+の再吸収を増加させ、循環血液量を増やして血圧を上げます。レニンアンギオテンシン系の作動によって循環血液量が増加して尿量が減少すると、今度はこの情報が遠位尿細管の緻密班から傍糸球体細胞に伝わり、レニンの産生が抑制されます。

 

腎血管性高血圧では、動脈硬化によって腎動脈が細くなるために輸入細動脈の血流量が減少し、レニンアンギオテンシン系が作動することによって血圧の上昇が起こります。

 

図4

 

高血圧の原因は?

高血圧の多くは原因不明です。このような高血圧を本態性(ほんたいせい)高血圧といい、高血圧の90%以上を占めています。

 

本態性高血圧はさらに、良性と悪性に分けられます。ほとんどは良性で、中高年からじわじわと血圧が高くなっていきます。これに対し、悪性の高血圧は比較的若い人に見られ、血圧が急に高くなっていきます。放置すると腎不全を招き、生命にかかわります。

 

原因の明らかな高血圧は、二次性高血圧と呼びます。特に、腎臓の病気は高血圧を起こすことが多く、これを腎性高血圧といいます。また、内分泌系疾患や薬剤も、高血圧を引き起こすことがあります。

 

腎臓の病気があると高血圧になるのはなぜ?

高血圧と腎疾患には、深い関係があります。腎臓は血液を濾過して老廃物を排泄するとともに、水やNa+の再吸収を介して循環血液量を調節し、血圧の維持に深くかかわっています。

 

腎動脈から腎臓に入った血液は、糸球体と呼ばれる毛細血管を流れる間に濾過され、老廃物や余分な水分が尿として除かれます。糸球体を通ってきれいになった血液は、腎静脈に集まり、心臓に還っていきます。

 

このフィルターの役目をする糸球体が糸球体腎炎などで障害されると、血液中の余分な水分を尿として排泄することができなくなります。すると、循環血液量が増え、血圧が上がります。糸球体の機能が低下すると、同じネフロンの尿細管も機能を失っていきます。その結果、ナトリウムも貯留し、ナトリウムの貯留は水の貯留を伴うため、循環血液量の増加に結びつきます。

 

また、腎動脈の血流が減少するとレニン・アンギオテンシン系を介して血圧の上昇が起こります。この場合を特に、腎血管性高血圧といいます(用語解説参照)。

 

内分泌系疾患や薬剤によって血圧が上がるのはなぜ?

内分泌系の疾患では、血圧を増加させる作用のあるホルモンが過剰になる場合があります。副腎皮質機能亢進症であるアルドステロン症やクッシング症候群ではアルドステロン、副腎髄質細胞の腫瘍である褐色(かっしょく)細胞腫ではアドレナリンとノルアドレナリンの分泌が亢進するため、血圧の上昇が起こります。

 

また、副作用として高血圧を起こす薬剤の代表例は、ステロイド薬です。このほか、女性ホルモンであるエストロゲン製剤でも、血圧の増加がみられます。

 

高血圧から起こる疾患は?

高血圧が怖いのは、それが様々な病気を引き起こす可能性が高いからです。特に重要なのは、高血圧によって動脈硬化が促進されることです。

 

血圧が高いと、血管が血流から受ける力も大きくなります。その結果、血管の内側を覆っている内皮細胞が刺激され、いろいろなサイトカインを放出します。その作用によって血液中の脂質が内皮細胞を通って動脈壁に沈着し、動脈硬化につながるのです。高血圧に加えて脂質異常症があると、さらに動脈硬化が促進され、心筋梗塞脳梗塞などの原因になります。

 

また、高血圧が長く続くと、それに耐えるために細動脈が次第に厚くなり、細動脈硬化症を引き起こします。悪性高血圧では、血圧が非常に高くなるため、血液中の成分(フィブリンなど)が血管壁に浸み出し、血管壁が壊死して出血を起こしたり、血管壁が浮腫のように肥厚したりします。

 

これらの細動脈の変化は、多くの細動脈が分布する腎臓に、特に影響を及ぼします。

 

良性高血圧では、細動脈の肥厚によって血管の内腔が狭くなると糸球体への血流が減少し、糸球体、さらにネフロン全体が次第に機能を失って潰れていきます。潰れたネフロンの後は瘢痕(はんこん)組織で置き換えられ、腎臓は次第に小さくなっていきます(良性腎硬化症)。

 

悪性高血圧では、細動脈の壊死によって腎機能の低下が急速に進行し、腎不全に陥ります(悪性腎硬化症)。

 

また、心臓にも影響を及ぼします。高血圧があると、心臓は高い血圧に打ち勝って心拍出量を保つために、より強く収縮して血液を送り出そうとします。増加した仕事に適応するために心肥大が起こり、最後には心拍出量を維持できなくなって心不全になります。

 

高血圧のアセスメントはどうするの?

血圧を測定し、その程度をアセスメントします。血圧はいろいろな要因に影響されやすいので、1回の測定値だけでなく変動をみることも重要です。年齢も考慮します。また、高血圧はしばしば遺伝するので、家族歴も尋ねましょう。

 

また、高血圧を引き起こす疾患がないか、高血圧以外の症状がないかを確認し、二次性高血圧かどうかを推測します。例えば、腎疾患では浮腫(浮腫に関するQ&A参照)、クッシング症候群では満月様顔貌などが認められます。

 

高血圧のケアは?

高血圧による合併症を防ぐため、血圧を正常範囲内にコントロールすることが大切です。基礎疾患があれば、その治療を行います。

 

重要なのは生活習慣を見直すことで、食生活の改善と適度な運動が大切です。肥満がある場合には、カロリー制限や運動により体重を減少させます。また、塩分やアルコールの取り過ぎは血圧を上げるので、控える必要があります。タバコも止めましょう。

 

薬物療法も行われますが、あわせてライフ・スタイルを改善することが先決です。降圧薬が処方されている場合は、患者が高齢であることが多いので、服薬の管理や副作用への注意が必要です。

 

なお、高血圧の患者は血管壁が弱くなっていることが多いので、急激な血圧の変動は避けなくてはいけません。暖かいところから急に寒いところに移動すると、体温の放散を防ごうとして末梢血管が収縮し、血圧が急に上がり、血管が切れて出血を起こす危険があります。

 

COLUMN血圧の測定値に影響するもの

「高血圧」と判断する前に、血圧測定が正しく行われたのか確認しましょう。以下のような要因が、血圧の測定値に影響を及ぼします。

 

  1. マンシェットの幅……幅が狭いと高くなります。通常の成人用のマンシェットの幅は、12cmです。
  2. うっ血……シャツの袖口などで腕が圧迫されていると高くなります。
  3. マンシェットの位置……心臓と同じ高さに巻き、測定する。
  4. 腕の太さ……腕が太いと血管が圧迫されにくいので、高くなります。
  5. 安静……運動、興奮状態、不安など、交感神経の活動が活発になるような状況では高くなります。
  6. 温度……寒いと、体温を逃がさないように皮膚血管が収縮し、血圧が上がります。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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