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2016年10月06日

鎮痛・鎮静のモニタリング|術中モニタリング

オペナース』2014年創刊号<術中モニタリング>より抜粋。
鎮痛・鎮静のモニタリングについて解説します。

 

Point

  • 鎮静,鎮痛の基礎知識を学びましょう。
  • 鎮静のモニタリングはbispectral index(BIS)値や同時に表示されるパラメータを注意して観察します。
  • 鎮痛度は手術進行や出血量,血圧心拍数などから総合的に評価します。

倉藤晶子
(日本医科大学付属病院 中央手術室 看護師長,手術看護認定看護師)

 

〈目次〉

 

はじめに

手術を受ける患者さんにとって,適切な鎮静がなされ術中の意識や記憶がないこと,また,有効な鎮痛が維持され,術中・術後に痛みがなく過ごせることは重要です。

鎮静薬のうち,吸入麻酔薬は呼気,吸気中の薬物濃度を測定することで鎮静の深さを推定することができ,脳波をモニタすれば,静脈麻酔薬でも同様の推測が可能になります。

鎮静度の指標として,BIS,エントロピー,聴覚誘発電位(auditory evoked potential;AEP)などの脳波や誘発電位に基づくモニタリングが普及しています。脳波モニタの波形は,麻酔薬の作用だけではなく,手術侵襲やそれに伴う鎮痛薬の投与によっても変化するため,計測値の意味や限界を理解することが大事です。

また,鎮痛度に関しては,現時点では鎮痛度を測定するモニタはないため,手術進行の情報や血圧,心拍数などから総合的に評価することが必要になります。

本コラムでは鎮静のモニタリングとして使用頻度の高いBISモニタを中心に,術中の鎮静・鎮痛のモニタリングと観察ポイントについて述べていきます。

 

鎮静・鎮痛の基礎知識

麻酔における鎮静・鎮痛の必要性

全身麻酔下における「鎮静」の目的は,術中の意識や記憶をなくすことです。

吸入麻酔薬や静脈麻酔薬で無意識・無記憶の状態を保ち,術中の心理的・身体的苦痛の緩和を図ります。手術中,手術侵襲が大きくなった場合や麻酔薬の投与量が不十分な場合など,手術侵襲に対して相対的に麻酔の深度が浅くなった際に術中覚醒を起こすことがあります。

術中覚醒とは,全身麻酔中の予期せぬ意識の回復により,その間の記憶内容を具体的に述べることのできる陳述記憶を術後想起できるものをいいます。なかには術後に心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder;PTSD)をきたすケースもあり,術中に適正な鎮静がなされているかを確認していくことが必要です。

また,麻酔における鎮痛の役割も重要です。全身麻酔下では,意識がなく痛みを感じていなくても,痛み情報は脳に到達しています。手術刺激などの侵害刺激によって,逃避反射による体動や,血圧上昇や頻脈といった循環系の反応,さらには視床下部下垂体系を介してストレスホルモンが分泌され全身的なストレス反応も生じます(表1)。

表1痛みが生態に及ぼす影響

痛みが生態に及ぼす影響

そのため,鎮痛薬を使用して侵害受容情報が上位中枢に伝達されることを抑制することが必要であり,脊髄内に侵害受容情報が入らないように,局所浸潤麻酔硬膜外麻酔を行う方法,手術に先立ちオピオイドなどの鎮痛薬を投与する方法などがとられます。

痛みを抑えるために,侵害刺激が加わる前に鎮痛処置を行う鎮痛法を,先制鎮痛,先取り鎮痛(pre-emptive analgesia)といいます。痛みは持続的に反復されると中枢神経が過敏になり,発痛物質の蓄積が起こることで,通常では痛いと感じない刺激に対しても反応して痛みを感じるなど痛みの悪循環が起こるため,積極的に痛みをコントロールすることが必要です。

 

術中覚醒を生じやすい状況と注意点

鎮静のモニタリングをしていくうえで,鎮静が保たれにくくなる状況,すなわち術中覚醒のリスク要因を知識として持っておくことも必要です。

術中覚醒は適切な麻酔深度であっても起きないというわけではありません。全身麻酔症例で術中覚醒が生じる確率はおよそ0.1〜0.2%であり,ハイリスク群では1.0〜1.5%に増加します。

術中覚醒のリスクファクターとしては,術式では全身麻酔下帝王切開術,心臓手術や外手術などがあります。全身麻酔下帝王切開術では,吸入麻酔濃度を上げると子宮収縮が阻害されるため麻酔を深くしづらいこと,心臓手術や外傷手術では,循環動態が不安定なことが多く,麻酔濃度を上げられないために浅麻酔になりやすいことが影響していることが考えられます。

術中の出血などにより,十分な麻酔が保てなくなることがあるため,外回り看護師は出血量を把握して麻酔科医に報告をし,迅速な対応がなされるようにしていきましょう。

手術侵襲に対して相対的に麻酔の深度が浅くなる状況としては,術式の変更,顕微鏡下手術から通常手術への移行,静脈麻酔薬のライントラブルなどがあります(表2)。

表2術中覚醒のリスクファクター

術中覚醒のリスクファクター

 

鎮静・鎮痛の方法

全身麻酔では,吸入麻酔薬,静脈麻酔薬を使用する方法があります。

吸入麻酔薬は呼気麻酔ガスモニタで濃度を調整できます。静脈麻酔薬のプロポフォール製剤は,望んだ値に薬物濃度をコントロールする目標血中濃度調節投与(target controlled infusion;TCI)が可能で,薬剤の投与速度をリアルタイムに調節することができます。局所麻酔では,神経ブロック,脊髄くも膜下麻酔,硬膜外麻酔などの方法があります。

また,手術後の鎮痛方法には,持続神経ブロックや硬膜外カテーテルからの鎮痛薬の持続投与,静脈内投与,筋肉注射,坐薬があります。最近では患者さん自身が薬剤投与できる患者自己管理鎮痛法(patient controlled analgesia;PCA)で,静脈内PCA(intravenous patient controlled analgesia;IVPCA),硬膜外PCA(patient controlled epidural analgesia;PCEA)があります。

 

鎮痛・鎮静目的で使用される主な薬剤

全身麻酔は,①意識の消失,②無痛,③筋弛緩,④有害反射の抑制の4要素が必要であり,意識を消失させる麻酔薬,痛みをコントロールする鎮痛薬,さらには筋弛緩薬の3つの薬剤を組み合わせて適切に維持するバランス麻酔が主流になっています。

吸入麻酔薬または静脈麻酔薬を用いて鎮静を行い,オピオイド(麻薬性鎮痛薬)や局所麻酔薬を用いて痛みをとり,さらに筋弛緩薬を用いて筋弛緩作用をえることで,麻酔薬の過剰投与や覚醒遅延などが減少し,手術終了時の早期覚醒・抜管が可能となりました。術中の鎮静は脳波モニタで,鎮痛は心電図や血圧でモニタリングします(図1)。

図1バランス麻酔

バランス麻酔

 

現在はレミフェンタニルで循環動態の安定と術中のストレス反応を抑制し,低濃度のセボフルラン維持により良好な覚醒が得られる方法が多く行われています(表3)。

表3鎮静・鎮痛に使用される主な薬剤

鎮静・鎮痛に使用される主な薬剤

 

また,静脈麻酔では,持続静注可能な麻酔薬プロポフォールや,麻薬レミフェンタニルがあり,静脈麻酔薬とオピオイドの持続注入をすることで,吸入麻酔薬に頼らない全身麻酔が可能になりました。これを完全静脈麻酔(total intravenous anesthesia;TIVA)と呼びます。

一般的には,プロポフォールとフェンタニル,プロポフォールとレミフェンタニルの組み合わせによる完全静脈麻酔が主流です。

オピオイドを併用するときの医療者側の注意点として,聴覚誘発電位(auditory evoked potential;AEP)はオピオイドを併用しない場合より高くなります。つまり,オピオイドを併用すると,無意識になっても音刺激に応答する可能性が高くなるため,麻酔中であっても医療従事者同士の不用意な会話は避けるようにしましょう。

 

鎮静度の指標となるモニタの種類

中枢神経の電気活動から術中の鎮静レベルを解析するモニタには,BIS,エントロピーモニタ,AEPなどがあります。皮質脳波の波形解析を利用しているモニタがBISやエントロピーモニタで,聴覚誘発電位の電気活動を解析しているのがAEPモニタになります。

 

BIS

BISは鎮静薬による鎮静,無記憶,無意識や脳の代謝の低下を含む鎮静効果の指標として用いられています。正確には,得られた脳波をもとに鎮静度を推定しているものです。BISは前頭葉の脳の解析に基づいているため,視床から大脳皮質領域への鎮静作用の指標になりえますが,辺縁系,海馬,扁桃体などが関与している術中記憶や健忘の指標としては不適切とされています。

脳波を解析し,患者さんの鎮静度を0〜100の数値で表示し,そのときの脳波波形が示されます。BISの使用により麻酔薬使用量の軽減,覚醒までの時間の短縮,不必要に浅い麻酔を回避することでの術中覚醒の可能性を減じることにもつながり,術中の催眠・鎮静度の指標としてBIS値をモニタリングすることが望ましいとされています。

 

エントロピーモニタ

エントロピーモニタは,脳波(electroencephalogram;EEG)と前額部筋電図(fEMG)から,SE(state entropy)とRE(response entropy)の2つの数値情報により,術中の微弱な脳波を測定します。SEは0.8〜32 Hz領域の脳波信号から値が算出され,値は0〜91で表示されます。

REは0.8〜47 Hz領域の脳波信号に加え前額部の筋電活動も含まれた値で,0〜100で表示されます。RE,SEともに全身麻酔中に推奨されている値の範囲は40〜55で,この範囲ではSEとREは同値を示します。

 

AEPモニタ

AEPは,音刺激が耳で受容され脳で認知されるまでの聴覚経路(末梢聴覚器,蝸牛神経,脳幹を経て側頭葉聴覚野に至る経路)に由来する脳電位の総称で,音刺激によって誘発されます。AEPモニタは,麻酔薬や鎮痛薬を投与した患者さんにおいて音刺激に誘発されたAEPを測定し,誘発反応波形の表示や振幅などから催眠レベルを示すAEP指数を表示するモニタです。

両耳に装着したAEPイヤホンから音刺激を連続して内耳に加え,頭部に装着した頭皮脳波用電極により音刺激に誘発されたAEPを測定します。

 

BISによる鎮静のモニタリング

BIS値100は覚醒していることを示し,麻酔薬を投与すると患者さんの意識レベルとともに覚醒時の値の100から低下していきます。BIS値70〜80で意識消失が起こり,40〜60は適切な麻酔中の鎮静度を示します。麻酔深度によって脳波波形が変化するため,BIS値と合わせて観察しましょう(図2)。

図2BIS値の指標

BIS値の指標

 

BIS値と同時に表示される他のパラメータの観察

BISモニタは,BIS値の他にSQI,筋電図(electro-myography;EMG),EEG,SRなどのパラメータが同時に表示されます(図3)。BIS値が適正に鎮痛レベルを表示しているかを判断するには,BISモニタ内に同時に表示されるさまざまなパラメータも注意して観察し総合的に評価をしていきます。

図3BISモニタの見方

BISモニタの見方

BIS値
麻酔中は40〜60が適正な麻酔深度です。ノイズの混入が多くなると数値が中抜きで表示される機種もあります。

SQI(脳波原波形)
過去60秒間に得られた脳波のうち,良好な信号の割合を示しています。バーが右にのびているほどよいとされ,50%以上が良好な信号とされています。

EMG(筋電図)
筋電活動の混入度を示し,脳波に筋電図が混入すると鎮静レベルが適度であってもBIS値は高値を示します。つまり,EMGのバーが表示されているときのBIS値は信用できません。EMGの上昇が見られたときは,痛みなどストレスの上昇が予測されます。

EEG(脳波波形)
振幅が大きいときにはBIS値の信頼性が高いです。ただし,高齢者では適切な麻酔レベルでも脳波の振幅が大きくならないことがあります。振幅の小さな脳波では,浅麻酔や,術前から脳梗塞などの中枢系疾患を有している場合が考えられます。

EEGの拡大波形(リアルタイム脳波)
EMGなどのノイズやBISの妥当性をチェックします。

suppression ratio(SR)
SR値は直前の脳波60秒のうち平坦脳波が占める割合を%表示したものです。SR値が10以上のときは,過鎮静による深麻酔の可能性があります。また,SRの上昇時には脳虚血の可能性を念頭におく必要があり,SRはショック時などの脳虚血の早期発見にも有用です。

 

BIS値の変化からの予測と対応

BIS値の変化からはいろいろな情報が予測できます(表4)。

表4BISモニタの値と対処

BISモニタの値と対処

BIS値が上昇する要因として,筋運動や医療機器の影響,麻酔薬の中断,手術侵襲などの影響があります。

たとえば,BIS値の上昇が65以上で,EMGのバーが見えていないのにBIS値が上昇している場合は,浅麻酔の可能性が考えられます。BIS値の異常を発見したら,EMGのバーが表示されているかをまず確認しましょう。バーが表示されている場合のBIS値は信用できませんが,表示されていなければ異常を疑い,他のモニタから情報(血圧や,心拍数の変化など)の追加を行います。

また,脳波は微小電位のため,電気メスやペースメーカーなどのME機器アーチファクト(ノイズ)の影響を受けることがあります。ノイズの混入防止のためには,インピーダンス(センサ貼付部と皮膚の抵抗)をできるだけ低くすることが必要です。インピーダンスが高い場合は,皮膚の清拭や圧着を行います。

下降の要因としては,麻酔薬の過量投与,脳虚血,筋弛緩薬投与による筋電図活動消失などがあります。BIS値の低下で35未満の場合は,深麻酔あるいは,何らかの原因で脳虚血が生じている可能性があります。低体温でもBIS値は変動し,体温の低下に伴いBIS値も低下します。

急激なBIS値の変動が見られた場合には,手術操作や電気メス,体温加温装置など医療機器の使用状況,体温測定など,その要因をアセスメントすることが大事です。脳血流が変化すると脳波も変化し,脳血流が低下した場合,脳波は徐波化します。麻酔濃度が一定であるのに脳波が徐波化しBIS値が急激に低下した場合は,過換気や低体温,脳虚血を疑う必要があります。

脈拍,血圧,BISの値や波形,瞳孔経などを見ながら必要な鎮静薬量,鎮痛薬量の調節を行うのは麻酔科医ですが,外回り看護師も同じ視点でモニタリングを行い,変動があった際には鎮静薬,鎮痛薬の投与状況を確認していくことが必要です。

 

投与経路の観察

TIVAの場合,プロポフォール,レミフェンタニルなどの薬剤の過小投与は,術中覚醒を生じる可能性があります。血圧,心電図,BISモニタ値を観察するとともに,静脈の投与経路の観察も行い,適切に薬剤が投与されているかを確認します。TIVAでは,1本の静脈ラインの側管からプロポフォールやレミフェンタニルなど複数の薬剤がシリンジポンプで投与されます。

そのため,麻酔薬や鎮痛薬の投与が中断されていないかを確認していくことが必要です。確認項目として以下の6つをチェックしましょう。

  1. 薬液の血管外漏出がないか。
  2. 血管内留置カテーテルと輸液ルート接続部の緩みや接続ミスがないか。
  3. 手術体位や術者の圧迫などで,輸液ルートが圧迫され薬液の投与に支障をきたしていないか。
  4. 輸液と静脈麻酔薬投与を合流させる三方活栓の向きが正しいか。(図4
  5. 薬液の残量はあるか。
  6. 薬液の残量はあるか,シリンジポンプは正しく作動しているか。

図4三方活栓

三方活栓

 

BISモニタの限界

BISは過去約60秒間の直前に記録された脳波データを基に算出された値であり,新しい情報が取り込まれるには15秒ほどの時差があります。

そのため,手術侵襲が急激に変わる場合には,直前のBIS値だけでは体動や血圧上昇の予測が難しいため,画面上のある時間の数値だけでなく,心拍数・血圧値の変動や体動の有無も合わせて経時的に観察して評価することが重要です。

また,BISは,イソフルラン,チオペンタール,プロポフォール,ミダゾラムの4種類の麻酔薬に亜酸化窒素や麻薬を併用した場合に適用になっています。セボフルランでも同様のBIS値を示しますが,データベースにない薬剤を使用した場合には,BIS値が正しく鎮静度を示すかどうかは検証が必要です。データベースにないという点では,新生児や乳児では意味のある数値は得られにくく,また,脳に器質的障害がある場合の評価は難しいとされています。

 

視診,触診によるモニタリング

適正な鎮静になると副交感神経優位になるため,徐脈傾向になり,血圧,心拍数が低下し,瞳孔は縮小傾向になります。また,麻酔薬の作用で血管が拡張して手が暖かくなってきます。

一方,麻酔中に浅麻酔になると,交感神経が優位になってくるため発汗や立毛,血圧,脈拍の増加の他,眉間に皺を寄せる,顔をしかめる,眼瞼や眼球が動くなどの浅麻酔の徴候が認められます。

BIS値の変動時には,BISモニタだけではなく瞳孔の観察や浅麻酔の兆候の有無も合わせて観察しましょう。

 

呼気麻酔ガス濃度モニタによるモニタリング

呼気ガスモニタは,セボフルランなどの揮発性吸入麻酔薬や亜酸化窒素(笑気)などの呼気と吸気中の濃度をモニタリングすることができます。静脈麻酔薬のプロポフォールは,投与量に対する個人差が大きいため,BISモニタでのモニタリングが必要ですが,セボフルランなどの吸入麻酔薬は,濃度に対する反応の個人差が比較的少ないため,鎮静の効果の予測がつきやすいです。

吸入麻酔薬は,肺から血液中に吸収され,脳で作用します。そのため呼気終末麻酔ガス濃度≒肺胞麻酔ガス濃度≒脳内麻酔ガス濃度と考えることができ,麻酔維持中は,呼気の麻酔ガス濃度をモニタリングすることで鎮静の深さを推定することができます。また,麻酔終了に向け,吸入麻酔薬の投与中止後,呼気中の麻酔ガス濃度から,体内にどれくらい麻酔薬が残っているかを推測できます。

外回り看護師は麻酔薬の投与中止後に呼気ガス濃度が低下してきているかを観察しましょう。長時間手術や,換気が悪い場合,脂肪が多い患者さんの場合は体内に蓄積されて麻酔ガス濃度の下がりが悪いことがあります(図5)。

図5セボフランの呼気・吸気濃度

セボフランの呼気・吸気濃度

 

鎮痛のモニタリング

術中に鎮痛度を測定できるモニタは,現時点ではありません。そのため,四肢の精神性発汗や皮膚血流,血圧,心電図解析による自律神経活動を観察し,モニタリング値の変化や手術操作から疼痛の有無を予想します。疼痛が予測される場合は,循環動態を観察しながら麻酔濃度の調整や,鎮痛薬の投与が行われます。看護師は,鎮痛薬追加後の血圧や心拍数の変動や,正しく鎮痛薬が投与されているか,投与経路の確認をしていきましょう。

レミフェンタニル使用時の注意点として,副作用の筋硬直による呼吸抑制,血圧低下,徐脈の可能性があるため,SpO2 値,心電図,血圧を注意して観察をします。術中は循環変動に合わせて持続投与量が調整されますが,作用消失がすみやかであるため,投与中止には適切な術後疼痛管理が必要になります。術後はモニタ値に加え,患者さんの訴え,表情などから痛みの評価をしていきます。

 

鎮静・鎮痛に関する術前の情報収集

鎮痛,鎮静に関する術前の情報収集では,術中覚醒の可能性,BISモニタに影響する要因はあるか,疼痛の閾値はどうかなどを,患者情報から予測します。

  • 年齢
  • 不安・恐怖の程度(疼痛の閾値を低くします)
  • 意識レベルや重症度
  • モニタリングに影響しやすい合併症の有無(脳疾患の既往や心機能低下など)
  • 手術経験(疼痛の経験,術中覚醒の既往)
  • 術式による手術侵襲の程度
  • 手術部位,麻酔方法,鎮痛方法など

 

BISモニタ装着とスキンケア

センサの電極部には導電ゲルが塗布され無数の突起(針電極)があります。モニタ装着は麻酔導入前に実施するため,装着時に痛みがあることを説明するとともに愛護的な装着が必要になります。ときには電極下組織の皮下出血やセンサのずれによる擦過傷,圧迫による圧痕が生じる可能性があるため,BISモニタを使用する症例には,事前に患者さんに説明しておくとよいでしょう。モニタ除去時には皮膚に変化がないかを観察しましょう。

ケーブル部分をテープで固定することで,ケーブルの重さによるずれを少なくすることができます(図6)。

図6BISモニタの装着

BISモニタの装着

 

疼痛の観察と評価

術中痛み刺激によって循環動態が不安定だった場合は,術後に疼痛を感じる可能性が高くなります。術中,術直後は痛み刺激による交感神経刺激症状の有無(頻脈,血管収縮,冷感,血圧上昇,頻呼吸)を観察します。また,レミフェンタニルを使用した麻酔では,オピオイド投与や患者自己管理鎮痛法など,術後の鎮痛対策がなされ,十分な鎮痛が得られているか確認します。区域麻酔では麻酔範囲の把握をしましょう。

痛みは主観的なものであり,疼痛の有無や痛みの強さ,痛みを我慢していないかなど患者さんの訴えを傾聴し,痛みがある場合は,医師へ報告をして疼痛緩和を図ります。

1979年の国際疼痛学会(International association for study of Pain;IASP)で,「痛みは,実際に何らかの組織損傷が起こったとき,または組織損傷を起こす可能性があるとき,あるいはそのような損傷の際に表現される,不快な感覚や不快な情動体験」と定義されています。痛みは主観的な感覚と情動体験であり,人によりその感じ方や程度が異なるため,客観的に評価することが難しいのですが,言葉や数字,行動などの簡易的に使用できるスケールが臨床で使用されています(図7)。

図7痛みの評価スケール

痛みの評価スケール

患者さんの言葉とともに,使用したスケールと結果を記録しておくと痛みの経過がわかりやすいでしょう。重要なことは,痛みの始まりから痛みが持続する期間を通して,1つの評価法を経時的に使用することです。

 

おわりに

バランス麻酔により,術中の鎮静や鎮痛の調整もしやすくなってきましたが,手術中の患者さんの全身状態は,侵襲や出血などのストレスにより刻々と変化していきます。

鎮静・鎮痛モニタリングは,画面上のある時間の数値だけでなく,他の情報と合わせて経時的に観察して評価する必要があります。

麻酔薬,鎮痛薬の投与は麻酔科医が実施しますが,手術室看護師も鎮静,鎮痛に関して監視モニタの観察を行い,投薬が適切に行われているかを確認していくことが大事です。麻酔科医と共同しながら,手術中に適正な鎮静,鎮痛が保たれ,術後の痛みのコントロールができるように取り組んでいきましょう。

 

 


[参考文献]

  • (1)佐藤重仁,鈴木利保(編):周術期モニタリング‐For Professional Anesthesiologists.克誠堂出版:2012.
  • (2)日本麻酔科学会・周術期管理チームプロジェクト:周術期管理チームテキスト(第2版):2011.
  • (3)武田純三(監修):ミラー麻酔科学.メディカル・サイエンスインターナショナル:2007.
  • (4)日本手術医学会:手術医療の実践ガイドライン 第4章(2014年3月閲覧)
  • (5)長谷川慎一:麻酔深度のポイント6.OPE NURSING,25:2010.

[Profile]
倉藤晶子(くらふじ しょうこ)
日本医科大学付属病院 中央手術室 看護師長,手術看護認定看護師


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]オペナース2014年創刊号

P.77~「鎮痛・鎮静のモニタリング」

著作権について

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