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2016年11月23日

ダイヤモンド鑷子|鑷子(5)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、『ダイヤモンド鑷子』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方については様々な説があるため、内容の一部については、筆者の経験や推測に基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

 

〈目次〉

 

ダイヤモンド鑷子は繊細で確実に操作できる超硬加工のピンセット

把持面はダイヤモンドチップなどで加工

ダイヤモンド鑷子(ダイヤモンドせっし)は、その名の通り、把持面がダイヤモンドチップで加工されているピンセットのことです図1

図1ダイヤモンドチップで加工されたダイヤモンド鑷子

ダイヤモンドチップで加工されたダイヤモンド鑷子

把持面はダイヤモンドチップで加工されています。

 

メーカーによっては、「ポッツスミス」とも呼ばれています。

把持面の加工は、ダイヤモンドによるものだけでなく、タングステンカーバイドで加工されているものもあるようです。このような加工を施すことで、より繊細で、確実な操作が可能になります。

 

開創後、頻繁に使用される器械

把持面の加工で、確実に把持しながらも組織の挫滅なく操作できるため、腹腔内操作を安全に進めることができます。先端の細さを利用した剥離操作や、血管操作に使われます。

開創後の操作で、使用頻度がとても高い器械です。

 

ダイヤモンド鑷子の誕生秘話

超硬度の金属板を接着して作られたダイヤモンドチップ

ダイヤモンド鑷子がいつどのように誕生したのかは、記録にも残っておらず、不明です。そもそも、ダイヤモンドチップとは、超硬度のタングステン・カーバイト製の黒い金属板を接着させて、先端の咬み合う面(咬合面)をダイヤモンドの鋸でピラミッド型にカットしてあるものです。

鑷子のほかには、へガール持針器や、白内障や角膜手術に使われる刃先がダイヤモンドでできたダイヤモンドナイフがあります。

 

古代ギリシャ・ローマ時代からあったダイヤモンド

諸説ありますが、ダイヤモンドは、古代ギリシャ・ローマ時代にインドで存在していました。その後、貿易を介して海外に広まったとされています。

16世紀初頭、多くの外国人商人の拠点となったアントワープ(ベルギー北部にあるヨーロッパ有数の貿易港)では、ダイヤモンドを衣服に縫いこんで販売する手工業があったそうです。

 

美しさを引き出すための研磨から、用途に合わせた研磨方法に展開

ダイヤモンド同士や、ダイヤモンドの粉をつけた素材で摩擦させると、硬い金属でも形を変えることができます。この研磨方法は、すでに15世紀初めにはヨーロッパで知られていました。

初期の研磨は、ダイヤモンドの美しさを引き出すために使われていました。その後、テーブル・カットや、ローズカットなどが開発されていき、やがて医療器機など工業用用途として展開していったようです。

 

memoダイヤモンドの活用は工業用がメイン

ダイヤモンドの用途は、宝石よりも工業用のものの方が多くあります。

その代表例が、自動車です。そのほかにも、自転車、金属線、スクリュー、ガラス切り、レコードの針、研磨剤、錐(きり)の先端ビット、掘削用のダイヤモンドヘッド、人工衛星の外部観測用の窓、LSI(大規模集積回路)などの放熱板などにも活用されています。

 

ダイヤモンド鑷子の特徴

サイズ

取り扱いメーカーにより異なりますが、13cm~数cm刻みのラインナップがあります。

腹腔内操作で使用することが多いため、成人の手術での一般的なサイズは18cm~23cmです。

 

形状

ダイヤモンド鑷子の形状は一般的な鑷子類と同じΛ(ラムダ)型です。

特記すべき特徴は、把持面の加工です。一般の無鈎鑷子では、把持面に横溝が入っていますが、ダイヤモンド鑷子は把持面が加工されており、繊細な組織を把持することができます(図2)。

図2鑷子の把持面の違い

鑷子の把持面の違い

A:ダイヤモンド鑷子の把持面、B:一般的な無鈎鑷子の把持面。

 

また、ほかの器械類同様、持ち手部分は着色されています(図3)。

図3着色された持ち手部分

着色された持ち手部分

 

材質

ダイヤモンド鑷子の本体部分はステンレス製です。

把持面の加工には、ダイヤモンドやタングステンカーバイドなどが用いられます

 

製造工程

製造工程は、ほかの鑷子と同様に、①材料入荷→②検品・矯正→③バネ付け→④抜き型(おおよその形を抜く)→⑤打ち型(筋などを型打ちする)→⑥マーク入れ(ブランドロゴや医療承認番号を打刻)→⑦折曲・溶接→⑧研削・整形→⑨研磨→⑩検品・包装、以上の10工程になります(④と⑤は、種類によっては数回繰り返すこともあります)。

 

価格

ダイヤモンド鑷子の1本あたりの価格は、取り扱いメーカーやサイズによって異なりますが、一般的なサイズで9,000~12,000円程度です。加工なしの鑷子類に比べると高価です。

 

寿命

ダイヤモンド鑷子の寿命は、「◯◯年」という明確なものはありません。鑷子そのものの寿命を計るには、単純な使用年数だけでなく、どういう組織でどのように使われていたのか、または洗浄や滅菌などの工程での扱い方などを考慮する必要があります。

なお、把持面のチップが磨耗した場合は、再加工や修理が可能なこともあります。

 

ダイヤモンド鑷子の使い方

使用方法

血管操作に使われる器械は、血管内膜を傷つけないものであることが大前提です。糸針はもちろん、その糸針を操作するための持針器や、補助役である鑷子類も繊細な操作に向いた器械である必要があります。

また、柔らかい組織そのものを把持する場合なども、一般的な無鈎の鑷子ではなく、把持部が組織を傷つけにくい形状の鑷子が必要になります。たとえば、膵頭十二指腸切除術での血管吻合に使用する鑷子は、ダイヤモンドなどのチップ加工が施されているものの使用を推奨している文献もあります(図4)。

図4ダイヤモンド鑷子の使い方

ダイヤモンド鑷子の使い方

膵臓を切離している幽門輪温存膵頭十二指腸切除術です。

 

類似器械との使い分け

ダイヤモンド鑷子と、ほかの鑷子類との使い分けは、把持する用途によって変わってきます。

ダイヤモンド鑷子は、把持面が加工されているため、より繊細な操作が必要な組織に対して使用されます。ダイヤモンド鑷子で掴んだ組織が、滑り落ちるリスクがある場合には、ダイヤモンドチップの効果が発揮されます。

 

禁忌

使用する際は、先端部に損傷がないかを顕微鏡などで確認し、もし損傷を発見した場合は、使用してはいけません。使用前には、正常に作動するか、異常がないかを必ず確認しましょう。正常に作動しない場合は、絶対に使用してはいけません

 

ナースへのワンポイントアドバイス

ほかの鑷子類との取り間違いは、ほぼない

器械盤の上には、ダイヤモンド鑷子のほかにも数多くの鑷子が置かれています。ダイヤモンド鑷子は、その形状の特徴や着色などから、取り間違いをすることは少ないかもしれませんが、油断は禁物です。

 

memo看護師は術野状況をしっかり把握する

手術中、ドクターは「鑷子」としか言わないことが多いため、今、必要とされている鑷子を判断することが大切です。術野で何が起こっているのかを、常に把握しましょう。

 

使用前はココを確認

ダイヤモンド鑷子の大きな特徴は、把持面のダイヤモンドチップ加工です。使用前には、この加工部分に磨耗がないかを必ず確認しましょう鑷子を閉じた状態で、先端部分にズレがないかも併せて確認しておきましょう。

 

術中はココがポイント

ほかの鑷子類を渡す方法と同じ要領で、器械出しを行います。

看護師は、鑷子の先端は閉じた状態で、ダイヤモンド鑷子の先端部分を持ちます手渡す際には、鑷子の背の部分を、ドクターの親指と人指し指の間、鑷子の真ん中~後方寄りの部分が手に収まるように軽く押し当てるように渡します図5)。

図5ダイヤモンド鑷子の渡し方

ダイヤモンド鑷子の渡し方

鑷子の先端部を持ち、ドクターの親指と人差し指の間に軽く押し当てるように渡します。

 

使用後はココを注意

使用前にチェックした把持面の加工の磨耗がないか、閉じたときの先端のズレがないかを確認します。問題がなければ次の使用に備え、生理食塩液を含ませたガーゼで血液や組織などの付着物を拭き取っておきましょう。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄方法の手順は、ほかの鑷子類の洗浄方法と同じです。

(1)手術終了後は、必ず器械のカウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落としておく
(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合、あらかじめ付着物を落としておく
(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは、ほかの鑷子類と区別できるように置く

 

滅菌方法

高圧蒸気滅菌が最も有効的ですが、滅菌完了直後は非常に高温になっているため、ヤケドをしないように注意しましょう。

 

 


[参考文献]

  • (1)高砂医科工業株式会社 ピンセット(カタログ).
  • (2)石橋まゆみ, 昭和大学病院中央手術室 (編). 手術室の器械・器具―伝えたい! 先輩ナースのチエとワザ (オペナーシング 08年春季増刊). 大阪: メディカ出版; 2008.
  • (3)幸和ピンセット工業株式会社. KFIのピンセット. 作業工程.
  • (4)日本肝胆膵外科学会高度技能医制度委員会(編). 高度技能医への道. 東京: 医学図書出版; 2010.

[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験


Illustration:田中博志

Photo:kuma*


協力:高砂医科工業株式会社


著作権について

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