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2016年07月28日

褥瘡(じょくそう)予防は寝たきり予防と寝たきりからの脱出

『WOC Nursing』2016年2月号<在宅で褥瘡ケアを始めよう>より抜粋。
褥瘡予防の具体的方法について解説します。

 

Point

  • 寝たきりを作る要因とは
  • 寝たきりはあたりまえではない,という「意識改革」が必要
  • 寝たきりから脱出するための知識と技術
  • あたりまえのことがあたりまえに行える地域作り

下元佳子
(生き活きサポートセンター うぇるぱ高知 代表,合資会社 オファーズ 訪問看護ステーションおたすけまん 理学療法士)

 

〈目次〉

 

はじめに

在宅療養においての褥瘡予防では,栄養の確保,ずれと圧を排除したケアを行うことが必要です。介護度が高くなるとベッドで過ごす時間が長く,そのなかで右,左と身体の向きを変える,いわゆる「体位変換」を行って褥瘡予防をしていることも少なくありません。

病気を患い,障害を持って動けなくなるために寝たきりになるのでしょうか。

国際生活機能分類(international classification of functioning, disability and health;ICF,図1)においては,活動や参加を妨げる原因はその人の病気や障害ではなく,『環境』にあると考えます。

図1国際生活機能分類(ICF)

国際生活機能分類(ICF)

 

つまり,かかわるべき人,使用する福祉用具,そして地域などの環境に左右されることになります。活動を妨げる多くの直接的理由は,車いすへの移乗が困難,車いすでの姿勢が傾いたりずれが起こったりと負荷が多すぎる,このようなことではないでしょうか。本人がいろいろな理由で活動を拒否する場合でも,実はこれらの苦痛が真の原因となっており,さらにそれを心の奥底に秘めていることも少なくないと感じています。

本コラムでは寝たきりからの脱出を可能にするために,『環境』を考えていきます。そして人のありかた,福祉用具,そして地域を考えます。

 

寝たきりからの脱出方法~人のありかた

人の意識,知識,技術

まずは私たち,対象者にかかわる専門職を考えてみます。先の述べたように,ICF(国際生活機能分類)においては在宅でかかわる専門職も『環境』に入ります。

私たちが重度の障害があると寝たきりになるのは仕方がない,寝たきりの人を起こすことは大変だと思っていたり,起こして快適な座位を提供する方法を知らなかったりすることが,対象者の活動・参加を妨げている,つまり寝たきりにさせているのです。

寝たきりの原因が,その人が動けないことにあると考えてはいけないということです。

たとえ拒否をしていても,拒否の理由をさぐってどのようにすれば起きたくなるのかを考えることが,『環境』である私たちに必要だといえるのではないでしょうか。

専門職には,どのような状態であったとしても,つまり病気や障害が重度でも,人としてあたりまえの生活を送るべきであるという“考え方・意識”を持つこと,寝たきりの弊害と起きて生活することの効果や起こす方法といった“知識”を得ること,寝たきり脱出を可能にする“技術”の獲得が必要です。

 

“してはいけないこと”の弊害,“するべきこと”とその効果

動けない人をケアするとき,持ち上げたり引きずったりしていないでしょうか(図2)。

図2してはいけないケア

してはいけないケア

持ち上げたり引きずったりすることで,褥瘡や拘縮が発生する

「対象者が動けないから仕方がない」と思われている場合が少なくないのではないでしょうか。

しかし,このようなケアが褥瘡や拘縮,ひいては介助者の腰痛も引き起こします。拘縮は褥瘡が生じやすくなるばかりではなく,呼吸や食事・排泄などの生きる力を奪っていきます。持ち上げや引きずりによる間違ったケアが引き起こすこれらの弊害を,私たちは知識として知っておく必要があります。

 

持ち上げ・引きずらないケア技術:体重移動

持ち上げ・引きずらないケアをするにはどのようにすればよいのかを考えます。

動けない人を物としてとらえると,1つの物体として運ぶ方法を考えてしまいます。そして一気に運ぼうとするため,持ち上げたり引きずったりしてしまいます。

そこで,動けなくても「運ぶ」のではなく,「人の動きを引き出す」ことを考えてケアを行うと,動きをサポートしやすくなります。たとえば移乗を考えてみます。

抱え込み,持ち上げるのではなく,対象者の臀部の重さを足底に移動させるつもりで体幹を前傾すると臀部が自然に浮き,それを回転させれば移乗できます(図3)。

図3体重移動による移乗介助

体重移動による移乗介助

臀部の重さを足底に移動させるように身体を誘導する

人が日々行う自然な動きである,体重移動による介助方法が実施できると移乗時に褥瘡を発生させないばかりか,拘縮も作りません。また足底や大腿部に体重がかかりやすくなり,座位姿勢においても体圧分散が向上して褥瘡予防に繋がります。

専門職はぜひ,移乗だけでなく,さまざまな身体介助においても二次障害を予防できる体重移動を実施する技術も身につけてほしいと思います。しかし動けない人,さらに体格のよい人は,体重移動を行っても,誰にでも介助できるわけではありません。

では,誰もが簡単に褥瘡を作らないケアを実施するためにはどのようにすればよいのでしょうか。

 

福祉用具の活用

誰もが簡単に褥瘡を作らないケアを実践するためには,福祉用具を使用することをお勧めします。

①ベッドから脱出するために

ベッドからの移乗にはトランスファーボードやリフトを使用します。

 

トランスファーボードによる移乗(図4

図4トランスファーボードを用いた移乗

トランスファーボードを用いた移乗

ボード上を滑らせるだけで移乗可能となり,持ち上げる必要がなくなる

身体を斜めに傾けることで片側の臀部が浮き上がります。そこにボードを差し込み,ボードの上を滑らせるように移乗させていきます。まったく持ち上げることなく移乗できるため,介助者の力を使わず,また対象者にも負担をかけずに移乗することが可能です。

 

メモトランスファーシート/グローブ(図5

移乗にかぎらず,ベッド上では上下左右に対象者を動かすことも少なくありません。そのときに引きずることで褥瘡が発生・悪化します。ベッド上の移動においては,トランスファーシートやグローブなど,摩擦をなくして簡単に動かすことのできる福祉用具がお勧めです。

図5ベッド上での移動を安楽にする福祉用具(ウィズ,ケープ,タイカ,ラックヘルスケア)

ベッド上での移動を安楽にする福祉用具(ウィズ,ケープ,タイカ,ラックヘルスケア)

 

リフト移乗(図6

リフト移乗は大変簡単で,体格差があるときや介助に慣れていない家族にもお勧めです。ベッド上で寝返りし,吊り具をセットできれば,あとはリフトのハンガーに吊り具のストラップをかけて吊りあげ,移乗するだけです。介助者にも対象者にも負担がありません。

図6リフト移乗

リフト移乗

トイレ用吊り具(B)は大転子部・仙骨部にまったく圧をかけない

負担がない理由

対象者の体幹を支えて引き挙げるという,人による持ち上げ介助と異なり,リフトは大腿部と体幹の背面全体で座位のように身体を支えるため,体圧分散された状態で移乗できることがその理由です。そのため車いすに移乗した直後から,圧分散のよい理想的な座位姿勢がすぐにとれます。もちろん車いすからベッドへの移乗においても同様で,ベッド上で圧分散が高い安楽な臥位が得られます。

車いすからの移乗においても持ち上げずに吊り具を装着できます。仙骨部や大転子部に褥瘡が発生している場合,さらに圧を軽減したければトイレ用吊り具(図6B)が便利です。

 

②車いすで快適に過ごすために

寝たきりから脱出するためには,車いすへの乗車が必要です。

しかし,身体を自分の力で支えることのできない人においては,乗車時の姿勢で悩むことが少なくないと考えます。身体が左右に傾いたり,前方にずれたりすると,尾骨や仙骨部に褥瘡が発生します。

では,動けない人が傾くのは仕方がないのでしょうか。

 

車いすの選択(図7

動けない人が不安定な場所で傾くのは当然です。そこで,車いすの選択が重要となります。

身体を自力で支えることのできない人に標準型や,リクライニングのみの車いすを使用することはお勧めできません。ティルト機能付き車いす(図7A,B)を選択します。そして重要なのが,座面と背中を受けるバックサポート(図7C)を検討することです。

図7快適な車いす姿勢を提供するための福祉用具

快適な車いす姿勢を提供するための福祉用具

座面

座面は,褥瘡予防のためにはエアやゲルのクッションで,圧分散が高いものが理想です。しかし,ただ柔らかければよいのではなく,しっかりと身体を支える機能も必要です。

バックサポート

バックサポートはその名のとおり,体幹をサポートしなければいけません。体幹を支える力のない人が1枚の布張りに背中を預けると,骨盤が後方に倒れて胸郭が前方に落ち込み,圧が尾骨・仙骨に流れやすくなります。

それを防ぐためには,胸郭を後方で支える必要があります。これを可能にするには,立体的に身体を支える形状のバックサポートが必要です。

しっかりと身体をサポートする座位姿勢を作り,さらにティルト機能で,生活のなかで角度調整をして圧のかかる場所を切り変えることで,褥瘡の発生はもちろんその他の二次障害を防ぐことができるのです。リフト移乗においては,ティルトをかけた姿勢に移乗すればさらに介助が安楽になります。

***

寝たきりから脱出するためには,移乗の方法はもちろん,移乗先での座位姿勢が快適であることが重要です。不良姿勢での座位では起きることが嫌になったり,身体機能を向上するつもりが,褥瘡などの二次障害を発生させたりすることが少なくありません。

 

地域を変えるために

意識,知識,技術のどれをとっても,かぎられた人だけがそれを理解して実施するだけでは,対象者に快適な生活を提供することはできません。

1人がケアのすべてを担うのではなく,家族を含めたチームの全員がこれら3つを知ることが必要です。

1人の生活を変えようと思えばチームで,チームの力を上げようと思えば組織で,組織の力を上げようと思えば地域レベルで取り組むことが必要です。

 

地域レベルの取り組み

福祉機器展の開催(図8

ボランティア団体「生き活きサポートセンター うぇるぱ高知」は,高知の地域ケアを変えるために福祉機器展や研修活動を行っています。

図8研修活動

研修活動

技術だけでなく,何がいけないのか,どのようにしていくべきなのか,現場の課題は何か…と,ディスカッションをし,考える時間を多くとっている

展示会は単に商品を紹介する目的ではなく,当事者のニーズを解決すること,地域の専門職情報を提供することを目標に開催してきました。そのため,「車いす」「ベッド上での移動や移乗を助ける用具」「排泄用具」など,生活を考慮した用具別に展示しています。来場者に向けての発信もさることながら,福祉機器展スタッフとして活動する約230人の医療・福祉専門職の学びの場ともなっています。

スタッフとして年間を通じて準備・活動し,当日は展示商品の情報などを企業から聞くなかで福祉用具の情報を獲得します。そして,それをそれぞれが医療や福祉の現場でに持ち込むことで,現場の質向上に繋がります。また,日々の仕事の繰り返しだけでは得がたい情報を得たり,人と繋がったりすることで,視野が広がり,今何が問われているのか,何をしなければいけないのかを考える機会となります。

このように,福祉機器展が人材育成の場になっていると感じています。

 

研修活動(図9

高知県福祉研修センターでのケア技術研修を,筆者たちボランティア団体のメンバーも複数担っています。

図9福祉機器展:見て触って試すことのできる展示

福祉機器展:見て触って試すことのできる展示

基本介護技術研修や褥瘡,食,排泄,清潔などの専門研修を合計すると,年に1,000名を超す受講があります。すべてにおいて「人としてあたりまえの生活を保障する」ために,どの研修でも,持ち上げない・引きずらないケア,姿勢の管理を必須項目として伝えています。

研修においては県の展示場とコラボレーションし,研修で実施したことを現場ですぐ実践できるように,事業所での勉強会や,実際に対象者へのケアで試す目的で,福祉用具の貸し出しをしています。研修で使用する用具は貸し出せるように複数準備し,現場への導入につなげています。

 

地域から全国へ(図10

高知での活動を知り「自分たちの地域は自分たちで変えていこう!」といろいろな地域で活動を始める仲間が増えてきました。ナチュラル・ハートフルケアネットワークと名付け,現在愛知,滋賀,大阪,兵庫,広島,鳥取,高知,鹿児島,奄美,沖縄,そして北陸と京都での活動も始まりました。

図10ナチュラル・ハートフルケアネットワーク

ナチュラル・ハートフルケアネットワーク

どんな状態でも,どこで暮らしても,人としてあたりまえの生活を送ることができる地域づくりを目標に活動している

それぞれの地域において,「あたりまえの生活を保障するケア」,持ち上げない・引きずらない・不良姿勢にしないケアを実践していくために,考え方,知識,技術の勉強会を行い,自分たちのスキルアップで留めるのではなく,地域に向けて発信する活動をしています。

地域ケアをよくするためにはまず自分たちが変わる,活動することが何より大切だと感じています。

 

おわりに

褥瘡を予防するためには,時間での体位変換を行えばいいというような局所的な解決策ではなく,「豊かな生活を保障する」という発想が必要です。

目の前にいる1人の生活を変えるにあたって,自分の考え方や技術を向上させるだけでは結果は出ません。自分だけではなく,チーム全員の「あたりまえ」を変える必要があります。

チームの「あたりまえ」を変えるためには組織の,組織を変えるためには,地域全体の「あたりまえ」を変える必要があります。そして自分の地域を変えるためには,他の地域も変わっていくことが必要だと感じています。

どんな状態でも人として起きて,快適に座って過ごす生活を送れることを「あたりまえ」として捉える,そんな想いが広がることが褥瘡予防にも必要だと感じています。ぜひ皆さんも一緒に「あたりまえ」を変え,伝える側として地域を変えていきませんか。

 

 


[引用・参考文献]

下元佳子:モーションエイド—姿勢・動作の援助理論と実践法—.中山書店,2015.


[Profile]
下元佳子(しももと よしこ)
生き活きサポートセンター うぇるぱ高知 代表,合資会社 オファーズ 訪問看護ステーションおたすけまん 理学療法士
1986年 高知リハビリテーション学院 卒業。医療法人近森会 近森病院,医療法人仁生会 三愛病院,医療法人地塩会を経て,2003年 合資会社 オファーズ 設立,2004年に生き活きサポートセンター うぇるぱ高知 設立,2008年 ナチュラル・ハートフルケアネットワーク 設立,現在に至る。日本在宅褥瘡創傷ケア推進協会 理事,日本褥瘡学会 評議員。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2016 医学出版
[出典]WOC Nursing2016年2月号

WOC Nursing2016年2月号

P.69~「褥瘡予防は寝たきり予防と寝たきりからの脱出」

著作権について

この連載

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