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2016年06月16日

心臓再同期療法(CRT)|慢性心不全の非薬物療法

『循環器ナーシング』2015年9月号<心不全を徹底理解!基本編>より抜粋。
心臓再同期療法(CRT)について解説します。

Point

  • 心臓再同期療法(CRT)はQOLおよび生命予後を改善する!
  • CRTは,QRS幅の広い症例(とくに左脚ブロック症例)において効果が大きいことが示されている!
  • CRTは薬物療法のかわりになるものではなく,薬物療法に追加され併用していく治療である!

中井俊子
(日本大学 医学部 内科学系先端不整脈治療学分野 准教授)

〈目次〉

 

はじめに

慢性心不全の治療は,まず薬物療法が基本となりますが,薬物療法のみではコントロール困難な症例も多く経験します。

重症化した心不全では心臓,とくに左室が拡大し,心室伝導障害をきたすようになります。この多くは左脚ブロックと呼ばれる伝導障害で,重症心不全の1/3にみられるといわれています(1)()(3)。心室中隔に比べ左室側壁の収縮のタイミングが遅れるため,効率の悪い心収縮をもたらします。

右室と左室の収縮のずれ,あるいは左室内での中隔と側壁の収縮タイミングのずれを同期不全と呼び,この同期不全を是正して心収縮の効率を上げようとする治療が「心臓再同期療法」(cardiac resynchronization therapy;CRT)です。

本コラムでは,CRTの適応・効果,および合併症について解説します。

 

心臓再同期療法(CRT)とは

慢性心不全と心室内伝導障害

心不全による心臓の変化

心臓の収縮力が低下すると,心臓は徐々に拡大します。ちょうどゴム風船が大きく膨らんだときと同じ状況です(図1)。

図1膨らんでいくゴム風船

膨らんでいくゴム風船

 

心室壁も心臓の拡大に伴って引き伸ばされて薄くなっていきます。このような状態を心臓の「リモデリング」といいます。拡大した心臓では,刺激が伝導する時間,ならびに心収縮に要する時間が長くなり,心電図上ではQRS幅が広くなっていきます。
図2にCRTのよい適応となる典型的な左脚ブロックの心電図を示します。

図2左脚ブロックの心電図

左脚ブロックの心電図

QRS幅は0.12秒より広くなり,V1〜V4に深いS波がみられる。

拡張型心筋症の症例であり,QRS幅は154msecと広く,V1〜V4で深いS波を認めます。

 

CRTの歴史

過去の研究で,幅の広いQRS波は死亡率の増加と関連していること,とくに左脚ブロックに伴って死亡率が上昇することが報告されています(4)。その後,多くの臨床試験により,そのような症例に対するCRTの有効性が示され(6),(7),現在では,CRTは心不全の確立された治療になっています。

 

CRTの適応

CRT-P/CRT-Dの適応

CRTを行うペースメーカを「CRT-P」と呼び,CRT機能を持つ植込型除細動器のことを「CRT-D」と呼びます。日本循環器学会ガイドラインにおけるCRTの適応を表1に示します。

表1CRTのガイドライン(文献8をもとに作成)

CRTのガイドライン

 

CRTの効果

CRTレスポンダー

CRT導入後,心不全の改善がみられた場合を「レスポンダー」,改善しない場合を「ノンレスポンダー」と表現します。
拡張型心筋症症例にCRTを導入し,NYHA Ⅲ度からNYHAⅠ度への改善が得られ,植込み後10年が経過して,今なお元気で生活されている患者のX線写真を図3に示します。

図3拡張型心筋症症例のCRT前後のX線写真

拡張型心筋症症例のCRT前後のX線写真

CRT導入後,心臓は縮小し,10年後の現在もその状態を保っている。

心陰影はすっきりとして非常に小さくなり,心胸郭比は58%から39%まで縮小しています。心エコーでは,左室駆出率(EF)は16%から46%と改善,心臓径も72mmから51mmへと縮小し,心臓リモデリングの改善,いわゆるリバースリモデリングが得られたレスポンダー症例です。

 

CRTレスポンダーの判定

現在,レスポンダーの判定には,NYHA Classの改善,心エコー図パラメーターの改善,6分間歩行の改善などが用いられていますが(9)(10)(11)(12),まだ確立されていないのが現状です(表2)。

表2レスポンダー判定の指標

レスポンダー判定の指標

CRTの当初の目的を考えれば,何より大切な指標はQOLの改善ですが,CRTの植込みを受けたこと自体によるプラセボ効果も否定できないため,通常はその他の数値化される指標を併用します。

 

CRTノンレスポンダー(CRT不応例)の存在

QRS幅が広いほど同期不全が著明になり,CRTが有効であることが示されていますが,なかにはQRS幅が広くなっていても同期不全を伴わないこともあり,CRTを行っても改善が得られない例,いわゆる“ノンレスポンダー症例”が存在します。

これまでの臨床試験にて約30%にノンレスポンダーがみられると報告されており,いかにノンレスポンダーを減らしていくかが,今後の大きな課題です。

ノンレスポンダーの原因としては次のようなことが考えられています(表3)。

表3ノンレスポンダーの原因

ノンレスポンダーの原因

 

ノンレスポンダーとなる症例の多くは,NYHA Ⅳ度以上の重症心不全,あるいは広範囲の心筋梗塞後で,壊死心筋が広く存在するような症例です。あまりにも重症すぎる場合,そして心筋梗塞や心筋症で壊死・線維化している心筋の範囲が広い場合は,ペーシングをしてもその部分が反応せずノンレスポンダーとなってしまうことがあります。

ただし,心筋梗塞症例であっても,ペーシングできる部位が残っていれば植込み手術は可能であり,術後の効果も期待できます。これまでの臨床試験は,非常に重症なNYHA Ⅳ度の患者も含まれていたこと,また多くは海外での臨床試験であり,虚血性心疾患症例の割合が多いことなど,日本の状況と少し異なる点があり,日本におけるレスポンダー率はもう少し高い可能性があります。

また,CRTを導入して効果が得られていたとしても,その後,患者が薬をやめてしまったり,生活指導を守らなかったりすると,せっかくの治療が台無しになってしまいます。

CRT患者の看護ケアにおいては,薬物療法の効果とCRTの効果は異なるものであり,CRTは薬物療法の代用となるものではないという点,また薬物と併用して継続していくことが大切であるという点を十分に説明して理解してもらうことが重要です。

 

CRTの実際

CRTの目的

CRTの目的は心臓の再同期化,すなわち心室同期不全患者における,心室間,心室内,および房室間の興奮伝導順序を修正することです。

 

CRTの植込み

一般的な心臓ペースメーカでは,右房・右室にリードを留置します。CRTでは,これに加えて左室側へのリード留置を行います。

左室といっても,圧の高い左室に直接リードを植込むことは困難であるため,右房へ開口している冠静脈洞から特別にデザインされた左室用リードを留置します。冠静脈は,心筋からの静脈血を集める血管であり左室側全体に分布しているため,冠静脈内(目標は左室の側壁・後側壁あたり)にリードを留置して,右室に留置しているリードとの間で左室を挟み込むようにします(図4)。

図4心臓再同期療法の方法

心臓再同期療法の方法

右房,右室には標準的なペーシングリードを使用する。左室には特別にデザインされた左室用リードを,冠静脈洞経由で左室側に留置する。右室と左室をほぼ同時にぺーシングすることにより心ポンプ機能を高めることができる。

右室と左室をほぼ同時にペーシングすることにより心ポンプ機能を高めるのですが,ちょうど風船やビーチボールの空気を抜くときに両方から圧迫して効率よく空気を抜くのと同じ要領です(図5)。

図5心臓再同期療法の概念

心臓再同期療法の概念

駆出率を効率よく得るために,拡大した左室の両側から刺激する。ちょうど,風船やビーチボールの空気を抜くときに左右を両手で挟んで押し出すと効率よく空気が抜けるが,それと同じ要領である。

左室用リードは血管内に留置するため,標準的なペーシングリードより細く,柔軟性のあるものを使用します。また,症例によっては非常に細い血管に留置しなければならないこともあり,植込み手術には通常のペースメーカの手術よりも,技術と時間が必要です。CRTを施行するためには,その特殊性から,一定の基準を満たし認定を受けた病院でないと手術を行えません。

 

CRTの合併症

横隔神経刺激

CRTでは,右室の心腔内と左室側の心外膜側にペーシングリードを留置します(図6)。

図6横隔神経の走行

横隔神経の走行

横隔神経は心表面に沿って走行しているため,左室リードの留置位置によっては,この神経を刺激し,横隔膜刺激(しゃっくり)を起こしてしまうことがある。

心腔内のペーシングでは,横隔神経刺激を起こすことはまれです。しかし,左室リードは心外膜側に留置されるため,解剖学的に横隔膜を支配する横隔神経を刺激してしまうことがあり,これがCRTにおける植込み時およびフォローアップ中の重要な合併症となります。

症状としては,横隔膜の刺激なので“しゃっくり”と同じような現象が起こります。この点をCRTの植込み時に患者に十分説明しておかないと,植込み後,突然左のお腹のあたりがぴくぴくして,患者に過剰な恐怖感を与えてしまうことになります。左室リードは血管内に留置するので,スクリューなどでの固定は行いません。

そのため,寝返りや体位の変化で多少リードの向きが変わったり,位置がずれたりして横隔膜刺激を生じることがあります。看護サイドでもこの現象を十分に知っておき,患者への説明と,この合併症の発生の有無を観察していく必要があります(メモ1)。

 

MEMO1CRTの合併症

看護ケアで最も大切なことは患者の言葉に耳を傾けることです。創部の痛みや発赤の確認,胸や腹部が「ピクピクします」という横隔膜刺激による症状を聞くことが重要です。心電図室で一定の体位(多くは臥位)でのペースメーカチェックだけでは見逃してしまうこともあるため,看護サイドからの報告はとても大切な情報です。

 

この合併症がみられた場合,患者には,不快感はあってもすぐに体に害が生じることはないこと,なるべく早く対応することをお話しして,担当ドクターに報告するようにしてください。横隔膜刺激が生じた際の対処としては,左室リードのペーシング出力を下げたり,ペーシング極性を変更したりしますが,もし,どうしてもこれらの方法で改善が得られない場合には,リード位置を変更するため再手術を行う場合もあります。

 

デバイス感染

ペースメーカ,植込型除細動器などの心臓デバイス植込みに際しては,その他の外科手術と同様に感染の合併症が問題となります。デバイス感染の発生率は1〜2%と報告されています。頻度はそれほど多くはありませんが,発生すると重篤になりうること,また,治療としてリードとペースメーカ本体,全システムの抜去が必要となるため,最も重要な合併症と考えられています。

通常のペースメーカよりサイズの大きな植込型除細動器(ICD)などのデバイス,あるいは植込み手技がより複雑で手術に高度な技術を要するデバイス(CRT)のほうが,感染のリスクは高いとされています。

デバイス感染の診断の際には,慎重に植込み創部や患者の状態を観察していくことが大切です。まず,感染に伴う体の異変で多い症状として,発熱が挙げられます。また,植込み部位の皮膚が赤くなったり,腫れたりした場合にも感染を疑います。

ただし,表面の変化がまったくない場合もあるので,はっきりとした風邪症状もないのに熱が持続するなどということがあった場合には,血液検査,X線検査,心エコー図検査などで感染の徴候がないかどうかを確認します。感染が広がって,心臓の弁や心内膜が菌に侵され,感染性心内膜炎にまで発展すると,根治療法として開胸による弁置換術が必要となってしまいます。

そのため,デバイス感染は早期に診断して抗菌薬の投与とデバイスシステムの全抜去を行い,感染性心内膜炎となる前に感染を食い止めることが重要です。

 

慢性心不全に対するその他の非薬物療法

植込型除細動器(ICD)

植込型除細動器(implantable cardioverter defibrillator;ICD)は,心臓突然死の予防に有効とされています。低心機能では心臓突然死のリスクが高くなることから,日本循環器学会の『心臓突然死の予知と予防法のガイドライン』では,各疾患別に一次予防としてのICD適応の指針が示されています(14)。

日本では,心臓突然死が年々増加している一方,予防としてのICD植込みは積極的に行われていないのが現状であり,一次予防への取り組みが今後の重要な課題といえそうです。

 

慢性心不全に対するASV

近年,慢性心不全に対する順応性自動制御換気(adaptive servo-ventilation;ASV)の有用性が報告されています(15),(16)。詳細な機序は十分に解明されていませんが,心臓に対する前負荷・後負荷の軽減による効果が示されています。

呼気終末陽圧(PEEP)によって肺胞内の水分量を減らすことで負荷が軽減され,さらに周期性呼吸の改善により肺の伸展反射が促され交感神経活性が抑制されることで後負荷が軽減されるといわれています。

また,慢性心不全患者においては中枢性睡眠時無呼吸を呈することが知られており,ASVはこの点でも心不全の呼吸管理に貢献していると考えられます。実臨床ではASVの使用によって心不全入院が減っている症例も経験しており,今後の発展が期待される分野です。

 

おわりに

慢性心不全の治療は,まず薬物療法が主体となります。β遮断薬によって,軽症心不全から重症心不全まで心不全の治療は大きく進歩しました。しかし,薬物療法では同期不全を是正することはできないため,心拡大が著明な,幅広いQRSを呈する症例においてはCRTの併用が有効です。

CRTレスポンダーの予測やノンレスポンダー症例の対処法については,まだ解明の余地がありますが,CRTはβ遮断薬と同様,心不全の確立された治療として重要な役割を担っています。

 

 


[引用・参考文献]


[Profile]
中井俊子(なかい としこ)
日本大学 医学部 内科学系先端不整脈治療学分野 准教授
1990年 日本大学医学部卒業。同年 日本大学医学部附属板橋病院に勤務。1999年から米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校へ留学し,不整脈,とくに心房細動に関する研究を行う。帰国後は日本大学医学部に戻り,主にデバイスに関する研究・診療に携わっている。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2015 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2015年9月号

P.54~「慢性心不全の非薬物療法:心臓再同期療法」

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