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2016年04月28日

歩行障害・姿勢保持障害の診察|運動系の診察

『BRAIN』2012年6月号<“なんとなく”はもう卒業! 今日からわかる神経所見のとり方>より抜粋。
歩行障害・姿勢保持障害の診察について解説します。

Point

  • 歩行障害の原因は多岐にわたりますが,しばしば疾患特異的な歩行障害や姿勢異常を呈します。
  • 診察のポイントは歩行の様子や姿勢を“よく観察する”ことです。
  • まず自然な状態で歩き方と姿勢を観察した後に,つぎ足歩行,方向転換などを指示します。

関 守信
(慶應義塾大学医学部 神経内科 助教)

〈目次〉

 

はじめに

歩行障害の原因はさまざまなものがあり,しばしば疾患特異的な歩行の様式を呈します。そのため,歩き方を注意深く観察することが非常に重要です。歩行障害をみたときは,

  • 発症様式と経過
  • 症状の内容(どのように歩きにくいのか,どういった動作が難しいのか)
  • 随伴症状
  • 既往歴
  • 家族歴
  • 嗜好歴(アルコール多飲の有無)

などを確認することが必要です。 急激に進行する歩行障害は,緊急の診断・治療を行う必要がある場合が多く,注意が必要です。

 

歩行の診察

歩行の観察

まず座位から立ち上がって通常どおりに歩行するように指示し,自然な状態での歩き方と姿勢を観察します。

歩行の観察のポイントは,①姿勢,②左右対称性,③歩幅と歩隔,④腕のふりや不随意運動,⑤歩行開始・停止時や方向転換時の様子,⑥歩行の安定性,⑦股・膝・足関節の角度と動き,⑧疼痛の有無,⑨前方突進現象の有無などです。

 

つぎ足歩行(tandem gait)と方向転換(on turn)

一方の足の先と他方の足の踵が交互につくようにしながら直線上をまっすぐ歩かせ,つぎ足歩行が可能かどうかを診察します。運動失調があると,ふらつきやよろめきを示します。運動失調がある患者さんでは方向転換もうまくできない場合があります。

 

かかと歩行(gait on heels)とつま先歩行(gait on toes)

前脛骨筋麻痺ではかかと歩行,腓腹筋麻痺ではつま先歩行ができず,下肢筋力低下のスクリーニングに役立ちます。

 

主な歩行障害

痙性歩行(spastic gait)

痙性片麻痺歩行(spastic hemiplegic gait,図1

一側の錐体路障害による歩行で,麻痺側の上肢は内転屈曲して,下肢は伸展する「Wernicke-Mann肢位」をとります。股関節を中心に,伸展した下肢で半円を描くようにして歩きます(草刈り歩行)。

【原因疾患】脳血管障害・腫瘍・脊髄疾患など

図1痙性片麻痺歩行

痙性片麻痺歩行

一側の錐体路障害による歩行で,Wernicke-Mann肢位をとります。股関節を中心に,伸展した下肢で半円を描くようにして歩きます。

 

痙性対麻痺歩行(spastic paraplegic gait,図2

両下肢が痙性麻痺の場合,下肢は伸展し,内反尖足で床をこすりながら,歩幅を狭くして歩きます。両足をハサミのように組み合わせて歩くため,「はさみ脚歩行(scissors gait)」といいます。

【原因疾患】脊髄疾患・遺伝性痙性対麻痺・脳性小児麻痺など

図2痙性対麻痺歩行

痙性対麻痺歩行

両下肢が痙性麻痺の場合,下肢は伸展し,内反尖足で床をこすりながら,歩幅を狭くして歩きます。「はさみ脚歩行」といいます。

 

失調性歩行(ataxic gait)

左右への動揺を認める不安定な歩行で,両足を広げ(wide based gait),歩幅は不規則で,歩行のリズムも乱れます。軽度なものは,つぎ足歩行などをさせると異常が目立ちます。失調を認めた場合は「Romberg試験」を行うことも鑑別に有用です。

〔Romberg試験〕

つま先を揃えて立たせて様子を観察し,その後,閉眼させます。閉眼で明らかにふらつきが増悪するときに陽性と判断します。

 

小脳性

両足を開き,酔っ払いのようで(酩酊歩行:drunken gait),全身の動揺が強く不安定です。小脳半球の障害では障害側に倒れやすく,虫部の障害では体幹失調が目立ちます。Romberg徴候は陰性です。

 

感覚性

脊髄後索の障害による下肢の深部感覚障害によるものです。足を高く持ち上げ,これを投げ出すようにしてかかとを強く床にたたきつけて歩きます(踏みつけ歩行)。Romberg徴候は陽性です。

 

前庭迷路性

両下肢を開き,全身の動揺が強く,一側性障害の場合は患側に偏位します。

【原因疾患】前庭神経炎など

 

錐体外路性歩行(extrapyramidal gait)

パーキンソン歩行(図3

歩幅,腕の振りが減少し,膝を曲げ,前屈みの姿勢で小刻みに歩きます(小刻み歩行:marche à petits pas)。歩くうちに速度が速くなり,駆け出しそうになることがあります(加速歩行)。押されると重心をくずして倒れそうになり,小股で駆けたり(突進現象),すくみ足現象もみられることがあります。

図3パーキンソン歩行

パーキンソン歩行

歩幅,腕の振りが減少し,膝を曲げ前屈みの姿勢で小刻みに歩きます。すくみ足現象がみられることもあります。

 

すくみ足(frozen gait)

歩行の開始時に第一歩を踏み出すのが困難で,足がすくんでしまう現象です。

 

鶏歩(steppage gait)

「垂れ足(drop foot)」になっているときに足を高く持ち上げ,つま先から投げ出すようにして歩きます。足の背屈筋の末梢性麻痺,とくに前脛骨筋の筋力低下があるときにみられます。

【原因疾患】各種ニューロパチー・L4-5神経根障害・遠位型ミオパチーなど

 

アヒル歩行(duck gait) または動揺性歩行(waddling gait)(図4

下肢近位筋,とくに中殿筋が障害されたときにみられます。腰帯筋が弱いため一歩ごとに骨盤が傾くので,腰と上半身を左右に振って歩きます。傍脊柱筋の筋力低下があり,脊柱の前彎も伴い,腰を突き出すようにして歩きます。ガワーズ(Gowers)徴候は陽性です。

【原因疾患】多発筋炎・各種筋ジストロフィーなど

図4動揺性歩行(waddling gait)

動揺性歩行(waddling gait)

腰帯筋が弱いため一歩ごとに骨盤が傾くので,腰と上半身を左右に振って歩きます。傍脊柱筋の筋力低下があり,腰を突き出すようにして歩きます。

 

姿勢保持障害の診察

進行期のパーキンソン病や進行性核上性麻痺では,姿勢保持障害がみられます。

push test/pull test(図5-A

自然な姿勢で立たせ,検者は患者さんの両肩を持って前方へ引きます。その後,患者さんの後方に回り,後方へ引きます。

踏みとどまれず,転倒しそうになる場合は「突進現象(pulsion)」陽性とします。

図5姿勢保持障害の診療法

姿勢保持障害の診療法

 

push & release test(図5-B

立位の患者さんの肩甲骨部に検者の両手を当てて支え,少し寄りかかってもらいます。突然その支えを解放し,踏みとどまれるかどうかを診ます。

踏みとどまれずに小刻み歩行が出現し,転倒しそうになる場合は「後方突進現象(retropulsion)」陽性とします。

 

図5姿勢保持障害の診療法

姿勢保持障害の診療法

 

おわりに

日常の診察は,患者さんが診察室に入ってきた瞬間から始まります。椅子に座るまでの間の歩行を診ることで,神経内科医は歩行障害の有無を判断し,どういった種類の歩行障害なのかを見きわめようとします。

歩行様式は非常に疾患特異性があり,日常診療で重要です。歩行障害の種類は多く,文字や静止画ではなかなかどのような歩行なのかが伝わりづらいものです。

“百聞は一見に如かず”です。典型例を一度は自分の目で見てみてください。それから本特集を再読していただければ,より深く理解できると思います。

 

 


[引用・参考文献]

  • (1)鈴木則宏(編):神経診察クローズアップ―正しい病巣診断のコツ.メジカルビュー社,2011.
  • (2)田崎義昭・斎藤佳雄(著)/坂井文彦(改訂):ベッドサイドの神経の診かた(第17版).南山堂,2010.

[Profile]
関 守信(せき もりのぶ)
2003年 慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部 内科学教室での研修を経て,2007年より慶應義塾大学医学部 神経内科 助教。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2012 医学出版
[出典]BRAIN 2012年6月号

BRAIN 2012年6月号

P.553~「運動系の診察(3):歩行・その他 」

著作権について

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