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2016年02月25日

ACS(急性冠症候群)の病態

『循環器ナーシング』2012年5月号<病態・治療がわかる!ケアにつなげる!ACS>より抜粋。
ACS(急性冠症候群)の病態について解説します。

Point

  • 急性冠症候群(ACS)は動脈硬化性プラークの破綻に伴う血栓により発症する。
  • ACSは,心電図のST変化,心筋マーカー上昇の有無などによって,不安定狭心症,非ST上昇型急性心筋梗塞,ST上昇型急性心筋梗塞に分類される。
  • 安定狭心症(労作性狭心症)とACSは同じ虚血性心疾患であるが,原因となる病態がまったく異なる。
  • 急性冠症候群は重篤な心血管イベントを生じやすく,急激な経過をたどることも多いため,迅速・的確な対応が必要。

橋本克史
(医療法人 松山ハートセンター よつば循環器科クリニック 循環器内科部長)

〈目次〉

 

はじめに

急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)とは,冠動脈に形成された動脈硬化性プラーク(粥腫,じゅくしゅ)の破綻とそれに続く血栓形成により引き起こされる急性心筋虚血を呈する疾患の総称です(図1)。

図1急性冠症候群(ACS)

急性冠症候群(ACS)

 

ACSには不安定狭心症,急性心筋梗塞,心臓性突然死が含まれます(図2)。

図2ACSの概念

ACSの概念

 

また,ACSは発作時心電図のST上昇の有無によって非ST上昇型ACSとST上昇型ACS(=ST上昇型急性心筋梗塞)に分類されます。

さらに非ST上昇型ACSは,トロポニンやクレアチンホスホキナーゼ(CPK)などの心筋マーカーが上昇した(すなわち心筋壊死を伴う)非ST上昇型急性心筋梗塞と上昇しない(心筋壊死を伴わない)不安定狭心症に分けられます(図3)。

図3心電図によるACSの分類

心電図によるACSの分類

 

ST上昇型ACS(=ST上昇型急性心筋梗塞)ではできるかぎり速やかに経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などの再灌流療法を行うことが患者さんの予後改善につながることがわかっています(来院からバルーンによる再灌流までの時間は90分以内であるべきとガイドラインで勧告されています)。

非ST上昇型ACSでは必ずしも早期のPCIが患者さんの予後を改善するわけではなく,病歴,身体所見,心電図変化,血液検査などを考慮し,早期再灌流療法を行うべきか,薬物治療(抗血栓療法,抗虚血療法)を十分に行った後,カテーテル検査・治療を行うべきかを判断しなければなりません。

ACSでは慢性冠動脈疾患と比べ重篤な心血管イベント(突然死,心原性ショック,致死的不整脈など)を生じやすく,急激な経過をたどることも多いため,発症早期に迅速かつ適切な診断・治療をすることがきわめて大切です。

そのためにはACSの病態を十分に理解しておく必要があります。

 

ACS(急性冠症候群)の病態

ACSは冠動脈の動脈硬化を基盤にして発症します。ここではまず動脈硬化の発生と進展機序について述べます。

 

動脈硬化の発生と進展

動脈は,内膜,中膜,外膜の3つの層で構成されています(図4)。

図4正常血管の構造

正常血管の構造

 

また,内膜は1層の血管内皮細胞で覆われています。血管内皮細胞は血管の収縮・拡張を調節する物質を放出する他に,血栓形成を抑制するなどの血管を保護する役割も持っています。

喫煙,高脂血症,高血圧,糖尿病など(冠危険因子といいます)によって血管内皮細胞が障害されると,血管内からLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が内膜に侵入します。内膜に侵入したLDLコレステロールは酸化・変性し,より動脈硬化を起こしやすい酸化LDLに変化します。

また,血管内皮細胞が障害されると単球が内膜内に侵入し,マクロファージに変化します。マクロファージは酸化LDLを取り込み,泡沫細胞となります。その結果,プラーク(粥腫)が形成されます。動脈硬化の始まりです(図5)。

図5動脈硬化の発生

動脈硬化の発生

 

経過とともに血管内にコレステロールが蓄積し,脂質コアが形成・増大していきます。プラークの形成は,脂質異常症,高血圧症,糖尿病などの疾患の他に,喫煙,肥満,運動不足,体質,そして加齢などの危険因子が加わると加速されます。

しかし血管内腔はただちに狭くなってくるわけではなく,動脈硬化初期では血管は外向きに大きくなり(陽性リモデリング),内腔は保たれています(図6)。

図6動脈硬化の進展

動脈硬化の進展

 

また,時間とともにプラーク内容物の構成成分は変化していきます。このプラークの構成成分は多様であり,脂質成分に富むlipid-richプラークから,線維成分に富む線維性プラークまでさまざまな性質を有するプラークが存在します。

 

プラークの不安定化とACS発症

以前は動脈硬化の進行とともに冠動脈はどんどん細くなり,狭窄が50~75%になった時点で労作性狭心症を発症,さらに狭窄が進んでいき,ついには不安定狭心症・急性心筋梗塞を発症すると考えられていました(図7)。

図7ACSの発症(以前の考え)

ACSの発症(以前の考え)

 

しかし,現在では前述のようにACSはプラークの破綻とそれに続く血栓形成により引き起こされると考えられています(図8)。

図8ACSの発症(現在の考え)

ACSの発症(現在の考え)

 

また,ACSの原因となる冠動脈狭窄は必ずしも高度ではないことがわかっています。

ある報告によれば,急性心筋梗塞を発症した責任冠動脈の8割以上に有意狭窄(冠動脈造影検査で75%以上の狭窄)は認められませんでした。つまり,急性心筋梗塞の多くは有意狭窄のない冠動脈から発症していると考えられます。

動脈硬化は数十年単位で進行しますが,ACSに移行する過程(プラークの破綻,血栓形成の過程)は時間~日単位で起こっていると考えられます。狭心症の既往がない人でも,突然急性心筋梗塞を発症するのはこのような理由からです。

プラーク破綻にはプラークの性状が大きく関与しています。プラークには,プラーク破綻・血栓形成を起こしにくい安定プラークと起こしやすい不安定プラークが存在します(図9)。

図9不安定プラークと安定プラークの特徴1

不安定プラークと安定プラークの特徴1

 

プラークの安定性には,脂質コアの大きさ,プラークを覆う線維性被膜の厚さ,炎症細胞の浸潤などが関係しています(図10)。

図10不安定プラークと安定プラークの特徴2

不安定プラークと安定プラークの特徴2

 

脂質コアが大きく,プラークを覆う線維性被膜が薄く,炎症細胞浸潤が多いプラークほど破綻の危険が高いといえます。

何らかの刺激が不安定プラークに加わりプラークが破裂すると,それを修復しようと血小板が集まり,かさぶたのような血栓が作られます。その結果,血管内腔が狭くなったり,完全に閉塞したりして,血液の流れが悪くなりACSを発症します(図11)。

図11プラークの破綻・血栓形成

プラークの破綻・血栓形成

 

血管内腔が完全に閉塞するとST上昇型ACS(=ST上昇型急性心筋梗塞),一部血流が保たれていると非ST上昇型ACS(=非ST上昇型急性心筋梗塞 あるいは 不安定狭心症)となります。

プラーク破綻・血栓形成したプラークは必ずしもACSを発症するわけではなく,一部は血栓が自然溶解,器質化するなどして安定プラークへと変化します。その際に,狭窄度が一段進行することもあります(jump–up)。

プラーク破裂の契機となる刺激(引き金)については,まだ完全には解明されていません。

これまでの研究によれば,ACSの発症には,感情的ストレスの亢進,血圧の急激な上昇,交感神経系の活性化,冠動脈の攣縮などが関与する可能性が指摘されています。しかし,いまだ不明な点も多く,今後のさらなる研究が必要と考えられています。

喫煙,高脂血症,糖尿病,高血圧症などの冠危険因子はさまざまな機序を介して,プラークの不安定化や破綻に深く関係しています。コレステロールの積極的低下療法や糖尿病発症早期からの積極的治療が動脈硬化の進行を予防するだけでなく,プラークの安定化に重要であることがわかってきています。

 

安定狭心症(労作性狭心症)とACS

安定狭心症(労作性狭心症)の病態は,冠動脈の器質的狭窄による酸素需要増加時の相対的酸素供給不足にあります。

冠動脈にある程度の狭窄を認めても,安静時の酸素供給は保たれています(安静時に症状は生じません)。しかし労作(運動)により心筋酸素需要が上昇すると,冠動脈狭窄のため酸素供給が追いつかなくなり,心筋虚血を生じます(図12)。

図12安定狭心症とACSの違い

安定狭心症とACSの違い

 

この心筋虚血は,安静やニトログリセリンによる冠拡張・冠血流増加によって比較的速やかに消失します。原因が安定プラークによる狭窄であるかぎり,一般的に進行は緩徐であり,たとえ高度な狭窄があったとしても重篤なイベント(突然死,心筋梗塞など)は生じにくいと考えられます。

逆にACSでは,原因が不安定プラークの破綻と血栓形成であるため,一見軽症にみえても(前日には安静時の強い胸痛があっても,翌日歩いて外来を受診される患者さんも少なくありません)急激に病状が悪化し,重篤化することがまれではありません(いったん自然に溶けて小さくなっていた血栓が急激に大きくなって冠動脈を閉塞してしまうことがあります)。

冠動脈がほぼ閉塞してしまうと安静時でも十分な酸素供給ができなくなり,心筋虚血を生じます。心筋虚血が遷延すると心筋壊死(心筋梗塞)をきたしてしまいます。

以上のように,安定狭心症とACSは同じ虚血性心疾患ではありますが,原因となる病態がまったく異なります。したがって治療もケアも当然大きく異なります。このことを十分に認識しておかなければなりません。

 

おわりに

ACSは循環器疾患のうち最も重要な疾患といっても過言ではありません。

ACSのうち最重症と考えられる急性心筋梗塞の死亡率は,院外死亡率も含めると30~40%と高率です。PCIなどの急性期の治療法の確立,冠動脈疾患集中治療室(CCU)の整備などによりその院内死亡率は低下していますが,いまだに10%近くの入院患者さんが死に至る,きわめて重篤な疾患です。

ACSの治療・管理の最大の目的は重篤なイベントの予防です。

不安定狭心症では急性心筋梗塞に移行させないこと,急性心筋梗塞では心筋壊死を最小限にとどめることと,致死的不整脈(心室細動,心室頻拍,房室ブロック,高度徐脈),ポンプ失調(心不全,ショック),機械的合併症(心破裂,心室中隔穿孔,乳頭筋断裂)を予防・早期発見することが大切です。

そのためには迅速な診断・治療のみならず,厳重な経過観察・モニタリングが必要です。ACSの病態を十分に理解したうえで治療・ケアに臨みましょう。

 

 


[引用・参考文献]

  • (1)小川久雄(編):循環器臨床サピア2 最新アプローチ急性冠症候群.中山書店,2009.
  • (2)後藤信哉(編):動脈硬化/血栓性疾患ハンドブック.医歯薬出版株式会社,2009.

[Profile]
橋本克史(はしもと かつし)
医療法人 松山ハートセンター よつば循環器科クリニック 循環器内科部長
1995年 岡山大学医学部卒業。2004年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科修了。2011年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科循環器内科助教を経て,現職。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2012 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2012年5月号

P.424~「ACSの病態を知ろう」

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