上室性期外収縮|洞性P波から読み解く不整脈(5)

 

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

[前回の内容]

洞不全症候群

 

今回は、上室性期外収縮についての解説の1回目です。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

上室性期外収縮とは

まず、図1の心電図を眺めてみましょう。

 

図1上室性期外収縮の心電図①

上室性期外収縮の心電図①

 

3拍目だけがリズムが狂っていますね。そこに気がつけばもうわかったようなものです。

 

では、型どおりP波を見ます。とりあえず洞性P波と考えましょう。

 

PP間隔はどうでしょう。1・2拍目、4拍目以降のPPは規則正しく一定で、23コマですね。

 

23コマは0.04×23=0.92秒ですから、洞周期は0.92秒、心拍数にしてみると1500÷23=65回/分です。PQ間隔、QRS幅も正常ですから、3拍目以外は正常心電図といえます。

 

洞周期に注目してみましょう。1・2拍目、4拍目以降の洞周期は間隔が一定ですが、3拍目のP波は洞周期よりも早いタイミングで出ていますね。さらに形も他のP波と違っています。

 

 

これは、心房内の洞結節以外の場所から信号が発信されたものです。心房、心室とも何かの拍子に自発的に電気を発生してしまうことがあります。

 

洞結節以外の心房内で信号発生が起こると、洞結節からの信号とは違うルートで心房に波及しますから、洞性とは違う形のP波になります。これを洞性P波と区別してPと記述することもあります。

 

本来の洞周期よりも早いタイミングで出現するので、周期から外れるという意味で“期外”収縮といい、心房内で発生する期外収縮を上室性期外収縮(premature atrial contraction:PAC)といいます。“上室性”というのは、心房に房室接合部も含めているためで、Supraventricular premature contraction:SVPCということもありますが、本質的には同じことです。

 

要するに、洞結節からの信号を待たずに心房あるいは上室(心房+接合部)で自発脱分極が起こって、通常とは別のルートで心房興奮が起こるため、早いタイミングで形の違うP波(P′波)が出現するということです。

 

期外収縮による心房興奮は、心室に伝導すれば通常どおりヒス束~脚~プルキンエ線維を伝導して、心室を興奮させますからQRS波の形や幅は変わりません。

 

この期外発生した心房の脱分極は、発生場所から周辺に興奮が波及してP′波となり、心室に伝導するとともに、洞結節にも侵入します。

 

洞結節は興奮が入った時点で、リセットされて、その時点から洞周期を再開します。P′波の開始は心房のある場所で脱分極した時点、そこからいくらかの時間で洞結節に達してリセットして、洞周期が再開し、次の洞性P波が出ます。

 

 

つまり、P′波の開始から次の洞性P波の開始までの時間というのは、期外収縮の興奮が洞結節まで達する時間+洞周期になるわけです。これをリターンサイクルといいます。期外収縮による心房興奮が洞結節に到達して、リセットされ洞周期の後、心房に戻ってくるため“リターン”サイクルというのです。

 

***

 

日本列島新聞配達物語でたとえてみましょう。洞結節宗谷岬は、毎朝24時間ごとに新聞を発行します。これが洞周期です。この毎朝の発刊に従って、心房北海道内に配達(洞性P波)、房室結節青函トンネルゲートオジさんが時間差をつくり、ヒストンネルを通過(PQ間隔)、脚高速・プルキンエ高速が心室筋本州住民に素早く配達して、興奮(QRS波)というサイクルを繰り返しています。

 

しかし、心房北海道が独自に、札幌辺りで午後4時に号外を出すと、洞周期を待たずに心房北海道内に札幌発の新聞が行き渡り、いつもと違うP波となります(P′波)。トンネル以下はいつもどおりの流れで配送され、心室本州以下は通常のルートで新聞が行き渡ります(正常QRS波)。

 

札幌の期外号外は、洞結節宗谷岬にも伝わり、洞結節宗谷岬は「新聞が出たならいいや」と、自分の発行周期をリセットし、それから24時間後に新聞を出します(洞性P波)。札幌の期外号外が午後4時に新聞を発行、午後4時10分に洞結節宗谷岬に届き、リセットされるとすると、次の新聞は翌日の午後4時10分になりますね。この24時間10分の間隔(P′波開始から次の洞性P波の開始まで)をリターンサイクルといいます。

 

***

 

では、実際の心電図でリターンサイクルを確認してみましょう。図2の心電図では、洞周期は23コマで、ディバイダーを洞周期の間隔に合わせてみます。

 

図2上室性期外収縮の心電図②(リターンサイクル)

 

次にそのままP′波の始まりに合わせてみましょう。次の洞性P波(4個目のP波)の出現はその間隔より少し長いですね。26コマありますね。次に、その間隔でディバイダーの右端を4個目のP波の開始に合わせてみてください。

 

その左端のポイントが、期外収縮による心房興奮が洞結節に達してリセットがかかった時点です。3コマ(0.04×3=0.12秒)で、期外収縮の開始から0.12秒後に洞結節に達してリセットしたことがわかります。

 

このテクニックは、期外収縮の解読に大きな武器になるのでよく理解しておきましょう。

 

上室性期外収縮のまとめ

  • 心房(+房室接合部)で、自発的脱分極により洞周期より早期に興奮が起こるものが、上室性期外収縮
  • 心電図上は、早期に洞性P波とは形の違う心房波P′の出現が本質
  • 心室が通常どおりの伝導を行えば、QRS波は同じ形になる
  • P′波から次の洞性P波まではリターンサイクル(洞周期よりわずかに長い間隔)

 

上室性期外収縮のポイント

洞周期よりも早いタイミングで同じ形のQRS波が見られれば、必ずPACといえます。なぜなら、QRS波が同じ形ということは心室にはなんの落ち度もなく、早いタイミングで出現した原因は、ヒス束より上位つまり上室に原因がある。上室が原因の早期収縮、つまりは上室性期外収縮です。

 

[次回]

上室性期外収縮の出現タイミングによる心電図変化

 

⇒〔「モニター心電図なんて恐くない」〕記事一覧を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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