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2016年02月23日

悪性脳腫瘍(グリオーマ)

『BRAIN』2012年9月号<脳腫瘍にはどのような種類があるか>より抜粋。
悪性脳腫瘍(グリオーマ) について解説します。

Point

  • グリオーマは脳腫瘍全体の約25%を占める代表的な脳腫瘍です。
  • グリオーマには,比較的良性のものから最も悪性の膠芽腫(グリオブラストーマ)まで,多くの種類があります。
  • グリオーマは脳実質に浸潤性に進展するため,手術ですべて摘出することが困難です。
  • グリオーマには,手術に加え,放射線治療と化学療法を併用した集学的治療を行います。

田村 郁
(東京医科歯科大学 脳神経機能外科学 助教)

 

〈目次〉

 

はじめに

「グリオーマ(神経膠腫)」は脳腫瘍全体の約25%を占める代表的な脳腫瘍です。

脳は「神経細胞」と「神経線維」,そしてそれらの間を埋めている「神経膠細胞(グリア細胞)」で形成されています。この神経膠細胞から発生する腫瘍がグリオーマ(神経膠腫)です。

グリオーマは一般に脳実質に浸潤性に進展するため,完全に摘出することが困難です。手術だけでは治すことができないので,放射線治療と化学療法を併用し継続した治療が必要です。

グリオーマのなかで最も悪性である膠芽腫(グリオブラストーマ)はヒトの悪性腫瘍のなかでも最も予後の悪い病気の1つですが,2006年に新しい抗がん薬であるテモダールが使用されるようになり,予後が改善しつつあります。

グリオーマの患者は,手術後も継続した治療が必要なことに加え,さまざまな神経症状とともに生活しなければならないので,生活の質を重視した,個々の患者に合った最適な治療を心がける必要があります。

 

グリオーマの発生と悪性化

グリオーマとは

グリオーマは神経膠細胞から発生する腫瘍です。神経膠細胞には,「星状膠細胞」,「乏突起膠細胞」,「上衣細胞」などがあり,それぞれに由来するグリオーマは,「星状膠細胞系腫瘍」,「乏突起膠腫」,「上衣腫」と呼ばれます。

グリオーマは正常脳内へ浸潤性に進展します。そのため,毛様細胞性星細胞腫などのごく一部のグリオーマを除き,たとえ手術で腫瘍を肉眼的に全摘出できても,腫瘍細胞が脳内に残存し,再発・腫瘍死が避けられません。

 

グリオーマの分類

脳腫瘍はWHO(世界保健機構)の分類に従って分類されており,悪性度はグレードⅠ~Ⅳ(Ⅳが最も悪性)で分類されます。

グリオーマの85~90%を占め,最も日常診療で遭遇する頻度が高いものが,星状膠細胞系腫瘍です。

毛様細胞性星細胞腫はグレードⅠ,びまん性星細胞腫はグレードⅡ,退形成性星細胞腫はグレードⅢ,膠芽腫(グリオブラストーマ)はグレードⅣに分類されます。グレードⅠの毛様細胞性星細胞腫は小児の小脳にしばしば発生し,きわめてゆっくり発育し,周囲への浸潤も少ないため,肉眼的に全摘出できれば治癒が期待できます。

よって,他の星状膠細胞系腫瘍とは一線を画します。グレードⅡのびまん性星細胞腫,グレードⅢの退形成性星細胞腫,グレードⅣの膠芽腫は,いずれも成人の大脳半球に好発し,浸潤性発育を示します。

 

グリオーマの悪性化

びまん性星細胞腫から膠芽腫へグレードが上がるにつれて腫瘍の増大速度が速まります(表1)。

表1主なグリオーマの予後(2009年日本脳腫瘍統計より)

主なグリオーマの予後(2009年日本脳腫瘍統計より)

 

現在の標準治療での生存期間中央値は,びまん性星細胞腫で7~9年,退形成性星細胞腫で2~5年,膠芽腫で13~15か月です。グレードⅠとⅡは通常「良性グリオーマ」,グレードⅢとⅣは「悪性グリオーマ」と呼ばれます。

びまん性星細胞腫は,良性グリオーマと呼ばれるものの,経過中にしばしば悪性転化(グレードⅢ以上になる)を起こします(図1)。

図1グリオーマの悪性転化(文献3)より改変)

グリオーマの悪性転化

 

すなわち,最も悪性の膠芽腫には,①初発時に膠芽腫と診断されるde novo(primary)のものと,②びまん性星細胞腫や退形成性星細胞腫から悪性転化して膠芽腫になるsecondaryのものがあります。膠芽腫の患者の5年生存率は7%前後であり,ヒトに発生する「がん」のなかでも治療効果の悪い腫瘍の1つです。

グリオーマの治療が難しい理由は,前述したように腫瘍が浸潤性の性格をもつことや,腫瘍細胞が単一の集団ではないこと,腫瘍細胞が抗がん剤に対する耐性機構をもつこと,放射線治療に抵抗性を示すこと,脳の血管が抗がん剤などの物質を通過させない血液脳関門(blood -brain barrier;BBB)をもつこと,などです。

 

グリオーマの症状

グリオーマの症状は,「頭蓋内圧亢進症状」と「局所神経症状」の2つに大別されます。

頭蓋内圧亢進症状は,腫瘍の増大,脳浮腫などが原因となって頭蓋内圧が亢進して出現する症状で,頭痛,悪心・嘔吐,うっ血乳頭が出現します。

局所神経症状は,腫瘍により脳の一部が破壊されたり,圧迫されたりするために発生する症状です。部位により症状はさまざまですが,片麻痺や感覚障害,言語障害,視野障害,高次脳機能障害,けいれん発作などが生じることがあります。

 

グリオーマの診断と鑑別診断

グリオーマの診断

神経症状や臨床経過からグリオーマが疑われた場合には,CTやMRIの画像診断が,診断精度が高く,かつ有用な検査法です。

MRIでは,腫瘍組織型により種々な信号強度を示しますが,最も悪性の膠芽腫(グリオブラストーマ)では,腫瘍自体や壊死・脳浮腫を反映して,T1強調画像で低信号,FLAIR画像やT2強調画像で高信号を示します(図2)。ガドリニウムによりリング状の顕著な造影効果を示し,内部の増強されない部分は通常,壊死を反映します(図2-D)。

図2膠芽腫のMRI所見

頭痛で発症した64歳男性症例。

最近では腫瘍の性状を評価するのに,MR spectroscopy(MRS)や11C-メチオニンPETが用いられます。

MRSは,MRIで捉えているプロトンの結合相手の物質によって,共鳴する周波数がわずかに異なることを利用して,これらの物質の相対的量を知ることができる手法です。膠芽腫などの悪性グリオーマでは,N-アセチルアスパラギン酸(NAA)の低下,コリン(Cho)の上昇などがみられます(図3)。

図3膠芽腫のMR spectroscopy所見

膠芽腫のMR spectroscopy所見

Cho(コリン),Cr(クレアチニン),NAA(N-アセチルアスパラギン酸)のピークを示します。悪性グリオーマでは,NAAの低下,およびChoの上昇が出現します。

アミノ酸の一種であるメチオニンを使用してPETを施行すると,悪性度の高い脳腫瘍(神経膠腫)で強い取り込みがみられ,悪性度を判別する指標とすることができます(図4)。

図4膠芽腫の11C-メチオニンPET画像とPETとMRIの重ね合わせ

膠芽腫の11C-メチオニンPET画像とPETとMRIの重ね合わせ

A:悪性度の高い腫瘍細胞が存在する場所でメチオニンの取り込みが上昇します。
B:PETと造影MRIの重ね合わせでは,造影されていない部分にも悪性度の高い腫瘍細胞が存在することがわかります。

グリオーマの鑑別診断

悪性グリオーマとの鑑別が必要な脳腫瘍に,画像検査で似たようなリング状増強効果を示す「転移性脳腫瘍」や「悪性リンパ腫」があります。手術で摘出した組織を用いた病理診断で最終的な判断を行いますが,病歴の聴取も大切です。

また,腫瘍マーカーやFDG-PET,胸部や腹部のCTで他の臓器にがんが存在するか否かを調べることにより,転移性脳腫瘍かどうかの可能性を探ることができます。悪性リンパ腫で上昇する髄液β2ミクログロブリンや血清インターロイキン2レセプター(soluble interleukin-2 receptor)検査も鑑別に有用です。

 

グリオーマの治療法(手術と補助療法)

グリオーマに対しては,手術,放射線療法,化学療法を組み合わせた治療が行われます。

グリオーマの手術

手術の目的には,①病理組織診断で腫瘍の種類を決定すること,②できるだけ腫瘍を取り除き症状を改善させることがあり,これらは治療の基本です(図5)。

図5膠芽腫の手術

図2と同じ64歳男性症例。ニューロナビゲーションシステムを使用し,腫瘍を摘出しました。腫瘍表面の脳回は腫脹していることがわかります(C)。ニューロナビゲーションシステムでは,手術で操作している部位の3次元的位置をリアルタイムに計測し,これを術前に撮影したMRIの画像の上に表示することにより,手術操作の部位を確認できます(B)。

腫瘍摘出度と生存期間は強く関係しており,できるだけ多く摘出することが重要です(図6)。

図6膠芽腫の術前・術後のMRI所見

膠芽腫の術前・術後のMRI所見

図2と同じ64歳男性症例。術後のMRIで腫瘍が摘出されていることを確認できます。

重い神経障害を残すことなく,なるべく多くの腫瘍を摘出するために,術中モニタリング(図7)やニューロナビゲーションシステム(図5-B)を用いたり,手術中に麻酔を一次的に切って患者を覚醒させ,言語機能や運動機能を確認する術中覚醒下手術(awake surgery)が行われたりすることがあります。

図7術中モニタリングの例

術中に上肢(正中神経)あるいは下肢(後脛骨神経)の末梢神経を皮膚表面から電気刺激して,体性感覚誘発電位を誘発します(A)。この体性感覚誘発電位を皮質で記録することにより,開頭手術時に中心溝(頭頂葉と前頭葉の境界で,中心溝の前方は一次運動野,後方は一次感覚野;B)を同定することができます。

グリオーマの補助療法

グリオーマは正常脳へ浸潤性に増殖しているため,ほとんどの場合,手術によって腫瘍をすべて摘出することはできません。その残った腫瘍に対して行われるのが,放射線療法と化学療法です。

良性グリオーマに対する現在の標準治療は手術摘出と放射線照射ですが,手術でほぼ全摘出された場合は照射せずに経過をみることもあります。

悪性グリオーマの標準的治療は,6週間(1日1回・週5回の放射線照射,トータル60 Gy)の放射線療法と,テモダールによる化学療法を組み合わせて行います(図8)。

図8手術後の放射線治療+テモダール投与計画(文献1)より改変)

手術後の放射線治療+テモダール投与計画

 

悪性グリオーマは本来放射線感受性の高い腫瘍ではありませんが,放射線療法による生存期間の延長が証明されています。

テモダールはアルキル化剤に分類される抗がん剤で,日本では2006年から使用できるようになった新しい薬剤です。アルキル化剤は,がん細胞のDNAなどの核酸の一部にアルキル基という原子集団を結合させ,それによってDNAの合成を阻害してがん細胞を死滅させます。

テモダールに大きな期待が寄せられているのは,悪性度の高い再発した退形成性星細胞腫に優れた治療成績を示すと同時に,初発の膠芽腫に対して術後の放射線治療との併用療法で生存期間の延長が認められた,初めての抗がん剤だからです。

さらにテモダールには,①経口薬があり外来通院での治療が可能である,②血液脳関門での透過性がよく髄液移行が良好である,③副作用が比較的少ない,患者に優しい抗がん剤である,という利点があります。

 

経過観察と維持療法

グリオーマは手術で全摘出することが不可能なため,定期的に経過観察を行い,再発の有無を確認する必要があります。新たな神経症状の出現や,MRIでの造影病変の出現などが,再発を疑わせる所見です。良性グリオーマであるびまん性星細胞腫であっても,悪性転化をきたすことがあるため,適切な経過観察が重要です。

悪性グリオーマに対しては,外来診療で4週間ごとに5日間のテモダールを内服する維持化学療法を行います(図8)。

患者の生活の質を重視し,神経症状や全身症状をできるだけ悪化させないような治療を行う必要があります。

 

おわりに

近年の分子生物学的研究の進歩により,グリオーマに関する遺伝子解析の知見が多く見いだされてきています。これらの知見により治療効果の予測ができるようになり,適切な治療法を選ぶことが可能になりつつあります。また,免疫療法,ウイルス療法,遺伝子治療,幹細胞治療などの新しい治療法の研究も活発に行われています。

グリオーマの治療法の未来に希望を抱きつつ,ひとりひとりの患者の診療に真摯に関わっていきましょう。

 

 


[引用・参考文献]

 


[Profile]
田村 郁(たむら かおる)
2001年 東京医科歯科大学医学部卒業。2009年 同大学院修了。2001年より東京医科歯科大学関連施設で脳神経外科診療,2009年 ハーバード大学マサチューセッツ総合病院 博士研究員を経て,2012年より東京医科歯科大学 脳神経機能外科学 助教。医学博士,日本脳神経外科学会専門医。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2012 医学出版
[出典]BRAIN 2012年9月号

BRAIN 2012年9月号

P.827~「手術だけでは治せない悪性脳腫瘍(グリオーマ)とその補助療法」

著作権について

この連載

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