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2016年01月08日

手術部位感染(SSI)

『WOC Nursing』2015年9月号<創傷と細菌感染を考える~細菌感染を考慮した創傷管理~>より抜粋。
手術部位感染(SSI)について解説します。

Point

  • 手術部位感染(surgical site infection;SSI)は創感染(表層切開部SSIと深層切開部SSI)と臓器体腔SSIに分類される
  • SSIのリスクは長時間手術,創クラス≧3,ASAスコア≧Ⅲから求められるリスクインデックスで層別化される
  • 創感染は通常5日目以降に発症する
  • 48時間以内に発熱があり創に広範な所見を有し,全身症状を呈する場合には,壊死性皮膚軟部組織感染症を疑う
  • 感染創が限られた範囲であり,全身の炎症症状が軽度であれば,ドレナージのみで抗菌薬は不要である
  • 膿瘍腔は全開放することが推奨されている
  • SSIによる開放創は,早期はwet to dry法により管理し,滲出液が膿性から漿液性に変化すればハイドロポリマーなどによる密封ドレッシングを行う
  • 局所陰圧閉鎖療法は持続陰圧吸引により,感染した創部のドレナージと同時に肉芽形成を促す治療法である
  • グラム染色の結果から抗MRSA薬の投与を考慮する
  • 緑膿菌やエンテロバクター属,腸球菌も原因菌となるが,近年ESBL産生腸内細菌も問題となっている
  • 下部消化器手術後ではBacteroides fragilisグループなどの嫌気性菌もターゲットとした抗菌薬選択が必要である

竹末芳生
(兵庫医科大学 感染制御学 主任教授)

〈目次〉

 

はじめに

手術部位感染(SSI)の予防に関してはガイドラインなどで一定の見解が示されています。しかしいったんSSIが発症したときの対応に関しては,詳細に述べられた報告は意外に少なく,各施設,または各主治医で,治療方針にかなりの違いがあります。

本コラムでは,創感染(皮切部SSI)のリスク評価と実際の診断,治療方針,創傷の管理,抗菌薬の使用基準の実際について述べます。

 

手術部位感染(SSI)の定義(1

SSIとは術後30日以内(人工物装着手術では1年)に発生する手術操作の及ぶ部位の感染であり,消化器手術における肺炎,尿路感染,血流感染などは遠隔部位感染と呼びます。

一般的な術後感染予防対策はSSIの減少を目的として行われます。創感染は,表層切開部(superficial incisional SSI),深層切開部(deep incisional SSI)の2つに分けられ,腹腔内感染などは臓器体腔SSIと定義されます(図1)。

図1SSIの定義

SSIの定義

 

SSIに対するリスク層別化と,SSI発生率の評価

下記の3つのリスク因子に該当する場合,それぞれ1ポイントを加算し,鏡視下手術はリスクを低減するため1ポイント減算とします。

  1. 長時間手術:各手術における手術時間の75パーセンタイル以上
  2. 創クラス(創汚染):3(汚染),4(不潔-感染)
  3. ASAスコア(米国麻酔科学会全身状態分類):Ⅲ(重度の全身疾患),Ⅳ(生命を脅かす全身疾患)

これらのポイントの合計がリスクインデックスであり,−1〜3のカテゴリーに分類します。リスクインデックスが高ければ感染率は高くなるため(図2),SSI発生率をリスクで層別化して評価することができます。

図2各術式におけるリスクインデックス別のSSI発生率

各術式におけるリスクインデックス別のSSI発生率

 

標準化感染比(standardized infection ratio;SIR)は,術式別に実際のSSI発生数(observed number)をJHAIS(Japanese Healthcare Associated Infections Surveillance)などで発表されている発生率(表1)から算出される期待発生数(expected number)で割った値であり,施設の全国におけるレベル評価を行うことができます。

表1JHAISにおけるリスクインデックス別のSSI発生率

JHAISにおけるリスクインデックス別のSSI発生率

 

その他のSSIリスク因子としては,男性,糖尿病,術後高血糖,肥満(BMI>25〜30),緊急手術,人工肛門造設などが挙げられています(2),(3),(4),(5)。以前報告された術中低体温(体温<36℃)に関してはリスクにならないとの報告も散見されます。

 

皮切部SSIの治療方針

創感染診断治療のアルゴリズム(図3)(6

図3創感染診断治療アルゴリズム(文献6)を一部改変)

創感染診断治療アルゴリズム

 

4日以内に皮切部のSSIの臨床所見を認めることはほとんどありません。

48時間以内に発熱と創の広範な感染所見を認めた場合は,Streptococcus pyogenes(A群レンサ球菌)またはClostridium perfringens(ウェルシュ菌)による壊死性皮膚軟部組織感染症(壊死性筋膜炎,ガス壊疽)を除外する必要があります(6)。

これらの感染症はきわめてまれですが,治療の遅れが予後を不良にするため,知っておかなければならない術後感染症です。

創からのドレナージ排液にグラム染色を行い,どちらかの菌種が疑われた場合には創を開放して広範囲のデブリードマンを行い,ペニシリンまたはクリンダマイシン(抗毒素活性あり)による治療を実施します。治療の遅れが患者予後を不良とするので,早期診断・早期治療が大切です。

術後5日目以降の発熱,末梢白血球数・CRP上昇を認めた場合の診断,治療方針を図3に示します。

創感染が限られた範囲で,全身の炎症症状が軽度であれば,ドレナージのみでよく,抗菌薬は不要です(6)。抗菌薬が必要と判断した場合でも24〜48時間の短期間投与とします。膿瘍腔は全開放(unroofing=屋根とり)することが推奨されており,小開放とタンポンガーゼ挿入は感染症のコントロールを不良にします。

 

開放創治療

生食ガーゼを開放創に挿入して創部を湿潤環境に置きます。さらに,そのままガーゼを乾燥させると壊死組織がガーゼに付着するので,ガーゼ交換のたびにデブリードマン効果が期待できます(wet to dry法)。この管理を,排膿が減少するまで継続します。

早期に感染を制御するためには,可能であれば頻回(4〜6時間ごと)に交換し,適切な抗菌薬投与が必要です。2〜3日で漿液性の滲出液となれば,ただちにwet to dry法は中止します。ガーゼが創に付着し,交換のたびに新生上皮細胞を剥離してしまうからです。

米国に“目に入れてはならないものを創に使用してはならない”という格言があるように,消毒薬を直接創部に使用することは推奨されていません。消毒薬は創傷治癒に必要な細胞である好中球,線維芽細胞,ケラチノサイトに有害で,創傷治癒障害の原因となるとされているためです。

滲出液が膿性から漿液性となった創のドレッシング材として,ハイドロポリマーなどを使用して創を密閉すると,交換は少なくて済むうえに痛みが軽減し,湿潤環境が保たれます。深い開放創ではアルギン酸塩被覆材を詰めてからドレッシング材で密閉します。wet to dry法から変更した初回の被覆材は,創観察のためにフィルムドレッシングを使用します。

しかし,滲出液が多い場合は1〜2日で滲出液が貯留してくるため,早期にハイドロポリマーによる密封ドレッシングに変更し,創観察は3日後とします。また,外来で治療することも可能です。

 

局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy;NPWT)(図4

図4直腸手術における創感染に対する陰圧閉鎖療法

直腸手術における創感染に対する陰圧閉鎖療法

 

NPWTは日本では2010年に保険適用となった創傷管理法です。持続陰圧吸引することにより,感染した創部のドレナージと同時に肉芽形成を促します。消化器外科領域でもSSIによる開放創や腹部創離開に対して使用した報告が最近増えています(詳細は「陰圧閉鎖療法と感染管理」を参照してください)。

 

SSIに対する治療的抗菌薬の選択

SSIで高率に分離される細菌を参考に,エンピリック(経験的)治療に用いる抗菌薬を選択します(表2)。この際,グラム染色の情報は重要です。

表2術式別のSSI分離菌(文献1)を一部改変)

術式別のSSI分離菌

 

また,予防抗菌薬を3日以上と長期投与された患者においては,耐性菌以外が淘汰され,緑膿菌やエンテロバクターなどが高率となります。大腸菌や肺炎桿菌のうち,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase;ESBL)産生菌は,第3・4世代セファロスポリン系薬に耐性で,また多くの場合ニューキノロン系抗菌薬は有効性を示さないので注意が必要です。

カルバペネム系薬を第一選択とします。また,中等症以下ではフルマリン,セフメタゾールなどが抗菌薬感受性試験では感性と判定されますが,臨床的な有効性に関する検討は限られています。βラクタマーゼ阻害薬ではクラブラン酸はESBLを分解します。

スルバクタムは活性が低く,アムピシリン・スルバクタムは抗菌活性を有しませんが,タゾバクタム・ピペラシリンはある程度の効果を示します。しかし接種菌量を増やすと(105/ml→107/ml)最少発育阻止濃度が高値となることが報告されており,菌量が多い重症感染では有効性は期待できません。

グラム染色で黄色ブドウ球菌が疑われた場合には,バンコマイシンの使用を考慮します。

黄色ブドウ球菌中のMRSAの割合は施設によって異なりますが,現在では以前よりも低く,50%以下との報告も多くなってきました。消化管手術では腸球菌もカバーする抗菌薬を選択する必要があり,下部消化器手術後であれば嫌気性菌のBacteroides fragilisグループをターゲットとするカルバペネムやタゾバクタム・ピペラシリンが推奨されます。

第4世代セファロスポリン系薬,シプロフロキサシンを使用するときには,嫌気性菌をカバーする目的でメトロニダゾール注を併用します。ただし広域な抗菌薬を選択した場合,臨床経過が良好であれば,培養結果(同定や感受性)を参考に,可能であればより狭域な抗菌薬へ変更することが,抗菌薬乱用を防ぐためにも必要です。

 

おわりに

WOCナースが管理・治療に参加するような,SSIによる大きな開放創や創離開は,決して多くはないものの,発生した場合には患者の苦痛や長期入院の原因となります。

このような場合は,WOCナース単独でなく,主治医,infection control team(ICT),病棟看護師との協力によるmultidisciplinary approachが必要です。感染がコントロールされて初めて,創傷治癒機転が開始されます。

そのため本コラムでは創傷管理以外の抗菌薬使用基準にも触れました。今まで勉強する機会が少なかったかもしれませんが,苦手だからといって飛ばし読みせず,1度通して読んでいただければ幸いです。

 

 



[Profile]
竹末芳生(たけすえ よしお)
兵庫医科大学 感染制御学 主任教授
1980年 広島大学医学部 卒業。同年 広島大学医学部 第一外科 入局,同附属病院に採用。1987年 広島大学医学部 助手,同年 医学博士 取得(腹膜炎におけるエンドトキシン血症発症に関する研究)。1991〜1992年 ミネソタ大学 外科大腸直腸部門 Goldberg 教授のもとで研修。1997年 広島大学病院 第一外科 医局長,1998年 広島大学医学部 外科学第一 講師。2000年 広島大学医学部 外科学第一(病態制御医科学講座 外科)助教授,2006年 兵庫医科大学 感染制御学 教授,2009年より現職。日本化学療法学会,日本環境感染学会,日本感染症学会,日本外科感染症学会 理事。日本外科学会,日本消化器外科学会,日本感染症学会 専門医。日本外科感染症学会雑誌 編集委員長。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2015 医学出版
[出典]WOC Nursing2015年9月号

WOC Nursing2015年9月号

P.15~「手術部位感染」

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