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2016年01月21日

大動脈弁狭窄症(AS)とは?

『循環器ナーシング』2014年12月号<今,増えている高齢者大動脈弁狭窄症を識る!>より抜粋。
大動脈弁狭窄症(AS)について解説します。

Point

  • 大動脈弁狭窄症は,何らかの原因で大動脈弁口が狭くなり,左室から大動脈への血液駆出が障害される疾患である!
  • 大動脈弁狭窄症は長期間無症状で経過するが,いったん症状が認められると非常に予後不良な疾患である!
  • 大動脈弁狭窄症の根本的な治療は外科的治療(手術)である! 適切なタイミングで手術を施行することで,患者の症状・予後を改善することができる!

向 菜津子
(鳥取大学医学部 病態情報内科学〔循環器内科〕)

山本一博
(鳥取大学医学部 病態情報内科学〔循環器内科〕 教授)

〈目次〉

 

はじめに

高齢化社会に伴って,大動脈弁狭窄症(aortic stenosis;AS)を有する患者は増加しており,今後も増え続けると予想されています。

本コラムでは,ASとはどんな病気なのか,その原因,症状,治療方法,予後などについて,簡単に説明していきます。

 

大動脈弁狭窄症とはどのような病気か

動脈弁の構造や働き

まず,大動脈弁の構造や働きについて説明します。

心臓は左右の心房・心室の4腔から構成され,心房と心室の間,および心室と動脈との間に合計4つの弁を有します。左室から大動脈への出口に位置する弁を「大動脈弁」と呼びます(図1)。

図1心臓の構造と大動脈弁の位置

心臓の構造と大動脈弁の位置

 

大動脈弁は3つの半月弁(3尖弁)で構成されており,半月弁は,ここから起始する冠動脈に対応して「左冠尖」「右冠尖」「無冠尖」と呼ばれます。大動脈弁は,心臓の心室収縮期に開口し,心室拡張期に閉鎖します。心室拡張期に大動脈弁がぴったりと閉鎖することで,大動脈から左室内への血液の逆流を防止します(図2)。

図2大動脈弁の構造と働き

大動脈弁の構造と働き

 

大動脈弁狭窄症とは

大動脈弁狭窄症(aortic stenosis;AS)においては,何らかの原因により大動脈弁口が狭くなり,左室から大動脈へ血液を送り出すことが障害される状態となります。

成人の正常の大動脈弁口面積は約3cm2ですが,1.5cm2以下となると左室から大動脈への血液の駆出に抵抗を生じ始めます。大動脈弁の狭窄によって左室に圧負荷がかかるようになり,代償的に左室壁は肥厚し,左室壁厚/左室内腔径が大きくなります(求心性肥大)(図3)。

図3求心性肥大のイメージ

求心性肥大のイメージ

 

左室肥大が進むことで,左室心筋は拡張しにくくなります(左室拡張能の低下)。また相対的な心筋虚血状態となります。心肥大とともに心筋線維化が進行し,さらに心機能低下をきたします。

大動脈弁狭窄の進行によって左室内圧は徐々に高まりますが,狭窄のため大動脈へその圧が伝わることはなく,左室と大動脈との圧較差は次第に増大します。

 

大動脈弁狭窄症の原因

弁の狭窄をきたす原因としては,主に3つ挙げられます。

1つめはリウマチ熱(β-溶血性連鎖球菌感染症)の後遺症によるものですが,近年,先進国ではリウマチ熱はまれな疾患となっており,日本でもリウマチ性のASは減少傾向にあります。ASでは複数の弁が器質的障害を有する「連合弁膜症」を合併することがあります。

2つめは先天性であり,そのほとんどが2尖弁になります(図4A)。

図4大動脈弁の術中所見(大動脈側より観察)

大動脈弁の術中所見(大動脈側より観察)

A:半月弁が2枚しか認められない。
B:弁腹に石灰化を認める。このような弁の組織学的な変化は図に示す大動脈側に強い。リウマチ熱による大動脈弁狭窄と異なり,弁尖の癒着・癒合は原則認められない。

2尖弁の他には4尖弁や,まれですが1尖弁も存在します。2尖弁は若年のうちは無症状ですが,加齢とともに弁尖の肥厚・硬化・石灰化をきたしやすく,30〜40歳代から狭窄を呈してきます。大動脈弁逆流の合併もよくみられます。また先天性2尖弁は大動脈縮窄,動脈菅開存,心室中隔欠損など,他の先天性心疾患を合併することがあります。

大動脈瘤や大動脈解離もしばしば認められる合併症であり,これも先天的要因による大動脈壁の脆弱性が原因と考えられています。若年性ASの原因としては,この2尖弁の占める割合が高くなります。

3つめは加齢に伴う変性(弁硬化・石灰化)であり(MEMO1),高齢化社会に伴い近年著増しています(図4B)。現在は手術適応となる重症ASの80%以上が,この加齢変性によるものとなっています(1)。

 

MEMO1加齢変性による大動脈弁狭窄症の増悪因子について

日本人を対象として,大動脈弁加齢変性を早期(心エコー図検査にて0〜1尖の石灰化,左室流出路最大血流速<2m/秒)と晩期(2〜3尖の石灰化,左室流出路最大血流速≧2m/秒)とに分け,それらの増悪因子を後ろ向きに検討した多施設共同研究があります。

これによると早期ではワーファリンの使用,アンジオテンシン受容体拮抗薬の不使用が増悪因子でした。晩期における増悪因子は女性,左室腔の狭小化,ヘモグロビン値の低値とされています。

早期と晩期とでは増悪因子が異なり,また一般的に動脈硬化リスクといわれる高血圧,脂質異常症,慢性腎障害,糖尿病などは,早期・晩期いずれにおいても増悪因子ではありませんでした。このような生活習慣病が大動脈弁変性のリスクとならない点は海外の報告と合致しています。

ただし大動脈弁変性には人種差があることも報告されており,日本人における増悪因子に関する知見を今後も蓄積する必要があります(2)。

 

大動脈弁狭窄症の症状

ASは,左室肥大による代償機構のため,長期間無症状で経過します。しかし徐々に代償機構が破たんし,自覚症状が出現するようになります。主な症状として,心不全症状,狭心痛,失神・めまいがあります。

心不全は,ASによる心拍出量低下や左室拡張能低下に伴う左房圧上昇により発症し,労作時息切れで始まり,悪化すると肺うっ血をきたし起座呼吸の状態となります。

狭心痛は,心肥大による相対的心筋虚血,心拍出量低下や左室拡張期圧上昇による冠動脈血流低下によって,たとえ冠動脈に狭窄病変がなくとも発症します。

失神・めまいは,心拍出量低下に加え,左室圧上昇に対する反応性の末梢動脈の拡張によって,脳血流が低下し発症します。

ただし高齢者の場合は,重症ASであっても自覚症状がはっきりしないことがあり要注意となります。高齢者の場合は,筋力の衰えなどで活動性が低くなり,あまり動かなくなるために症状が出にくくなります。また,肺疾患など他に労作時息切れをきたす疾患が合併すると,どちらによる症状なのかわかりにくくなってしまうことがあります。

 

大動脈弁狭窄症の予後

ASはしばらく無症状で経過しますが,症状が認められた後の予後は非常に不良です。症状出現後の平均余命は,狭心症では5年,失神では3年,左心不全では2年とされています(図5)(3)。

図5大動脈弁狭窄症の自然歴(文献3より引用)

大動脈弁狭窄症の自然歴

症状が認められた後は,非常に予後不良となっている。

また症状を認めるASの突然死頻度は10〜20%とかなり高くなっています。一方で,無症状のASでは突然死はまれとされます。

 

大動脈弁狭窄症の診断

ASはしばらく無症状で経過し,症状を認めたときにはすでに重症であることがほとんどです。症状からASを疑っていては手遅れであり,症状のない時期から他覚所見により疑っていくことが重要です。

ASを疑うきっかけは,主に聴診による心雑音です。心雑音は収縮期駆出性雑音であり,右肩〜心尖部のいずれかの範囲において容易に聴取されます。また心電図異常(左室肥大所見など)から疑われることもあります。

確定診断は,主に心エコー図検査によって行われます。ASであれば大動脈弁口面積の減少,左室と大動脈間の収縮期最大圧較差の増大を認めます。心エコー図検査では大動脈弁の形状を観察しうるのでASの原因を特定できますし,左室肥大の程度や左室機能障害の程度も評価できます。こうして非侵襲的に診断および重症度判定を行います。

心臓カテーテル検査でも圧較差を測定することができ,以前は頻繁に行われていました。心臓カテーテル検査では,左室内と大動脈内に直接カテーテルを留置し,それぞれの内圧を同時測定し,圧較差を算出します。

ただし,ASに対する左室内へのカテーテル挿入は,合併症(脳梗塞など)の発生率が高いことが報告されており,AS重症度評価のために必須とはされていません(4)。日本循環器学会ガイドラインでは,心エコー図検査での評価と臨床所見との間に解離がある場合にのみ心臓カテーテル検査を薦めています。

 

大動脈弁狭窄症の治療方針

どんな治療方法があるのか

ASは,内科的治療で治せるものではありません。根本的治療としては手術(外科的治療)となります。手術としては,大動脈弁置換術(aortic valvular replacement;AVR)が施行されます。

また最近では,一部の症例に対して大動脈弁形成術を施行したり,開心術の高リスク患者にかぎり経カテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve replacement;TAVR)が施行されるようになっています。ただし,いずれの治療法も長期成績についての評価は定まっていません。

ASはいったん症状が認められると予後不良なため,症状が認められた後,もしくはそれ以前に手術を行う必要があります。

ASの治療における大事なポイントは,いつ手術に踏み切るか,という点になります。手術自体のリスクも踏まえて,患者の年齢や全身状態,内科的治療による場合の予後と手術後の予後のバランスを十分に考慮したうえで,手術適応を決める必要があります。

 

大動脈弁狭窄症の手術適応

AVR(大動脈弁置換術)の適応は,症状を認める場合と,無症状の場合によって,以下のように分けられています(5)。

 

症状を認める場合

重症ASであり,心不全症状,狭心痛,失神などの症状を認める場合は,基本的に全例が手術適応となります。ただし超高齢や他の臓器障害などで手術が施行できない場合は除かれます。

手術によって症状や生命予後は改善し,ASによって左室壁運動低下が認められている場合でも,狭窄を解除することで左室壁運動に改善がみられることがあります。

症状を認める場合は突然死のリスクが非常に高いため,速やかに手術を行うべきとされています。

 

無症状の場合

無症状の重症ASに対する手術適応については,現時点では一定の基準はありません。症状出現後の予後が悪いのであれば,早めに手術すればいいのではないか,というとそうでもありません。

実際に,無症状のASの場合,その死亡率は年間1%未満とされており,一般的な周術期死亡率より低くなっています(6)。

手術の合併症リスクや,手術後の人工弁に伴う合併症(人工弁機能不全,感染性心内膜炎,抗凝固療法による出血リスクなど)を考慮すると,あまり早期に手術すると,逆に合併症リスクのほうが高くなってしまいます。

では無症状の重症ASにおいて手術を考慮するのはどのような場合かというと,すでに心機能低下を認める例や,急速な進行が予想される例が該当します。

欧州心臓病学会(European Society of Cardiology;ESC)のガイドラインでは,無症状の重症ASにおいて,左室収縮能低下(EF 50%以下)を認める場合は手術をするべきである(クラスⅠ),また大動脈弁通過血流速度が0.3m/秒/年以上増加する急速進行例においては,手術を行うのは妥当である(クラスⅡa)としています。

中等症以下のASの場合は,無症状であれば手術をすることはありません。

しかしASは進行性の疾患であり,なかにはその進行が急速な例もあります。またASの進行とともに心機能が顕著に悪化してしまう例があります。したがって心エコー図検査による定期的なフォローアップを行い,重症ASへの進行や心機能低下の状態をみながら,手術のタイミングを見計らう必要があります。

 

おわりに

大動脈弁狭窄症(AS)とはとはどんな病気なのか,簡単ではありますが説明させていただきました。

大動脈弁狭窄症(AS)とは,しばらく無症状で経過しますが,いったん症状が出ると予後不良な疾患です。患者の症状,予後を改善するために,適切なタイミングで手術を行う必要があります。

しかしAS患者は高齢であることが多く,症状がはっきりしなかったり,他疾患の合併によって手術タイミングの判断が難しかったりすることも多々あります。治療方針を決める際は疾患をみて決めるのではなく,患者さんをみて決めてください。

本コラムが,皆様の手助けになれば幸いです。

 

 



[Profile]
向 菜津子(むかい なつこ)
鳥取大学医学部 病態情報内科学(循環器内科)
2008年3月 鳥取大学医学部卒業,2008年4月 松江赤十字病院にて初期臨床研修,2010年4月 松江赤十字病院循環器内科にて後期研修,2013年4月より現職。

山本一博(やまもと かずひろ)
鳥取大学医学部 病態情報内科学(循環器内科) 教授
1986年3月 大阪大学医学部卒業,1994年3月 大阪大学大学院医学研究科修了。1994年7月から2年間の米国Mayo Clinic留学を経て,2011年7月より現職。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2014年12月号

循環器ナーシング 2014年12月号

P.6~「大動脈弁狭窄症(AS)とは? 」

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