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2016年01月12日

肺高血圧症の治療薬

『循環器ナーシング』2014年6月号<疾患ごとに理解する!循環器疾患のくすり>より抜粋。
肺高血圧症の治療薬について解説します。

Point

  • 肺動脈性肺高血圧症は難治性疾患! 適切な治療がなされない場合,急速に進行し,右心不全をきたす予後不良の疾患である!
  • 肺動脈性肺高血圧症はかつてきわめてまれな疾患と考えられていたが,治療薬の開発および疾患の認知に伴い患者数は年々増加している!
  • 現在,臨床使用される治療薬には,プロスタサイクリン製 剤,エンドセリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ5型(phosphodiesterase-5;PDE-5)阻害薬がある!
  • 上記薬剤を使用して予後を改善するためには,薬剤を適切に使用することが大切!

江本憲昭
(神戸薬科大学 臨床薬学 教授,神戸大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 戦略的客員教授)

〈目次〉

 

はじめに

肺動脈性肺高血圧症は,肺動脈の内腔が狭くなり,肺動脈圧が上昇する疾患です。呼吸困難などの症状が出現したときにはすでに病態は進行していることが多く,有効な治療法も限られていたことから,難治性疾患に位置づけられてきました。

しかし,この10年あまりの間に複数種類の新たな治療薬が開発され,これらの薬剤は患者の症状を軽減するのみならず,予後の改善にも貢献してきました。

本コラムでは,肺動脈性肺高血圧症に使用される薬剤の薬理作用および使用上の注意点について概説します。

 

肺動脈性肺高血圧症とは

肺高血圧症は種々の原因で肺動脈圧が上昇する病態で,進行すると右心不全をきたし死に至る難治性疾患です。症状としては,労作時の息切れ,胸痛,動悸や失神などが認められますが,これらの症状は病状の進行とともに軽労作時や安静時にも認められるようになります。

肺高血圧症は臨床分類として,病因・病態が類似し,治療法上の共通点に基づいた5つのグループに分類されています(1)(図1)。

図1肺高血圧症の臨床分類

肺高血圧症の臨床分類

 

第1群に分類される肺動脈性肺高血圧症は肺小動脈に病変が存在する疾患群で,その発症原因によりさらに細かく分類されています(表1)(2)。

表1再改訂版肺高血圧症臨床分類(文献2より引用)

再改訂版肺高血圧症臨床分類(文献2より引用)

 

かつては,肺動脈性肺高血圧症はきわめてまれな疾患とされていましたが,日本の難病疫学調査では年々登録患者数が増えてきています(図2)(3)。

図2肺高血圧症の発生頻度と患者推移(難病情報センターの資料をもとに作図)

肺高血圧症の発生頻度と患者推移(難病情報センターの資料をもとに作図)

 

肺動脈性肺高血圧症に使用される薬剤

現在,肺動脈性肺高血圧症に対し臨床使用されているのは,図3に示すように3つの経路(プロスタサイクリン経路,エンドセリン経路,一酸化窒素–cGMP経路)に介入する薬剤です(MEMO1)。以下にその概略を説明します。

図3肺動脈収縮メカニズムの観点からみた血管拡張薬の作用機序

肺動脈収縮メカニズムの観点からみた血管拡張薬の作用機序

 

MEMO1ココに注意!①

病態によっては,肺高血圧治療薬を開始するとかえって呼吸苦が増悪し,酸素化が悪化することがあります。とくに肺静脈閉塞性疾患では,肺うっ血をきたし循環動態が悪化する可能性があるため,肺高血圧治療薬の追加や増量時には注意深い観察が必要です。

 

プロスタサイクリン製剤

プロスタサイクリンは血管内皮で産生される物質で,血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を併せ持ちます。経口投与可能なプロスタサイクリン誘導体であるベラプロストと,持続静脈内投与のエポプロステノール製剤が使用されています。

 

エポプロステノール

専用溶解液で溶解したエポプロステノール製剤(フローラン®)は,携帯用の輸液ポンプから長期留置用中心静脈カテーテルを介して静脈内持続投与されます(図4)。

図4埋め込みカテーテル留置の状態

埋め込みカテーテル留置の状態

 

溶解したエポプロステノールは低温で保たないと化学的に不安定なため,薬液カセットをアイスパックで冷却しながら用います。近年,常温でも化学的に安定したエポプロステノール製剤(エポプロステノール〔ACT〕)が開発されました。

薬液カセットを冷却するアイスパックが不要となり,携帯が容易になることがメリットです。ただし,30℃以上の環境では不活化する可能性があるため,夏場には注意が必要です。

 

ベラプロスト

化学的に安定しているプロスタサイクリン製剤として,ベラプロスト(ケアロード®,プロサイリン®)が肺動脈性肺高血圧症に対する経口剤として従来使用されてきました。最近では,より高い血中濃度が安定して得られる徐放製剤(ケアロード®LA,ベラサス®)の使用が増えています。

 

エンドセリン受容体拮抗薬

エンドセリンは強力な血管収縮物質であり,ETA受容体とETB受容体を介して生理活性を示します。肺動脈性肺高血圧症に対しては,ETAとETBの両受容体をともに阻害するボセンタン(トラクリア®)と,ETA受容体を選択的に阻害するアンブリセンタン(ヴォリブリス®)の2種類の拮抗薬が臨床で用いられています。

 

PDE-5阻害薬

PDE-5阻害薬は,血管平滑筋におけるcGMPの分解を阻害することによりその濃度を上昇させ,血管拡張作用をもたらします。現在,肺動脈性肺高血圧症の治療薬として承認されているのは,シルデナフィル(レバチオ®)とタダラフィル(アドシルカ®)です。

また,これらの薬剤は異なる商品名で勃起障害に対しても使用されています(シルデナフィル:バイアグラ®,タダラフィル:シアリス®)。

 

肺動脈性肺高血圧症治療薬使用時の注意点

エポプロステノール

エポプロステノールは少量から開始して,半年から1年程度かけて少しずつ増量します。その経過中に,程度の差はあれ,ほぼ全員に頭痛(MEMO2),皮膚紅潮,顎痛,足底痛,下痢などの副作用が出現します。

肺動脈性肺高血圧症の予後の悪さおよびエポプロステノールの治療効果を考慮すると,これらの副作用が出現しても対症的に対応し,目標の血行動態に達するまでエポプロステノールの増量を継続することが多いです。

また,カテーテルやポンプのトラブルのためにエポプロステノールの使用を突然中止すると,リバウンド減少による肺高血圧の急性増悪をきたし,循環動態が破たんする可能性がありますので,迅速な対応が必要です。

MEMO2ケアのコツ

肺高血圧治療薬を併用すると血管拡張作用が増強され,頭痛が増悪する場合があります。鎮痛薬や頭部の冷却などで対応しますが,服用時間をずらすこと,例えばアンブリセンタンとタダラフィルの併用の場合,両剤を朝に服用するのではなく,どちらか一方を夕に服用することなどによって頭痛を回避できることもあります。

 

カテーテル感染

中心静脈カテーテルでは感染が大きな問題になります。感染予防のために皮下トンネル出口(カテーテル挿入部)を清潔に保つことが重要です。カテーテル挿入後1ヵ月後よりシャワーで洗い流す方法を指導します。皮下トンネル出口の発赤や腫脹,疼痛などは,抗生剤の内服もしくは静脈内投与で対応できることが多いです。

カテーテルのカフよりも中枢側の感染兆候,カテーテル留置側の肩の疼痛,発熱などは血流感染の可能性があるため,カテーテル抜去を含め,迅速な対応を必要とします。

 

甲状腺機能異常

エポプロステノールによって甲状腺機能異常が出現することがあります。動悸や息切れ,発汗,精神的なイライラ感などが出現した場合には,甲状腺機能亢進症の可能性を考える必要があります。逆に甲状腺機能低下症をきたすこともあり,それがエポプロステノール使用でよくみられる抑うつの原因である場合もあります。

 

心不全

エポプロステノール増量中に右心不全が増悪することがあります。浮腫の増悪や体重増加,食欲低下などの訴えがあるときには注意が必要です。

 

エンドセリン受容体拮抗薬

肝障害

エンドセリン受容体拮抗薬を使用するうえで最も注意が必要な副作用として,肝障害が挙げられます。ボセンタンで約10%,アンブリセンタンで0.8~3.0%の頻度で出現します。採血での肝機能検査によって診断は可能であり,薬剤減量または中止により改善することが知られています。定期的な採血検査に加えて,悪心,食欲減退などを訴える場合には肝障害の可能性を考えて肝機能を調べる必要があります。

 

体液貯留

薬剤開始後数日以内に,ボセンタンで8%,アンブリセンタンで17%に末梢浮腫が出現するとされています。利尿薬で対応できることが多いですが,心不全や腎不全を合併している症例では,体液量のコントロールに難渋することがあります。起床時の顔面浮腫,夕方の下腿浮腫,呼吸困難などの自覚症状の悪化,酸素化の悪化などに注意を要します。

 

催奇形性

エンドセリン受容体拮抗薬は催奇形性を持つため,妊娠または妊娠している可能性のある女性には禁忌となっています。避妊薬単独での避妊を避け,毎月妊娠検査を実施することとされています。

 

PDE-5阻害薬

血圧低下

PDE-5阻害薬で注意すべき副作用として血圧低下が挙げられます(MEMO3)。

とくに硝酸薬との併用では重大なイベントを伴う血圧低下を招くおそれがあり,PDE-5阻害薬と硝酸薬の併用は禁忌とされています。

 

その他

頭痛や消化不良,顔面紅潮,鼻出血などが認められることがありますが,重篤であることは少なく,対症療法で対応可能なことが多いとされています。

MEMO3ココに注意!②

慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する新規治療薬として,リオシグアト(アデムパス®)の使用が2014年4月に承認されました。可溶性グアニル酸シクラーゼを直接刺激する薬剤で,PDE-5阻害薬と共通する経路を介して効果を発揮します(図3)。副作用としては血圧低下があり,PDE-5阻害薬との併用は禁忌とされています。

 

肺動脈性肺高血圧症の治療の目標は?

図5に肺動脈性肺高血圧症に対する治療手順を示します。

図5肺動脈性高血圧症に対する治療手順(文献1より引用)

肺動脈性高血圧症に対する治療手順(文献1より引用)

ERA:エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン,ボセンタン)
PDE5Ⅰ:ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル,タダラフィル)
循環器病の診断と診療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_nakanishi_h.pdf(2014年4月閲覧)

 

重症度とエビデンスに基づき推奨される薬剤が示されています。また,リスクによって,まず単剤で治療を開始して後に追加を考慮する場合と,初期から複数薬剤を併用する場合とがあります(図6)。

図6肺動脈性高血圧症治療の流れ

肺動脈性高血圧症治療の流れ

 

最近の考え方として予後を改善するためには,息切れなどの症状や運動耐容能の改善に満足するのではなく,平均肺動脈圧などの血行動態を改善させることが必要とされています。

 

おわりに

難治性致死的疾患とされていた肺動脈性肺高血圧症の予後は,上記薬剤によって以前に比べると著しく改善してきました。しかし,それでもなおステージの進んだある種の悪性腫瘍と同程度の生存率とされています。

さらなる予後の改善のためには,たとえ薬剤の副作用があったとしても,適切な治療の導入・継続を優先することが重要な場合もあります。

肺動脈性肺高血圧症に対する医療チームは,患者が薬剤による副作用を訴えるときには,その訴えに共感を示しながらも,場合によっては叱咤激励して治療を継続することが必要となり,それが最終的にはその患者のためになることを信じて対応することが重要です。

 

 


[引用・参考文献]


[Profile]
江本憲昭(えのもと のりあき)
神戸薬科大学 臨床薬学 教授,神戸大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 戦略的客員教授
1987年 神戸大学医学部卒業。1992~97年 米国サウスウエスタンメディカルセンター留学,1997年 神戸大学医学部医学研究国際交流センター助手,神戸大学循環器内科助教,講師を経て,2008年より現職。日本肺循環学会理事,日本肺高血圧学会理事,日本高血圧学会評議員,日本内科学会認定内科医,日本循環器学会認定循環器専門医,日本高血圧専門医。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2014年6月号

P.61~「肺高血圧症」

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