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2016年01月25日

転移性脳腫瘍と近年増加している脳原発悪性リンパ腫

『BRAIN』2012年9月号<脳腫瘍にはどのような種類があるか>より抜粋。
転移性脳腫瘍脳原発悪性リンパ腫について解説します。

Point

  • がん患者で頭痛・嘔気・麻痺などの神経症状を認めたら,転移性脳腫瘍を疑います。
  • 転移性脳腫瘍には,手術,放射線療法,化学療法などの治療の組み合わせがあり,精神的なサポートを含めて病院の総合力が問われます。
  • 脳原発悪性リンパ腫は病勢が早く,早期診断・早期治療が必要です。

北井隆平
(福井大学医学部 脳脊髄神経外科 講師)

〈目次〉

 

はじめに

がんの治療成績が向上し,患者が長く生存することができるようになり,がん細胞が脳に生着する転移性脳腫瘍の頻度が増えています。

剖検では,がん患者の20~40%に転移性脳腫瘍があるともいわれています。原発巣の治療後数年経ってから転移性脳腫瘍が発見される例や,脳腫瘍が最初にみつかり,よくよく調べたら肺がんがあったということもよく経験されます。

いずれにしろ,転移性脳腫瘍が発見された時点で,どのような腫瘍でもステージⅣ(ステージ分類では最終段階)であるため,がんの根治を目指すというよりも残された生命予後を念頭に置き,いかに有意義な時間を過ごすことができるかを考えることになります。

そのためには,原発巣や他の臓器への転移の有無,転移性脳腫瘍が1つなのか(図1)複数あるのか(図2),転移した部位が外科手術で到達しやすいところなのかなど,治療を考えるポイントはいくつもあります。

図1単一の転移性脳腫瘍

単一の転移性脳腫瘍

肺がんから左前頭葉に転移した腫瘍。前頭葉症状の性格変化,認知症で発見。

 

図2複数の転移性脳腫瘍

複数の転移性脳腫瘍

肺がんからの多数の転移巣が認められます()。

転移性脳腫瘍とともに近年増加している脳腫瘍に,中枢神経原発リンパ腫(primary CNS lymphoma;PCNSL)があります。

脳にはリンパ組織がないにもかかわらず,悪性リンパ腫が発生することは奇妙なことのように思われますが,実際に中枢神経のみにリンパ腫が存在することがあります。全脳腫瘍の3.4%ほどですが,急速に進行することや認知症を合併しやすいこと,化学療法によく反応することなど,治療に特別な配慮が必要です。

 

転移性脳腫瘍

脳転移の多い腫瘍は?

日本の脳神経外科医が登録した全国統計によると,原発巣の最多は肺(51.9%),乳腺(9.3%),直腸(5.7%),腎臓(5.3%)の順です(図3)。血流に乗って腫瘍細胞が運ばれてくるので,中大脳動脈領域の灰白質と白質の境界部分に多くみられます。がんの種類によって好発する場所もあります。

図3転移性脳腫瘍の原発巣

転移性脳腫瘍の原発巣

 

頭蓋骨には乳がん,肺がん,前立腺がんや多発性骨髄腫図4)が転移し,病巣によって骨が溶けることがあります。特殊なものとして,乳がんは,髄膜がん腫症や下垂体(図5)に転移しやすい傾向があります。

図4多発性骨髄腫

多発性骨髄腫

頭蓋骨に多数の腫瘍が認められます()。

 

図5乳がんから下垂体に転移した脳腫瘍

乳がんから下垂体に転移した脳腫瘍

乳がんから下垂体へ転移しています()。

 

転移性脳腫瘍の代表的な症状と薬物治療

がん患者は原疾患による悪液質や化学療法により,頭痛や嘔気,ふらつき,食欲低下を訴えることがよくあります。そのため,転移性脳腫瘍の症状との鑑別は非常に難しくなります。訴えを注意深く聞くことは,最も大事なことです。

 

頭痛

日を追って悪化する頭痛を訴えます。腫瘍は周囲に脳浮腫を伴い,頭蓋内の圧力が上がるので,頭痛や嘔吐が出現します。脳浮腫を軽減させ,頭蓋内圧を下げるために浸透圧利尿剤(グリセオール,マンニトール)やステロイド剤の投与を行います。

 

けいれん発作

腫瘍によってけいれん発作が起きやすくなります。転移性脳腫瘍から出血したときにも発作が起きることがあるため,注意が必要です。

けいれんの後に一時的に麻痺が出現し,数時間から36時間(平均15時間)の後に回復する「トッドの麻痺」で驚くことがあります。けいれん後に脳ヘルニアが進行し,意識状態が悪化することもよく経験します。内服ができない場合でも,静脈投与できる抗けいれん剤(アレビアチン,ホストイン,ノーベルバールなど)があります。

 

精神症状,麻痺,言語障害,視力障害,めまい

優位半球前頭葉に腫瘍があると,認知症状や精神症状が出現します(図1の症例参照)。

運動野の中心前回やその近くに腫瘍があると,反対側に麻痺が生じます。

言語野(ブローカ野,前頭回の弁蓋部と三角部,ウェルニッケ野,上側頭回)に腫瘍があり,機能障害があると,言葉がわかっても出ない(運動失語),理解できない(感覚失語)という症状が生じます。

一次視覚野の後頭葉や視神経周囲に腫瘍があると,視力・視野障害をきたします。

小脳・脳幹など後頭蓋窩に腫瘍があると,めまいが生じることが多くなります(図2の症例参照)。

腫瘍の存在部位がそのまま症状を出すことが多く(巣症状),脳の機能局在と腫瘍の存在部位が一致します。

 

複視,顔面神経麻痺,構音障害

脳神経症状もしばしばみられます。神経核が存在する脳幹の症状であることもありますが,脳神経が通っている脳脊髄腔への腫瘍細胞の広がり(髄膜がん腫症)も考えなければなりません。

 

意識障害,錯乱,抑うつ状態

脳ヘルニアによる意識障害や,脳幹への転移,水頭症や頭蓋内圧上昇による意識障害や錯乱が生じます。

これらの症状は,がんの悪液質による電解質異常や,モルヒネなどの鎮痛性麻薬の影響であることもあります。がんの再発・転移の告知や環境の変化から抑うつ状態になり,精神的なケアが必要になることもあります。がん治療チームに精神科医師が積極的に関与している施設もあります(リエゾン精神医療)。

 

転移性脳腫瘍の予後の考え方と治療選択

転移性脳腫瘍の治療を考えるうえで生命予後の見積もりが必要ですが,これは大変難しい仕事です。

脳以外のがん病巣の状態から予後が3か月以内と見積もられる場合,脳外科手術などの積極的な治療は見送られることが多いようです。予後が6か月以上と考えられる場合はQOLを向上する治療戦略を立てます。日本での統計(表1)や米国での検討(表2)を参考にしますが,原疾患の治療医との議論が最も重要です。

表1日本の転移性脳腫瘍の治療成績(1981~2000年)

日本の転移性脳腫瘍の治療成績(1981~2000年)

 

表2転移性脳腫瘍の段階的予後評価(米国症例)

転移性脳腫瘍の段階的予後評価(米国症例)

 

摘出手術

摘出手術を行う症例には条件があります。原発巣が十分にコントロールされていて,単発性あるいは2~3個の病変で,全身状態がよく,手術で重篤な後遺症を残さない部位にある症例が対象です(図1の症例など)。

 

放射線治療

摘出手術後に全脳照射がよく行われます。

しかし,全脳照射では70%以上の症例で認知症状の出現があるといわれ,最近では局所に集中的に放射線を照射する「定位的放射線療法(ガンマナイフ,サイバーナイフなど)」を選択する施設が多くなっています。症例によっては定位的放射線療法のみで治療することもあります。

とくに大きさが3 cm以下の小さい病巣で数個以内であるときに,1日で終了できる有力な治療法です。米国のガイドラインでは病巣が4つ以上は全脳照射とされていますが,日本では数多くの転移巣でも定位的放射線療法が選択されているようです。小さいものでは,摘出手術に比べて遜色のない治療成績が得られています。

 

化学療法

原発巣に効果のある薬剤を用います。全身の転移巣に対して効果があり,脳転移巣にも効果を示します。

 

転移性脳腫瘍の治療上の問題点

転移性脳腫瘍であることを告知することが最大の問題です。患者は脳転移が判明した時点で末期状態であるため,患者の精神的なショックは避けようがありません。

しかし,告知なしに治療することも不可能です。転移性脳腫瘍の治療には,脳神経外科医と原発巣の治療担当医,放射線や化学療法の担当医など,複数の医師が関与しています。医師間の説明に齟齬がないように,事前に十分な議論が必要です。

バッドニュースの伝え方は習熟が必要で,とくに,「時(医療者間の時間調整)」,「場所(静穏な環境)」,「人(キーパーソンや家族の同席)」,「物(わかりやすい説明装置)」に対する配慮を要します。

これらのコーディネートを看護師が担当することが望ましく,患者の告知の希望や真の不安を的確に治療医に伝えるなど,看護師の役割は大きいと考えます。

治療機会がほとんどない転移性脳腫瘍で発見された場合や,転移性脳腫瘍で発見され,その後に思いもしない原発巣がみつかる場合などは多数の科に相談する必要があり,まさに病院の総合力が問われる疾患でもあります。

患者は日々できないことが増えていき,リハビリの甲斐もなくゴール(死)を迎えるわけであり,在宅や担がん患者を支える家族ケアなど,看護支援の機会は多くあるといえましょう。

 

脳原発悪性リンパ腫

脳原発悪性リンパ腫の好発年齢および合併疾患の特徴

一般には高齢者に多いとされます。AIDS患者では健常成人に比べて,1600~3200倍発生率が高く,AIDS以外の免疫不全疾患(腎移植患者やステロイド治療中の患者など)でも頻度が高いようです。若年者において中枢神経原発リンパ腫がみつかるとAIDSを疑えというのは,現代では常識です。

 

脳原発悪性リンパ腫の症状

症状は転移性脳腫瘍と同様で,発生した部位の局所症状が生じます。性格の変化や見当識障害,活動性の低下など,認知症状が多いようです。片方の目の視力が低下する「ブドウ膜炎(眼内リンパ腫)」も5~20%に合併します。いったん症状が出現すれば,数日から数週間で急速に進行するため,治療は急がなくてはなりません。

 

脳原発悪性リンパ腫の画像の特徴と検査法

悪性リンパ腫は脳のどこにでも発生しますが,とくに脳室近傍にできることが多いようです。

CTでは,細胞密度が多いのでやや高吸収(白い),造影すると均一に強く造影されます。MRIでは,T1強調画像で等~低信号,T2強調画像やFLAIR画像では高信号,造影画像で均一に造影されます。造影された所見をみると,腫瘍の境界が滲んでみえ,「コットンボール状(綿のよう)」と記載されます(図6)。

図6悪性リンパ腫

悪性リンパ腫

脳室周囲に腫瘍(両側)が認められます()。認知症で発症しました。

AIDSに合併する場合は半数がリング状に造影され,グリオブラストーマや脳膿瘍のようにみえます。多発性の頻度は一般に25~50%ですが,免疫抑制状態の患者は60~85%が多発性です。

特殊な形態として,血管内で腫瘍が増え,脳梗塞が起きて,脳血栓として治療をされたり(血管内B細胞性リンパ腫:intravascular B-cell lymphoma),脳全体に広範囲に浸潤し(lymphomatosis cerebri),認知症状からアルツハイマー型認知症と間違えられたりすることがあります。

正確な診断が必要であるため,画像で疑われれば病理組織を採取して,診断を確定します。

 

脳原発悪性リンパ腫の治療と予後

治療を行わなければ平均生存期間は1~3か月です。治療を行うと,非AIDS患者では18.9か月,AIDS患者では2.6か月です。

ステロイドを投与するとすみやかに腫瘍は消失します。生検前のステロイド投与は正診率を下げるので注意が必要です。ステロイド治療のみではすぐに再発します。病理診断確定後,高用量のメトトレキサートを含んだ化学療法を行います。放射線療法(30~45 Gy)は,議論がありますが追加することが多いようです。

脳原発悪性リンパ腫は高齢者に発症し,認知症も併発するため,治療を完遂することがなかなかできないのも事実です。それでも,最近の治療成績は5年生存率20.7%と,改善しつつあります。

脳原発といえどもリンパ腫という血液疾患であるため,最新の分子標的薬の使用など,化学療法に習熟した血液腫瘍内科が治療することもよいアイデアです。

 

 


[引用・参考文献]

  • (1)日本脳神経外科学会・日本病理学会(編):臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 臨床と病理カラーアトラス(第3版).金原出版,pp264-266,2010.
  • (2)田村 晃ほか(編):EBMに基づく脳神経外科疾患の基本治療指針(改訂第3版).メジカルビュー社,pp175-184,2010.
  • (3)小林浩之:専門医に求められる最新の知識 脳腫瘍 中枢神経原発悪性リンパ腫の臨床.脳神経外科速報,22:560-568,2012.
  • (4)竹内浩明ほか:第2章 各論Ⅰ脳腫瘍 B各論11 造血器系腫瘍.久保田紀彦(監修)/佐藤一史(編):脳神経外科アドバンス,診断と治療社,pp176-183,2008.

[Profile]
北井隆平(きたい りゅうへい)
1964年 生まれ。1990年 福井医科大学医学部卒業。米国モンテフィオーレメディカルセンターなどを経て,現在は福井大学医学部 脳脊髄神経外科 講師。専門は脳腫瘍。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2012 医学出版
[出典]BRAIN 2012年9月号

BRAIN 2012年9月号

P.834~「転移性脳腫瘍と近年増加している脳原発悪性リンパ腫」

著作権について

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