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2016年01月02日

薬剤による心電図変化|各疾患の心電図の特徴(11)

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、薬剤による心電図変化について解説します。

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈前回〉

電解質異常の心電図|各疾患の心電図(10)

 

〈目次〉

 

どんな薬剤が心臓に影響するか

心臓に影響を与える薬剤は大きく3つに分けます。

  • 心臓を興奮させる薬剤
  • 心臓を抑制する薬剤
  • 抗不整脈薬・その他

以上の3分類です。

 

心臓の興奮・抑制とは何か

改めてここで心臓の興奮と抑制について自律神経の関連で勉強しましょう。

リラックスしているときや眠っているときは、脈がゆっくりで、逆に緊張しているときや運動しているときは、脈が速くなっています。このことは経験として理解できますね。この調整は自律神経が行っています。

自律神経とは、文字どおり自ら律する神経で、身体の要求に応えてその機能を発揮します。循環を強化するほうと、弱めるほうの反対の仕事をする2種類の神経があり、強化するのは交感神経、弱めるのは迷走神経副交感神経)といいます。

いずれも心臓全体に分布していますが、とくに洞結節と房室結節にたくさんの神経末端をもっています。この両系統の神経は、正反対つまり、興奮と抑制という作用で、お互いバランスをとります。

具体的には、交感神経は循環の強化ですから、血圧を上げて、体温を上げて、心臓の収縮力を強めて、心拍数を上げます。これは、攻撃態勢に入るための神経です。逆に、迷走神経は循環を弱める神経ですから、血圧を下げ、体温を下げて、心臓の収縮力を弱め、心拍数を下げます。

刺激伝導系への作用を詳しくみると、交感神経は、洞結節の刺激発生頻度を上げて、心拍数を上げるとともに、房室結節の伝導速度を上げかつ不応期を短くします。つまり房室間の興奮が通りやすくなります。このため心房細動など上室性頻脈の場合に心室への興奮伝導が促進されて心拍数が上昇します。

これに対して、迷走神経は、洞結節の刺激発生頻度を低下し心拍数を下げるとともに、房室結節の伝導速度を下げ、不応期を長くして、房室間の通りを悪くして、心房細動などでは心拍数を減少させます。

少々難しいことを説明しますと、交感神経が心臓に接合している神経末端からは、アドレナリンというホルモンが、そして迷走神経からはアセチルコリンが放出されることによって作用を発現します。また、アドレナリン副腎というところから全身に分泌されるホルモンでもあります。

皆さんの身体で考えてみましょう。

人前で発表があるとしましょう。いままさに開始という直前は、身体の活動状態はピークに達し、交感神経がマックスに亢進して、その心臓接合の末端からアドレナリンが大量に放出されます。また副腎からもアドレナリンが分泌されます。

洞結節は刺激発生が増えて心拍数は上昇、収縮力は増して、血圧はぐんぐん上がります。つまりドキドキ状態になります。これが交感神経亢進状態です。

発表が終わり、苦労を分かち合った友人とお茶でも飲んでリラックスすると、交感神経の活動が低下して、迷走神経が優位になります。アセチルコリンの作用で、洞結節の信号発生もゆっくりになって、心拍数は低下、血圧も下がり、ほっとした気分になりますね。

薬の話をしますと、このアドレナリンの作用をブロックするのがβ遮断薬、アセチルコリンの作用をブロックするのがアトロピンです。

β遮断薬は、交感神経を抑えるので、結果的に迷走神経が優位になり、逆にアトロピンは、迷走神経を抑えるので交感神経の作用が優位になります。ややこしいので表にしましょう(表1)。

表1自律神経の作用

 

心臓を興奮させる薬剤とその心電図所見は

アドレナリン作用の薬剤、ドパミン(イノバン、プレドパ、カタボンなど)、ドブタミン(ドブトレックス)などは、洞頻脈や心房細動に作用すれば心拍数上昇をきたします。また、心臓全体が興奮して不安定になっていますので、期外収縮を発生しやすく、心房細動、状態によっては心室頻拍や心室細動に至る場合もあります。

間接的にアドレナリン作用を増強するような薬剤であるミルリノン(ミルリーラ)なども同じ作用があります。さらにはテオフィリン製剤(ネオフィリン)にも同様の作用があるので注意しましょう。

いずれもさまざまな治療目的に投与する薬剤ですが、頻脈や期外収縮、場合によっては重症不整脈を誘発することがあるので、開始時、増量時には注意しましょう。

迷走神経のアセチルコリンを抑えることで、相対的に交感神経を優位にする薬剤を抗コリン薬といい、アトロピンはこの作用を有します。したがってアトロピンによって頻脈となります。同様にブチルスコポラミンにも抗コリン作用があります。抗コリン薬は、アドレナリン製剤ほど重症な不整脈をきたすことはありません。

 

心臓を抑制する薬剤とその心電図所見は

β遮断薬(プロプラノロール、アテノロール、カルベジロールなど)でアドレナリン作用をブロックすると、洞結節の興奮発生頻度が低下し、房室間の伝導が抑制されます。洞調律では洞性徐脈傾向となり、心房細動では房室間の興奮通過頻度が減って、心拍数が低下します。

β遮断薬は、抗不整脈薬でもあり、上室性、心室性不整脈の治療に使うことがあります。これは心筋の興奮を抑制することで不整脈を抑えています。

アドレナリンではなく、カルシウムチャンネル受容体を抑えることで、洞結節、房室伝導を抑制する薬剤がベラパミル(ワソラン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)です。

ジギタリス(ジゴシン、セジラニドなど)は、少し特殊で、心房筋、心室筋は興奮させる方向つまり強心剤として作用しますが、洞結節、房室伝導は抑制します。よって、洞性徐脈、房室伝導低下による心房細動時の心拍数低下をきたします。

しかし、上室性不整脈、心室性不整脈は出現しやすくなります。ジギタリスは、少なすぎると効果がなく、多すぎると副作用が出やすい、つまり治療域が狭いやっかいな薬です。そのため、血中濃度をモニタリングしながら使用します。

これら、刺激伝導系を抑制する薬では、洞性徐脈、房室伝導障害(ブロック)つまり徐脈に注意が必要です。

PQ間隔延長、QT間隔短縮とともに、ST‒T変化が特徴的で、STの低下と陰性T波が見られます。典型的にはP波から連なるような、下に凸の緩やかなST低下と陰性T波が見られ、盆状のST低下と称されています。

 

ジギタリス効果

ジギタリス製剤は、心拍コントロール、強心剤として投与されますが、ST–T変化を含め、心電図変化をきたす薬剤

 

抗不整脈薬とその心電図所見は

本来は不整脈の治療薬ですが、心臓の興奮伝導に影響する薬剤ですから、逆に思いもよらない不整脈を誘発することがあります。これを催不整脈作用といいます。

とくに心筋活動電位持続時間(心筋が脱分極している時間)を延長させる薬剤、具体的にはジソピラミド(リスモダン)、プロカインアミド(アミサリン)、シベンゾリン(シベノール)、アミオダロン(アンカロン)は、QT時間を延長させる作用があります。

QT間隔とは、QRS波の始まりからT波の終了までの時間で、心室筋の活動電位持続時間を反映します。QT間隔は、心拍数に影響を受けて心拍数の低下によってQT間隔は延長します。詳細は他書に譲りますが、RR間隔の中央より延長していれば、QT間隔延長と考えてよいでしょう。QT間隔が延長すると、原因がなんであれトルサード・ド・ポアンツという、極性が捻じれるように変化する多形性心室頻拍や心室細動を誘発することがあり、十分注意しましょう。

まれですが、抗うつ薬、一部の抗生剤、抗アレルギー剤でもQT間隔延長をきたすことがあります。

 

まとめ

  • 心臓を興奮させる薬剤:頻脈性不整脈に注意
  • 心臓を抑制する薬剤:徐脈性不整脈に注意
  • 抗不整脈薬:催不整脈作用、QT間隔延長に注意

 

〈次回〉

甲状腺機能異常の心電図|各疾患の心電図の特徴(12)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

著作権について

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