受容体と細胞内情報伝達系(2)|細胞の基本機能

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

受容体と細胞内情報伝達系(1)|細胞の基本機能

 

今回は、受容体と細胞内情報伝達系についての解説の2回目です。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • Gタンパク質はα、β、γの3つのサブユニットから構成されている。
    Gタンパク質はGαの相違によりGs、Gi、Gqの3つのタイプに分けられる。
  • GsとGiが共役する効果器はアデニル酸シクラーゼであるが、Gsは効果器(AC)を活性化する。一方Giは効果器(AC)を抑制する。
  • アデニル酸シクラーゼは、細胞内ATPからサイクリックAMP(cAMP)を生成する酵素である。
  • cAMPは、Gsタンパク質共役型受容体の細胞内情報伝達物質(second messengerとよばれる)である。
  • cAMPは、プロテインキナーゼ(PKA)を活性化することによって、ある種のタンパク質をリン酸化し生理反応(例えば心筋収縮力増大、心拍数増加)を発揮する。
  • Gqタンパク質共役型受容体の効果器(ホスホリパ ーゼC;PLC)は、細胞膜に微量存在するホスファチジルイノシトール4,5二リン酸(PIP2)をイノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)に分解する。
  • IP3は、小胞体からCa2+を放出させ、生理機能(例えば血管平滑筋収縮)を発揮する。

 

〈目次〉

 

アデニル酸シクラーゼ 〔 adenylatecyclase:AC 〕 による調節

アデニル酸シクラーゼの活性系

Gsと共役している受容体(Rs、β受容体等)に情報伝達物質(ノルアドレナリン、アドレナリン等)が結合すると、Gα(Gsαともよぶ)でGTP-GDP交換反応が起こり、Gタンパク質が活性化され、GsαとGβγが解離する。

 

GTPを結合したGsαはACを活性化させる。活性化されたACは、細胞内に豊富に存在するATPからサイクリックAMP(cyclicAMP:cAMP〔アデノシン3',5'-リン酸〕)の産生を促進する(図2参照)。

 

アデニル酸シクラーゼの抑制系

Giと共役している受容体(Ri、M2受容体等)に情報伝達物質(アセチルコリン等)が結合すると、Gα(Giαともよぶ)でGTP-GDP交換反応が起こり、Gタンパク質が活性化され、GiαとGβγが解離する。GTPを結合したGiαは、ACに抑制をかける。抑制されたACは、ATPからcAMPの産生を抑制する(図2参照)。

 

イオンチャネル内蔵型受容体

イオンチャネル内蔵型受容体は、受容体(NN、NM受容体等)がイオンチャネルを形成していて、情報伝達物質(ニコチンやアセチルコリン)が結合することによってイオンチャネルが開き、イオンの移動が起こる(図1)。

 

図1細胞機能を調節するシグナル伝達の基本形

細胞機能を調節するシグナル伝達の基本形

 

アゴニストが受容体に結合して反応がはじまる。多くのアゴニストはGタンパク質と共役した膜受容体に結合し、Gタンパク質を介して効果器となる酵素を活性化する。Gタンパク質を介さないものもある。イン スリンなどはチロシンキナーゼ活性をもつ受容体に結合する。キナーゼは標的タンパク質をリン酸化して生理的作用をもたらす。
NO:一酸化窒素。IP3:イノシトール三リン酸。DAG:ジアシルグリセロール。

 

例えば、自律神経節にはNN受容体があり、骨格筋細胞膜上にはNM受容体がある。この受容体にニコチンやアセチルコリンが結合すると、Naチャネルが開きNaが細胞内に流入することによって脱分極が起こる。これが閾値に達すると活動電位が発生し、節後線維に電気的情報を伝えたり、骨格筋を収縮させることになる。

 

一方、GABAA受容体等にGABAが結合するとClチャネルが開く。すると細胞外に多く存在するClは細胞内に流入する。細胞内にマイナスイオンが多く流入することになるので、細胞内の膜電位は下がる(過分極)ため、細胞は興奮しにくくなる。すなわちその細胞は抑制される。

 

チロシンキナーゼ連鎖型受容体の活性化と機能調節

インスリンや多くのホルモンサイトカイン、増殖因子がチロシンキナーゼ活性化に関連した受容体に作用し、タンパク質のチロシンをリン酸化することによって機能を発揮する(図1)。 

 

サイクリックAMP(cAMP)を介する調節

cAMPは細胞内の情報伝達物質で、セカンドメッセンジャーともよばれる。細胞内でcAMPはcAMP依存性のタンパクリン酸化酵素であるプロテインキナーゼA(protein kinaseA:PKA)を活性化してタンパク質をリン酸化し、生理機能を発揮する。

 

例えば心筋細胞内cAMP濃度が増加すると、心拍数や心筋の収縮力が増大する。cAMPは、加水分解酵素であるホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase:PDE)によって間もなく生理効果のない5'-AMPに分解される。

 

したがって、ACの活性化またはPDEを阻害することによって細胞内cAMP濃度は増加する(図2)。タンパク質をリン酸化する酵素をプロテインキナーゼ(protein kinase:PK)とよぶ。

 

図2Gタンパク質とサイクリックAMPによる調節

Gタンパク質とサイクリックAMPによる調節?

 

Rs:促進性受容体、Ri:抑制性受容体、Gs: 促進性Gタンパク質、Gi:抑制性Gタンパク質、AC:アデニル酸シクラーゼ、PDE: ホスホジエステラーゼ、PKA:プロテイン キナーゼA。

 

促進性アゴニストがRsに結合するとGsの αサブユニットでGTPとGDPの交換が起こり、サブユニットは解離する。Gsαはアデ ニル酸シクラーゼを活性化させる。

 

抑制性アゴニストはRiに結合し、Giを活性化させ、GTP-GDP交換反応で生じたGiαは、 Gsαと拮抗的にACを抑制する。活性化されたACはATPよりcAMPを生成する。cAMPはPDEで分解される。cAMPはPKAを活性化する。活性化されたPKAはタンパク質をリン酸化して生理効果を発現する。

 

(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.14、文光堂、2003より改変)

 

ホスホリパーゼCを介する調節

細胞膜の受容体(Rq、M1、M3受容体等)に情報伝達物質(アセチルコリン等)が結合するとGqタンパク質が活性化され、GqαでGTP-GDP交換反応が起こり、GqαがGβγから解離する。GTPを結合したGqαホスホリパーゼC(phospholipase C:PLC)を活性化させる。

 

活性化したPLCは、細胞膜に微量存在するホスファチジルイノシトール4,5二リン酸(phosphatidylinositol-4,5-diphospate:PIP2)を加水分解して、イノシトール三リン酸(inositol-triphosphate:IP3)とジアシルグリセロール(diacylglycerol:DAG)を生成する。

 

IP3はセカンドメッセンジャーの1つで、産生されたIP3は細胞質内を拡散し、小胞体のIP3受容体に結合する。すると、受容体に内在するチャネルを介してCa2+を放出させる。

 

このCa2+が生理機能を発揮する。IP3は脱リン酸化を受けてイノシトールに分解される。ジアシルグリセロールはプロテインキナーゼC(Cキナーゼ、PKC)を活性化する(図3)。CキナーゼもAキナーゼと同様に、多くのタンパク質をリン酸化して機能を修飾する。

 

図3イノシトール三リン酸とプロテインキナーゼCによる調節

イノシトール三リン酸とプロテインキナーゼCによる調節

 

PLC:ホスホリパーゼC、DAG:ジアシルグリセ ロール、PKC:プロテインキナーゼC。

 

リガンドがレセプター(R)に結合すると、Gタンパク質(G)を介してPLCを活性化する。この図では、Gタンパク質はサブユニットに分けずに 示されている。PLCはPIP2に作用しIP3とDAGを 生ずる。

 

IP3は小胞体のIP3受容体(IP3R)からの Ca2+を放出させる。Ca2+はCa2+結合タンパクに 結合し、一方、DAGはPKCを活性化させて機能タンパク質をリン酸化して、生理効果をもたらす。

 

(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.15、文光堂、2003より改変)

 

[次回]

筋の収縮のメカニズム|骨格筋の機能

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

新訂版 図解ワンポイント 生理学

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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