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2016年01月16日

がん細胞と免疫・胎児と免疫|身体を守る免疫系のはたらき(4)

ナースのための解剖生理の解説書『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』より
今回は、身体を守る免疫系のはたらきから解剖生理を理解するお話の4回目です。

〈前回の内容〉

後天的な免疫の防御機能|身体を守る免疫系のはたらき(3)

前回は、2種類ある免疫のうち、後天的な免疫の防御機能である特異的防御機構について学びました。

今回は、がん細胞と免疫の関係、胎児と免疫の関係について解説します。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

〈目次〉

 

がん細胞と免疫

「自己」から「非自己」へ

免疫系は、基本的には「非自己」を排除しようとするはたらきです。しかし、最近の研究では、がん細胞のような「自己」の細胞に由来するもの、つまり身体の中から発生する変質した「自己」まで攻撃することがわかってきています。

がん細胞は細胞分裂の際の遺伝子のコピーミスにより生じます。ノーベル医学・生理学賞を受賞したフランク・バーネットらの研究によると、人間の身体の中では、がん細胞が一日あたり約3,000個発生しているといいます。しかし、がん細胞が発生したからといって、すぐにがんになったとはいいません。がんになるというのはがん細胞が増殖し、その集団が目で見えたり、手で触れたり、あるいはX線などの検査で見えてくる状態を指すからです。

バーネットの計算が正しいとすれば、一人の人間がもっているがん細胞は1日3,000個、寿命を80年とすると、9,000万個近く(3,000個×365日×80年=87,600,000個)にもなります。しかし、これほど多くのがん細胞が発生しているからといって、誰もががんに罹るわけではありません。それは、毎日多数発生しているがん細胞に対し、発病する前に免疫がはたらき、がん細胞を攻撃し排除するはたらきがあるからです。

 

NK細胞のはたらき

がん細胞と免疫機能のはたらきを語るうえで、1970年代に発見されたNK(ナチュラルキラー)細胞は重要な細胞です。

NK細胞とは、血液やリンパの中を巡回しているユニークな防御細胞です。常に体内をパトロールしているため、本格的な免疫系が反応して機能を発揮するよりもずっと早く、がん細胞やウイルスに感染した細胞を見つけて破壊することができます。

免疫系ではたらくリンパ球は、ある特定のウイルスに感染した細胞や特定の病原体しか認識して反応することができません。しかし、NK細胞は、ウイルスやがん細胞の種類にかかわらず細胞を認識して殺すことができます。

マクロファージなどが産生するサイトカイン(細胞間情報伝達・制御物質)によって元気づけられたNK細胞は、通常は体内をくまなくパトロールしながら、がん細胞など自己の変質した細胞を見つけては、攻撃・殺傷・排除しているというわけです。

 

さまざまな免疫療法

具体的に免疫療法というと、大きく次の3つになります。

①自然免疫や獲得免疫を利用する療法

②免疫力を担っている白血球や抗体を利用する療法

③がん細胞を攻撃する白血球や抗体を身体の中に増やす療法

ここでは「がん免疫療法」に限定して話していきたいと思います。

私たちの体内では常にがん細胞が発生しています。しかし、がん細胞を排除する免疫力が正常にはたらいていれば、変質した自己の細胞は随時体内から排除され、がんの発病には至りません。がんの増殖が、免疫細胞による排除力を上回ってしまうとがんが病変として発症してしまうのです。

現在、がんに対しての治療として主流なのは、「手術療法」「化学療法」「放射線療法」の3つで、それぞれの療法が単独あるいは併用で行われています。しかし、このがんの三大治療法は、すべてがんを外的な力で取り除こうとする方法です。

しかし、これらの療法はどれも副作用が強く、患者にとってはつらく過酷なものです。何よりもこれら療法自体が免疫力(自然治癒力)を極端に弱めるものとして、その限界も明らかになりつつあります。

放射線療法ではがん細胞のみに照射しようと努力していますが難しく、また、抗がん剤は自分の細胞とがん細胞をきちんと区別はできないので(抗がん剤は、がん細胞は正常の細胞より分裂が早いということを利用して開発されてはいますが)、免疫細胞も同時に殺してしまい、白血球の極端な減少をまねいてしまいます。

そんななか、最近では、副作用がないか、もしくは少ない第4の療法としての「免疫療法」が注目を集めています。

今までお話してきたように、ヒトは本来、病気やけがに対して自分で治そうとする自然治癒力(免疫力)をもっています。白血球の中でもリンパ球がその免疫機能の中心としての役割を果たしており、リンパ球の病気に対する攻撃力が強いほどがんになりにくい、あるいはがんに対する抵抗力が強いということになります。

そして、この人体の免疫システムに着目し、免疫機能を高めることによってがんを治療しようとするのが「免疫療法」です。

免疫療法には次のような種類があります。

 

①健康食品による免疫療法

今、はやりのプロポリスやアガリスク、舞茸などのキノコ類、ハチミツ類、ハーブ類。

 

②心理療法による免疫療法

精神的サポートによる療法です。病気に対して精神的に前向きに生活する、「生きがい」をもつ、あるいは「笑う」ことなど、心理的要因が免疫系の状態に影響を与えることは確かで、これについても最近は心理免疫学という分野がスタートし、学問的に研究されています。

 

③薬剤による免疫療法

免疫調節または刺激物質、各種サイトカインなどがありますが、生体の免疫を刺激するのには限度があります。また、特定のがんにしか適用できないという問題もあります。BCGその他の菌体成分の注射、あるいは他人のリンパ球の移入など、医療として行われるものもありますが、一部は民間療法です。

 

④免疫細胞による免疫療法

自分のリンパ球を取り出し、外部で培養・活性化させて再び点滴で体内に戻し、がん細胞を殺そうとする療法です。副作用が少なく、現在、いろいろな変法が考案され実施されつつあります。

 

胎児と免疫

母親の免疫系は胎児を非自己と認識する

体内に異物が侵入すると免疫系が感知し、それを排除しようとすることで外敵から生体を守っています。臓器移植を行い、別の個体の臓器に対して生体は拒絶反応を起こしてしまいます。この拒絶反応は親子ですら起ってしまうのに、なぜ胎児に対しては拒絶反応が起らないのでしょうか?

胎児は父親と母親それぞれに由来する遺伝子を受け継いでいるので、母親にとっては非自己になります。実際、妊娠中の母体の血液中には、胎児がもっている父親由来のHLAに対する抗体が検出されます。

マウスを使った実験では、妊娠マウスに父親の皮膚を移植すると、移植された皮膚は拒絶されます。このように、妊娠中でも母親の免疫系は父親由来の非自己を認識しているのです。

しかし、受精卵が子宮壁に着床すると母親の免疫系に影響を及ぼす何らかのシステムが誘発されるため、胎児を排除しないで、10カ月もの間、胎内で育てることができるのです。

このような現象を免疫寛容といいます。

 

母親(自己)と胎児(非自己)の接点である胎盤

妊婦は胎盤を通して胎児と接しています。その胎児は羊水で満たされた卵膜の中で浮かんでいます。卵膜の一番外側は母親由来の脱落膜で、その内側には胎児由来の絨毛膜と羊膜が順番に接してできています。胎児の血液は臍帯を通って胎盤に達し、胎児由来の絨毛膜を介してガス交換などを行っています。しかし、この絨毛膜を介して胎児と母親の血液は混ざりあうことはありません。胎盤が免疫バリアとなっているからかもしれません。

絨毛膜は母親と父親の両方の遺伝子を発現するので、母親由来の脱落膜と胎児由来の絨毛膜の両方で何らかのバリアに「穴」ができると、母親は非自己である胎児の細胞と出会う可能性が高くなります。しかし、絨毛膜において胎児の抗原性の発現が弱く、母体の免疫系に非自己として認識されないからかもしれません。

2012年、マウスを用いた実験で、妊娠マウスの脱落膜内では炎症部位へ免疫細胞を導くための遺伝子が不活性になることが、ニューヨーク大学ランゴーン医療センターの研究チームによって発見されました。そのため、T細胞は脱落膜に蓄積することができず、胎児や胎盤を攻撃することはありません。具体的には、受精卵が着床すると、発達中の脱落膜間質細胞の遺伝子に変化がおき、T細胞が誘引されなくなるようです。このように後天的に遺伝子の発現が修正されることで、脱落膜に部分的な免疫不全が起るのだといわれています。この機能が正常にはたらかないと、免疫細胞が胎児と母体の境界へと集まり、早産、流産、子癇などを含むさまざまな合併症の原因となるとされています。

 

胎児から新生児にかけての免疫

すべての人間が共通して、生命の危機に直面する瞬間とはいつでしょう?

それは母親の胎内から「オギャー」っと生まれ出た瞬間です。この時、免疫機能がほとんど発達していない状態で突然、さまざまな外界の刺激にさらされてしまうからです。

しかし、実はこの生命の危機に対応するため、私たちは生まれる前に母親から抗体をもらっています(図1)。

図1母子間の免疫

母子間の免疫

 

また、生後母乳から母親の抗体を摂取したりしています。そして、生後6ヵ月ころになると、ようやく自分自身の抗体や感作リンパ球をつくり出すことができるようになるのです。

ですから、実際には生まれてすぐの新生児が病気にかかることはほとんどなく、発熱などの症状が出やすいのは、生後6カ月の前後、つまり、母親からもらう抗体が次第に減って、自分自身の体内で抗体をつくり出すバトンタッチの期間ということになります。

その後、赤ちゃんは病気に見舞われながらも徐々に免疫力を高めていき、10歳前後になると一人前の免疫力をつけることができます(図2)。

図2ヒトの胎児期および生後の抗体量の変化

ヒトの胎児期および生後の抗体量の変化

 

〈次回〉

免疫異常のしくみ|身体を守る免疫系のはたらき(5)


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典] 『身体のしくみとはたらき』 (編著)増田敦子/2015年3月刊行/ サイオ出版

参考文献

著作権について

この連載

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