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2016年01月07日

先天的な免疫の防御機能|身体を守る免疫系のはたらき(2)

ナースのための解剖生理の解説書『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』より
今回は、身体を守る免疫系のはたらきから解剖生理を理解するお話の2回目です。

〈前回の内容〉

病原体から身体を守る免疫|身体を守る免疫系のはたらき(1)

前回は、病原体から身体を守る免疫について学びました。

今回は、2種類ある免疫のうち、先天的な免疫の防御機能である非特異的防御機構について解説します。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

〈目次〉

 

生体表面のバリア

皮膚のバリア

広い意味での免疫には、生体表面の機械的なバリアも含まれます(図1)。

図1生体のバリア

生体のバリア

 

皮膚はその厚い細胞層で多くの微生物の侵入を阻止しています。ですから、皮膚を清潔に保ち、体表にうようよいる微生物が生体に入ることがないよう注意するのは、看護の重要な役割でもあります。

また、アカ(垢)として剥離し続ける角化表皮細胞は、付着する微生物や有害化学物質を排除するのにきわめて有効です。

皮膚の表面は分泌された皮脂により通常、弱酸性(pH4.5~6.6)に保たれています。弱酸性であることは、ヒトも含む生物は弱アルカリ性を好むので微生物の増殖を抑制する効果があります。

一方、一般的に使われている石鹸は皮脂を除去して皮膚の新陳代謝を高めますが、多くはアルカリ性であり、皮膚に残ると掻痒感や発赤も生じることがあります。石鹸を付けて清拭した後にはしっかり拭き取って石鹸分を除去し、皮膚のpHを前の状態に近くすることが重要です。

 

memo塩酸で死なないピロリ菌

の内部は胃液に含まれる塩酸により強酸性となっているため、細菌が生息できない環境とされていました。しかし、ピロリ菌、正確名称ヘリコバクター・ピロリはウレアーゼという酵素を生成し、この酵素で胃液内の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、このアンモニアで胃酸を中和するので胃に生息し、胃潰瘍を起こすとされています。

ヘリコバクター・ピロリの「ヘリコ」はらせん形を意味する「ヘリコイド」に由来しています。ヘリコプターのヘリコもらせん状に舞い上がるからでしょうか。「バクター」は細菌を意味する「バクテリア」のことです。「ピロリ」は胃の出口である幽門のことを指す「ピロルス」からきており、多くがそのあたりで発見されることから名付けられました。ですから、ピロリ菌の語源は幽門にいるらせん形の細菌からきています。いずれにしてもピロリ菌とはかわいい名前ですね。でも、胃潰瘍から胃がんになることもあるので、実は恐い細菌です。ですから、名前だけで判断するのは禁物ですね。

 

粘膜のバリア

生体内でこうした皮膚と同じようなはたらきをしているのが粘膜です。以前、ヒトの消化器官というのは一本のチューブのようなものだとお話しました。言ってみれば、このチューブの中というのは、生体にとっては「外」の世界です。食物を摂取するということは、さまざまな細菌や雑菌を同時に取り込む危険性をはらんでいるので、こうしたチューブの表面を粘膜で覆うことによって不必要な異物がからだの「中」の世界(血液中)にまで入ってこないように未然に防いでいるのです。

消化管だけでなく、外界と通じている生体内のあらゆる器官、たとえば呼吸器、泌尿器、生殖器などの表面がすべて粘膜に覆われているのも同じ理由です。

 

memo女性に多い膀胱炎

尿道口にいる細菌が尿道をさかのぼり膀胱まで到達し増殖すると膀胱炎になります。尿道の長さが男性では16~20cmであるのに対して女性では4~6cmなので、膀胱炎が圧倒的に女性に多い原因とされています。でも、排尿により洗い流されることで尿路感染は防止できます。ですから、女性の中でもトイレに行きたいときにトイレに行けない、トイレに行く機会を逸してしまう看護師、美容師、幼稚園の先生などにとっては職業病の1つになっているようです。

 

食物と一緒に絶えず外来の微生物が侵入し続ける腸管には、さまざまな防御因子が備わっています。まず、胃の粘膜からは塩酸と蛋白質分解酵素が分泌され、微生物を殺しています。唾液と涙腺にはリゾチームという酵素が含まれており、微生物を破壊しています。加えて生体にとっては無害な常在細菌叢が定着し、新しく侵入してきた病原微生物が腸管内で爆発的に増殖するのを抑えたりもしています。

また、粘膜を覆う粘稠度の高い粘液は微生物の付着を阻害するはたらきをもっています。微生物が腸管に定着したり、組織内への侵入ルートとするには、粘膜上皮細胞に付着して足がかりをつくる必要があります。剥離し、活発に入れ替わる粘膜上皮細胞は、付着している微生物を一緒に捨てる役割も果たしています。

免疫が成立した後には、蛋白質分解酵素に抵抗する形に変身した分泌型IgAが粘液中に分泌され、付着をより効率よく阻害しています。

また、呼吸器系の粘膜細胞には線毛があります。この線毛のはたらきによって粉塵や微生物を含んだ粘液は口腔の方に排出され、病原体の肺への侵入が妨げられています。

生物は進化の過程で、単細胞生物から多細胞生物へ、変温動物から恒温動物へと変化しました。体内の恒温システムが実現されると生体にとってだけでなく、微生物にとってもきわめて居心地のよい環境ができあがってしまいました。ヒトの身体において、より高度な免疫系が発達したのは、進化の過程で寄生者や侵入者が一気に増大していくなか、必死に生体を守ろうとしてきた結果でもあるのです。

 

memo冬は風邪を引きやすい

気道の粘膜には線毛が生えており、粘液がひっとらえた細菌を線毛の動きで外界へ追い出してくれます。空気が乾燥する冬は、空気中の細菌が舞い上がり気道へ入りやすく、また粘膜がひからびて線毛の動きも悪くなるので、細菌が気道の奥や肺に行くので風邪を引きやすいのです。

 

生体内の防御機構

生体は自分自身を守るために、莫大な数の細胞と化学物質を動員します。食細胞やNK(ナチュラルキラー)細胞をはじめ、炎症反応や種々の化学物質のはたらきにより、病原体を殺し、組織の修復を促進しています。発熱自体も非特異的防御反応の1つとして考えられます(表1)。

表1非特異的生体防御機構

非特異的生体防御機構

 

食細胞

機械的バリアを突破して生体内に侵入してきた病原体は、侵入口がどこであろうと、食細胞(phagocyte)の攻撃を受けます。マクロファージ好中球のような食細胞は、アメーバが食物を摂取するのと同じような方法で異物を取り込みます。細胞質の中でリソソームと融合させて、その中身が分解され消化されます(図2)。

図2マクロファージによる食作用

マクロファージによる食作用

 

NK(ナチュラルキラー)細胞

NK細胞は、ウイルスやがん細胞の種類にかかわらず、細胞を認識して殺すことができます。常に血液やリンパの中を巡回しているユニークな防御細胞です。これについては、『がん細胞と免疫・胎児と免疫|身体を守る免疫系のはたらき(4)』で詳しく解説します。

 

炎症反応

細胞が傷害されると、まずヒスタミンやキニンなどの炎症性物質が遊離されます。これは、傷害部位から侵入してきた病原微生物や壊れた細胞の破片を処理する食細胞である好中球を動員するためです(図3)。

図3食細胞の動員

食細胞の動員

 

血管内の食細胞を多く呼ぶために、これらの物質は血管を拡張させ、血流を増加させるので、局所は赤くなり(発赤)、体熱を運ぶ血液により温かくなります(熱感)。また、食細胞の遊走を促すために毛細血管の透過性を亢進させる結果、血漿蛋白質など、正常では透過しない物質も血管外に透過させます。つまり、血漿がもれ出て炎症局所に集まるので、局所の腫脹(浮腫)が起こり、同時に痛みの受容器も活性化され、疼痛が起こるというわけです。

こうした反応が関節内で起こると関節の可動性が一時的に制限されます。炎症の局所では好中球が毛細血管の隙間から出てきて、傷害された細胞や病原体を取り込み始めます。それでも収まらないときには、好中球に引き続き単球が血管外に出てきます。単球自身の食作用はあまり強くありませんが、組織に到着してしばらくすると強力な食作用をもつマクロファージに分化し、寿命の短い好中球に代わって戦いを続けます。

炎症がおさまった時、細胞の破片や病原体の死骸を片付けるのもマクロファージの仕事です。炎症部位では血管内からもれ出た凝固系蛋白質(フィブリン)が生成され、病原体や有害な物質が広がらないように炎症部位を囲みます。

 

memoケルススの4兆候とガレノスの5兆候

炎症は、発赤(redness)・腫脹(swelling)・熱感(heat)・疼痛(pain)を主症状とする反応です。この4つをローマ時代の発見者にちなんで、ケルススの4症候といいます。炎症部位が赤くなり(発赤)、腫れて(腫脹)、熱(熱感)と痛み(疼痛)を伴います。これらに機能障害を加えたものをガレノスの5症候と呼んでいます。

 

著しい感染が起こると、生体と病原体との間で激しい戦いが生じ、死んだあるいは死につつある好中球と組織の細胞の断片や病原体が混じった黄色い膿(pus)が形成されます。最終的にはこれら膿が完全に除去されないと膿の塊は壁に囲まれ膿瘍をつくってしまいます。膿瘍は外科的に切開して出さないと排出できません。

これらの過程を経ても病原体を除去できないときに、リンパ球による免疫機構が起こってきます。

 

抗菌物質

尿は酸性で、細菌の増殖を抑えています。その他の抗菌物質として重要なのは補体とインターフェロンです。

補体(complement)とは、生体防御にかかわる血液中の20種類以上の蛋白質の総称です。補体は細菌や血液型の異なる赤血球と結合すると、活性化されてこれら異物に対して防御機能を発揮します。

まず、補体が結合すると細胞膜が破壊されます。細菌膜・細胞膜の表面に孔をつくり、そこから水分が中に入り込んで細菌・細胞を破壊させるのです。そのほかにも、補体は炎症反応を増強する作用をもっていたり、血管拡張因子や好中球・マクロファージの走化性を促す走化因子としてはたらくものもあります。また、細菌膜・細胞膜の表面に結合し、食作用がそれらを捉えやすくするはたらきももっています。この作用をオプソニン化(opsonization)と呼んでいます。

インターフェロン(interferon)はウイルスに侵入された細胞が、まだ感染していない細胞を守るために分泌する蛋白質の一種です。隣接する細胞の表面に結合し、その細胞内でウイルスが増殖するのを阻害します。

 

発熱

体温は視床下部で制御されており、通常は37℃前後に調節されています。しかし、菌やその他の異物を発見したマクロファージによって生成される発熱物質により、体温の設定温度が高くなると、発熱が起きます。

体温の上昇は酵素や他の蛋白質を変性させるため、生体にとっては有害です。しかし、軽度から中等度の体温上昇は細菌の増殖を抑え、生体防御には有利にはたらきます。また、体温上昇は組織の代謝を活発にし、治癒過程を促進します。要するに、高温環境は生体にとっても細菌にとってもしんどいので、両者の根比べといったところでしょうか。

 

〈次回〉

後天的な免疫の防御機能|身体を守る免疫系のはたらき(3)


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典] 『身体のしくみとはたらき』 (編著)増田敦子/2015年3月刊行/ サイオ出版

参考文献

著作権について

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