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2015年12月07日

WPW症候群

『循環器ナーシング』2011年9月号<基礎から学び看護に活かす心電図不整脈の3ステップ >より抜粋。
WPW症候群について解説します。

 

Point

  • WPW症候群の心電図の洞調律時,発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍)および心房細動発作時の特徴を理解する.
  • 発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍など)は問診だけでもわかるので,症状の特徴を把握する.
  • まるで心室頻拍のようなWPW症候群の発作性心房細動は症状も強く,めまい失神を伴ったり,急死したりすることもある治療緊急性の高い不整脈である.
  • 根治法である高周波カテーテルアブレーションの適応の高い不整脈である.

深谷眞彦
(社会医療法人近森会 近森病院 循環器内科 部長)

〈目次〉

 

WPW症候群の心電図

まず,WPW症候群の典型的な心電図を図1に示します.

図1WPW症候群(A型)の洞調律時の12誘導心電図

WPW症候群(A型)の洞調律時の12誘導心電図

特徴的なデルタ波に注目.

この心電図で,たとえば第Ⅱ誘導をみると,QRS波の立ち上がりの勾配が緩やかになっています.みやすくするために拡大図もつけていますが,緩やかに立ち上がった後に急峻なR波となっています.この緩やかな部分をデルタ波といって,WPW症候群の特徴的かつ診断的所見です.

デルタ波の名前の由来や成因は次項に説明しますが,正常のQRS波の前にこのデルタ波がくっついてくるため,PR時間は短くなってしまい,QRS幅も広くなっています.この例では,デルタ波のためにP波とQRS波がくっついてみえます.

もちろん,第Ⅱ誘導以外の他の誘導でも,同様にデルタ波が認められます.誘導によって大きくみえたり小さくみえたり,また,下向きにみえたりしています.デルタ波の成因になる心室の興奮をみる方向が誘導によって異なるので,デルタ波もいろいろにみえるのです.

 

副伝導路とデルタ波

WPW症候群の正式の名前はWolff-Parkinson-White症候群ですが,長いので普通は3名の医師の頭文字で呼ばれます.WPW症候群とは,正常の房室伝導路(房室結節からヒス束,左脚・右脚,プルキンエ線維を伝導して心室筋に至る房室伝導系)の他に,余分な(先天的で異常な)副伝導路(ケント束)がある疾患です(図2).

図2副伝導路(ケント束)とデルタ波の成因

副伝導路(ケント束)とデルタ波の成因

WPW症候群は,正常の房室伝導系の他に心房と心室間をバイパスする副伝導路がある疾患.心電図のデルタ波は,心房興奮が副伝導路から心室へ短絡して伝導することで出現する.

心房と心室は,僧帽弁輪と三尖弁輪の左右の弁輪の線維性結合織によって電気的に隔離されています.この心房と心室間の唯一の興奮伝導路が房室伝導系ですが,副伝導路は弁輪に存在する抜け道(バイパス),あるいは電気的絶縁漏れということになります.

冒頭に示した特徴的な心電図波形は,副伝導路伝導の存在によるものです.正常の心臓では,房室伝導系を通って心房から心室へ興奮伝導するのに,心電図のPR時間(PQ時間),すなわち0.12〜0.20秒かかります.とくに房室結節は伝導速度が遅く,PR時間の6〜7割を食ってしまいます.

これに対して副伝導路は心房と心室を直接結んでいますから,心房興奮はすぐに心室に伝導していきます.このため,正規の房室伝導をショート(短絡)した心室興奮ができます(図2).心電図でみると,正常のQRS波の前の部分に,ショートした心室興奮波が重なります.デルタ波は,このショートした心室興奮によって形成され,⊿形にみえることから命名されたものです.しかし,実際には,QRS開始時の緩やかな立ち上がり(下り)部分で,いろいろな波形にみえます.

デルタ波の有無で心電図波形がどう違うかを図3に例示しました.

図3WPW症候群(B型)のカテーテルアブレーション前後の心電図

WPW症候群(B型)のカテーテルアブレーション前後の心電図

A:デルタ波がみられ,QRS幅延長とPR短縮がある.

WPW症候群(B型)のカテーテルアブレーション前後の心電図

B:副伝導路を焼灼切断した後で,房室伝導は正常の房室伝導系のみになるのでデルタ波が消失し,QRS幅,PR間隔は正常化している.

図3-Aはデルタ波があるとき,Bはカテーテルアブレーション治療で副伝導路が切断されてデルタ波が消失したときのものです.デルタ波が消失すると,QRS幅は狭くなって正常へと戻り,PR時間も普通に伸びています.

なお,デルタ波の大きさは患者によっていろいろです.非常に大きくみえる例や,小さくてあるかないか迷うような例まであります.それは副伝導路経由と房室伝導系経由の2つの心室興奮の融合の程度が,患者によって異なるからです.副伝導路が弁輪のどこにあるか,房室伝導系の伝導時間の長さ,右房左房の興奮伝導の状態など複数の条件によって,融合の程度が異なってきます.

同一の患者でもときによって,あるいは各種不整脈の出現時などに,融合の条件が異なることでデルタ波の大きさが異なることがあります.

WPW症候群(と関連の疾患)のことを,心室早期興奮症候群や副伝導路症候群などと呼ぶこともあります.

 

いろいろなWPW症候群

副伝導路の部位と12誘導心電図

副伝導路は心房と心室の興奮伝導短絡路ですが,弁輪のどこにあるかによって心電図波形が異なってきます.今でもよく使われるA型(図1)は左側(僧帽弁輪)副伝導路で,B型(図3-A)は原則的に右側(三尖弁輪)副伝導路でみられる心電図分類です.

V1誘導で,QRS波の主成分が基線よりも上方にあるR波優勢型がA型で,主成分が基線より下方にありS波優勢になっているのがB型です.

現在は,12誘導心電図によるデルタ波を検討して,もっと詳しく,副伝導路存在部位が各弁輪の前・側・後壁,あるいは中隔側のどこにあるか推定できるようになっています.いくつかの分類や部位診断法がありますが,ここでは割愛します.

なお,副伝導路は単数が多いのですが,複数存在することも少なくありません.しかし通常,洞調律心電図からこれを推定することは困難です.

 

顕性WPW症候群と不顕性WPW症候群(図4

図4副伝導路伝導の方向性と顕性および不顕性WPW症候群

副伝導路伝導の方向性と顕性および不顕性WPW症候群

副伝導路には,房室伝導(順伝導)と室房伝導(逆伝導)の両方向伝導あるものが多いが,一方向のみもあり,逆伝導のみの例ではデルタ波がない不顕性WPW症候群となる.

副伝導路は,心房から心室への房室伝導(順伝導)と,心室から心房への室房伝導(逆伝導)の両方向性の伝導能を持っていることが多いです.順伝導能があるとデルタ波が出現しますので,これを顕性WPW症候群といいます.なお,順伝導能のみで逆伝導能がない一方向伝導のみの副伝導路もありますが,洞調律心電図で区別することは難しいです.

この顕性WPW症候群には,常時デルタ波が認められる顕性持続性と,デルタ波が出没する間欠性とがあります.間欠性WPW症候群ではデルタ波がないことがあり,そのときの心電図では診断できません.副伝導路の順伝導の出没には心拍数が関与して,心拍上昇により消失する傾向にありますが,間欠性になる機序は複数あり,すべて解明できているわけではありません.

間欠性では副伝導路の順伝導能が良好でないと考えてよいのですが,副伝路の順伝導能と逆伝導能は相関していないことも多く,間欠性であっても逆伝導能は良好なことが少なくありません.

不顕性WPW症候群は,以前は潜在性といわれていました.副伝導路はあるのに心電図にデルタ波がないWPW症候群です.このため,洞調律心電図では診断できません.

これは,逆伝導のみ可能な一方向伝導の副伝導路を持つWPW症候群です.順伝導能がないのでデルタ波が出ないのです.この不顕性WPW症候群は,後述する発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍)を生じて初めて発見されることがほとんどです.

 

副伝導路の不応期

心筋は一度興奮すると,次の再興奮までの間に一定の休止期(休み時間)を必要とします.この再興奮までに必要な休止期を不応期といいます.不応期が短い心筋は,次々と早く興奮できます.

不応期は副伝導路の伝導能を知る指標になります.不応期が短い副伝導路は頻繁に興奮を伝導させることができ,不応期が長ければ伝導能が悪くなって間欠性になったりします.副伝導路の順伝導や逆伝導における不応期の長さや関係は,個々いろいろです.

副伝導路の順伝導および逆伝導での不応期の年齢分布を,図5および図6に示しています.

図5副伝導路の順伝導不応期の年齢分布

副伝導路の順伝導不応期の年齢分布

顕性持続性WPW症候群について,臨床心臓電気生理検査で測定した不応期を示した.加齢にて不応期が延長する傾向はあるが,高齢でも短い例がある.

 

図6副伝導路の逆伝導不応期の年齢分布

副伝導路の逆伝導不応期の年齢分布

顕性および不顕性WPW症候群について示した.

おおまかには,歳をとるにしたがって順伝導不応期は長くなっていきますが,高齢者でも短い不応期の例は少なくありません.

なお,この図は各年齢のWPW症候群の不応期を検査(臨床心臓電気生理検査)で測定して示したもので,個々についての経時的長軸的な追跡の結果ではありません.したがって,個々の症例で不応期が加齢によって延長するか否かは,正確なところはわかりません.

なお,順・逆両方向の伝導能がある場合,同一症例では,逆伝導での不応期が短い傾向の症例が多いようです.

頻拍性不整脈には興奮のリエントリー(興奮旋回)を機序とするものが多いですが,房室伝導系や心房筋,心室筋,それに副伝導路の不応期の長さや関係がその成立に重要です.

 

WPW症候群の臨床像

WPW症候群の基礎的知識

WPW症候群の一般人口における頻度は,調査の母集団にもよりますが,およそ1000人に1.5人ぐらいです.しかし,間欠性や不顕性のWPW症候群もありますので,実際の頻度はもう少し高いと思われます.男性にやや多いとも報告されています.家族性もありますが,まれです.

他の心疾患を合併していないWPW症候群が大多数ですが,心疾患合併率は少し高いともいわれています.合併心疾患としてはエプスタイン奇形が多く,心室中隔欠損,大血管転位,動脈管開存,ファロー四徴,肺動脈狭窄,肥大型心筋症などがあります.

 

頻拍性不整脈

WPW症候群で最も問題になるのは,頻拍性不整脈です.最も多いのは発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍)で,ついで発作性心房細動,あるいは心房粗動です.WPW症候群には合併心疾患もなく,一生に一度も頻拍性不整脈を生じない症例もありますが,これら頻拍性不整脈の出現率は高く,50〜60%ともいわれています.

もっと頻度の高い報告もあります.このような頻度は,母集団としたWPW症候群や調査法によってずいぶん異なりますから,正確なところは不明ですが,頻拍発作を起こす症例が多い疾患といえます.

頻拍性不整脈の初発年齢ですが,房室回帰性頻拍は10代後半から30代と比較的若いころに初発することが多いようです.発作性上室頻拍のなかで,房室結節リエントリー性頻拍は中高年からの初発が多い傾向にあります.年齢分布が明らかに分かれているというほどではありませんが,より若い年齢での初発が多い傾向にあるようです.

発作性心房細動の初発年齢を図7に示しました.

図7WPW症候群の発作性心房細動の初発年齢

中・高齢者に多い心房細動が,10〜30歳代という若い年齢で多く初発している.

心房細動は中高年で初発し,加齢とともに頻度が増加していく不整脈ですから,WPW症候群ではずいぶんと若年で初発する例があることがわかります.顕性WPW症候群の発作性心房細動では,不応期の短い副伝導路を房室伝導した興奮が著しい頻拍となって,まるで心室頻拍のようにみえます(偽性心室頻拍).また,この著しい頻拍の心房細動から心室細動に移行する例があり,急死する例もあります.

 

房室回帰性頻拍

興奮旋回路と発作時心電図

房室回帰性頻拍のほとんどは,心房興奮が房室結節から房室伝導系を順伝導して心室に到り,副伝導路を逆伝導して心房に帰ってくるという興奮の旋回をします.これを正方向性房室回帰性頻拍といいます.

これを図8に模式図で示しました.

図8WPW症候群の発作性上室頻拍である房室回帰性頻拍

WPW症候群の発作性上室頻拍である房室回帰性頻拍

A:洞調律時は房室伝導系と副伝導路の両方を房室(順)伝導している.
B:房室回帰性頻拍時は,タイミングよい心房期外収縮が房室伝導系のみを順伝導して心室に至り,心室から副伝導路を逆伝導して再び心房にもどっている(リエントリー).このような興奮の旋回が持続すると房室回帰性頻拍になる.

洞調律時は,心房興奮は房室伝導系と副伝導路を順伝導します(デルタ波があります).心房期外収縮がタイミングよく現れて,副伝導路が不応期で順伝導できず房室伝導系のみを順伝導すると,前述の正方向性の興奮旋回が成立することがあります.

これが持続すると頻拍になりますが,頻拍中は房室伝導系のみの順伝導になりますから,デルタ波はありません.房室回帰性頻拍の代表的な心電図を12誘導同時記録で図9に,心房期外収縮から頻拍が開始した時の記録を図10に示しました.頻拍開始後はデルタ波が消失しています.

図9房室回帰性頻拍の12誘導同時記録

房室回帰性頻拍の12誘導同時記録

心室からの逆伝導性P波の位置を破線で示した.

 

図10心房期外収縮で開始した房室回帰性頻拍

心房期外収縮で開始した房室回帰性頻拍

この実例では,心房ペーシングを行い人工的にちょうどよいタイミングの心房期外収縮を与えている(心房期外刺激法).通常の心電図よりも速い紙送り速度で記録しているので,心房期外収縮を境にデルタ波が消失したことがわかりやすい.

発作時心電図(図9)の特徴は,①著しい頻拍(毎分150以上がほとんどで,200以上になることもある.180前後のことが多い),②規則正しくてRR間隔が乱れていない,③QRS幅は正常になっている,などです.逆伝導性のP波もみえますが,頻拍でSTやT波と重なっているので慣れないとわかりにくいです.

Ⅱ,Ⅲ,aVFでQRS波に続く陰性P波が比較的わかりやすいです.第I誘導でQRS波の後ろに陰性P波があると,左側副伝導路を旋回路に含む房室回帰性頻拍の診断がほぼ確実になりますが,実際にはP波をよく判定できないことが少なくありません.

まれですが,反方向性の房室回帰性頻拍もあります.これは正方向性とは逆まわりで,副伝導路を順伝導し,房室伝導系を逆伝導するので,頻拍時心電図には大きなデルタ波があります.順伝導は副伝導路のみになるからです.しかし,この頻拍は,実際には心房粗動であったりして,本物の確定診断は難しいことが多いです.

 

発作時の自覚症状

房室回帰性頻拍の心拍数は毎分150以上のことが多く,200を超えることもあります.このような著しい頻拍が1,2拍の期外収縮を発端として突然に開始しますから,ほとんどの場合に特徴的な動悸発作を自覚します.図11は不顕性WPW症候群で,ただ1発の心房期外収縮が発端となって房室回帰性頻拍が開始した実例です.

図11心房期外収縮で開始した房室回帰性頻拍

心房期外収縮で開始した房室回帰性頻拍

不顕性WPW症候群であるが,ただ1発の心房期外収縮で頻拍が開始しているので,ここを境に心拍数が毎分65から190へと瞬間的に上昇している.

毎分65の心拍数が,1発を境に瞬間的に190へと跳ね上がっています.この頻拍の開始,停止の特徴を洞頻脈と対比して模式的に図示したものが図12です.

図12突然に開始する頻拍性の動悸

突然に開始する頻拍性の動悸

洞頻脈のときと発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍など)のときとで心拍数上昇のしかたに違いがあることを模式的に示した.

この頻拍発作の特徴を問診で把握すると,発作時の心電図記録がなくても問診だけで診断できるほどです.表1にその特徴をまとめました.

表1発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍など)の動悸発作の特徴

発作性上室頻拍(房室回帰性頻拍など)の動悸発作の特徴

 

問診では,頻拍開始時の突然さの内容を確認することがとくに重要です.突然といっても内容はいろいろで曖昧です.この場合は,開始の瞬間がハイっと合図できるほど,あるいはパチンとスイッチを入れたような,そんな瞬間的な突然さを確認することが必要です.

頻拍が開始すると血圧はストンと大きく低下します.落差が大きいときには眼前暗黒感のようなめまいを感じることもあり,まれには失神する例もあります.通常は20秒前後で血圧は回復してきて,頻拍持続下でも洞調律時の7割前後の血圧を維持することが多いのですが,回復の悪い例もあり,頻拍時の血行動態はいろいろです.

房室回帰性頻拍は夜間・就寝時に出現するよりも,昼間・活動時間帯に出現する例が多く,臥位よりは座位,座位よりは立位で出現することが多いので,症状の強い例では,突然の頻拍出現が原因の事故に要注意です.

 

発作性心房細動,心房粗動

心房細動発作時の心電図

心房細動の発作時心電図を図13に示しました.

図13顕性WPW症候群の心房細動発作時と洞調律回復後の心電図

顕性WPW症候群の心房細動発作時と洞調律回復後の心電図

副伝導路の伝導能がよいとあたかも心室頻拍のような心房細動になる(偽性心室頻拍).

QRS幅が広い頻拍なので,一見すると心室頻拍にみえます.このため,偽性心室頻拍(pseudoVT)なる言葉が使われることもあります.心室頻拍との大きな相違点は,RR間隔の不整さが目立つことです.また,RR間隔の長短によってQRS幅も変化しています.

副伝導路の不応期が短い例では,心房内を渦巻く高頻度の細動興奮が,房室伝導系をバイパスする副伝導路から高頻度で心室に伝導してきます.このため,房室結節の心拍数調節機能は役に立ちません.副伝導路の順伝導のためにデルタ波も大きいことが多く,心室頻拍に似てくるのです.

なお,前述の房室回帰性頻拍から心房細動に移行することもときにあります.

 

発作性心房粗動,心房頻拍

心房粗動あるいは心房頻拍時も同様で,副伝導路の不応期が短いと1:1伝導になり,心室頻拍との鑑別が難しくなることがあります.図14および図15は,心房粗動の実例(同一例)です.

図14顕性WPW症候群の心房粗動発作

顕性WPW症候群の心房粗動発作

副伝導路の1:1伝導のためQRS幅が広く,心室頻拍との区別が難しい.心拍数が毎分300に近い著明な頻拍が特徴的である.

 

図15顕性WPW症候群の心房粗動発作(図14と同一例)

顕性WPW症候群の心房粗動発作(図14と同一例)

洞調律時(デルタ波あり),心房粗動の2:1伝導,そして1:1伝導時を並べて示した.

心房細動,心房粗動,心房頻拍といった上室性の頻拍性不整脈は,一般には直接的に生命の危険がある不整脈ではありません.しかし,顕性WPW症候群があって極端に速いレートの頻脈になる例では,症状が強かったり,血行動態が破綻したり,急死のリスクがあったりすることがあります.これは,緊急の治療が必要な不整脈です.

 

心室細動化と急死

WPW症候群のpseudoVTと称される著しい頻拍の心房細動例のなかに,心室細動に移行する例があることが報告されています.実際,WPW症候群の一部には急死する症例があり,心室細動化が原因と考えられています.発作時のめまいや失神歴がある心房細動例は,その高危険例である可能性があります. 
 

図16は,pseudoVTといわれる心房細動発作が記録され,かつ臨床心臓電気生理検査が行われたWPW症候群についてまとめたものです.

図16副伝導路順伝導不応期と心房細動発作時RRの最短値:臨床症状との関係

副伝導路順伝導不応期と心房細動発作時RRの最短値:臨床症状との関係

顕性WPW症候群で,心房細動発作時心電図の最短RR間隔と副伝導路の順伝導不応期の最短値との関係をまとめた.ともに副伝導路の順伝導能のよさを示す指標であるが,臨床症状との関係をみると,両者が短い例にはとくにめまい,失神例が多く,2例の急死例が含まれている.

副伝導路の順伝導能である不応期と,実際の発作時の最短RR間隔を示していますが,両方の指標がともに短い症例のなかに,実際に急死例があります.不応期が短い症例にはめまい,失神例も多いようです.とくに急死の危険性が高い例を見分ける指標になると思います.

 

無症候性WPW症候群

いまだ一度も頻拍発作がない無症候例に,どのように対処するかは難しいところです.今まで頻拍発作がなくても,10歳代後半からは初回発作が出現する可能性が十分にあります.また,初回発作が生命の危険がある心房細動ということもあります.

副伝導路の順伝導能の指標である不応期を検査で測定し,発作性心房細動群,房室回帰性頻拍群,および無症候群の3つの群で比較したのが図17です.

図17副伝導路の順伝導不応期の最短値

副伝導路の順伝導不応期の最短値

副伝導路の順伝導不応期の最短値を,発作性心房細動群,房室回帰性頻拍群,および発作歴のない無症候群で比較した.副伝導路の不応期が250 msec(0.25秒)未満は特に短い例になる.

実は無症候群でも1/3近くで不応期が非常に短かった(0.25秒未満)のは驚きです.

間欠性WPW症候群,あるいは抗不整脈薬で簡単に副伝導路がブロックされてデルタ波が消失するWPW症候群などは,不応期が長いので急死の危険は低いと考えられています.そこで,ホルター心電図やトレッドミル運動負荷心電図などでデルタ波が間欠性か否かを検査します.

しかし,デルタ波が消失しない顕性WPW症候群への対処は難しいところです.副伝導路の不応期は短くても,ずっと頻拍発作がなければよいのですが,その予測となると普通は困難だからです.無症候例への観血的な検査や治療は,限られた目的がある場合にのみ行われるのが現状のようです.

 

WPW症候群の治療

頻拍発作の停止

房室回帰性頻拍

現在最も頻繁に使用されている静注薬はATPです.普通は,10mg前後を急速静注します.コツは,できるだけ近位の太い静脈から一気にチュッと静注することです.管注は薄められるので効きません.手甲や下肢の静脈からでも効きません.そこしかなければ,間髪いれずに生食水でフラッシュする必要があります.

停止率は高く,有効なら約20秒ほどで停止します.静注後に不快感が出現,増強するため,患者にはあらかじめ1,2分で消失するので心配ない旨を説明しておく必要があります.また,気管支喘息には禁忌です.

他によく使用されるのはカルシウム拮抗薬のベラパミル,あるいはジルチアゼムです.頻拍発作を繰り返しやすい場合には,予防効果のないATPよりはこちらがよいと思います.静注に5〜10分ほどかかりますが,停止後に一定の予防効果も期待できます.

過去には,その他多くの薬剤が使用されてきましたが,停止困難なときなどで使用を検討します.直流カルジオバージョン,経食道心房ペーシング法が行われることはまれだと思います.電極カテーテルを右房内に挿入して行う高頻度心房ペーシング法は確実な方法で,カテーテルアブレーション時の房室回帰性頻拍の誘発,停止に行われます.

 

発作性心房細動

顕性WPW症候群がある場合の心房細動には,副伝導路伝導を抑制する抗不整脈薬を静注します.ジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイニド,フレカイニドなどです.重要な点は,通常の心房細動の際に心拍数調節目的でよく使用されるカルシウム拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム),β遮断薬(インデラルなど),あるいはジギタリスは禁忌ということです

WPW症候群に伴う発作性心房細動(いわゆるpseudoVT)の際に静注して,心室細動を誘発した報告があります.房室結節伝導を抑制することで,副伝導路経由の高頻度心室興奮がますます優位になるのです.

著しい頻拍のために状態が悪ければ,薬物治療よりも直流カルジオバージョンが第1選択になることも多いです.R波同期をしっかりと確認して静脈麻酔下に行います.

 

頻拍発作の予防

抗不整脈薬による発作の予防は,房室結節以下の房室伝導系,副伝導路,および心房筋,心室筋に作用して興奮のリエントリーや興奮旋回の継続を生じにくくすることを目的とします.また,頻拍発作の引き金となる期外収縮の抑制も目的とします.

房室回帰性頻拍では,多くの場合,房室結節伝導能を抑制することで予防したり停止しやすくしたりすることを目的として,カルシウム拮抗薬,β遮断薬などが使用されます.発作性心房細動では,副伝導路の伝導能を抑制し,心房細動そのものを予防することも目的として,I群抗不整脈薬(ピルジカイニド,フレカイニド,ジソピラミド,シベンゾリンなど)が使用されることが多いです.

実際には,多くの抗不整脈薬の選択肢があって複雑です.また,予防目的の薬剤がときに発作頻度を増す方向に作用することもあります.効果の不確実さ,長期の服薬率,催不整脈などの副作用など,薬物治療には多くの問題点があります.

また,あくまで対症療法的であって,根治法ではありません.以上のことから,頻拍発作歴あるWPW症候群には,根治法であるカテーテルアブレーション法が現在は第1選択の治療法になっているといえます.

 

頻拍発作の根治

副伝導路を外科的に切断する方法が単独で行なわれることはなくなり,現在は高周波カテーテルアブレーション法が広く行われています.観血的侵襲的な治療法ですが,比較的安全でほとんどの場合で成功する根治法ですから,頻拍発作歴がある場合はまずこの治療法の適応を検討します.

 

 


[Profile]
深谷眞彦(ふかたに まさひこ)
社会医療法人近森会 近森病院 循環器内科 部長
1942年 生まれ.1968年 長崎大学医学部卒業.その後,長崎大学で研修,第3内科(循環器内科)で循環器内科学,不整脈学,臨床心臓電気生理学領域の診療,教育,研究に従事.1992年 長崎大学第3内科 助教授,その後,高知県に帰る.1999年 高知県立幡多けんみん病院 副院長,2003年 高知医科大学(現高知大学医学部)老年病科循環器科 臨床教授,2004年 医療法人近森会近森病院 内科部長を経て,現職.主要著書:不整脈領域の分担執筆 約50冊.

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2011 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2011年9月号

P.71~「WPW症候群 」

著作権について

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今日の看護クイズ 挑戦者391

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