『WOC Nursing』2014年1月号<ここまで治る!ラップ療法のすべて>より抜粋。
ラップ療法の基本手技について解説します。
Point
水原章浩
(医療法人三和会 東鷲宮病院 循環器・血管外科 副院長,褥瘡・創傷ケアセンター)
〈目次〉
はじめに
本コラムではラップ療法の基本手技について症例写真を追いながら簡単に解説します。ラップ療法の適応についても提言しますので,失敗のないラップ療法をめざして日々の診療にお役立てください。
ラップ療法の実際
準備するもの
最低限必要なものは,水道水を汲むための紙コップや洗浄ボトル,吸水目的のガーゼや紙おむつ,生理用ナプキン,そして食品用ラップと穴あきポリエチレン(流しの三角コーナーに使う水切り袋を開いたもの)です。
創からの滲出液が多いとスキントラブルの原因になります。現在では主に穴あきポリエチレンを用いることで,余分な滲出液は穴あきポリエチレンの小孔を介して排除し,スキントラブルなどの合併症を防止しています。
ラップ療法の手順(図1)
前回貼られていた被覆材(穴あきポリエチレン)を剥がし,創はもちろん,おむつに付着している滲出液の量や性状をよく観察します。滲出液が膿性の場合や量がきわめて多い場合は感染巣の存在が疑われるので注意します。
次いで創周囲の皮膚を水道水で洗浄しますが,創が汚れていたら創も一緒によく洗います。創面に壊死組織があれば指を使ってできるだけ除去しましょう。過度に汚れている場合は石鹸を使いますが,その際は泡状石鹸がよいでしょう。そして石鹸が残らないように十分な水でよく洗い流します。
余分な水をおむつで拭き取ったあと,創全体に穴あきポリエチレンを大きめに貼付し,全体を紙おむつで覆って終了です。おむつで固定されるので基本的にテープ固定はしません。
その後の観察
当然ながら,創は最低でも1日1回は観察して洗浄処置をしましょう。おむつ交換のときでも創が汚れていたら穴あきポリエチレンを剥がして洗浄します。このように1日何度でも創洗浄し,被覆材(穴あきポリエチレン)も替えることができるのはラップ療法が廉価であるがゆえの大きな利点です。
ラップ療法に適した褥瘡
粘着性がなく処置が簡便であるというラップ療法の持つ利点が最大限発揮できるのは症例①(図2)に示すように,壊死組織はさほど多くなく,滲出液は中等量以下で,創面積が比較的広く,肉芽組織が増生していてずれを防止したいという褥瘡と考えられています。
A:乾燥防止,ずれ予防のために薄くワセリンを塗っておくことが多い。1日1回の処置
B:上皮化は良好。滲出液はほとんどない
C:ほぼ治癒。その後も再発防止の目的でラップを使い続けることが多い
また症例②(図3)のように治癒した後の瘢痕がある再発褥瘡もラップ療法のよい適応例です。
A:フランセチン・T・パウダー:蛋白融解酵素トリプシンと抗菌薬フラジオマイシンを含有している
B:ずれの防止になる
C:ほぼ治癒
症例③(図4)のような壊死組織が少々残存しているようなⅢ度褥瘡も問題なくラップ療法を施行できます。
ラップ療法に向かない創とは
穴あきポリエチレンを被せるのは創を適度な湿潤環境におくためです。したがって滲出液が過剰に排出されている創は,逆に過湿潤となるため,ラップ療法の適応外です(図5-A)。過剰な滲出液はむしろ積極的に排除されなければならないことから,吸水性のよい被覆材を選ぶ必要があります。一方,動脈閉塞で虚血のある足部~踵部の創(図5-B)もラップ療法の適応とはなりません。
A:もちろん,このような創はラップ療法の適応ではない。過剰な滲出液を排除することを考え,紙おむつのじかあてなどで対処する
B:ラップ療法の適応ではない
ラップ療法の応用
固い乾燥した黒色壊死組織を有する褥瘡(図6)
図6固い乾燥した黒色壊死組織を有する褥瘡に対するラップ療法の応用
A:壊死組織に少々割を入れ,ワセリンを塗った穴あきポリエチレンで被覆する
B:しっとりと浸軟し,デブリードマンしやすくなっている
C:ラップ療法を継続して壊死組織はほぼ除去された
D:創は著明に縮小している(*滲出液が減少してきた時点で穴あきフィルム法に変更している)
乾燥した黒色壊死組織がある場合,早期に除去するためにワセリン(プロペト®)をたっぷり塗った食品用ラップを被せます。すると翌日には同部は浸軟してしっとりとした状態となり,ハサミなどでのデブリードマンがしやすくなります。
表皮剥離創(図7)
B:2週間1日1回のお湯による洗浄,ラップ被覆を行っていた。処置時の痛みはない
高齢者の脆弱な皮膚に生じやすい表皮剥離創の治療には粘着性のない食品用ラップや穴あきポリエチレンを用いたラップ療法が最適です。ポリウレタンフィルムなど粘着性のある被覆材を用いると,剥がす際に再び表皮が剥離してしまうという危険性があるからです。
皮膚科病変
皮膚科領域では外用薬を塗ったあとに食品用ラップで覆うというODT(occlusive dressing technique)療法が行われています。ODTは薬剤の皮膚への浸透性を高めるのが目的ですが,ラップ療法は創を乾かさずに適度な湿潤を保つという創傷治癒理論に基づいているという点で少々ニュアンスが異なります。
口唇の乾燥創(図8)と帯状疱疹(図9)へのラップ療法の応用例を示します。
A:痂皮ははさみで切除し,出血に対してはアルギン酸塩のソーブサンを置き,全体を食品用ラップで被覆した
B:2週間後,創は完全に治癒した
A:アラセナ-A軟膏を塗った食品用ラップで被覆する
B:1日1回水道水による洗浄およびラップによる被覆を行って1週間後。ラップには粘着性がないので,処置時の痛みが最小限で済む
C:痂皮の形成なく,きれいに治癒した
熱傷
熱傷のラップ療法について詳細は,WOC Nursing2014年1月号6章後半(p.48〜)を参照してください。基本的にはワセリンを少々塗った食品用ラップか穴あきポリエチレンで被覆するだけです(図10)。
A:消毒はせず,ゲーベン®クリームも使用しない
B:破れた水疱は切除した
C:シャワーで創洗浄しているところ
D:腋窩部を残して治癒
急性期には滲出液が多く排出されるので創が滲出液で汚れる度に1日頻回の洗浄処置をするのがポイントです。ラップの下に貯留した滲出液を放置するとそれをもとに創感染を生じる危険性があるので注意してください。
創がラップで覆われて乾いていなければ疼痛を最小限に抑えることができます。創痛があるときは同部が乾いている場合なので,しっかりラップで覆いなおします。また抗菌剤入りステロイド軟膏(クロマイ®-P軟膏)をラップに塗布して貼付するとその薬効によって創からの滲出液は減少します。
使用する薬剤
以下に東鷲宮病院で使用している外用薬を示します。
ワセリン
Ⅱ度から浅いⅢ度褥瘡で,滲出液がさほど多くなくむしろ創の乾燥が気になるとき(図11),
A:非固着性吸水ドレッシング材のモイスキンパッドは吸水力が高いため,創辺縁部の乾燥をきたすおそれがある
B:ワセリンを塗布することで同部位の保湿が保たれる
あるいは肉芽組織を紙おむつなどの被覆材によるずれから守りたい場合に使用します(図12)。
肉芽の損傷を防ぐために紙おむつにワセリンを少々塗っておく
食品用ラップ,穴あきポリエチレンのみならずメロリン®,モイスキンパッド,紙おむつ,生理用ナプキンに塗布して創との密着性を高める目的で使用することも多くあります。また前述したように乾燥した固い壊死組織を浸軟させる目的で使用することもあります(図13)。
図13固い壊死組織を浸軟させるためのワセリンの使用 (図6も参照のこと)
A:大転子部の乾燥した固い黒色壊死組織を浸軟させる目的で,ワセリンを塗った食品用ラップで被覆する
B:壊死組織は適度に柔らかくなっている
C:ハサミによるデブリードマンがしやすくなった
フランセチン・T・パウダー(図14)
図14悪臭を伴う壊死組織に対するフランセチン・T・パウダーの使用
A:悪臭を伴う壊死組織がある仙骨の感染部褥瘡
B:可及的にデブリードマンを行ったあとにフランセチン・T・パウダーを塗布する
C:壊死組織はほとんど消失した
トリプシン(蛋白融解作用),硫酸フラジオマイシン(抗菌作用)を含有しており,壊死組織が残存している感染創に対して,壊死組織の融解および雑菌に対する抗菌作用を期待して用います。粉状なので処置の際,洗浄しやすく使いやすい薬剤です。
クロマイ®-P軟膏(図15)
図15クリティカル・コロナイゼーション創に対するクロマイ®-P軟膏の使用
A:あきらかな感染徴候はない
B:クリティカル・コロナイゼーション創と判断し,クロマイ®-P軟膏を1週間塗布した
C:肉芽はしまり,滲出液もほとんど消失した
プレドニゾロン(抗炎症作用),クロラムフェニコール,硫酸フラジオマイシン(以上抗菌作用)を含有する軟膏で,クリティカル・コロナイゼーション創や明らかな感染を呈する創に用います。2週間をめどに薬効を評価します。
抗真菌薬(図16)
A:ラップ療法施行中に褥瘡周囲の皮膚に湿疹を認め,鏡検で真菌感染と診断された
B:ラップ療法は中止しておむつのじかあてに変更
C:湿疹は改善し,褥瘡も治癒傾向となった
ラップ療法ではどうしても皮膚に滲出液が付着するので,過湿潤によるスキントラブルが生じる可能性があります。多くは真菌による湿疹やかぶれですので抗真菌薬を積極的に使用します。またスキントラブルが生じた場合は吸水性の高い被覆材に変更することも考慮してください。
ステロイド軟膏
湿疹などの痒みに使用するほか,過剰肉芽が生じた創やクリティカル・コロナイゼーション創に使用します(図17)。
A:易出血性の過剰肉芽を呈する仙骨部褥瘡にステロイド軟膏を塗布する
B:2週間使用したところ肉芽がしまっているのがわかる
なお,明らかな感染徴候はないが,易出血性の過剰肉芽で,膿性の滲出液が排出されており,治癒が遅延していると考えられる創をクリティカル・コロナイゼーション創といいます。抗菌剤入りステロイド軟膏や銀入り被覆材を使うと治癒速度が向上します。
フィブラスト®スプレー(図18)
図18肉芽組織を増生させたいときのフィブラスト®スプレーの使用
B:肉芽組織は著しく増生し,腱膜は完全に覆い隠された
肉芽を早期に盛り上げたいときやポケットを埋めたいときと考えたときに使用してもよいでしょう。
カデックス®軟膏(図19)
B:連日のこまめなデブリードマンも行った結果,壊死組織はほぼ除去された
大量の壊死組織を有し,滲出液が多い感染褥瘡に用います。
おわりに
ラップ療法の不適切な適応としてしばしば見られるのは,滲出液が多く過湿潤になっている創に使用する場面です。ラップ療法の目的は,創を適度な湿潤状態に保つことという基本をしっかりと理解し,滲出液の量をよく観察したうえで,正しい適応の創にラップ療法を行ってください。
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[Profile]
水原章浩(みずはら あきひろ)
医療法人三和会 東鷲宮病院 循環器・血管外科 副院長,褥瘡・創傷ケアセンター
1983年 筑波大学医学専門学群 卒業,筑波大学付属病院 外科,1986年 東京女子医科大学第二病院 心臓血管外科,1988年 北茨城市立総合病院 外科,1990年 自治医科大学大宮医療センター 心臓血管外科,1996年 顕正会 蓮田病院 循環器科部長,2001年 三和会 東鷲宮病院 循環器・血管外科 副院長。 日本外科学会 認定医,日本褥瘡学会 評議員,日本臨床外科学会,日本循環器学会,日本熱傷学会,日本静脈経腸栄養学会,日本病態栄養学会などに所属。埼玉PDN 理事。「傷の正しい治し方」シリーズのほか,「症例でみる〜ラップ療法による褥瘡ケア」(2011年,日総研出版),「褥瘡エコー診断入門(共著)」(2012年,医学書院)など著書多数。
*略歴は掲載時のものです。
本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]WOC Nursing2014年1月号
P.28~「ラップ療法の基本手技」