1. 看護roo!>
  2. 看護・ケア>
  3. 循環器ナーシング>
  4. 心不全-病態生理・検査・治療

2015年12月15日

心不全-病態生理・検査・治療

『循環器ナーシング』2015年3月号<「おさらい」で看護力UP!3大疾患 総復習>より抜粋。
心不全-病態生理・検査・治療-について解説します。

Point

  • 心機能異常は大きく分けて3つ,「収縮障害」「拡張障害」「弁膜症」!
  • 慢性心不全の急性増悪は「うっ血性心不全」→「急性左心不全」の順に起こり,「低心拍出」は末期心不全で起こる!
  • 「急性左心不全」の治療はBiPAPと血管拡張薬,「うっ血性心不全」の治療は利尿薬,「低心拍出」の治療は強心薬,場合によっては機械的循環補助を行う!

加藤真帆人
(日本大学医学部 内科学系 循環器内科学分野 助教)

〈目次〉

 

はじめに

「心不全(heart failure)」とはすべての心臓疾患によって起こりうる「症候群」であって,心筋梗塞心房細動などのような疾患名ではありません。例えるならば「風邪(common cold)」のような概念です。どんな人が風邪をひくでしょうか? 何がきっかけでしょうか? どんな症状でしょうか? 治療は?…。  

そういったことを考えるのが「臨床心不全学」です。本コラムでは,この「臨床心不全学」について解説します。

 

やさしい循環の病理学

心臓の機能を決める3つの要素

心臓の働きは,「血液を全身に送り出す」ことです。これを「心拍出(cardiac output)」といいます。心臓からは鼓動が聞こえ,脈がありますね。これは心臓が「収縮している(systole)」証拠です。

では,収縮していないときは何をしているのでしょうか? 収縮の逆ですから「拡張している(diastole)」のです。心臓は(あたりまえなのですが)収縮期と拡張期を繰り返すことによって,心拍出を行っているのです(図1)。

図1心臓の収縮(左)と拡張(右)

心臓の収縮(左)と拡張(右)

 

そこで大切なのは,「心臓は自分で血液を作り出すことができない」ということです。ですから,どこからか血液を持ってこなければ「心拍出」できないわけです。だから左室は左房から,右室は右房から,心室を拡張させることで血液を吸い込みます。大きく息を吸うと肺が膨らむのと同じですね。つまり拡張期には,それぞれの心室に「弾をこめる」わけですね。

そしてもう1つ大切なことがあります。それは心房から心室,そして動脈へと正しい順番で血液が送り出されるための仕組みです。この仕組みには「心臓弁」が不可欠です。弁が適切に開いたり,閉じたりして血液の逆流を防いでいるのです。右心系には三尖弁→肺動脈弁,左心系には僧帽弁→大動脈弁がありますね。

以上から心臓の機能は大きく3つに分けて考えます。

  •  心筋が収縮する機能(systolic function)
  •  心筋が拡張する機能(diastolic function)
  •  弁が閉開する機能(valve)

「心臓機能異常(cardiac dysfunction)」とは,この3つのなかの1つ,もしくは2つ以上の機能に異常があることを示します。

 

心筋の収縮障害

もし,心臓に何らかの病気があって,心室が収縮できなくなったらどうなるでしょうか?(これを「収縮不全(systolic dysfunction)」といいます)。そうです,血液を送り(cardiac)出せない状態になります。つまり「低心拍出(low cardiac output)」という状態になってしまうのです。そして,そのようなときに生じるさまざまな症状「血圧の低下」や「意識レベルの低下」,「多臓器不全」などを総称して,「低心拍出症候群(low cardiac output syndrome;LOS)」と呼びます。

 

心筋の拡張障害

「収縮不全」があるのなら,拡張できなくなる事態もあるのでは?と思われた方,センスがいいですね! これを「拡張不全(diastolic dysfunction)」と呼びます。このときに生じる症状はどんなものでしょうか? この場合は「心室がしなやかに拡張しない」わけですから,心房から心室への血液の流入が滞ります。

つまり「血液の交通渋滞」が生じるわけです。この状態のことを「うっ血(congestion)」と呼びます。どこに血液の交通渋滞が生じるかによって,出てくる症状が違います。

左房で交通渋滞が起こると,まず左房内圧が上昇して「息苦しさ」が生じます。さらに,左房につながっている血管「肺静脈」,そしてその手前の「肺胞」にまで渋滞が及ぶと「肺うっ血」「肺水腫」が生じてくるのです。これらを「左心不全(left-sided heart failure)」と呼ぶことがあります。

右房に交通渋滞が生じると,右房につながっている血管「中心静脈(上大静脈と下大静脈)」に血液が渋滞します。すると「頸静脈の怒張」「下大静脈の拡張」,そして「肝腫大」から「腹部膨満感」「食思不振」,「腎うっ血」から「腎機能の悪化」,また間質組織にまで渋滞が及ぶと「四肢のむくみ」が生じてきます。これらを「右心不全(right-sided heart failure)」と呼ぶことがあります。

右心不全の原因は80%以上が左心不全です。つまり,左室の拡張障害が原因で,交通渋滞が「左室→左房→肺→肺動脈→右室」にまで至っているのです(少しややこしいのですが,「右心不全(right-sided heart failure)」とは英語のとおり訳すと「右心側の心不全」であり,「右室自体の異常(right ventricular dysfunction)」とは違います)。

以上の症状徴候は『急性心不全治療ガイドライン』に表でまとめてあります(表1)。

表1急性心不全の自覚症状,他覚所見

急性心不全の自覚症状,他覚所見

 

心臓を中心とした血液循環を思い浮かべてみると,「低心拍出(LOS)」や「うっ血(congestion)」による症状によって,障害されている部位を特定することが可能です。心不全の診療には問診と身体所見が不可欠なのです(図2)。

図2心臓を中心とした血液循環

心臓を中心とした血液循環

 

弁の機能異常(弁膜症)

弁膜症とは「心臓弁が正常な機能を果たさない」ことです。きちんと開かなければ「狭窄(stenosis)」,きちんと閉じなければ「閉鎖不全(逆流)(regurgitation)」と呼びます。そしてどの弁にその問題が生じているかで病名がつくのです。

例えばよくある疾患は「僧帽弁が閉じない」疾患ですが,これは「僧帽弁」+「閉鎖不全」=「僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation;MR)」と病名がつきますし,「大動脈弁が開かない」疾患は「大動脈弁」+「狭窄」=「大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis;AS)」と名前がつきます。

これらの疾患は手術でしか根治することができず,「いつ手術をするのか?」がいつも問題になります。弁膜症は,聴診でスクリーニングして,心エコー検査でしっかり評価します。

 

「心不全」とはあいまいな言葉

準備が整ったところで,いよいよ「心不全(heart failure)」の話に入ります。

例えば親戚の人が,「昨日,おじいちゃんの診察についていったら,心臓が悪いっていわれた。心不全なんだって!」(A)というときに使われる“心不全”と,例えば研修医が,「昨日の当直は心不全の患者が緊急入院して,一晩中寝れなかったよ!」(B)というときに使われる“心不全”では,少々,心不全という言葉の持つ意味合いが違います。

Aは,心臓は悪いけれど,少なくとも入院が必要ではない状態です。一方Bは,まさに緊急入院が必要な状態だったわけです。このように「心不全」という言葉はさまざまな病態を指し示し,実にあいまいです。

先ほど,3つの心機能異常とそれによる症状を表1で説明しましたが,それらのほとんどは「入院治療が必要な心不全」,つまり「B」です。

多くはそこに至るまでにいろいろな代償機構を働かせて,何とか症状が出ないように身体自身が工夫をしています。心機能異常はあるのだけれど,症状が最小限になるようにがんばって代償している状態,つまり「A」ですが,これを「代償性慢性心不全」と呼びます。

それでも心不全が打ち勝つと「代償できなくなる」,つまり「B」になりますが,これを「非代償性慢性心不全」と呼びます。そして「代償性(compensated)」から「非代償性(decompensated)」へと増悪することを「慢性心不全の急性増悪」といい,英語では「acute decompensation」と呼びます。業界用語では,その頭文字を略して「デコった」といいます。

少し整理します。心不全の症状として代表的なものは「起座呼吸」と「下肢のむくみ」です。これらは心機能異常がない人にいきなり現れることはありません。症状を訴える患者のほとんどにはもとから何らかの心機能異常があり,それが代償しきれなくなって症状が出現してくるのです。

図3を見てください。

図3急性増悪の過程と心不全の呼称

急性増悪の過程と心不全の呼称

RAAS:レニンアンジオテンシンアルドステロン系,SNS:交感神経系

もともと何らかの心機能異常があることを「慢性心不全(chronic heart failure)」といいます。そこに体液の貯留が加わると「うっ血性心不全(congestive heart failure)」,さらに起座呼吸が出現すると「急性左心不全(acute heart failure)」と呼ばれる状態になります。

何かのきっかけで「代償性慢性心不全」をコントロールできなくなると,RAASの亢進により体液が過剰となり「うっ血性心不全」へ,それでも放っておくと,いよいよ肺に水が溜まりだして,最後はSNSの過剰な亢進により起座呼吸が出現し「急性左心不全」となるのです。

 

心不全にまつわる諸検査

心不全診療における検査はとてもたくさんありますので,すべてを覚える必要はないと思います。大切なことは,「何を明らかにするのか?」と目的を持って検査を行う(もしくは参照する)ことです。

まずは大きく「うっ血性心不全の存在を確認する検査」と「心機能異常の原因疾患を確認する検査」に分けると理解しやすいと思います。

 

うっ血性心不全の存在を確認するための検査

表2はうっ血性心不全の診断基準(Framingham基準)です。

表2うっ血性心不全の診断基準(Framingham criteria)(文献1より引用)

うっ血性心不全の診断基準(Framingham criteria)(文献1より引用)

 

今から約50年前に作成されているのですが,現在でも通用しています。その項目をみると,問診と身体所見で診断がついてしまいます。それだけ心不全診療においては,問診と身体所見が重要であるということです。これらの諸症状を明らかにすることを目標として問診,身体所見をとるのです。

 

問診

もっともパワフルな「検査」です。いつから,どのような症状が出現したのかでうっ血性心不全の診断に結びつけます。

  •  「急激に」,「安静時呼吸苦」→急性左心不全
  •  「徐々に」,「足の浮腫」→うっ血性心不全
  •  「労作時の息切れ」→心機能異常
  •  「胸痛」,「労作時の胸部違和感」→虚血性心疾患
  •  「心窩部の違和感」,「のどがつっかえる感じ」→心房細動

 

身体所見胸部聴診

  •  頸静脈怒張,肝頸静脈反射肝臓を圧迫すると頸静脈の怒張が認められること),下肢の浮腫→うっ血性心不全
  •  心尖部拍動の位置が鎖骨中線より外側→心拡大(=収縮能の低下)
  •  心尖部最強点の収縮期雑音→僧帽弁逆流(MR)
  •  大動脈弁領域の収縮期雑音→大動脈弁狭窄症(AS)
  •  肺野の捻髪音(fine crackles)→肺間質のうっ血
  •  肺野の水泡音(coarse crackles)→肺水腫

 

胸部X線写真

心拡大,肺うっ血,肺水腫などがわかりますね。ただ,身体所見と聴診で事足りることが多いです。

 

心機能異常の原因となる疾患とその重症度評価のための検査

慢性心不全の原因疾患を突き止めたり,その重症度評価をしたりするには,さらなる検査が必要となります。

心電図

  •  異常Q波→陳旧性心筋梗塞
  •  ST-T変化→虚血性心疾患,心筋虚血の有無
  •  V1の下向きP波→心房負荷
  •  四肢誘導の低電位→うっ血性心不全

 

心臓超音波検査

わかりやすく,情報量も多いですね。左室駆出率(LVEF)と左室拡張末期径(LVDd)に注目し心機能を把握します(HFrEFとHFpEFの区別〔後述〕)。

  •  カラードプラ→弁膜症の存在と重症度判定,手術適応
  •  三尖弁逆流からの圧較差(TRPG)→肺高血圧の存在
  •  下大静脈の径と呼吸性変動→体液過剰の有無

 

血液検査

とくに治療で問題になってくるのは腎機能(クレアチニン,BUN,eGFR)ですね。また,慢性心不全の病状の推移を追うにはBNP(最近はNT-proBNP)が有用です。

 

心臓カテーテル検査

冠動脈/左室造影検査

虚血性心疾患の精査ですね。

 
右心カテーテル検査

心拍出量が正確に計測できます。また,肺高血圧の除外に有益です。

 
心筋生検

心筋症の診断に不可欠ですが,問題はサンプリングエラー(病気がない組織をとってしまい,診断がつかないこと)ですね。

 

心臓MRI

非侵襲的に心筋の性状がわかる優れた検査です。

 

心不全の治療

では,次に治療の話をしましょう。

急性増悪が図3の順番で生じることは説明しました。治療はその逆の過程を作ってやればよいのです。

急性左心不全の治療:「急性左心不全」−「起座呼吸」→「うっ血性心不全」

急性左心不全とは,図4のような患者ですね。起座呼吸で苦しそうです。激しい肺水腫も認め,血液酸素飽和度も低下します。

図4急性左心不全の患者像

急性左心不全の患者像

 

このような患者では,まず「起座呼吸」を治療のターゲットとします。起座呼吸が出現する機序は,血行動態を安定させるための代償機構である交感神経(sympathetic nervous system;SNS)の働きが行き過ぎてしまい,手足の細動脈,および中心静脈が過剰に収縮し,急激な血圧の上昇と胸郭内への静脈還流の増加が生じます。

そのためそれまで手足にあった血液が胸郭内部,つまり身体の中心に急激かつ過剰に移動することによって電撃的な肺水腫が生じてしまい,呼吸苦が起こります(図5)。

図5起座呼吸が生じる機序(volume central shift):交感神経(SNS)の過剰な亢進が原因

起座呼吸が生じる機序(volume central shift):交感神経(SNS)の過剰な亢進が原因

 

これを「volume central shift」と呼びます。

まずは呼吸管理です。できればBiPAPの装着が望ましいと思われます(メモ1)。

メモ1BiPAP/ASV

気管内挿管することなく,圧着型のマスクを使用し,吸気時には「pressure support(PS)」,呼気時には「positive end-expiratory pressure(PEEP)」をかけて呼吸管理を行う装置です。肺水腫による吸気不全と呼気終末時の肺胞の虚脱を予防し,また胸腔内への静脈還流を減らすことで起座呼吸を速やかに改善させます。

PSとPEEPの2つの陽圧をかけることから「Bi(2つ)PAP(陽圧)」と呼びます。最近ではBiPAPを小型化した「adaptive servo-ventilation(ASV)」という機器も使用できます。

 

これは胸腔内の気圧を上げて胸腔内への静脈還流の量を減らすことで,肺水腫を軽減する効果を期待します。

そして薬物治療は血管拡張薬です。これは過剰に収縮した動脈静脈を拡張し,肺を中心とした胸郭内に集まってしまった血液を手足の血管に落とすためです。患者の自覚症状,酸素飽和度,血圧の低下,脈拍数の減少などを指標に治療を進めます。

 

 

うっ血性心不全の治療:「うっ血性心不全」−「体液過剰」→「慢性心不全」

うっ血性心不全とは図6のごとく「体液過剰」状態です。

図6うっ血性心不全の患者像

っ血性心不全の患者像

 

頸静脈怒張,肝腫大,下肢のむくみ,つまり「全身水浸し(volume overload)」なのです。起座呼吸はほとんどありませんので,治療のターゲットは「体液減少」になり,したがって利尿薬を使用することになります。過剰な体液は血管内,臓器内,間質のどこかにあるので,頸動脈や肝腫大,足のむくみを評価しますが,その総合的な効果判定は体重の変化で可能です。

ここで問題になるのが腎機能です。腎機能が悪い患者については,利尿薬が効果不十分であったり,時にはまったく効かないことがあります。そのような場合には,透析という手段を使わざるをえないことがあります。

また,大量の利尿薬の投与自体が腎機能を悪化させるWRF(worsening renal function)という現象も報告されており,腎機能が悪い患者のうっ血性心不全に関しては治療抵抗性の場合が多いのが事実です。

 

慢性心不全の治療:基礎心疾患への対応

先にも触れたように,慢性心不全の原因疾患「心機能異常はあるがうっ血や起座呼吸などの症状を呈していない状態」のことを,「代償性慢性心不全(compensated heart failure)」と呼びます。症状がないわけですので,症状改善のための治療は終了しています。したがってこれらの患者の治療のゴールは大きく2つです。

  •  再発予防,現状維持のための治療
  •  心機能改善のための治療

まずは,心機能異常の原因となった基礎心疾患が何かをみつけることが必要です。よくある原因疾患を考えてみましょう(表3)。

表3慢性心不全の原因疾患

慢性心不全の原因疾患

 

最も頻度の高い原因疾患はやはり「虚血性心疾患」で,なかでも「陳旧性心筋梗塞」がそのトップです。近年は医療技術と救急システムの発展により,急性心筋梗塞をきたしても命が失われなくなりました。

しかし冠動脈にステントをおいて血流を流しても,壊れてしまった心筋細胞が元に戻るわけではありません,脳細胞と心筋細胞は再生しないのです。したがって40〜60歳代で心筋梗塞を発症した患者がやがて高齢者になり,うっ血性心不全をきたしてしまうことが多く見受けられます。

次の原因は,弁膜症です。なかでも僧帽弁閉鎖不全症(MR)と大動脈弁狭窄症(AS)は頻度の高い弁膜症です。これも病状が徐々に進行するため,手術のタイミングを逃してしまい,いきなり末期心不全で入院することもあります。

心筋症(cardiomyopathy)とは「心臓の筋肉自体に問題がある疾患」の総称で,原因不明な場合は「特発性(idiopathic)」という言葉が頭につきますし,他の疾患が原因,例えばアドリアマイシンなどによる化学療法の副作用であったり,内科的疾患が原因であったりする場合には「二次性(secondary)」という言葉が頭につきます。

心筋症は,比較的頻度は低いのですが,若年者での重症心不全の原因のほとんどがこれであり,心移植を検討する可能性が高い疾患です。

 

再発予防現状維持のための治療

再発とはすなわち「体液過剰」であり,「起座呼吸」が生じてしまうことです。

体液過剰の原因は,ズバリ血行動態を安定させようとする体液の仕組みである「レニンアンジオテンシンアルドステロン系(renin-angiotensin aldosterone system;RAAS)」(図7)の過剰な亢進だと考えられています。

図7うっ血(体液過剰)が生じる機序(volume overload):体液性因子 (RAAS)の過剰な亢進が原因

うっ血(体液過剰)が生じる機序(volume overload):体液性因子 (RAAS)の過剰な亢進が原因

 

したがって,ある程度の利尿薬を維持量で継続投与するだけではなく,これらの体液性因子RAASを抑制する治療も不可欠になってきます。それらの薬物のことをRAAS阻害薬と呼び,具体的にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB),アルドステロン受容体拮抗薬のことを指します。

そして「起座呼吸」を予防するためには,「交感神経 (sympathetic nervous system;SNS)」をブロックする治療が必要です。その役目はβ遮断薬が担っています。よって,RAAS阻害薬,β遮断薬,そして必要に応じて利尿薬の投与が必要になるのです。

 

心機能改善のための治療

基本的には「β遮断薬+RAAS阻害薬,必要ならば利尿薬」の投与を継続したうえで,原因疾患について介入の余地があれば介入していくことになります。

虚血性心疾患

まずは冠動脈血流がしっかりと保たれているかの検査を施行します。冠動脈造影検査や施設によっては心臓核医学検査などで評価し,虚血があれば経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention;PCI)を行います。

 
弁膜症

弁膜症の根治治療は手術しかありません。手術適応を見定めて,積極的に行うことが必要だと思います。弁膜症は手術のタイミングを逃すと生命予後が短くなるだけではなく,最後の最後まで苦しんで亡くなっていくことになるからです。「もう歳だから手術はしないよ」という言葉は,手術をしない理由にはなりません。いずれやってくるその「死に方」も変わってくるからです。

 
心筋症

二次性の心筋症に関しては,その原疾患をしっかりと治療します。特発性の場合には,早期に心移植を前提とした治療計画を立てるべきです。今は症状がなくとも,将来的に落ち込んでくることは明らかであり,そのときになって移植登録を行っても,遅れてしまうことが多くあります。

最近では,一部の施設で植込み型補助人工心臓が使用可能となりました。若年者重症心不全は北は北海道から南は沖縄まで,どんな都会でも,どんな田舎でも同じ医療が提供されるべきだと思います。そのためには,地方にいる医療従事者も若年者心不全に対する知識を得ることが不可欠だと思います。

 

「へふぺふ」って何?

本稿の最初,病態生理のところで心機能異常を3つに分けて考えましたね。収縮能,拡張能,弁膜症でした。2000年当初まで,慢性心不全といえば左室収縮能が落ちている心不全のことを指していました。これを英語では「heart failure with reduced ejection fraction(HFrEF)」といい,略語の発音は「へふふ」です。そこで触れましたが,左室の収縮能が維持されていても,拡張障害があればうっ血性心不全を発症します。

したがって「拡張期心不全(diastolic heart failure;DHF)」という疾患概念が出現してきました。今では,左室収縮能が維持された心不全「heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)」といい,その略語を発音して「へふふ」と呼んでいます。一見,左室はよく動いているのです。でも,慢性心不全なのです。

では,質問です。ちょっと考えてみてください。左室の収縮能が,例えばEF=20%の心不全患者(すなわちHFrEF;へふふ)と,EF=60%の心不全患者(すなわちHFpEF;へふふ)では,どちらが長生きできると思いますか?

その答えには,世界が驚きました。なんとHFrEFとHFpEFの生命予後はほとんど同じであったのです。図8は日本人のデータですが,生命予後,および心血管イベントはHFrEF,HFpEFともにまったく同じでした。

図8生命予後,および心血管イベント発生についてのHFrEFとHFpEFの比較(文献2より引用)

生命予後,および心血管イベント発生についてのHFrEFとHFpEFの比較

 

それまでの 常識ではHFpEFは長生きできるとみんなが信じていたのです。「HFpEFが重症化するとHFrEFになっていくのだ!」と考える人もいたのですが,しかし今ではその両者はまったく異なった慢性心不全であることがわかってきました。しかも,さらに大きな問題があるのです。それは「β遮断薬+RAAS阻害薬,必要なら利尿薬」治療は,なんとHFpEFには効かないのです!

最近になって,HFpEFに関しては,まだまだ「よくわかっていない」ことがわかってきたのです。今後,新しいエビデンスが報告されてくると思われますので,少し気にとめておいてください。

 

低心拍出症候群(LOS)

これまで,「うっ血性心不全」,そして「急性左心不全」について述べてきましたが,最後に心臓から血液が送り出せなくなってしまう病態について説明します。これを「低心拍出症候群(low cardiac output syndrome;LOS)」と呼びます。

LOSの症状については表1に示したとおり,うっ血による所見とは違って血液が足りないことによって生じるものが多く,生命にとってはより危機的な病態です(図9)。

図9低心拍出症候群の患者像

低心拍出症候群の患者像

 

LOSになる原因は大きく分けて2つあります。

  •  収縮能がすごく速いスピードで低下した(acute cardiac failure)
  •  収縮能がすごく大きく低下した(advanced heart failure)

です。

 

Acute cardiac failure type:急激に心臓の収縮能が低下した

慢性的な心疾患,例えば弁膜症や心筋症などによって,徐々に収縮能が落ちる場合には,交感神経(SNS)や体液性因子(RAAS)など,神経体液性因子の代償機構が働き血行動態を安定させます。したがって,これまで述べてきたように多くの場合には,まずうっ血性心不全が生じます。

しかし,その代償を上回るスピードで収縮能が低下すると,代償機構が追いつきません。その結果,心拍出量の低下をきたしLOSとなります。

このように神経体液性因子の代償を上回るくらい速いスピードで収縮能が低下する病気は,急性心筋梗塞(acute myocardial infarction;AMI)です。

大きな急性心筋梗塞では,あっという間に心筋の収縮能が低下し,代償機構の働きが間に合わずLOSになります。心原性ショックをきたすことも少なくありません。治療に関しては,心筋を救うべく速やかに冠動脈の血行再建,すなわちPCIを行うことになります。

それまでの間は,カテコラミンなどの強心薬を投与し,場合によっては大動脈内バルーンパンピング(intra aortic balloon pumping;IABP)や経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support;PCPS)など,機械的循環補助(mechanical support)を行い低灌流から主要臓器を保護します(メモ2)。

機械的循環補助を開始する大前提は,PCIで「救える心筋が残存している」ということです。

メモ2機械的循環補助(IABP,PCPS)

短期的に循環を補助する機器の総称で,大動脈内バルーンパンピング(intra aortic balloon pumping;IABP)と経皮的補助心肺装置(percutaneous cardiopulmonary support;PCPS)が代表的です。ともに鼠径部の大血管から挿入し使用するため感染症出血に弱く,短期的にしか使用できません。

 

Advanced heart failure type;徐々にではあるが心臓の収縮能が大きく低下してしまった

一方,長い時間をかけて徐々に心臓の収縮能が低下してもLOSになります。もちろん,神経体液性因子による代償機構は働くわけですが,それを上回るくらい大きく収縮能が落ちてしまうとLOSになります。この状態はすべての慢性心不全の末期であり,末期心不全(advanced heart failure)と呼ばれます(図10)。

図10慢性心不全のクロニクル

慢性心不全のクロニクル

 

LOSが出始めた慢性心不全には,まずは薬物治療として経口強心薬が検討されますが,効果が限定的であることと,致死的な不整脈などの出現が懸念されることから,その適応に関しては個々の状況によって判断されます。

次に非薬物治療として心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy;CRT)による左室の効率化治療を検討します(メモ3)。これも少なからずNon-Responderと呼ばれる効果無効患者が存在します。

メモ3CRT(cardiac resynchronization therapy)/ICD

通常のペースメーカは右房と右室にしかリード線を置きませんが,さらに冠静脈にリード線を挿入することで左室にもリード線を留置しペーシングを行う装置(両心室ペーシング)を使用し,リード線による左室内(自由壁と中隔壁),左室と右室,さらには心房と心室の収縮のタイミングを調整し,心筋の力を変えることなく,心拍出量を向上させる治療法です。

心臓の内側から電気ショックをかけて不整脈を治療する植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator;ICD)の機能を併せ持つ機器(CRT-D)もあります。

 

さらに慢性心不全の病態が進行すると,いよいよ右室の収縮力も低下してしまいます。こうなるといくら左室ががんばっても,血液が左心側に回ってきませんのでどうしようもないのです。また,右室は筋肉量が少なく強心薬の効果は限定的で,CRTでも改善は困難です。

Acute cardiac failure typeとは違い,カテーテル治療などにより「救える心筋はもうない」ので,ここまで追い込まれると心臓を取り替える「心移植」しか手はありません。しかし,心移植医療はすべての患者に対して行えるわけではなく,とくに65歳を超えた末期心不全患者には,その適応はありません。

現時点では体外式補助人工心臓や植込み型補助人工心臓(メモ4)に関しても,原則として移植適応が前提になりますので使用することは困難です。

メモ4補助人工心臓(体外式,植込み型)

空気もしくは電気で駆動するポンプにより心室の補助をする機器です。心室の先端に管を縫いつけて脱血し,ポンプに引き入れ,上行大動脈へ送血します。開胸手術によって装着する必要があります。IABPやPCPSに比べると感染や出血のリスクが少なく,長期的に使用することが可能です。

ポンプは体外設置型の他,最近では植込み型も使用でき,退院が可能となりました。基本的に心臓移植の適応患者に対して,ドナー心が現れるまで使用します(bridge to transplant)。海外では,心移植ができない患者に対して一生涯使用する場合(destination therapy)もあります。

 

したがって多くの末期心不全患者に関しては,症状を取り除く治療や緩和医療が必要となりますが,この末期心不全の緩和医療に関しては,取り組みも知見の蓄積も,まだまだ不十分であるといわざるを得ません。今後,超高齢社会を迎える日本において高齢者心不全が増加するなか,この分野のいっそうの充実が期待されます。

 

おわりに

お疲れ様でした! 難しいこともたくさん出てきたと思いますが,「心不全(heart failure)」という概念を大きくつかんでいくことが大切です。

日本は世界で一番医療が進んでいる国の1つであり,だんだん「心不全以外では人が亡くならない国」になっていきます。これからの日本はますます高齢社会になり,高齢の心不全患者が激増していきます。若年者心不全は何が何でも救済する一方で,高齢者心不全のゴールは「長生き」から「生活の質」へと,発想の変換が迫られている気がします。

「死を考えることは,生を考えること」,

よりよい死とは何かを考える時代が,もう,そこまでやってきている気がします。

 

 


[引用・参考文献]


[Profile]
加藤真帆人(かとう まほと)
日本大学医学部 内科学系 循環器内科学分野 助教
2000年 信州大学医学部卒業後,スーパーローテート研修,2002年 国立循環器病センターレジデント,2005年 同センター心不全部門専門修練医,2007年 Harvard Medical School, Brigham & Women's Hospitalを経て,2010年より現職。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2015年3月号

循環器ナーシング 2015年3月号

P.58~「3大疾患:心不全-病態生理・検査・治療-」

著作権について

この連載

  • 高度房室ブロック,洞停止の前兆と関連病態 [12/31up]

    『循環器ナーシング』2014年5月号<この波形を見逃すな!循環器病棟の危険な不整脈 >より抜粋。 高度房室ブロック,洞停止の前兆と関連病態について解説します。 Point 心臓の刺激伝導の興奮順序を知る!「洞... [ 記事を読む ]

  • 不整脈とその理解 [11/13up]

    『循環器ナーシング』2013年5月号<循環器ナースが知っておくべき基礎知識>より抜粋。 不整脈について解説します。 Point 正常心電図における,「刺激伝導系を介した心臓の興奮伝達と心電図波形との関連性」を... [ 記事を読む ]

  • 心不全-病態生理・検査・治療 [12/15up]

    『循環器ナーシング』2015年3月号<「おさらい」で看護力UP!3大疾患 総復習>より抜粋。 心不全-病態生理・検査・治療-について解説します。 Point 心機能異常は大きく分けて3つ,「収縮障害」「拡張障...

  • CHDF施行患者の看護 [02/07up]

    『循環器ナーシング』2015年6月号<安全・安心なケアを目指して!ICU・CCUのME機器を理解する! >より抜粋。 CHDF施行患者の看護について解説します。   Point CHDFは持続的かつ緩徐... [ 記事を読む ]

  • IABP挿入中の患者の看護 [12/23up]

    『循環器ナーシング』2015年6月号<ICU・CCUのME機器を理解する! >より抜粋。 IABP挿入中の患者の看護について解説します。 Point IABP駆動状態の観察を適切に行い,循環動態を維持できるよ... [ 記事を読む ]

関連記事

  • ペースメーカーの種類と適応 [01/10up]

    心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。 今回は、ペースメーカーの種類と適応について解説します。 田中喜美夫 田中循環器内科クリニック院長   〈目次〉 ペースメーカーとは何か ... [ 記事を読む ]

  • 心電図|循環 [07/29up]

    看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。 〈前回の内容〉 刺激伝導系と心拍動の自動性 今回は、心電図について解説します。 片野由美 山形大学医学部名誉教授 内田勝雄 山形県立保健医療... [ 記事を読む ]

  • 心筋の収縮はどのように伝わるの? [05/20up]

    看護師のための解剖生理の解説書『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。 〈前回〉 心臓はどのようにして血液を送り出しているの? 今回は「心筋の収縮」に関するQ&Aです。 山田幸宏 昭和伊南総合病院健診セ... [ 記事を読む ]

  • 不整脈に関するQ&A [06/07up]

    『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。 今回は「不整脈」に関するQ&Aです。 山田幸宏 昭和伊南総合病院健診センター長   〈目次〉 1.不整脈ってどんな病気? 2.なぜ不整脈が... [ 記事を読む ]

  • 上室性期外収縮|洞性P波から読み解く不整脈(5) [03/26up]

    看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。 〈前回の内容〉 洞不全症候群 今回は、上室性期外収縮についての解説の1回目です。 田中喜美夫 田中循環器内科クリニック院長   ... [ 記事を読む ]

いちおし記事

看護師的ナイスフォロー!気が利く同僚たちをご紹介|看護師の本音アンケート

「めちゃくちゃ助かる!ありがとう!」と感激した同僚エピソード。みんなも経験ある? [ 記事を読む ]

患者さんが転倒骨折! 要介護5になった責任はどこに?

実際の医療訴訟をもとにナースが気をつけるポイントを解説。 [ 記事を読む ]

人気トピック

もっと見る

看護師みんなのアンケート

救急救命士、病院内でも救命処置が可能に。あなたは反対?賛成?

投票数:
1316
実施期間:
2019年11月19日 2019年12月10日

結婚するなら、同じ医療者がいい?それとも、医療者以外がいい?

投票数:
1292
実施期間:
2019年11月22日 2019年12月13日

後で「急変の予兆だったのかも?」と思ったことある?

投票数:
1121
実施期間:
2019年11月26日 2019年12月17日

人生最大級の「お酒の失敗」教えて下さい。

投票数:
1030
実施期間:
2019年11月29日 2019年12月20日

一時期病的にハマっていた食べものや飲みものはある?

投票数:
803
実施期間:
2019年12月03日 2019年12月24日

医師と結婚できるなら、したい?

投票数:
622
実施期間:
2019年12月05日 2019年12月26日
もっと見る

今日の看護クイズ 挑戦者806

◆災害医療の問題◆惨事ストレスについて正しい説明は以下のうちどれでしょうか?

  • 1.惨事ストレスは、通常、経験しない急激、かつ衝撃的な問題や脅威に直面した場合に生じる。
  • 2.交通事故や火災などの人為的災害時に、惨事ストレスは発症しやすくなる。
  • 3.惨事ストレスとは、小規模の事故や事件で起こるストレス反応ではなく、大規模災害時に起こるストレス反応のことを指す。
  • 4.現場での救援活動を職務とするレスキュー隊員には惨事ストレスは生じにくい。
今日のクイズに挑戦!