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2015年12月19日

体温の調節|生体を維持する恒常性のはたらき(3)

ナースのための解剖生理の解説書『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』より
今回は、生体を維持する恒常性のはたらきから解剖生理を理解するお話の3回目です。

〈前回の内容〉

血圧・血糖値・pHの調節|生体を維持する恒常性のはたらき(2)

前回は、正常な体内環境の状態を維持するために、神経やホルモンが調節している血圧血糖値・pHについて学びました。

今回は、細胞が生きていくうえで重要な体温の調節について解説します。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

〈目次〉

 

体温の調節

私たちは日々、さまざまな栄養素を取り込んで体内で代謝活動を行っていますが、こうした代謝によって生じるエネルギーのおよそ6割は体温維持のために使われています。体温を維持することは、細胞が生きていくうえで、それだけ重要だといってもよいでしょう。

身体の中の社会|生体としての人体(3)』でもお話したように、生体内での化学反応がちょうどよいスピードで行われるには、体温を36〜37℃に保つ必要があります。一般に、化学反応の速度は温度が10℃上がると2倍になるといわれます。したがって、体温が高すぎると、代謝のスピードが速すぎて栄養素が過剰に消費されるおそれがありますし、体温が低すぎると必要な代謝の活動が迅速に進まないといったことになります。

 

memo外殻温度と核心温度

四肢および体幹部表面の温度は外気温によって変動し、まわりの温度が低いと低下します。この部分の温度を外殻温度と呼びます。これに対し、脳や肺、腹部内臓などの身体深部の温度は核心温度と呼び、こちらは外気温にかかわらず体温調節によって一定温度域内に保たれています。

 

体温が調節されている個体はリモコンで温度を設定し、室温が自動調節されている部屋と同じです。外気温の変化に伴い室温が変化するとその温度情報がセンサーで検知され、設定温度と比較します。室温が設定温度より低くなると冷房を弱くし暖房を強くして、室温を設定温度にまで上げようとします。逆に、室温が設定温度より上がると暖房を弱くし、冷房を強め、室温を下げようとします。

個体の正常体温は視床下部に設定されており、視床下部は皮膚や脳から入力される体温情報と設定温度とを比較し、熱産生(暖房)と熱放散(冷房)のバランスをとることで、体温を調節しています。

 

COLUMN1日の間にも体温リズム

体温は1日中一定ということはなく常に変動しています。夜間から早朝4時頃が最も低く、起床し活動始めると体温も上昇し始め、昼から夕方まで高く維持しています。そして夜になって下がり始めます。その差は0.5〜0.7℃です。

夜になって体温が下がるときに眠気を感じやすく、入眠には最適なタイミングです。ですから、寝る前に入浴すると体温が上がり、その後の体温が下がってきたところで就寝すれば、よい睡眠が得られるでしょう。ただし、入浴直後は体温が高いので、就寝1時間くらい前までには入浴を済ませたいものです(図1)。

図1体温の日内変動

体温の日内変動

 

memo晴天の雪山

輻射による熱の移動は2つの物体の温度差によって起こります。その間にある空気の温度は関係ありません。ですから、外気温の低い冬の雪山でも、晴れていて太陽からの輻射が多いときにはかなりの薄着でも過ごせるのです。

 

体温を上げる調節

個体が体温よりも寒い環境にさらされた場合、脳の視床下部からは熱を逃げないようにする指令(冷房を弱める)と、熱を産出する(暖房を強める)指令が下ります(図2)。

図2

 

熱を逃げないようにする反応はまず、皮膚の毛細血管で起こります。血液は熱を運ぶ役割も果たし、皮膚の表面や手足の末端は熱が放出されるポイントでもあります。ですから、こうした場所の毛細血管を収縮させ、血液を流さないことによって、体内の熱を外に逃がさないようにするわけです。

しかし、これが長引くと、末梢の細胞に酸素と栄養素が届かずに、やがて死んでしまいます。これが凍傷です。

一方、熱を産出するのは骨格筋のはたらきです。寒いところに行くとからだがブルブル震えてくるのは、熱産出に大きな効果がある骨格筋の動きによって体温を正常な状態に保とうとする生体の反応です。骨格筋は実に一日に必要とされる熱量のおよそ半分をつくり出しているといいますから、骨格筋を動かすのがいかに効率のよい熱産出方法かわかるでしょう。

 

memo3種類の発汗

温熱性発汗:手掌と足底を除く体表面に温熱が刺激となって汗をかくもの。主としてエクリン腺からの発汗で、この発汗により体熱を放散し、体温調節を行う。

精神性発汗:手掌、足底に分布するアポクリン腺からの発汗は精神的な緊張、恐怖などによるもの。「手に汗を握る」という慣用句は文字通り精神性発汗のことで、体温調節の効果はない。

味覚性発汗:わさびや唐辛子などの刺激性食品を摂取したときにみられる発汗で、口唇、などの顔面や頭部に現われる。

 

体温を下げる調節機構

反対に体温が高くなりすぎると、どんな反応が起きるでしょう?

視床下部からは、まず、どんどん熱を放出しなさいという(冷房を強める)指令が下ります。熱を放出するには、先ほどの反対に皮膚の毛細血管の血流をよくして、そこから多くの熱が放出されるようにすればよいわけです。

体内から熱が放出されるしくみには、輻射と呼ばれる現象が関係しています。たとえば、コンクリートの壁に覆われた部屋に座っていると想像してください。座っている「わたし」という物体とコンクリートの壁を比較して、コンクリートの壁のほうが冷たい場合、熱は「わたし」からコンクリートのほうへ流れます。これが輻射です(図3)。輻射は暖房にも利用され、体温より高温のストーブやコタツからの輻射熱で暖まっています。

図3熱放出のルート

熱放出のルート

 

輻射によっても体温が下がらない場合、今度は皮膚の表面から汗が出てきます。これには、気化熱が関係しています。つまり、水分が皮膚の表面で気化して水蒸気になる際にエネルギーを使って熱を放出するのです(蒸発)。

 

memo2種類の汗腺

皮膚にはエクリン腺とアポクリン腺の2種類の汗腺が分布しています。エクリン腺は全身に分布し、高温環境下での発汗により体温が上がらないように調節しています。アポクリン腺は腋窩、会陰部、顔面の一部など限局して分布しており、体温調節に関与していません。

 

もう1つ、熱を放散するには伝導を利用する方法があります。真夏の暑いとき、コンクリートの壁に直接触れるとひんやりしますね。これは、直接冷たいものに触れることで熱が冷たいほうへ移動する伝導を無意識に利用して熱を放出しているのです。また、金属を触れるとコンクリートより冷たく感じますね。それは、熱伝導率の高い金属が体熱をどんどん奪っていくからです。伝導はホットカーペットといった暖房にも利用されています。ただ、直接触れるのでカイロや湯たんぽでは低温やけどに気をつけなければなりません。

また皮膚の表面で空気の動き(対流)があれば伝導・発熱による熱放出も促進されます。風があると体温が奪われるので、冬の寒い日に風が強いとなお寒く感じるのはこのためです。

 

memo動的力学作用(specific dynamic action;SDA)

食物摂取後(2〜3時間後)、消化された栄養素が吸収される際、各栄養素が盛んに酸化され、熱の生産が増加します。これを特異力学作用と呼んでいます。

 

COLUMN発熱はなぜ起こる?

脳の視床下部にある体温調節中枢には、エアコンのパネルにあるような温度を設定するスイッチがあり、ふだんは36〜37℃にセットされています。

細菌などの病原体が侵入すると、マクロファージ白血球が発熱物質を放出します。これが設定温度を上げてしまい、身体は新たに設定された温度まで体温を上げる調節機構がはたらくことになるのです。これは個体が体温より低い環境にさらされた場合と同じ状況なので、寒気(悪寒)を感じるのです。それと同時に、皮膚血管の収縮により皮膚は冷たくなり、ふるえによる熱の産生が始まります(図4)。

図4

 

memo不感蒸泄とは

皮膚の表面の潤いを保つために、皮下からは絶えず水分がしみ出て蒸発しています。また、呼吸では肺や気道の水分が呼気中に含まれ、蒸発します。これらを不感蒸泄といい、その量は成人で1日1,000mLにもなると言われます。

 

〈次回〉

男性の生殖器の構造と射精のメカニズム|受精のしくみから理解する(1)


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典] 『身体のしくみとはたらき』 (編著)増田敦子/2015年3月刊行/ サイオ出版

参考文献

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