『循環器ナーシング』2014年6月号<疾患ごとに理解する!循環器疾患のくすり>より抜粋。
狭心症の治療に使われる薬について解説します。
Point
- 狭心症とはどのような病態であるかを理解する!
- 狭心症の症状改善には,硝酸薬,カルシウム拮抗薬,β遮断薬を考慮する!
- 狭心症の予後改善には,抗血小板薬,スタチンを考慮する!
岡本 慎
(関西労災病院 循環器内科 医長)
粟田政樹
(大阪大学大学院医学系研究科 先進心血管治療学寄附講座 助教)
〈目次〉
はじめに
狭心症は,冠動脈の器質的狭窄や冠攣縮による機能的狭窄によって,心筋の酸素需要に対して酸素供給が不足するために起こる胸部圧迫感や胸痛などを主症状とする症候群です。狭心症は多くの観点から分類がなされますが,その1つが病態(発生機序)からの分類です(図1)。
心筋が必要とする酸素(酸素需要)は心筋収縮力,心拍数,血圧(後負荷),心室容積(前負荷)で決まり,心筋に届く酸素量(酸素供給)は冠動脈血流量と酸素運搬能で決まります(図2)。
硝酸薬
硝酸薬は,血管内皮細胞に作用して一酸化窒素を産生することにより血管を拡張させます。狭心症に対する効果は,冠動脈の拡張・冠攣縮の弛緩による冠血流の増加,全身の動脈拡張による血圧低下(=後負荷の軽減),静脈拡張による還流量低下(=前負荷の軽減)などが挙げられます(表1)。
どんなときに使う?
舌下錠や内服錠,徐放剤(ゆっくり効くタイプの内服剤),スプレー,テープ,注射剤といった種々の剤型がありますので,用途に応じて使い分ける必要があります。
胸痛発作時や肺うっ血などの急性期治療には,即効性と簡便性の高い舌下錠やスプレー剤が使用されます。効果は1~2分程度で現れます。これらが有効であれば,狭心症の診断が確実であるということもできます。数分経っても症状が改善しない場合,追加投与します。それでも効果が乏しい場合には心筋梗塞に陥っている可能性があり,緊急での処置が必要です。
救急処置室においては,より即効性の高い注射剤もよく使用されます。テープ製剤は,効果の持続性があることや経口での服薬が減ることから,患者のQOLの向上につながります。
使うときに注意すべき点は?
狭心症の発作予防のために長時間作用型の硝酸薬を長期間投与すると,硝酸薬耐性(効きにくくなること)が出現することがあるので,一日のうちで硝酸薬が効いていない時間を作ることが大事です。
また,血圧が低い患者は,硝酸剤投与によりさらに血圧が下がり状態が不安定になる可能性がありますので使用できません。そのような患者の場合には,硝酸薬と同様の作用を持ちながらも血圧の変動が少ないとされるニコランジル(商品名:シグマート®)が使用されることがあります。
また,ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(シルデナフィルクエン酸塩,バルデナフィル塩酸塩水和物,シルデナフィル)を投与中の患者は,硝酸薬やニコランジルを併用すると血圧低下作用が強く出ることがありますので禁忌となっています。
カルシウム拮抗薬
細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害することにより,血管平滑筋の緊張を低下させて血管拡張作用を発揮します。血管拡張作用による血圧低下(=後負荷軽減)と,冠血管拡張作用による冠血流増加によって,狭心症に対し効果を発揮します。
カルシウム拮抗薬は,血管拡張作用の強いジヒドロピリジン系と,心拍数低下および心収縮力低下作用を有する非ジヒドロピリジン系に分類されますが,ジルチアゼムは血管拡張作用も有しています(表2)。
どんなときに使う?
カルシウム拮抗薬は,通常量の使用では副作用の発現も少なく安全に使用できる薬剤です。とくに冠攣縮性狭心症では第一選択薬となっています。欧米と比較すると,狭心症において冠攣縮の関与が大きいと考えられる日本では,カルシウム拮抗薬は重要な狭心症薬の1つとなっています。
とくにベニジピンは他のカルシウム拮抗薬と比較して,冠攣縮性狭心症患者の予後を改善させるという報告があり(1),使用が増加すると思われます。
また,冠攣縮性狭心症には,一定期間経過したのちにカルシウム拮抗薬を中止しても発作が生じない,いわゆる自然寛解が一部の例にあるといわれています。
使うときに注意すべき点は?
短時間作用型のカルシウム拮抗薬は反射性の交感神経亢進によって頻脈となり,心筋の虚血が悪化するとされており,狭心症患者には使用を控えます。それに対して長時間作用型は,症状改善と予後改善に効果があります。
冠攣縮性狭心症に対して使用していたカルシウム拮抗薬を中止した際に症状が増悪すること(リバウンド現象)が報告されており,減量や中止の場合は段階的に行い,ホルター心電図などで冠攣縮の悪化がないことを確認する必要があります。
非ジヒドロピリジン系の薬剤は心収縮力低下作用と脈拍低下作用があるため,重篤なうっ血性心不全やⅡ度以上の房室ブロックがある患者には使用できません。また,催奇形性が報告されていることから,妊婦には使用できません。
β遮断薬
β遮断薬は,交感神経の亢進を抑えることにより狭心症に対して効果を発揮します。その作用としては,心拍数の低下,心筋収縮力の低下,血圧の低下(=後負荷の軽減)が挙げられます。
β遮断薬はβ1選択性の有無,内因性交感神経活性化作用(ISA)の有無,α遮断作用の有無などによって分類されます(表3・MEMO1・MEMO2・MEMO3)。
MEMO1β受容体のタイプ
β受容体にはβ1,β2,β3の3つのサブタイプがあり,β1は主に心臓に分布して心拍数増加と心収縮力増加に作用します。β2は血管平滑筋や気管支平滑筋の弛緩に作用し,β3は脂肪組織や胃腸管に存在し脂肪分解や消化管弛緩に作用します。
MEMO2内因性交感神経活性化作用
β遮断薬のなかには弱いβ刺激作用(=内因性交感神経活性化作用)を持つものがあります。この作用を有する薬剤は,安静時の心拍数低下や心収縮力低下が少ないという点から使われた時期もありましたが,予後改善のデータが乏しいことから現在ではあまり使用されなくなっています。
MEMO3α遮断薬
α受容体への刺激は血管平滑筋の収縮に作用します。また前立腺にも分布し,前立腺肥大による排尿障害に対してα遮断薬は頻用されています。
どんなときに使う?
労作性狭心症においては,労作による交感神経亢進から心筋酸素需要が増加して発症するため,β遮断薬は目的にかなっており,最初に使用されることが多い薬剤です。また,心筋梗塞後の患者においては予後改善効果が認められることから,積極的な使用が推奨されています。
使うときに注意すべき点は?
β遮断薬は,心拍数低下作用があるため高度徐脈やⅡ度以上の房室ブロックがある患者には禁忌となります。また,低血圧患者においても注意を要します。β遮断薬はβ2遮断作用と相対的なα受容体優位のため,末梢動脈収縮作用が増強したり,気管支攣縮や冠攣縮を誘発したりする可能性があります。
そのため,末梢循環不全の患者の場合には,β1選択性かα遮断作用を有するものを慎重に投与します。また,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患患者も原則は禁忌ですが,β遮断薬が必要な患者には,β1選択性のものを使用します。
冠攣縮性狭心症患者においても使用は避けられますが,冠動脈に器質的な狭窄が存在しβ遮断薬を使う必要がある場合には,長時間作用型のカルシウム拮抗薬との併用が推奨されています。
抗血小板薬
アスピリンは,血小板のシクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を不可逆的に阻害し,血小板凝集を抑制します。この効果は血小板の寿命(8~10日)が消えるまで続くため,少量のアスピリンの投与でも効果は持続します(表4)
どんなときに使う?
抗血小板薬には抗狭心薬としての作用はありませんが,狭心症をはじめとする冠動脈疾患患者の予後を改善することから,アレルギーなどがあって内服できないとき以外は使用されるべき薬剤となっています。
日本循環器学会の『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン』では,安定労作狭心症あるいは不安定狭心症に対して表5のように報告されており,アスピリンまたはクロピドグレルの投与が推奨されています(MEMO4)。
MEMO4ガイドラインにおける表記の分類
- クラスⅠ:有益/有効であるという根拠があり,適応であることが一般に同意されている。
- クラスⅡa:有益/有効であるという意見が多いもの。
- クラスⅡb:有益/有効であるという意見が少ないもの。
- クラスⅢ:有益/有効でない,ないし有害であり,適応でないことで意見が一致している。
また,狭心症に対してステント治療が施行された場合,ステント血栓症予防のため,アスピリンとクロピドグレル(あるいはチクロピジン)の併用が推奨されています。その併用期間としては,薬剤溶出性ステント使用例では最低12ヵ月,ベアメタルステント使用例では最低1ヵ月となっています。
しかし抗血小板剤併用による出血合併症が懸念されており,最近の報告では出血リスクが高い患者の場合には6ヵ月で併用療法を中止してもよい可能性も指摘されています(2)。そのため,主治医の判断で併用期間が短縮されることもあります。
使うときに注意すべき点は?
アスピリン使用の注意点としては,喘息を誘発することがあり(アスピリン喘息),解熱鎮痛薬で喘息になったことがある患者は内服できません。また,胃潰瘍などの消化管潰瘍の既往がある場合も注意が必要で,プロトンポンプインヒビター(PPI)などの制酸薬,胃粘膜保護薬を併用します。
スタチン
食生活の欧米化に伴い,日本人の低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値は上昇しています。多くの疫学調査では,LDL-C値が高いほど狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の頻度が高いことが示されています。動脈硬化学会ではスクリーニングのための基準値を表6としています。
表6脂質異常症のスクリーニングのための基準
スタチンはLDL-Cを強力に低下させるだけでなく,血管組織に対する抗炎症作用,血管内皮機能改善作用によるプラークの退縮・安定化作用などの多面的な働きがあります(表7)。
そのため,脂質異常症治療薬としてのみならず,心血管病の一次・二次予防薬として広く使用されており,安定狭心症患者においても死亡率を低下させるという報告があります。
どんなときに使う?
狭心症の予防および治療のためには,生活習慣改善を基本として薬物療法を組み合わせていくことなります。一次予防(狭心症にならないための対策)ではまず生活習慣の改善を行い,そのうえで必要に応じて薬物療法を考慮します。
一次予防に置けるカテゴリーの決め方は少し複雑ですが,糖尿病,慢性腎臓病,非心原性脳梗塞,末梢動脈疾患のいずれかがあれば,LDL-Cの目標値は120mg/dLとなります。二次予防(すでに狭心症になった人の対策)ではLDL-Cの目標値もかなり低く,100mg/dL未満となっています。
使うときに注意すべき点は?
スタチン使用の注意点として肝機能障害,ミオパシー,横紋筋融解症,血小板減少の発症が挙げられます。新規に服用を開始する場合,血液検査での副作用のチェックが不可欠です。また,患者には,筋肉痛や黒色尿が出現した場合には申し出てもらう必要があります。
おわりに
本コラムでは狭心症の薬について解説しました。昨今の医療機器の進歩に伴い,多くの狭心症患者が経皮的冠動脈形成術(冠動脈カテーテル治療)によって症状改善を得ています。内服薬とカテーテル治療を適宜選択して狭心症状の出現を抑えるとともに,予後改善を見据えた内服薬の選択が必要です。
[関連記事]
[引用・参考文献]
- (1)Nishigaki K et al.: Prognostic effects of calcium channel blockers in patients with vasospastic angina-a meta-analysis. Circ J, 74: 1943-1950, 2010.
- (2)Kimura T et al.: Antiplatelet therapy and stent thrombosis after sirolimus-eluting stent implantation. Circulation, 119: 987-995, 2009.
- (3)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008年度合同研究班報告)循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_hori_h.pdf
- (4)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawah_h.pdf
- (5)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012年度合同研究班報告)冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_ogawah_h.pdf
- (6)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_shimamoto_h.pdf
- (7)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版.日本動脈硬化学会,2012.
- (8)Lionel H et al.: Drugs for the Heart, 7th Edition. ELSEVIER, 2009.
- (9)堀 正二ほか(編):循環器疾患最新の治療 2014-2015.南江堂,2014.
- (10)池田隆徳(編):循環器治療薬の選び方・使い方.羊土社,2009.
- (11)小川久雄(編):最新狭心症診療の実際.永井書店,2009.
- (12)小室一成(編):ファーマナビゲーター β遮断薬編.メディカルビュー社,2009.
[Profile]
岡本 慎(おかもと しん)
関西労災病院 循環器内科 医長
2005年 大阪大学医学部卒業後,関西労災病院にて初期研修,2007年より関西労災病院循環器内科,現在に至る。
粟田政樹(あわた まさき)
大阪大学大学院医学系研究科 先進心血管治療学寄附講座 助教
1998年 近畿大学医学部卒業後,2年間大阪府立千里救命救急センターで研修。2000年より関西労災病院循環器内科に勤務。同院循環器内科副部長(救急部・重症治療部副部長兼任)ならびに冠動脈インターベンション部門主任を経て,2014年4月より現職。
*略歴は掲載時のものです。
本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2014年6月号
P.12~「狭心症」