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2015年11月17日

くも膜下出血の手術

『BRAIN』2013年第1号<脳神経外科手術の合併症と術後ケア>より抜粋。
くも膜下出血の手術について解説します。

Point

  • 術前は再出血予防,術後は脳血管攣縮対策が治療の要です。
  • 脳血管攣縮が起きるのは発症4~14日ごろです。
  • マイナスバランス,低ナトリウム血症にならないように管理します。

 

加藤宏一
(社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 埼玉県済生会栗橋病院 脳神経外科 部長)

 

〈目次〉

 

 

はじめに

脳疾患のなかで緊急性が高く最も周術期管理が難しいのが,くも膜下出血です。術前は再出血,術後は脳血管攣縮(スパズム)との戦いです。他にも電解質異常,不整脈,肺水腫,髄膜炎をはじめとする感染症,水頭症,けいれん,不穏,高次脳機能障害など,看護をするうえで知っておかなければならないことが多くあります。SCUやICUでの指示も,他疾患に比較して細かく出されます。

本コラムでは,くも膜下出血の手術と周術期管理について,患者搬送時からの流れに沿い,どんなことに注意して患者をみていくかを理解してもらいます。

 

くも膜下出血の病態生理

脳の血管も他の血管と同じように,動脈が分岐を繰り返しながら細くなり,毛細血管,静脈へとつながります。頚部から頭蓋内に入った内頚動脈は,眼動脈,後交通動脈,前脈絡叢動脈を分岐後,前大脳動脈,中大脳動脈となります。

前大脳動脈は左右の前頭葉の間(大脳半球間裂),中大脳動脈は前頭葉と側頭葉の間(シルビウス裂*1)を走行し,細い穿通枝(せんつうし)を出しながらやがて末梢の細い血管となります。穿通枝や末梢の動脈は脳内や脳表面を走行します。脳動脈瘤は太い動脈の分岐部に生じ(図1),脳底部でサークル状につながっている「ウィリス動脈輪*2」が好発部位です。

図1動脈瘤の好発部位

脳動脈瘤の好発部位

 

この太い動脈は「くも膜」という薄い膜に覆われ,くも膜はさらに脳表面も覆っています。くも膜は透明で肉眼ではよくわかりませんが,顕微鏡手術で脳や血管を分けるために,はじめに切る薄い膜です。くも膜下出血では,太く,血流の多い動脈から脳表面とくも膜の間(くも膜下腔)に勢いよく出血するため,急激に脳圧が上がります。脳圧が上がると,脳へ血流を循環させるために体血圧も上がりますが,脳圧の上昇が大きいと脳への血流が途絶えるため死に至ることがあります。

また,出血時にはカテコラミンの過剰分泌が起こり致死性不整脈を生じさせることも,くも膜下出血で即死する原因となります。冠動脈に器質的狭窄はなくても心電図上で虚血所見がみつかり,心エコーでたこつぼ様にみえる「たこつぼ型心筋症」が生じることもあります。病院内で働いているとわかりにくいのですが,くも膜下出血患者の5人に1人は病院搬送前に死亡しているといわれています。

memo

*1「シルビウス裂」は17世紀にオランダで活躍した医師フランシスクス=シルビウスから名づけられました。

*2「ウィリス動脈輪」は17世紀のイギリスの解剖学者トーマス=ウィリスから名づけられました。

 

発症から救急室まで

くも膜下出血は頭蓋内の脳動脈瘤が破れることで突然に発症します。くも膜下出血かどうかは救急隊員がみればほぼわかるため,救急搬送時点から他疾患の患者とは対応が異なり,救急室内の緊張度も増してきます。絶対に再出血を起こさず手術に持ち込まなければなりません。

くも膜下出血では,突然激しい頭痛が起きて嘔吐し,重症の場合は意識を失います。救急室搬入時には,嘔吐が続き,頭痛を訴えられないこともあります。「ハンマーで殴られたような頭痛」と教科書的な訴えをする患者はまずいません。「突然の頭痛」は,激しくなくとも,くも膜下出血を疑って診察します。

症状により重症度が分類されており(表1),発症時の意識障害が強いと予後も悪くなります。来院時は会話ができるほど意識がよくても,再出血を起こすとgradeⅤ(グレードファイブ)に悪化することがほとんどです。gradeⅤでは生活復帰の望みもなくなります。

表1くも膜下出血の分類(文献1文献2より引用)

くも膜下出血の分類

破裂した脳動脈瘤の周囲には血腫があり,フィブリンがかさぶたのように破裂部を押さえているだけで,いつ再破裂(再出血)するかわからない危険な状態にあります。刺激を与えない,鎮痛・鎮静をし,降圧薬で血圧を下げる,とくにCT搬送時の移動を極力静かに行うことが重要です。1・2の3,と勢いよく移動させた直後に嘔吐し,再出血を起こしたという話もときどきにします。

ジアゼパム(セルシン,ホリゾン)で鎮静,ペンタゾシン(ペンタジン,ソセゴン)で鎮痛,ニカルジピンで血圧低下,嘔気にはプリンペランを使用し,救急室から検査に向かいます。上記の薬品は常に追加投与できるようにしておきます。なお,神経学的所見をとるために四肢に力を入れさせたり,次々質問をして興奮させたりするようなことは禁忌です。

また,頭痛と嘔気で搬送され,興奮気味に発症時の様子を早口で話す女性患者は,再出血を起こしやすい印象があります。 不穏になっていることを考え,早めに鎮静・鎮痛を行い,刺激を与えないようにします。採血,生理食塩水でのラインキープ,心電図の後,速やかにCT室に移動します。

三次救急では搬入後,鎮静し,挿管,呼吸器管理とし,二次救急では刺激を与えないよう,挿管しない程度の鎮静に留める傾向があります。施設ごとのローカル・ルールを決め,スタッフがスムースに動けるようにしておくことが大事です。

 

検査室から手術室入室まで

画像検査・腰椎穿刺

はじめに頭部CTで頭蓋内病変を確認します。急性期の出血はCTで白くみえるため(high density),9割以上はここでくも膜下出血の診断がつきます。診断がついたら引きつづき造影剤を投与して3D-CTAを行い,出血源である脳動脈瘤を探します。 3D-CTAを行わずに脳血管造影,MRAで脳動脈瘤を検査することもあります。

症状からくも膜下出血が疑われるものの出血量が少なくCTではわかりにくい場合,MRIのFLAIR画像で血性髄液の確認をします。 腰椎穿刺をする場合は髄液の色を確認するのみにとどめます。

 

家族への説明

CT後は頭部・胸部単純X線検査を行い,いったん救急室に戻って患者家族へ病状と手術の説明を行います。 死亡や命が助かっても寝たきりの植物状態になる危険性,一生介護が必要になる可能性を話すので,家族も動揺します。入室前の慌ただしい時間ですが,ここで家族から,説明を理解できているか,家族内の問題などがあるかなどの情報を得ます。

 

着替え・血圧コントロール・膀胱カテーテル留置

着替えのときも,刺激を与えないように静かに行います。鎮静剤と鎮痛剤を十分に使用し,血圧も低下させます。膀胱カテーテルも,痛み刺激とならないよう,鎮静・鎮痛後に留置します。尿意のため血圧が上昇していることもあるので,重症患者の場合は検査前に着替えと膀胱カテーテル留置を必ず行います。

 

マイナーリーク(微小出血)への対応

少数ですが,「マイナーリーク(微小出血)」という,大出血が起きる前の少し出血した時点で頭痛を訴えて来院する患者もいます。数日前からの頭痛や,近医で風邪薬を処方されたがよくならないというwalk-inの患者で,頭部CTによりくも膜下出血がみつかることもあるので注意が必要です。CTでくも膜下出血がみつかった時点から,再出血を起こさないようにケアを始めます。

 

手術法の選択

手術はクリッピング術にするかコイル塞栓術にするか,動脈瘤の部位・形・患者の容態などにより決まります。施設によってもクリッピング術を優先するかコイル塞栓術を優先するか,ある程度は決まっていると思います(図2)。

図2くも膜下出血の手術法

くも膜下出血の手術法

 

待機手術時の患者管理

待機手術となるときは,個室で遮光し,静かな状況で管理します。ミダゾラムやプロポフォールで鎮静,ペンタゾシンで鎮痛をします。意識レベルの確認は,静かにをかけて反応をみます。痛み刺激や大声は禁忌です。アイマスクをかけ,ペンライトによる瞳孔の確認は行いません。必要なら自然光で確認します。

血圧も120 mmHg以下に管理します。ニカルジピンは降圧効果があるものの,静脈炎を起こしやすいという欠点があります。 10倍近い希釈での静脈内持続投与が推奨されていますが,それだけでプラスバランスになってしまいます。当院では今のところ,末梢から投与するときは5倍希釈とし,早めに中心静脈を確保して原液で投与するようにしています。

 

脳動脈瘤クリッピング術

スクラブ(器械出し)ナースが術者の前(患者の腹側)に立つ場合と術者の後ろに立つ場合の2通りがあり,施設によって異なります。当院では,術者・助手ともに立ったまま顕微鏡手術を行うスタンディングスタイルとしており,スクラブナースは術者の右後ろに立ちます。

 

麻酔導入

プロポフォール,レミフェンタニルを用いた静脈麻酔を行います。皮膚切開時に菌が創部に入り込み感染を起こすことが多いため,執刀時には抗菌薬の投与を終わらせておきます。術中も抗菌薬の血中濃度を維持するため,3時間おきに追加投与します。硬膜切開前には脳圧を下げるためマンニトールを,また,脳保護・けいれん予防にフェニトイン(アレビアチン)を術中投与します。

 

頭部固定,消毒

ヘッドフレームは,メイフィールド式では3か所,杉田式では4か所,ピンで頭部を固定します。杉田式フレームは,固定後も術者が頭部を動かせるメリットがあります。 頭の固定位置は動脈瘤の部位や向きにより変わってきますが,首の回旋が強くなるときは病側の肩の下にパッドを入れ,首に負担がかからないようにします。

また,静脈還流を促して脳圧を下げるために,上体を約15°挙上させます。メーヨー板を胸の上にくるように取りつけますが,頬骨から10 cm上の高さ,15 cm足側に離し,緊急時に麻酔科医が挿管チューブを確認できるスペースを確保します(図3)。

図3くも膜下出血の手術ポジション

くも膜下出血の手術ポジション

メイフィールド式ヘッドフレームで頭部を3点固定します。
内頚動脈瘤の手術では頚部で内頚動脈を確保しておくことがあります。
頚部も術野に入るよう,メーヨー板は足側へ移動します。

腕が支持棒に当たっていないかを確認します。フットポンプの加圧で頭まで動くときは,顕微鏡操作時にフットポンプを止めます。剃毛はバリカンで行い,皮膚切開部に沿った部分剃毛とします。表皮に埋もれている菌を掘り起こしたり余計な傷を作ったりすると感染率が高まるため,深剃りはしません。無剃毛の場合はイソジンで十分洗髪した後,皮膚切開部に沿って櫛で髪の毛を分けて留めます。

消毒液や血液が目や耳に入らないよう,眼軟膏を塗り,大きめのアイパッチを貼り,耳栓をします。無影灯を術野に合わせますが,明るさにも術者の好みがあるため,手袋のサイズのように把握しておくとよいです。明るすぎると眼の疲労が増します。術野のイソジン消毒後,術者らは手洗いに行きます。この時点で髪の毛や消毒液で床が汚れていることはないはずですが,もし汚れていたらきれいにしておく必要があります。

 

手術開始,開頭

スクラブナースの位置

スクラブナースは術者の右手に器械を渡すため,常に術者の右後ろに位置します。 器械台は長方形の角(スクラブナースからみて右奥)が術者と助手の間に入るように配置し,術者とともに移動します。

 

器具の配置

バイポーラーや吸引管は術者がメーヨー板に取りつけますが,バイポーラーは右手側,モノポーラー,吸引管,イリゲーション機能付き吸引管は左手側に置かれます。スクラブナースが受け取ることができ,器械台に置ける長さにします。長いと重くなり操作しにくくなります。

吸引管は,チューブに取りつける側を水で濡らしておくと,取り外しが早くできます。 チューブは丸めて保管されているため,曲がりがついています。曲がりの部分がちょうど左手の母子内転筋(人差し指と親指の間)に乗って,親指で吸引管の孔を塞ぐ角度になるように取りつけます。

マリスのバイポーラー装置は音の出ない「ミュート」とし,開頭と閉頭時は45~50,脳内では15~20の出力値にします。 脳腫瘍の手術と違い,脳内でのバイポーラー使用はほとんどありません。

 

局所麻酔

タイムアウト後に局所麻酔をします。局所麻酔は1%キシロカイン 10 mlに23 Gのカテラン針を付けて用意しておきます。皮膚の血管を収縮させ,麻酔時間を長くし,止血を容易にするために,エピネフリン入りを使うこともあります。

 

開頭

皮膚表層を15番メス,真皮層をコロラドニードルで切開すると,頭皮止血用のレイニークリップは使わずに済みます。レイニークリップを使うときは,閉頭時の回収で数が合っているか確認します。皮弁と筋層を頭皮フックで翻転後,ドリルとバーで骨切開をします。骨からの出血はボーンワックスを塗りこんで止めます。ボーンワックスは練って軟らかくしたものを1 mmから6~7 mmまでの大きさに丸めてシャーレの縁に順に並べて載せておきます。

骨切開後はリウェル,ロンジュールで追加の骨削除をします。ドリルで粉状となった骨は破棄しますが,カケラ状の骨は閉頭時に使うため,ガーゼで包み湿らせた状態で保存します。硬膜外血腫を抑えるために,中硬膜動脈上など数か所,骨縁に孔を開け,3−0絹糸で硬膜を骨周囲に吊り上げます。骨と硬膜の間には棒状にしたサージセルを挟み込むように入れておきます。

硬膜切開時には脳を傷つけないように,硬膜と脳の間に細長い糸つき綿(セレシート)を入れます。
糸つき綿は,顕微鏡導入前に使えるように,器械台に置いておきます。

 

顕微鏡下手術

準備

テンポラリークリップがいつでも使えるように準備しておきます。 また,動脈瘤破裂に備えて太い吸引管(福島式なら8~9)もすぐに出せるようにしておきます。なお,吸引管の先がドリルで削られているようなものは動脈瘤損傷の危険があるため破棄します。顕微鏡のフットスイッチを左側,バイポーラーのフットスイッチを右側に置きます。

フットペダル操作のために,術者は靴もサンダルも履きません。たまにフットスイッチが汚れないようにビニールなどでカバーしているところがありますが,細かい操作ができなくなるのでカバーはしないほうがよいです。

 

器機出しのポイント

経シルビウス裂アプローチでは,前頭葉と側頭葉の間のシルビウス裂を分けて動脈瘤にアプローチします。術者は顕微鏡から目を離さないため,うまく術者の右手に器械を渡します。モニターを見ながら,次は何を使うか読んでおく訓練が大事です。くも膜を切開した後は剥離子,剥離した後はハサミという操作です。糸つき綿も大きさ順に,術者から取りやすい位置に並べておきます。

糸つき綿には,脳べらが直接脳に当たらないように脳べらの下に置いて脳を保護する働きがあります。 先細脳べらの形状に合わせて綿を切っておくと使いやすいです。糸は顕微鏡操作の邪魔になるため,7~8 mmの長さに切っておきます。

 

顕微鏡操作時の注意

顕微鏡操作時に注意しなければならないのが,脳べら固定器(フレキシブルアーム)です。脳べらは上から押されても動かないように頭蓋骨に沿わせて低く固定するのですが,横から押されて動くと脳を傷つけ,動脈瘤に当たる危険もあります。マイクロの術野外のため,気づかないうちに手や器械台が当たることがあるため,近づかないようにしましょう。

 

テンポラリークリップによる血流遮断

親血管を確保して動脈瘤頚部を露出させ,周囲の血管も剥離できたらクリップをかけます。血流を低下させたいとき,また動脈瘤が破れる可能性があるときは,親血管にテンポラリークリップをかけます。血流遮断時間を測定して術者に時間を伝えます。 遮断部位や動脈硬化の強さにより遮断できる時間は変わりますが,10分経ったら一度遮断を解除します。

動脈瘤のクリップは,正常の血管形を再構築するようにかけると,複数本必要となることがあります。術前の計画とは異なるクリップを使うこともしばしばあります。大事なのは,すぐにクリップを出せるようにしておくことです。クリップがうまくかかれば安心し,手術室内の緊張感も和らぎます。ICG血管造影で,動脈瘤内の血流が消失し,周囲の血管の血流が保たれていることを確認します。

1回あたりICG 7.5 mlを静注すると,血管がきれいに映し出されます。また,ドップラーでも血流を確認します。テンポラリークリップでの血流遮断時間,使用したクリップは必ず記録しておいてください。

 

閉頭〜手術終了

硬膜縫合

髄液漏が起きないように硬膜を密に縫い,フィブリングルー(ボルヒール,ベリプラスト)を噴霧します。フィブリングルーは止血や縫合部の閉鎖にとても有用な生体糊です。以前は5 ml使用できましたが,今は保険の関係で3 mlしか使えなくなっています。無駄にはできません。なお,吸収性の組織補強材のネオベールは,添付文書上,硬膜欠損部には使用しないこととなっています。

 

骨片の固定

骨片をチタン製のプレートで固定します。古いタイプのものには,スクリューがドライバーから外れやすく,先端も鈍くはじかれやすいものがあります。手術終盤の疲れている状態で,飛んで行ったスクリューを探す作業はかなりのストレスです。

 

手術終了

皮下ドレーンを留置し,筋膜,皮下組織を吸収糸,皮膚表層をスキンステイプラーで縫合し,手術は終了します。 皮下ドレーンにJ-VACドレーンを使うときは,トロッカー針で手を切らないように注意します。

 

術後の処置

ヘッドフレームを外し,フレームピンで皮膚に孔ができているときはスキンステイプラーで合わせます。
ピンを外すまでスキンステイプラーは清潔にしておきます。顔や髪についた消毒液や血液をきれいに拭き取ります。手間がかかりますが,ここで洗髪までしておいたほうが術後も清潔を保てます。ドレーンが入っている状態では術後早期に洗髪はできません。

手術室を出る段階で見えるところに血液が付いていては,家族の印象も変わってきます。患者,家族に対して失礼がないように,見た目をきれいにします。テープも手でちぎるのではなく,ハサミできれいに切って使用します。創部はハイドロゲル(カラヤヘッシブ)で覆って浸潤治癒を促すのがトレンドですが,頭皮に関しては髪の毛で剥がれやすいため,ガーゼによる創部保護と大差ないと思われます。きれいに縫い合わせているほうが大事です。

血性髄液の排出のため脳槽ドレーン,脳圧コントロールのため脳室ドレーンを留置したときは,ドレナージ回路と排液バッグのフィルターが濡れないように回路をすべてクランプし,移動時に引っかからないようにまとめておきます。他のラインも移動時に引っ張られないように整理しておきます。重症例や夜間の手術では抜管せずに,プロポフォール,デクスメデトミジン(プレセデックス)で鎮静,呼吸器管理を続けます。

 

術後管理

脳血管攣縮(スパズム)

術後は脳血管攣縮(スパズム)対策が軸になります。脳血管攣縮は,発症4~14日目に生じる脳血管の可逆的狭窄です。 血管周囲に血腫が多いと血管攣縮が起きやすいことがわかっています。一過性の血管攣縮は,手術で血管を触ったとき,カテーテル操作などでも起きますが,くも膜下出血後の血管攣縮は,血管周囲に出血した血液成分によって引き起こされる持続的なものです。脳虚血が不可逆的になると脳梗塞に陥ります。

くも膜下出血量が多ければ,手術後に意識が清明でも,血管攣縮により遅れて神経症状が悪化します。患者家族にも,まだ安心はできないと説明します。脳血管攣縮予防としてルーチンに,塩酸ファスジル(エリル),オザグレルナトリウムを点滴投与します(3)。反応が鈍い,不穏,元気がないといった変化や,麻痺などの神経症状が現れだしたら,血管攣縮が生じているため,緊急に血管内治療でエリル,塩酸パパベリンの動脈内投与,バルーンによる狭窄部の拡張を行います(図4)。

 

図4くも膜下出血の画像所見

くも膜下出血の画像所見

A:左前頭葉に血腫を伴うHunt & Kosnik grade Ⅲ,WFNS grade Ⅳのくも膜下出血。
B:3D-CTAで前交通動脈瘤が指摘されます()。
C:脳血管攣縮により左内頚動脈,左前大脳動脈,左中大脳動脈の広範囲に狭窄が生じています。
D:頭部CTでは左頭頂部に脳血管攣縮による脳梗塞()が認められました。

 

ドレーン管理:脳槽ドレーン,脳室ドレーン,腰椎ドレーン

脳槽ドレーンは,くも膜下腔の血性髄液を排出させる目的で留置されます。くも膜下腔に血液が残っていると血管攣縮を助長させるため,早めに洗い出すことが目的です。ドレーンからウロキナーゼを注入し,脳槽還流を行うこともあります。また,脳室ドレーンは,脳室内の髄液を排出させて脳圧をコントロールする目的もあります。

脳槽ドレーンや脳室ドレーンを長期に留置していると,チューブから逆行性に菌が入り,髄膜炎のリスクとなります。 また,髄液循環を改善させるためにも術後数日以内に腰椎ドレーンに切り替えます。腰椎ドレーンはチューブ自体が細く,脳室ドレーンより設定圧を5~10 cmH2O低くして排液を促します。

腰椎ドレナージも,血性髄液の排出,脳圧コントロールが目的です。脳室の大きさや脳圧にもよりますが,術後数日は1時間に10 ml程度髄液を流出させます。髄液循環のドレーンへの依存をなくしていくため,抜去前は徐々に設定圧を上げて排液量を減少させ,最後に1日クランプし,症状の悪化がないことを確認してから抜去します。それでも水頭症が生じるときは,脳室腹腔シャント術を行います。なお,ドレーンは移動時やベッドアップ時にはすべてクランプし,流出させるときはすべて解放します。

 

血圧管理

術後CTで新たな出血がないことを確認したら,血圧を高めに管理します。目標値は収縮期血圧 140~200 mmHgです。120 mmHg以下のときはドパミン(DOA)とドブタミン(DOB)を中心静脈から投与し,血圧を上げます。血圧を上げ(hypertension),さらに循環血液量増加(hypervolemia),血液希釈(hemodilution)を行う「トリプルH療法」が行われることもありますが,DOA・DOBによる心負荷の合併症も多いため,最近は昇圧剤を使わずに自然な血圧(normotension)とすることも多くなっています。

 

水分バランス

脱水(マイナスバランス)により循環血液量が低下すると,血管攣縮を助長します。8時間おきのバランスがマイナスなら補正が必要です。マイナス分の生理食塩水を投与します。頻回に補正すると入れた分が尿として出てしまうことにもなるため,1日3回の水分バランスチェックがよいと思われます。ただし,前交通動脈瘤の術後は視床下部障害から尿崩症や電解質異常が生じやすいため,鎮静や頻回の水分・電解質の補正が必要です。プラスバランスでは+1000 ml以上のときにラシックスで利尿をつけます。

 

低ナトリウム血症

電解質異常,とくに低ナトリウム血症は,血管攣縮を悪化させます。低ナトリウム血症の原因として,中枢性塩類喪失症候群(cerebral salt-wasting syndrome;CSWS)が考えられています。中枢性塩類喪失症候群では,尿量が増加し,ナトリウムの尿中排泄も増加します。水もナトリウムも失われ,脱水と低ナトリウム血症が生じます。抗利尿ホルモンの分泌異常,心房性Na利尿ホルモン,中枢神経由来のウワバイン様物質が原因だといわれています。

低ナトリウム血症で血漿浸透圧が低いと,水分が脳へ移行して脳浮腫が強くなり,そして脱水による循環血液量の低下は血管攣縮を悪化させます。脱水にならないようにCVP>8 cmH2Oを保つようにします。治療は,生理食塩水投与に加え,鉱質コルチコイド(フロリネフ 0.05~0.2 mg)を投与します。

 

低アルブミン血症

食事ができない,術後の髄液排出により,低アルブミン血症,低タンパク血症も生じやすい状態です。 低アルブミン血症では血管攣縮や頻脈が誘発されます。アルブミン投与で早急に対処します。アルブミンは腎でのナトリウム蓄積を増加させ,GFRを低下させるといわれます。低ナトリウム血症にも効果が期待されます。

 

血糖管理

高血糖は脳障害を助長します。術後は高血糖になることが多いため,インスリンによる血糖管理が必要です。通常は1日4検のスライディングスケールで対処しますが,既往に糖尿病がある患者,高カロリー輸液を投与している患者では,点滴内にもインスリンを入れて血糖コントロールを行います。

 

体温管理

脳はほとんど水分なので,体温が上がると脳も膨張し,脳浮腫が悪化します。脳保護には35~36℃の軽度低体温が適していることがわかっているため,発熱には,原因対策とともにクーリング,ボルタレン座薬で対処します。

 

消化管出血

脳血管障害,頭部外傷,脳外科手術後では,・十二指腸にストレス潰瘍が起きることが知られており,これを「クッシング潰瘍」といいます。重症の場合は消化管出血を生じます。予防的にH2受容体拮抗薬プロトンポンプ阻害薬を投与します。

 

髄膜炎

ドレーン留置が長期になると,髄膜炎の危険が出てきます。髄液検査で細胞数などを確認し,髄液移行性のよい抗生剤(ロセフィンなど)を使用します。

 

神経原性肺水腫

交感神経系の急激な刺激により肺血管透過性が亢進し,肺水腫が生じます。重症例にみられ,入院時の胸部X線で確認されます。呼吸状態が悪く,人工呼吸器管理を要します。

 

深部静脈血栓症

ベッド上安静が長くなるため,深部静脈血栓症の発生にも注意が必要です。①疼痛,②腫脹,③発赤,④熱感,⑤足の背屈で腓腹部に疼痛出現(Homan's sign),が深部静脈血栓症の徴候です。これらに注意して下肢の観察を行い,疑わしければすぐにエコーや,腹部から下肢の造影CTで確認します。血液検査ではDダイマーが上昇します。自分で下肢をよく動かす患者以外は弾性ストッキングやフットポンプを使用します。弾性ストッキングは,膝上までカバーできるストッキングタイプとします。

 

けいれん

けいれん予防にフェニトイン(アレビアチン)1A=250 mgを静脈内投与します。急速に投与すると,呼吸抑制,血圧低下,心停止を起こす危険があるため,250 mgを5分間以上かけて投与します。当院では,間違って早く注入されないようにシリンジポンプを使用しています。強アルカリ性で,pHが低下すると点滴ラインに結晶が析出するため,他の薬剤と混ざらないように投与前後に生理食塩水でフラッシュします。

強い血管痛があり,静脈炎も起きやすく,末梢静脈から投与しているときは血管に発赤や腫脹が生じてないかを確認します。フェニトインでは肝機能障害も生じやすいため,血液データでAST(GOT),ALT(GPT),γ-GTPの急速な上昇がみられたら,薬剤性肝障害を疑って中止します。内服可能になれば注射から内服薬への変更や,フェニトインからバルプロ酸(デパケン,セレニカ)などに変更します。

けいれん発作時は,ジアゼパム(セルシン,ホリゾン)5 mgの静注で対処します。けいれんが治まらないときは,もう5 mg追加投与します。一過性の呼吸抑制が生じますが,すぐに呼吸は再開します。10 mg以上静注してもけいれん発作が続いている,何度も発作を繰り返すときは,けいれん重積であるため,すぐにチオペンタール(ラボナール)の持続投与を始めます。人工呼吸器管理下で鎮静し,脳波を測定し,burst-suppressionの出現を目安に薬の投与量を決めていきます。

 

不穏

前交通動脈瘤の術後は,不穏や記銘力障害などの「前頭葉症状」が生じやすくなります。不穏,危険行動時の抑制は逆効果となることも多く,その場合はミダゾラム持続投与で鎮静します。

 

食事はいつから始めるか?

意識清明,GCS 15点で状態のよい患者では,手術翌日から経口摂取を開始します。スパズム期や意識レベルが悪い患者では,経胃管からの経管栄養,または高カロリー輸液管理とします。絶食では消化管運動の低下,腸粘膜の萎縮,バクテリアルトランスロケーションによる感染症,胆のう炎を誘発する危険があります。本格的な経管栄養を行わない時期でも,GFO(大塚製薬)1パックを水100 mlに溶いて,1日3回経鼻胃管から注入します。

 

リハビリテーションはいつから始めるか?

手術翌日から急性期リハビリテーションを始めます。発症2週間以内の離床はベッドサイドの車椅子までとし,血圧の変動,深部静脈血栓症に注意します。嚥下障害のある患者は,不顕性誤嚥もあり肺炎が起きやすい状態にあるので,嚥下訓練時の誤嚥にも注意します。

 

おわりに

再出血予防のために点滴内に止血剤を入れている場合も,クリップがかかった瞬間から止血剤は止めて血流を増やす血管攣縮の治療にガラッと変わります。スパズムの起き始めでは,今までより元気がない,食事を食べないなどといった変化に気づくことが大事です。何が起こりうるかを知っていることが術後管理のうえでは大事です。脳の障害は一瞬で取り返しがつかなくなります。また,突然家族が倒れてどうしていいかわからないという患者家族へのサポートも大事な仕事ですので,優しく声をかけてあげましょう。

 

 



[profile]
加藤宏一(かとう こういち)
1996年 札幌医科大学医学部卒業後,東京女子医科大学 脳神経外科入局。茨城県下館(現,筑西)市民病院,東京都立墨東病院,東京労災病院へ出張。2012年4月より埼玉県済生会栗橋病院 脳神経外科 部長に就任し,現在に至る。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2013 医学出版
[出典]BRAIN 2013年第1号

BRAIN 2013年第1号

P.38~「くも膜下出血の手術」

著作権について

この連載

  • 転移性脳腫瘍と近年増加している脳原発悪性リンパ腫 [01/25up]

    『BRAIN』2012年9月号<脳腫瘍にはどのような種類があるか>より抜粋。 転移性脳腫瘍と脳原発悪性リンパ腫について解説します。 Point がん患者で頭痛・嘔気・麻痺などの神経症状を認めたら,転移性脳腫瘍... [ 記事を読む ]

  • 脳卒中急性期の病態|脳梗塞、脳出血、くも膜下出血 [11/16up]

    脳神経外科看護の専門誌『BRAIN』2012年5月号<脳卒中急性期のケア>より抜粋。 脳卒中急性期の病態について解説します。   Point 脳卒中急性期の疾患には,①脳梗塞,②脳出血,③くも膜下出血が... [ 記事を読む ]

  • くも膜下出血の手術 [11/17up]

    『BRAIN』2013年第1号<脳神経外科手術の合併症と術後ケア>より抜粋。 くも膜下出血の手術について解説します。 Point 術前は再出血予防,術後は脳血管攣縮対策が治療の要です。 脳血管攣縮が起きる...

  • 高血圧性脳出血の治療と看護 [08/30up]

    脳神経外科看護の専門誌『BRAIN』2011年11月号<基礎力を高める!脳血管障害看護のトピックス>より抜粋。 高血圧性脳出血の治療と看護について解説します。   Point 脳出血の原因は高血圧が主役... [ 記事を読む ]

  • 脳血管性認知症 [09/02up]

    脳神経外科看護の専門誌『BRAIN』2011年11月号<基礎力を高める! 脳血管障害看護のトピックス 後編>より抜粋。 脳血管性認知症について解説します。   Point 脳血管性認知症は脳卒中発作によ... [ 記事を読む ]

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  • リウエル|整形外科手術器械(2) [04/11up]

    手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。 今回は、整形外科の手術で使用される『リウエル』についてのお話です。 なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の... [ 記事を読む ]

  • マイクロ吸引管(福島式マイクロ吸引管)|脳神経外科手術器械(1) [06/29up]

    手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。 今回は、『マイクロ吸引管(福島式マイクロ吸引管)』についてのお話です。 なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆... [ 記事を読む ]

  • 脳外用マイクロ剪刀|剪刀(4) [07/13up]

    手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。 今回は、『脳外用マイクロ剪刀』についてのお話です。 なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の経験や推測に基づ... [ 記事を読む ]

  • アドソン鑷子|鑷子(2) [06/22up]

    手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。 今回は、『アドソン鑷子』についてのお話です。 なお、医療器械の歴史や取り扱い方については様々な説があるため、内容の一部については、筆者の経験や推測に基づいて解説し... [ 記事を読む ]

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今日の看護クイズ 挑戦者548

過敏性腸症候群のRome Ⅲ診察基準では、「半年以上前から腹痛や腹部不快感を繰り返し、特に最近3カ月は、月のうち3日以上ある」という症状のほか、3つの項目が当てはまることとされています。下記の選択肢のうち、その3つの項目に当てはまらないものはどれでしょうか?

  • 1.腹痛や腹部不快感は、排便すると軽くなる。
  • 2.症状とともに排便の回数が増えたり減ったりする。
  • 3.症状とともに便の形状が以前と変わった(柔らかくなったり硬くなったりする)。
  • 4.症状とともに発熱のような随伴症状、もしくは血便が見られる。
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