ナースのための解剖生理の解説書『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』より
今回は、動作のしくみから解剖生理を理解するお話の2回目です。
〈前回の内容〉
前回は、身体を動かす骨と筋肉、そして関節のはたらきについて学びました。
今回は、骨格筋の微細構造と筋収縮のしくみについて解説します。
〈目次〉
骨格筋の構造
骨格筋を構成する筋細胞は筋線維ともいい、幅0.1mm、長さ数cmの細長いひも状で、これが束のように集まって1つの筋肉をつくっています(図1)。
図1骨格筋の微細構造
筋細胞は複数の核をもつ多核細胞で、その細胞膜をとくに筋鞘といいます。細胞質には糸状の細長い細胞内小器官である筋原線維が縦方向に密に充満しており、たくさんの卵円形の核は押しのけられ筋鞘の下に存在しています。
筋原線維の中には、アクチンという蛋白質からなる細いアクチンフィラメントとミオシンという蛋白質からなる太いミオシンフィラメントが交互に配列することで筋原線維の縞模様がつくられています。横縞は、明るくみえる明帯(I帯)と暗く見えるく暗帯(A帯)からなり、I帯の中央にZ線があります。Z線は格子状の構造で、ここからアクチンフィラメントが両側に突き出ており、A帯に一部入り込んでいます。A帯にはミオシンフィラメントが並んでおり、その中央部はアクチンフィラメントが入り込まないためやや明るく見え、H帯とよばれています。Z線とZ線の間を筋節といい、これが収縮の単位になっています。このように筋原線維には規則正しい明暗の縞模様がみられるので、横紋筋ともいいます。
筋収縮のしくみ
筋肉の収縮はアクチンフィラメントがミオシンフィラメントの中央へ滑走することによって起こります。つまり、筋肉が収縮により短縮しても両フィラメントの長さは変わらずに、筋節が短縮するのです。
大脳皮質から出された運動指令は電気信号として脊髄を下りて、脊髄にある運動ニューロンに伝達されます。電気信号が神経伝達物質としてアセチルコリンを介して筋線維に伝わるとアクチンフィラメントとミオシンフィラメントとの間に架橋が形成され、アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの中央へ滑走します(図2)。このとき、両フィラメントの長さは変わりませんが筋節が短縮するので筋肉の収縮が起こります。
図2筋収縮のしくみ
memo重症筋無力症
重症筋無力症は随意筋が疲れやすく、反復運動を続けると脱力・麻痺に陥る疾患です。運動ニューロンから神経伝達物質のアセチルコリンが放出されても、受けての筋肉にあるアセチルコリン受容体に対する自己抗体がアセチルコリンの代わりに結合するので、運動指令が筋肉に伝わらなくなるので動かなくなるのです。
memo協力筋と拮抗筋
ある運動に対して、同じ運動方向に作用する筋肉群を協力筋、反対の方向に作用する筋群を拮抗筋と呼びます。たとえば、上腕二頭筋の協力筋は上腕筋(同じタイミングで伸縮する)、拮抗筋は上腕三頭筋(一方が延びている時、もう一方は弛緩する)です。
筋原線維は特殊な滑面小胞体である筋小胞体によって囲まれています。この中にはCa2+が大量に蓄えられており、Ca2+がアクチンフィラメントとミオシンフィラメントとの間の架橋形成、つまり収縮のゴーサインを出しています。
memo手術前にリラックス?
全身麻酔で手術を行うとき、全身の骨格筋の力が抜けていたほうが麻酔や手術が進めやすいので、筋小胞体からのCa2+の遊離を抑制したり、アセチルコリン受容体に結合して収縮指令の伝達を遮断したりして筋収縮を抑制する筋弛緩薬が投与されます。
COLUMNカルシウム濃度を調整するホルモン
筋肉の収縮に欠かせないカルシウムの濃度を調整しているのは、甲状腺から分泌されるカルシトニンと上皮小体から分泌されるパラソルモンです。血中のカルシウム濃度が低下すると、パラソルモンが骨に貯えられたカルシウムを遊離させ、血中に放出するよう促す一方、腎臓からのカルシウムの排泄を抑制します。
血中のカルシウムが増えすぎると、今度はカルシトニンが腎臓からの排泄を促し、骨を壊してカルシウムを放出する活動を抑えます。
カルシウムは、筋肉の収縮以外にも、血液凝固や神経線維の維持に重要です。血中のカルシウムが不足すると、神経や筋の興奮が異常に高くなり、テタニー(筋肉の痙攣)を引き起こします。
アクチンフィラメントにはミオシンフィラメントとの結合部位がありますが、弛緩しているときは、トロポミオシンという細長い蛋白質分子が覆い隠しています。トロポミオシンにはトロポニンという蛋白質も一定間隔で結合しています(図1)。Ca2+がトロポニンに結合すると構造が変化し、トロポミオシンを移動させることでミオシンフィラメントとの結合部位を露出し、架橋が形成されます。
COLUMN疲れやすい骨格筋と疲れ知らずの平滑筋(表1)
筋肉には骨格筋のほかに、消化管や呼吸器官、血管などの壁をつくっている平滑筋と呼ばれる筋肉があります。平滑筋の細胞は骨格筋のような横縞がなく、自律神経やホルモンのはたらきによってコントロールされ、自分の意思で動かすことはできません。こうした筋肉を不随意筋と呼んでいます。
しかし、内臓の筋肉でも心臓だけは特殊で、不随意筋でありながら、骨格筋のような横紋があります。心臓の筋線維は横に枝を出して互いに結び合っており、刺激に対して全体が一個の細胞のように反応するしくみになっています。
パワーがあり、力作業が得意なのは骨格筋ですが、疲れやすいという弱点があります。一方、比較的ゆっくりと持続した収縮を行う平滑筋は疲れにくく持久力があります。
表1筋収縮のしくみ
〈次回〉
情報を伝えるネットワーク・神経のはたらき|動作のしくみから理解する(3)
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典]『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』(編著)増田敦子/2015年3月刊行