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2015年11月17日

空気の通る道筋をたどる|ガスの流れから理解する(2)

ナースのための解剖生理の解説書『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』より
今回は、ガスの流れから解剖生理を理解するお話の2回目です。

〈前回の内容〉

呼吸のしくみ|ガスの流れから理解する(1)

前回は、エネルギーの生成に必要な酸素を取り入れ、不要となった二酸化炭素を排出する呼吸のしくみについて学びました。

今回は、吸い込まれた空気が細胞までどのような道筋を通ってたどり着くかについて解説します。

 

〈目次〉

 

空気の通る道筋をたどる

さて、吸い込まれた空気(酸素)の最終目的地は個々の細胞です。それでは、空気(酸素)は個々の細胞までいったいどのような道筋を通ってたどり着くのでしょうか。

 

鼻から気道、そして肺へ

呼吸によって吸い込まれた空気はまず、鼻を通ります。呼吸器系の全体像を図1に示してあります。

図1呼吸器系の全景

呼吸器系の全景

 

鼻の中は鼻腔とよばれ、粘膜で覆われています。空気はこの粘膜を通る血流によって適温に温められます。さらに粘膜から出る粘液によって加湿されます。

 

memoキーゼルバッハの部位

鼻中隔の前下部にある血管に富んだ部位を、キーゼルバッハの部位とよびます。鼻出血を起こしやすい場所です。

 

空気中のほこりなどの異物は粘膜に付着し、線毛の運動によって粘液とともに鼻腔の後方にある咽頭に押し出されます。こうして飲み込まれた粘液は、やがて胃液によって消化され、体外へ排出されます。異物の刺激が強い場合は、せきやくしゃみによって送り出されることもあります。冬の寒い日などは、この線毛のはたらきが鈍って粘液が鼻腔にたまり、鼻水となって出されることもあります。

鼻から取り込まれた空気は、咽頭、喉頭を通って気管へと送られます。気管にも線毛のはたらきによって、ほこりや塵を含んだ粘液を咽頭のほうに押し戻すはたらきがあります。

このように、粉塵などの異物は肺に入ることはなく、飲み込まれたり、吐き出されたりするしくみになっています。

気道で十分に浄化されて調節された空気は、気管支を通って肺門に入ります。気管は長さ約10cm、太さ約2cmで、食道の前方にあり、左右の主気管支に分かれます。図2をみてわかるように、左右の主気管支を比べると、右気管支のほうが太く、短く、傾斜が急になっています。ですから、誤嚥した異物は一般に右気管支を経て右肺に入りやすくなっています。

図2気管と気管支の構造

気管と気管支の構造

 

1本の気管はここから2つずつ分岐を繰り返し、その先のブドウの粒状の肺胞へと向かいます。この肺胞が寄り集まってブドウの房のような形をしている部分全体を、肺胞嚢と呼びます(図3)。

図3肺胞の構造

肺胞の構造

 

呼吸によって取り入れられた酸素と、代謝によって生じた老廃物である二酸化炭素のガス交換は、この肺胞と肺胞を取り囲む毛細血管の間で行われます。肺胞を広げた表面積は、全体で80m2ほどにもなります。これは、3LDK~4LDKのマンションほどの広さに相当します。これをみても、酸素が生体活動を維持していくうえでいかに重要かがよくわかります。

 

memo皮膚呼吸より肺胞呼吸

広範囲の熱傷では皮膚呼吸ができなくなるので、死亡すると聞いたことがあるかもしれません。しかし、体表面積は大人での1.5〜1.6m2程度で、肺胞のほうがはるかに広いのです。熱傷で危険なのは表皮の損傷による水分の蒸発で、脱水による体液の大量損失によるショックと細菌感染による敗血症のほうが重要です。

 

拡散を利用した肺でのガス交換

肺胞と毛細血管との間の酸素や二酸化炭素の受け渡しは、拡散によって行われます。拡散とは、液体や気体の成分の濃度が均一でない場合、均一になるように、中の成分が移動するという自然の原理です。

ガスが移動する方向は膜の両側のガス分圧差によって決まります。つまり、圧力の高いほうから低い方へ、圧が均一になるまでガスは拡散していきます。

 

memoドルトンの法則

イギリスの化学者で、物理学者でもあるドルトン(John Dalton:1766〜1844)は、各種元素の原子の重量を測定した最初の人物として知られています。彼はまた、数種の気体が混合しているとき、それらの間に化学変化が起こらないならば、混合気体の圧力は、それぞれの気体が単独の場合に示す圧力(分圧)の和に等しいことを発見しました。

 

体内を巡って酸素を運び終えた毛細血管内の血液には、老廃物である二酸化炭素がたくさん含まれています。肺胞近くの静脈血の酸素分圧は40mmHg、二酸化炭素分圧は46mmHgといわれます。これに対し、肺胞の中には呼吸によって取り込まれた酸素がたっぷり含まれています。ですから、肺胞内の酸素分圧は100mmHgと高く、反対に二酸化炭素分圧は40mmHg程度です。

拡散の原理に従って、双方の内容成分は両方の分圧の差を埋めようとする方向に物質が移動します。酸素は分圧100mmHgの肺胞から分圧40mmHgの静脈血に向かって移動し、肺胞と同じ圧の100mmHgになるまで拡散して動脈血になります。ただ、肺胞に立ち寄って酸素を受け取らずに静脈血に合流するシャント(肺を通らない迂回路)があるので、実際の動脈血は95~97mmHgです。一方、二酸化炭素は分圧46mmHgの静脈血から分圧40mmHgの肺胞に向かって移動し、肺胞と同じ40mmHgになるまで拡散して動脈血になります。血液が細胞に酸素を運び、老廃物の二酸化炭素を取り込むことができるのも同じ原理です(図4)。

図4肺胞と組織におけるガス交換

肺胞と組織におけるガス交換

 

COLUMN危険な血液の酸欠

血液中の酸素が不足していたり、細胞への酸素の供給が十分でないと、人体に致命的な影響を及ぼすことがあります。とくに、脳は15秒の無酸素状態が続くと失神を起こし、3分以上では回復不能な障害をもたらすといわれています。無酸素状態が5分続くと、いわゆる脳死に至ります。

酸素不足を引き起こす原因はさまざまですが、「気道が炎症を起こして狭くなっている」「赤血球の数が不足している」「肺胞の炎症で酸素の取り込みが不足している」「毛細血管の血流が減少している」「血液による酸素輸送に障害が起きている」、などが考えられます。

また、火事などによって生じやすい一酸化炭素は、酸素よりも約250倍赤血球に結合しやすく、一酸化炭素が肺胞内に入ってしまうと、酸素とヘモグロビンの結合が妨げられて酸欠状態を引き起こします。

酸素を十分に取り込んだ血液は鮮紅色をしていますが、酸素が不十分な血液は暗赤色をしています。血液中の酸素が不足している低酸素症の場合、皮膚や唇の色が青紫変色するチアノーゼを生じます。

 

memo血液の色は鉄の色

酸素が付着している鉄は赤く、放出すると青黒い感じの色にみえます。前者が動脈血、後者が静脈血の色になります。床屋さんのシンボルで、赤、青、白の帯がクルクル回っている看板。これも赤が動脈、青が静脈、白は包帯を表しています。これは、もともと西洋では外科医が床屋さんを兼ねていたことに由来しています。

 

血液によるガスの運搬

酸素の運搬

酸素は2通りの方法で血液によって運ばれます。肺胞から拡散した酸素のほとんどは、赤血球内のヘモグロビン(ヘム色素の鉄)と結合して酸素化ヘモグロビンとなって運ばれます(図5)。

図5酸素と二酸化炭素の移動と運搬

酸素と二酸化炭素の移動と運搬

 

血液中に物理的に溶解して運ばれる酸素はごくわずかです。組織では赤血球内の酸素化ヘモグロビンから酸素が放出され、分圧差で細胞に拡散します。

 

二酸化炭素の運搬

一方、二酸化炭素は3通りの方法で運ばれます。細胞から放出された二酸化炭素の70~80%は赤血球内にある炭酸脱水酵素の作用で水と結合し炭酸になります。炭酸は重炭酸イオンと水素イオンに解離します。二酸化炭素は重炭酸イオンの形で赤血球の外に拡散し、血漿中を運搬されます。残り20~30%は赤血球内のヘモグロビンと結合して運搬されます。このとき、二酸化炭素はヘモグロビンのグロビン蛋白質を結合し、酸素が結合する部位(ヘム色素)とは異なるので、酸素の運搬に支障をきたすことがありません。そして、物理的に血液に溶解して運ばれる二酸化炭素も、酸素よりは多いですが、わずかです。

細胞が放出した二酸化炭素が肺で排出されるためには、重炭酸イオンから二酸化炭素に戻らなければなりません。ですから、また赤血球内に入り、水素イオンと結合し炭酸になり、さらに水と二酸化炭素に分解され、血液から肺胞へ拡散していきます。

たとえば、熱帯魚を飼育するときは、エアポンプで絶えず水槽内に酸素を供給しています。酸素に比べ二酸化炭素は20倍くらい水に溶解できます。

二酸化炭素(炭酸ガス)が溶解している水を炭酸水といい、水に圧を加えて二酸化炭素を溶解させています。ボトルの蓋を開けると圧が下がってガスが特徴的な気泡をつくり、溶解した二酸化炭素が逃げていきます。炭酸水は自然界にも温泉でみられます。炭酸泉に使っていると、皮膚に気泡がついてきます。

 

memo炭酸泉の効能

炭酸泉とは、炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んだお湯のことで、日本の温泉法では、お湯1リットルに炭酸ガスが0.25g以上(250ppm)溶けたものが炭酸泉と定義されています。二酸化炭素は老廃物ですから、それを除去するために血管を広げる作用があります。炭酸泉に入浴すると、二酸化炭素が皮膚から吸収され、血管を拡張させ血流をよくします。血液の循環がよくなるので動脈硬化や心臓病など循環器系疾患の症状が緩和されたり、糖尿病、神経痛・リウマチの疼痛緩和、冷え性・高血圧・肩凝りや血行障害の改善など、幅広い効能が報告されています。

 

COLUMNヘモグロビンとは何か

酸素を運んでいるのは、赤血球の中にあるヘモグロビンとよばれる物質です。ヘモグロビンは、鉄を含むヘムという色素とグロビンという蛋白質からできています。酸素はこのヘムが含む鉄に付着し、全身に運ばれていきます。

ヘモグロビンに酸素がつくことを酸素化といい、酸素がついたヘモグロビンを酸素化ヘモグロビンとよびます。一方、酸素を放出して元のヘモグロビンの姿になった状態を脱酸素化ヘモグロビンとよびます。

ヘモグロビンは通常、赤血球1個の中に2億5,000万個含まれています。ヘモグロビン分子1個は、酸素分子4個を運搬できるので、小さな赤血球1個が、なんと10億個もの酸素分子を運んでいることになります。

 

memoいろいろなヘモグロビン

正常なヘモグロビンにはグロビン蛋白質の構造によりHbAとHbFがあります。Aはadultの成人型、FはFetusの胎児を指しており、成人ではHbA、胎児ではHbFがHbの大部分を占めています。グロビンにグルコースが結合した糖化ヘモグロビンの一つにHbA1cがあり、糖尿病の診断基準や血糖コントロールの評価に用いられています。

異常なヘモグロビンには、鎌状赤血球のヘモグロビンをHbS、サラセミアという貧血のヘモグロビンをHbSといいますが、これらのグロビン蛋白質はアミノ酸が正常のものと違うものに入れ替わっているのです。

 

〈次回〉

呼吸の調節|ガスの流れから理解する(3)


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典]『身体のしくみとはたらき―楽しく学ぶ解剖生理』(編著)増田敦子/2015年3月刊行

引用・参考文献 

著作権について

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