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2015年10月26日

循環器疾患の栄養管理の実際

『循環器ナーシング』2013年1月号より抜粋。
循環器疾患の栄養管理について解説します。

 

Point

  • 循環器疾患の栄養管理では,血圧の調節や体重のコントロールが重要。
  • 現在の社会環境では,理想的な食生活を健全な形で行うことが困難である患者が少なくないことを理解する。
  • 患者とともに,食行動の問題点を分析し,自己管理能力を高めるためのサポートを行う。

府川則子
(東京都健康長寿医療センター 栄養科 科長)

 

〈目次〉

 

はじめに

本コラムでは,循環器疾患の栄養管理のうち,重要となる血圧の調節や体重のコントロールなどを中心に述べていきます。

実際には,危険因子となる生活習慣を改善するための行動変容を主眼に,多くの日本人にとって厳しい塩分制限や,脂質・糖質の制限など,個々の患者の病態(合併症を含む)に即した栄養管理を行うことになります。

また,重症例では予後が不良となり,浮腫などによる食欲低下や,心機能低下などによる全身の筋肉量の減少に伴う身体活動量の低下が原因で,最終的に食事摂取量が不足し,栄養状態の悪化を招きます。

循環器疾患において,栄養管理を行うことが病態を改善するために非常に重要であることはいうまでもありません。本コラムが循環器疾患を有する患者に対する栄養ケアの一助となれば幸いです。

 

循環器疾患の発症リスクとしての食習慣

国民健康栄養調査(1)によると,40~60歳の男性において肥満の割合は年々上昇しています(図1)。

図1肥満の割合(%)

肥満の割合(%)

 

食品群別摂取量の年次推移をみてみると,塩分量は年々減少していますが,いまだ10gを超えています(図2)。

また,肉類の摂取量は年々増加していますが,一方で魚類は減少し,平成19年を境に,肉類の摂取量が魚類の摂取量より多くなりました。

図2食塩,肉類,魚類摂取量の年次推移

食塩,肉類,魚類摂取量の年次推移

 

脂肪エネルギー比率は年々増加傾向にあり(図3),平成12年をピークに,依然として26%を超えています。さらに,動物性蛋白質比率も平成12年をピークに減少傾向にあるものの,50%を超えています。

図3脂肪エネルギー比,動物性蛋白質比の推移

脂肪エネルギー比,動物性蛋白質比の推移

 

また,野菜の摂取量は平成2年を底に,増えてはいますが,適正量である350gには依然届きません(図4)。

図4野菜摂取量の年次推移

野菜摂取量の年次推移

 

このことから,動脈硬化を促進させる飽和脂肪酸の摂取量の増大や,食物繊維の不足が予想されます。

不適切な食生活による栄養のアンバランスは,循環器疾患の発症リスクを高め,さらに重症化を促進させる可能性があります。

厚生労働省の患者調査(2)によると,昭和30年には,高血圧性の病気で治療を受けている人は人口10万に対して61人しかいませんでしたが,昭和50年には475人と急上昇し,平成20年で478人となりました。その他の循環器系疾患に関しても,昭和50年以降上昇しており,近年は幾分減少の兆しはありますが,改善されているとはいいがたい現状にあります(図5)。

図5疾病別受療率(人口10万)の推移

疾病別受療率(人口10万)の推移

 

高血圧,肥満,脂質異常症,糖尿病においては,食事と関連の深い冠危険因子をアセスメントし,治療と再発防止を図るための栄養管理を適切に行うことは,大変重要です。

循環器疾患を有する患者において,栄養状態を把握するための一般的なアセスメント項目は,下記のとおりです。

  1. 1)食塩摂取量
  2. 2)エネルギー摂取量
  3. 3)脂質エネルギー比率,蛋白質エネルギー比率
  4. 4)脂肪酸組成
  5. 5)ショ糖,果糖の単糖類や二糖類の摂取量
  6. 6)野菜,海草,きのこ類などの食物繊維の摂取量

これらの項目を経時的に評価していきます。

次の項では,循環器疾患の栄養管理における看護ケアのあり方について,疾患別に述べていきます。

 

高血圧(3)

治療の目標

『高血圧治療ガイドライン2009』によると,「治療の目的は,高血圧による心血管病の発症,進展,再発を抑制して死亡を減少させ,高血圧患者が充実した日常生活を送れるように支援すること」とあります。

また,治療の対象はすべての高血圧患者(血圧140/90mmHg以上)であり,糖尿病や慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD),心筋梗塞後患者では130/80mmHg以上が治療の対象とされています(表1)。

表1降圧目標 (文献3より転載)

降圧目標 (文献3より転載)

 

以下,ガイドラインに沿って述べていきます。

 

降圧治療

降圧治療は,生活習慣の修正(第1段階)と降圧薬治療(第2段階)により行われることと規定されています。

初診時の高血圧管理計画(図6)を参考に降圧治療を進めていきます。高血圧以外に危険因子として臓器障害や心血管病を認めない低リスク患者の場合,まずは生活習慣の修正を行い,一定期間(3ヵ月以内)に血圧を再度測定することが望ましいとされています。

図6初診時の高血圧管理計画(文献3より転載)

初診時の高血圧管理計画

 

生活習慣の修正は高血圧を予防できる可能性が示されているだけでなく,降圧効果も証明されています。生活習慣の修正のみでは,多くの高血圧患者は目標とする降圧は得られませんが,降圧薬の種類と用量を減らすことができるとされています。

 

看護のポイント

高血圧患者では,複数の薬を服用するケースも多くみられます。生活習慣改善により薬の種類と用量を減らせるということは,生活習慣改善に取り組む際の強力なモチベーションとなります!

 

生活習慣の修正指導

食事内容の改善(MEMO1)を含めた生活習慣の修正項目は,表2のとおりです。

表2生活習慣の修正項目(文献3より転載)

生活習慣の修正項目(文献3より転載)

 

MEMO1DASH食とは

欧米で,野菜,果物,低脂肪乳製品などを中心とした食事(DASH食:飽和脂肪酸とコレステロールが少なく,カルシウム,カリウム,マグネシウムや食物繊維が多い)摂取の臨床試験が行われ,有意な降圧効果が示されました。中等度の高血圧患者で,11.4/5.5mmHgの有意の降圧が報告されました。

この成績から,弱い降圧効果を有するカリウム,マグネシウム,カルシウムを組み合わせた食事摂取を,脂肪制限と同時に行うと降圧が期待できることが示唆され,複合的な食事療法の重要性が証明されました。

DASH食における各栄養素の1日摂取量を表3に示します。

表3DASH食による各栄養素の1日摂取量(文献4より引用)

DASH食による各栄養素の1日摂取量(文献4より引用)

 

生活習慣修正による降圧の目安

降圧に効果のある生活習慣修正の目安は,

  • 減塩:平均食塩摂取量で4.6g/日減少
  • 減量:5.1kgの平均体重減少
  • 運動:30~60分間の有酸素運動
  • 飲酒:平均飲酒減少量76%

とされています。

図7に生活習慣修正による降圧の程度を示します。

図7生活習慣修正による降圧の程度(文献3より転載)

生活習慣修正による降圧の程度(文献3より転載)

文献5(減塩),6(DASH食),7(減量),8(運動),9(節酒)の成績を用いた。 ここに示した成績は欧米の論文より引用したものである。メタ解析の場合はカッコ内に条件を示した。ただし生活習慣の修正の効果は,修正前の患者の生活習慣,患者の遺伝的背景などにも影響されるので,この図をただちに日本人にあてはめることはできない。またDASH食はメタ解析がなかったので論文から引用した。少人数(412人),短期間(30日)の研究があるので,大きなバイアスがかかっている可能性は否定できない。

 

看護のポイント
  • 患者の多くは,日常的に10g以上の食塩を摂取しているため, 入院中の食事は,患者の満足度に乏しいと思われます。家庭での減塩生活の継続性という点では厳しいものがあります!
  • 減塩の降圧に対する有効性,ならびに減塩を継続することの必要性を,管理栄養士と連携して患者に説明しましょう!
  • 患者と十分なコミュニケーションを保ち,患者のQOLに支障をきたすことがないようにサポートしましょう!

 

栄養管理の実際

薬物療法が開始される前に食習慣の改善を行うことは,高血圧の基本的治療です(図8)。

図8血圧を規定する基本要因(文献10より引用改変)

血圧を規定する基本要因(文献10より引用改変)

 

食習慣改善の基本的な考え方は,下記のとおりです。

  1. 1)重症でないかぎり,まずは塩分を6g以下に制限する。
  2. 2)肥満者は,体重の是正を行う。アルコール制限,有酸素運動,禁煙など総合的な生活習慣の修正を行う。
看護のポイント

肥満度が高い場合,減量するだけで降圧の効果が現れます。とくに加工食品や市販の惣菜,外食中心の食生活では,減量のために食事を減らすことで,減量と減塩の両面の効果があります!

 

栄養管理目標の考え方

減塩(塩分6g/日未満)

減塩による降圧効果と薬剤の減量が報告されています。また,減塩による降圧作用は高齢者ほど有効であるとされています。

6g/日未満の減塩が推奨されていますが,現在日本人の食塩摂取量の平均値は前述したとおり10~12gであり(図2),十分な減塩がしにくい現状にあります。また,日本ではほとんどの加工食品や調味料に食塩が添加されています(表4)。

表4調味料,加工食品に含まれる食塩量

調味料,加工食品に含まれる食塩量

 

高血圧症患者には減塩が必要である,という認識は,多くの人に受け入れられ,意識されています。しかし,しょうゆや塩だけを注意しても,多くの加工食品や調味料に塩分が含まれているため,目標となる塩分1日6gに1食で達してしまうことも少なくありません(MEMO2)。

そこで,栄養バランス的に偏らずに塩分を6g/日未満にするために,病院においては図9の点に留意して食事調整を行っています。

図9塩分6g調整メニューの作成ポイント

塩分6g調整メニューの作成ポイント

 

減塩の評価方法

減塩指導において,減塩の評価は欠かせません。食塩摂取量評価のガイドラインをみてみると,一般医療施設では随時尿(ナトリウム/クレアチニン〔Cr〕比)での評価が実際的といえるでしょう(表5)。

表5食塩摂取量評価のガイドライン(文献3より転載)

食塩摂取量評価のガイドライン(文献3より転載)

 

MEMO2食塩量の算出

加工食品や外食の栄養成分表示は,「食塩量」ではなく「ナトリウム」で示されている場合があります。以下の計算方法で食塩量を算出することができます。
ナトリウム(g)×2.54=食塩量(g)
ナトリウムがミリグラム(mg)で記載されている場合は,グラム(g)に直すため1000で割ります。
(ナトリウム〔mg〕×2.54)÷1000=食塩量(g)

看護のポイント

食塩の過剰摂取が血圧を上昇させることは疫学的,臨床的に明らかです。しかし,食塩制限に伴う降圧効果に個人差があることも事実! 現在のところ,日常診療において食塩感受性を調べるための簡便な検査法はありません。食塩感受性にかかわらず一律に減塩を目指すことになります! 行動変容に向けて,その根拠や改善の効果を丁寧に説明しましょう!

 

減量

減量の降圧効果は確立されており,BMI 25未満が目標とされています。目標に達しなくても,4.5kgの減量で有意の降圧をきたすとされています。また,腹部CTによる脂肪分布の定量化が可能となり,肥満のなかでも,とくに内臓脂肪型肥満で高血圧の関連性が強いことが明らかとなっています。

また,肥満度でみてみますと,標準体重+15%以上では,15%未満を目標として減量する必要があります(図10)。

図10標準体重の算出方法

標準体重の算出方法

 

表6に,日本肥満学会の判定基準を示します。

表6日本肥満学会による肥満の判定基準(1999.10新基準)

日本肥満学会による肥満の判定基準(1999.10新基準)

 

肥満を伴う高血圧患者においては,メタボリックシンドロームの診断基準などを参考に,無理のない長期的な減量を行う必要があります。また,非肥満高血圧患者においては,適正な体重を維持すること,標準体重に近づけるようにすることが重要です。減量のペースは,1ヵ月に平均2kg前後の減量であれば無理がないと考えます(MEMO3)。

 

栄養基準

エネルギー量,蛋白質,脂質,糖質の各エネルギー比率による設定に基づき実施します。

MEMO31ヵ月に2kg減量するためには…?

体脂肪1kgは7200kcalに相当します。1ヵ月に2kg減量するためには,1万4400kcalのエネルギーの減量が必要です。つまり,1日あたりでは約480kcalを減らす必要があります。心血管病がなければ,このうち200kcal程度を運動で消費するようにします。

エネルギー量

適正体重を維持するエネルギー量とします。性別,年齢,合併症の有無,日常生活や運動による身体活動量などによって決まります。通常,標準体重あたり1日25~30kcalの範囲で設定します(MEMO4)。

食塩

6g/日未満としますが,より少ない食塩が理想です。1日3.8gまでを安全とします。

n-3多価不飽和脂肪酸

3g/日以上で降圧作用を期待します。

マグネシウム,カルシウム,カリウムなどの降圧作用については,ガイドラインで推奨できるほどのエビデンスはないとされています。

栄養バランス的に偏らずにエネルギー量を調整するために,図11の点に留意して栄養管理を行います。

図11エネルギー調整食のポイント

エネルギー調整食のポイント

 

看護のポイント
  • 生理的な空腹感よりも,ストレスや習慣といった外的な因子によって食べ物に手が出てしまうことが多いようです。食行動に問題がないか,患者と共に分析・認識し,行動を修正していきましょう!
  • 極端なダイエットで体重が一時的に急激に落ちたとしても,肥満を解消するためには,正しい食事療法と運動療法を組み合わせ,体脂肪を減少させていくためのサポートが不可欠です!
MEMO4身長160cmの場合

体重1kgあたり25kcalとすると…
標準体重=1.6×1.6×22=56.3kg
56.3×25=1400kcal(1日分)

節酒

長期にわたる飲酒は血圧上昇の原因となるといわれています。医師の指示を遵守するためのサポートが大切です。エタノール換算で男性20~30mL/日以下,女性10~20mL/日以下に制限します(図12)。

図12エタノール20mLのアルコール飲料の量

エタノール20mLのアルコール飲料の量

 

うっ血性心不全

治療の目標(11)

治療の目標は,『慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)』によると,自己管理能力の向上と明記されています。医療従事者は,患者の自己管理が適切に行われているかを評価し,患者および家族に対する教育,相談支援により患者の自己管理能力の向上に努めるとあります。

心不全は,身体が必要とする量の血液を心臓から全身に拍出することができない状態です。組織,臓器に血液が滞っている状態であり,心拍出量の低下に伴い,尿量減少,四肢の浮腫,全身倦怠感,ふらつきなどで日常生活が著しく障害されます。また,腸管もうっ血するため,腹部膨満,嘔吐,食欲不振などの症状も出現することがあります。

食事摂取量低下による栄養不良は予後を悪化させるため,栄養管理は大変重要です。栄養管理の基本的な知識について,以下に解説します。

 

病態栄養(4)

左室不全においては,低下した心拍出量を維持するために,交感神経系およびアンジオテンシン系の亢進がみられます。また,それによる炎症性サイトカイン(IL-6,TNF-αなど)の増加がみられます。これらは,心筋細胞へのストレスを増大し,さらに病態を悪化させます。また,代謝も亢進させ,食欲を低下させます(図13)。

図13心不全の病態生理(文献4より引用)

心不全の病態生理(文献4より引用)

 

栄養管理

心不全は,あらゆる心疾患が原因となることはいうまでもありません。それぞれの疾患によって重症度も異なります。

急性期で心不全が悪化しているときは,呼吸不全のためエネルギー必要量が増加します。また,慢性うっ血性心不全では,腹水,胸水や全身浮腫により電解質の異常,水分量の問題,低蛋白血症などの問題を引き起こします。さらに,糖尿病の合併も少なくありません。

重篤化すると心臓悪液質となります。極端な低栄養の状態です。栄養不良でありながら必要とするエネルギー量は増加する状態となります。高度な低栄養状態のため,皮下脂肪減少,筋肉量の減少,低アルブミン血症,免疫機能低下をきたします。

また急性期を免れても,心機能低下による心不全状態が再発し,重症になる例が少なくありません。表7に,心不全の悪化因子を示しました。

表7心不全の悪化因子(文献4より引用)

心不全の悪化因子(文献4より引用)

これらをみますと,栄養管理の重要性が示されているといっても過言ではありません。

心不全患者の多くは,長期間にわたり罹患しています。心不全悪化因子となる食習慣を改善するとともに,個々の病態に即した綿密な栄養管理が不可欠です。

看護のポイント
  • 心不全の悪化因子は,塩分,水分,肥満,低蛋白血症,高血糖など食事に関連しています! なかでも,水分,塩分の管理は重要です!
  • これらが心不全の悪化因子となることを十分に患者に説明し,自己管理しやすい環境づくりをサポートしましょう!

 

栄養管理目標の考え方

塩分・水分の制限(4)

心不全患者には,塩分・水分制限が必要とされています(表8)。

表8心不全時の水分・塩分摂取基準(文献4より引用)

心不全時の水分・塩分摂取基準(文献4より引用)

 

とくに,浮腫管理においては非常に重要です。臨床においては,ナトリウムと水分摂取過剰に多く遭遇します。

平均塩分摂取量が10gを超える日本人において,塩分制限は非常に厳しい状況であり,実行できない患者が多いのが実情です。また,日本ではほとんどの加工食品や調味料に食塩が添加されています(表4)。

欧米では,心不全が出現すると4gの食塩制限が行われます。重症例では2gといわれています。欧米並みの制限は,食欲を低下させるため,食事制限を長期間続けることが困難になってしまいます。そこで,栄養バランス的に偏らずに塩分・水分制限を行い,食欲が低下しないようにすることが不可欠です。

看護のポイント
  • 水分・塩分制限を行うときや,利尿薬を用いるときの指標となるのが体重です!
  • 急激な体重の変化は,多くの場合,水分の変動によるものです!
  • 行動変容に向けて,その根拠や改善の効果を丁寧に説明しましょう!

 

適正体重の維持

肥満は心機能にさまざまな悪影響を及ぼします。したがって,肥満がある患者は,エネルギー摂取量を減らし,肥満の是正に努めます。

一方,低栄養状態にある患者では,栄養管理を確実に行い,栄養状態を底上げし,体重の維持回復を図り,標準体重に近づけることが大切です。標準体重,肥満度,減量目標などについては,前述の高血圧の項を参考にしてみてください。

また,低栄養状態では,心不全の病態,嚥下障害の有無,ADLなどを十分にアセスメントし,必要エネルギー量,蛋白質,水分など主な栄養補給量について,消化管を使用した栄養補給ルートを第一に考え,栄養補給を行うことが重要です。

 

栄養基準

エネルギー量

適正体重を維持するエネルギー量とします。性別,年齢,合併症の有無,日常生活や運動による身体活動量などによって決まります。通常,標準体重あたり1日20~30kcalの範囲で設定します。

蛋白質

消化管の浮腫により消化吸収能力が低下することが考えられます。また,代謝亢進による消費エネルギーの増加や肝機能低下が起こり,低アルブミン血症を引き起こすことがあります。不足しないように良質の蛋白質を摂取する必要があります。腎機能低下などの合併症がない場合には,蛋白質量の目安量は,0.8~1.2gと考えられます。

微量栄養素,ビタミン

食事摂取量が低下している患者では,微量栄養素,ビタミンの欠乏が多くみられます。定期的な評価を行い,個々の患者に即した栄養補給を考えます。

アルコール

アルコールは,水分そのものです。アルコールを摂取すると食欲が亢進することもありますが,一般的にはアルコール制限,禁酒を行うことになります。しかし,病態により制限か禁止か判断が異なりますので,主治医に確認することが大事です。

看護のポイント
  • アルコール摂取に問題がないか,患者とともに分析・認識し,行動を修正していきましょう!
  • 看護師による疾病管理,栄養管理が予後の改善に有効であることが報告されています!

 

虚血性心疾患

虚血性心疾患では,危険因子となる基礎疾患が合併している症例に多く遭遇します。そのため,基礎疾患の重症度が増すほどその病態が重篤となり,栄養管理は複雑になり,個々の患者に即した治療が重要となります。

 

治療の目標(12)

慢性期回復期の治療は,一般療法,薬物療法および侵襲的治療法としてカテーテルによる治療,そして手術療法に分類されます。一般療法とは,生活スタイルを是正して冠危険因子を除去すること,および高血圧や糖尿病などの合併症を治療することです。とくに,食習慣・栄養改善に関連する危険因子の排除はたいへん重要であり,すべての心筋梗塞患者が励行すべきことです(表9)。

表9虚血性心疾患の危険因子

虚血性心疾患の危険因子

 

病態栄養

虚血性心疾患の程度と,合併する疾患の重症度に依存し病態が変化します。したがって,病態を評価し,血圧の管理,糖・脂質代謝の管理を含め栄養管理を組み立てていく必要があります。

 

栄養管理

一次予防のための栄養管理

『虚血性心疾患の一次予防ガイドライン』(12)に基づき述べます。一次予防では,食事療法が最も重要なもののひとつです(図14)。

図14虚血性心疾患の一次予防のための栄養管理(文献12を参考に作成)

虚血性心疾患の一次予防のための栄養管理(文献12を参考に作成)

 

糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などの冠危険因子の多くは,遺伝素因とともに栄養が関連しています。エネルギー,蛋白質,脂質,ビタミン,ミネラルなど栄養素を適正量摂取することが重要です。さらに,食物繊維,ポリフェノールなどの摂取についても配慮しなければなりません。

 

発症時の栄養管理

急性心筋梗塞の場合は,循環動態が安定するまで絶食,経静脈的維持液程度が一般的です。重症で長期化する場合は,高カロリー輸液により,段階を追ってエネルギーを上げます。循環動態が安定したら,経口栄養摂取へとつなげていきますが,経過をみながら徐々に進めて行きます。

 

二次予防のための栄養管理

急性期離脱後,食事療法は非常に重要となります。二次予防のための食事療法は,一次予防を踏まえ,冠動脈硬化の危険因子の管理が中心となります(図15)。

図15心筋梗塞ニ次予防のための栄養管理

心筋梗塞ニ次予防のための栄養管理

 

看護のポイント
  • 虚血性心疾患の治療は,基本的に「急性発症時」と「二次予防」分けて行われます。この間,体重や浮腫の有無,便秘の有無の確認・ケアは非常に大切です!
  • 過体重,血圧上昇,循環血液量増加,便秘時の排便の力みなどは,心負荷を与えます!

 

栄養管理目標の考え方

『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン』(13)に沿った脂質管理が重要です。以下に留意して脂質の管理を行います。

脂肪の摂取量を総エネルギーの25%以下に制限

1日に摂取するエネルギー量を適正にし,摂取する炭水化物,蛋白質,脂肪の配分をバランスのとれたものにすることが重要です。その際,脂肪は25%以下にしましょう。

飽和脂肪酸の摂取量を総エネルギーの7%以下に制限する

脂肪酸には,短鎖・中鎖・長鎖があり,また,飽和・不飽和,必須脂肪酸であるn-6系多価不飽和脂肪酸,n-3系多価不飽和脂肪酸という種類があります。

脂肪のなかでも,飽和脂肪酸の摂取量の増加は,血液中のLDLコレステロールの合成を促進し,心筋梗塞のリスクを高めます。飽和脂肪酸は,バターやラードなどの動物性脂肪,肉の脂身に多く含まれます。

多価不飽和脂肪酸,とくにn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やす

n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む食品は,食用調理油に含まれるα-リノレン酸や魚由来のEPA,DHA,DPAに代表されます。これらを多く含む食品は抗動脈硬化作用があることから,積極的に摂取するようにしましょう。

コレステロール摂取量を1日300mg以下に制限する

食品からとるコレステロール量はさらに制限し,1日300mg以下にします。とくに,卵は1日1個以下とし,魚卵,小魚,レバー,うなぎなども控えましょう。

看護のポイント
  • 国民健康栄養調査によると,日本人の脂質摂取量は増加してきています!
  • 患者の多くは,飽和脂肪酸の摂取量を少なくするなどの脂肪制限が困難な食環境(加工食品・惣菜の多い食事や外食など)にあります!
  • 患者や家族が改善目標を考え行動変容ができるかどうかは,看護師の患者に対する受容とサポートがカギといえます!

 

 


[引用・参考文献]


[Profile]
府川則子(ふかわ のりこ)
東京都健康長寿医療センター 栄養科 科長
1980年 東京都衛生局入職,2008年より現職。糖尿病療養指導士,NST専門療法士。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2013 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2013年1月号

循環器ナーシング2013年1月号

P.42~「循環器疾患の栄養管理の実際」

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今日の看護クイズ 挑戦者179

Aさんは40代男性で、統合失調症と診断されています。18歳の時に発症し、これまでに5回の入院歴があります。入院後も自閉的な生活が続いており、ほとんどほかの患者さんとの交流はありません。最近は一日中コップを片手に持ち、洗面所と部屋を行き来するなど飲水行為が目立っています。身長168cm、今朝の起床時の体重は60kgでしたが、昼食後に再度測定すると、67kgまで増加していました。表情もボーっとしており、問いかけにも返答がありません。歩行時にふらつきが見られ、昼食前にズボンの前を濡らしたまま歩いていました(尿失禁)。このような状態の多飲水患者さんへの看護として最優先される対応はどれでしょうか?

  • 1.患者に朝と夜に体重測定を行ってもらい、1日で摂取できる水分量を伝え、それをうまく配分、コントロールできるよう看護師が教育的な援助を行う。
  • 2.水に集中している意識がほかのものに向くよう、作業療法やレクリエーションなどを導入し、気分転換を図るよう援助する。
  • 3.コップを看護師が管理し、飲水量を厳しくチェックする。それでも飲水が止まらず体重がプラス5kgになれば、保護室で隔離を行い、水分摂取を強制的に制限する。
  • 4.Aさんは、昼食後の体重が基礎体重よりプラス5%を超えており、意識障害も疑われるため、血液検査を考慮する。
今日のクイズに挑戦!