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2015年10月06日

認知症の診断と基本的な対応

『循環器ナーシング』2015年8月号<循環器疾患を持つ高齢者のメンタルヘルスケア>より抜粋。
認知症の診断と基本的な対応について解説します。

 

Point

  • 認知症の基礎知識を持とう!
  • 認知症について,各疾患の特徴を知ろう!
  • 認知症の診断について理解しよう!
  • 認知症の薬物療法と基本的な対応について学ぼう!

寺島 明
(兵庫県立姫路循環器病センター 高齢者脳機能治療室 室長,中播磨認知症疾患医療センター長)

 

〈目次〉

 

はじめに

超高齢社会が到来した日本においては,85歳以上の3人に1人は何らかの認知症を発症しています。このことから,循環器疾患と認知症を合併しているケースも急増していると判断できます。このようなケースにおいては,入院の場合はせん妄を起こしやすい状況にあり,外来ではきちんと服薬ができていないといった問題があります。

そのため,循環器疾患を専門にみておられる看護師さんにも認知症に対する正しい知識を持っていただき,薬物治療や基本的な対応について知っていただければと思います。服薬管理を確実にし,正しい対応をすることで,認知症の症状を改善し,せん妄の発症を大幅に減らすことが可能なのです。

 

認知症の基礎知識

認知症とは

人間の赤ん坊の場合,生まれてすぐは歩くことも会話をすることもできません。何年にもわたって脳が学習し,神経細胞のネットワークを築きあげた結果,話したり,社会生活を上手に営んだりすることができるようになります。

認知症とは,病的な原因で脳の神経細胞が徐々に減り,この神経のネットワークが壊れていく病気です。障害される場所によって,物忘れが起きたり,時間や場所がわからなくなったり,幻が見えたりします。これらの症状は何年もかけてゆっくりと進みます。

2〜3日で急に症状が起こった場合は,認知症ではなく脳血管障害であったり,脳炎を起こしていたりすることも考えられますので,すぐに神経内科や脳神経外科で検査を受ける必要があります。

 

認知症の症状

認知症の症状で一番多いのは「物忘れ」です。認知症の物忘れの特徴は,新しいことを覚えられなくなることです。さっき言ったことを忘れて,また同じことを最初から話したりします。一方,昔の記憶は症状が進行するまで障害を受けませんので,昔のことはよく覚えていて,そのことばかり話すようになります。年をとると人は皆,物忘れをするようになりますが,極端な物忘れは認知症によるものである可能性があります。

また,時間や場所がわからなくなったり,幻視(まぼろし)が見えたり,極端に怒りっぽくなったり,いつも同じ時刻に同じことをするようになったりといった症状が出てくることもあります。

 

記憶の分類

表1生理的な物忘れと認知症の物忘れ

生理的な物忘れと認知症の物忘れ

表1に示すように,もの忘れは加齢によっても起こりますが,エピソード記憶(出来事の記憶)の障害は病的と判断してよいでしょう。旅行に行って帰ってきた翌日に,旅行に行ったこと自体を忘れているといった記憶障害です。朝ご飯を食べたこと自体を忘れてしまうといった症状で気がつくこともあります。

表2記憶障害の分類(文献1より改変)

記憶障害の分類

記憶の時間的分類(表2)でいうと,アルツハイマー病で障害されるのは近時記憶です。2〜3分から2〜3週間の間の記憶が障害されます。いったん遠隔記憶に移った記憶は,疾患が重度となるまで残っていますので,さっき聞いた電話の内容は完全に忘れても,昔のことはよく覚えているといったことが起こります。

 

主な症状

表3に主な症状を示します。

表3認知症の主な症状(文献2を参考に作成)

認知症の主な症状

もの忘れが進むと,今聞いたことを数分するとまた聞いてくるといったことが起こります。聞いたこと自体が記憶から完全に消えているので,同じことを最初から何度も聞いてくることになります。

これに対し,「さっきも聞きました,しっかりしなさい」と言ってはいけません。本人にはさっき聞いたという記憶がないわけですから,初めて聞いたのに叱りつけてくる怖い看護師さんだという印象を与えます。出来事の記憶は消えても,感情の記憶は残りますので,嫌な看護師さんだという感情が残ってしまうことになります。

見当識障害では,時間や場所があやふやになります。約束の日を1週間間違えて待ち合わせ場所に先に来てしまったり,待ち合わせの駅を間違えて一駅先で待っていたりということが起こります。散歩に出かけて道に迷い,極端に遅くなって帰ってきたり,自動車で出かけて隣の県まで行ってしまったりということも起こりえます。

また,診察場面では医師の質問に1人で答えられず,常に家族を振り返るといった現象も起こります。1人でいるのが不安で,24時間家族と離れられない患者もいます。このような場合,デイサービスには家族と一緒に行っていただき,徐々に離れる練習をしていくことが必要です。

 

さまざまな認知症の原因となる疾患

認知症にはさまざまな疾患があり,その代表的なものが「アルツハイマー病」です。アルツハイマー病は,65歳未満の発症である「若年性アルツハイマー型認知症」(若年性AD)と65歳以上の発症である「アルツハイマー型老年認知症」(SDAT)に分けられます。

表4に示すように,各疾患には特徴的な症状があります。これをよく理解して,適切な対応をすることが重要となります。

表4認知症疾患の臨床症状(文献3より改変)

認知症疾患の臨床症状

 

アルツハイマー病

アルツハイマー病は記憶障害で気づくことが多く,病気が進行すると見当識障害が起こってきます。

まず,時間の見当識障害が起こり,季節がわからなくなったりします。真夏なのに冬だと思いこんで,たくさんの重ね着をしたりすることもあります。さらに症状が進むと,場所の見当識障害を認め,出かけた先で迷子になったり,家の近くでも曲がり角を1つ間違えるとそのまま真っすぐ1時間も歩いていたりすることになります。

また,妄想を認めることもあります。物忘れのために財布や通帳を置いたところを忘れ,探しても見つからない場合,普通なら「一緒に探して」となりますが,不安感や孤独感が基礎にあると,「泥棒が来て盗った」あるいは「家の人が盗った」,入院中なら「同室者が盗った」「看護師が盗った」という物盗られ妄想に発展します。

 

レビー小体型認知症

この疾患は幻視が特徴的です。後頭葉の機能が落ちているために視覚情報の処理がうまくできず,ありありとした幻視が見えてしまいます。ぼんやりと見えるのではなく,はっきりと人の姿が見えたり,動物が見えたりします。

ただ,近くによると消えてしまったり,本来の物(石ころや消火器など)に変わったりしますので,幻が見えているという自覚が本人にもあることが多いように思います。

このときに「何をばかなことを言っている」と否定してはいけません。「あなたには見えているけれども,私には見えない」と説明し,「幻だから心配しなくてよい」と安心してもらうことが大切です。

また,パーキンソンの症状を伴うことが多く,自律神経の障害も伴いますので,起立時にふらついたり,意識を失ったりすることがあるので注意が必要です。血圧も不安定ですので,経過をよくみて血圧調整を行うことも大切です。

症状の変動も特徴的で,朝は普通だったのに,夕方になるとわけがわからないことを言い出したりします。「レム睡眠行動障害」といって,夢を見ているときに大声を出したり,手足をばたつかせたりすることもあります。これは初期からみられることが多く,早期発見につながる症状の1つです。

薬に対する過敏性も特徴の1つです。作用時間の短い睡眠薬を内服しただけでも夕方まで目を覚まさなかったりすることがありますので,睡眠薬や安定剤の使用にはとくに注意が必要です。また,この疾患はせん妄を起こしやすく,入院中は行動・心理症状(BPSD)のコントロールにとくに注意が必要です。

 

血管性認知症

ラクナ梗塞などの脳血管障害により起こる認知症です。

症状としては思考緩慢がみられ,質問に対する答えに時間を要することがあります。名前を聞き,しばらく返事がないので次の質問をしようとしたときにやっと名前を答えるといったことが起こります。

ビンスワンガー病など脳室周囲の血流が低下しているときに著明なレスポンスの低下を認めることもあります。また,ラクナ梗塞などの脳血管障害を起こすたびに階段状に症状が悪化するのも特徴です。

動脈硬化による心疾患を持っている患者に合併していることも多く,心疾患の治療で認知症の進行予防ができるといったケースもあります。

 

前頭側頭型認知症

反社会的行動が問題になる疾患です。

わざと反社会的行動をとるわけではありませんが,前頭葉の機能が障害された結果,「わが道を行く」といった行動をとってしまうので,結果として反社会的行動となってしまいます。診察場面でも,飽きてしまうとプイと部屋を出て行ってしまうといったことが起こります。

常同行動・時刻表的生活といった特徴があります。レストランでいつも同じメニューを注文する,毎日午後4時になると散歩に出かけ,雨が降ろうが風が吹こうがやめないといった行動です。

前頭葉の機能が障害されると,(アルツハイマー病の患者でもみられることがありますが)理性的な判断が苦手になり,言い出したら聞かない,ちょっとしたことですぐ怒るといった,我慢ができない脱抑制の症状がみられます。

この場合,理屈で説明して制止しようとするとさらに怒ります。入院中の患者が服薬を拒否したとき,「大事な薬だから飲まないといけない」と一生懸命説明すればするほど怒ります。無理に飲ませようとすると暴言・暴力にまで発展することがあります。

相手の話をよく聴き,タイミングをみて,相手に合わせて服薬を勧めることが重要です。

 

正常圧水頭症

がにまた歩きのような歩行障害が特徴的な疾患です。

尿失禁を伴うことが多く,病気が進行すると思考緩慢も著明となります。タップテストで症状が改善したり,V-Pシャント(脳室−腹腔シャント)といった脳外科的手術で治療したりすることが可能です。

頭部CTやMRI検査で簡単に診断できるため,見逃さないことが重要です。

 

慢性硬膜下血腫

意識障害傾眠といった症状を認めます。

頭部を打撲した際に慣性の法則により打撲側に脳が移動し,その結果,打撲した側と反対側の血管が引っ張られることで出血が始まり,硬膜下に血腫ができます。少量の出血が持続することで,打撲から2〜3週間してから症状を認めます。

高齢者は軽度の頭部打撲でもこの疾患を引き起こすことがありますので,頭部打撲の既往がなくても,朝からぼーっとしている,呼びかけてもしっかり目を開けないなどの症状があれば,すぐに頭部画像検査を受ける必要があります。

保存的に治療可能な場合と脳外科的に手術が必要な場合があります。

 

認知症の診断

画像検査

画像検査には,主に以下のようなものがあります(4)

  • 頭部MRI・頭部CT:脳の形(萎縮,ラクナ梗塞など)をみる検査
  • 脳血流SPECT・PET:血流などを介して脳の機能をみる検査
  • MIBG心筋シンチグラフィ心臓の交感神経を検査(レビー小体型認知症で障害)
  • DATスキャン:ドパミントランスポーターの量を測定(レビー小体型認知症,パーキンソン病で低下)

 

頭部MRI(または頭部CT)

脳の形をみる検査で,脳の萎縮,脳梗塞,脳出血,硬膜下血腫脳腫瘍などを判別します。

アルツハイマー病では脳全体(とくに頭頂葉)の萎縮,海馬の萎縮が特徴です(図1)。

図1アルツハイマー病の頭部MRI画像(文献5より転載)

アルツハイマー病の頭部MRI画像

 

前頭側頭型認知症では前頭葉および側頭葉の萎縮が著明です(図2)。

図2前頭側頭型認知症の頭部MRI画像(文献5より転載)

前頭側頭型認知症の頭部MRI画像

 

大脳皮質基底核変性症では左右差のある脳萎縮を認め(図3),正常圧水頭症では側脳室,シルビウス裂,海馬周囲の脳室の拡大を認め,頭頂葉で脳溝が狭くなっているのが特徴です。脳室の角度も大脳鎌で折れ曲がり,鋭角となっています(図4)。

図3大脳皮質基底核変性症の頭部MRI,PET画像(文献5より転載)

大脳皮質基底核変性症の頭部MRI,PET画像

 

図4正常圧水頭症の頭部MRI画像(冠状断)(文献5より転載)

正常圧水頭症の頭部MRI画像(冠状断)

 

慢性硬膜下血腫は,打撲と反対側の硬膜下に血腫が認められ,片方の側脳室が押された形になっています(図5)。正中線が一方に偏移をしている場合,手術を考慮する必要があります。

図5慢性硬膜下血腫の頭部CT画像(文献6より転載)

慢性硬膜下血腫の頭部CT画像

 

脳血流(IMP)SPECT(またはPET)

脳の血液の流れなどをみる検査で,神経細胞レベルでの活動性を判断することができます。アルツハイマー病では頭頂側頭連合野,後部帯状回〜楔前部で血流の低下を認めます(図6)。

図6アルツハイマー病のPET画像(文献5より転載)

アルツハイマー病のPET画像

 

レビー小体型認知症ではさらに後頭葉の血流も低下します(図7)。

図7レビー小体型認知症のPET画像(文献5より転載)

レビー小体型認知症のPET画像

 

前頭側頭型認知症では前頭葉の血流が著明に低下し(図8),大脳皮質基底核変性症では基底核を含め一側の血流低下が認められます(図3)。

 

図8前頭側頭型認知症のPET画像(文献5より転載)

前頭側頭型認知症のPET画像

 

DATスキャン

SPECTでドパミントランスポーターの量を測る検査です。パーキンソン病やレビー小体型認知症では,両側の基底核でドパミントランスポーターの量が低下していることがわかります(図9)。

図9レビー小体型認知症のDATスキャン画像(文献7より転載)

レビー小体型認知症のDATスキャン画像

 

心理検査

心理検査には,主に以下のようなものがあります(4)

  • MMSE(またはHDS-R):認知症のスクリーニング検査
  • ADAS-Jcog:アルツハイマー病の程度を検出
  • WAIS-Ⅲ:知能検査
  • WMS-R:記憶の検査
  • リバーミード行動記憶検査:日常生活での記憶をみる検査
  • FAB:前頭葉の機能検査
  • TMT:選択的注意,分配的注意の検査

ミニメンタルテスト(Mini Mental State Examination;MMSE)は認知症のスクリーニング検査です(施設によっては長谷川式テスト〔HDS-R〕を使用するところもあります)。

認知症の専門医は聴診器の代わりにこの検査を実施します。30点満点の検査ですが,20〜23点を初期,10〜19点を中等度,0〜9点を重度と判断することが多いようです。点数だけにとらわれるのではなく,どこで点を落としたかや失点の経過をみることが重要です。

記憶の検査にはWMS-R検査(Wechsler Memory Scale-Revised)がありますが,物忘れが始まっている人には難しい検査です。リバーミード行動記憶検査のほうが日常の記憶障害の程度をみるには適しているように思います。

FAB(Frontal Assessment Battery)は前頭葉の機能をみる検査です。脱抑制の程度をみることができますので,入院中に易怒性が著明となるかどうかの判断に役立てることも可能です。

TMT(Trail Making Test)は,注意の分散が可能かどうかの検査です。この検査で点数の低い方は,注意を上手に分散できません。右から自転車が出てくると左の歩行者に気がつかないことなどがあるため,車の運転は危険と考えられます。

 

その他の検査

その他の検査として,バイオマーカーがあります(4)

  • イメージングバイオマーカー:C11-PIBなど(脳内アミロイドに特異的結合を示すPET用のリガンド)
  • 遺伝子マーカー:PSEN1・PSEN2の変異,ApoE4,CLU(clusterin),CR1(complement receptor 1)など
  • 生化学バイオマーカー:脳脊髄液中のAβ1-40,1-42,リン酸化タウなど

 

イメージングバイオマーカー

PETを用いて,アミロイドβやリン酸化タウといった物質が脳内に溜まっているかどうかを調べることができるようになってきています。残念ながら現在はまだ,どこの施設でもできる検査ではありません。今後,一般に普及し,アルツハイマー病の診断が確実にできるようになることを期待します。

 

遺伝子マーカー

家族性アルツハイマー病に関しては,原因遺伝子がいくつか見つかっており,遺伝子と疾患の関係について研究が進んでいるところです。そのうちの1つであるApoE4遺伝子に関しては,1つ持っているとアルツハイマー病になる確率が4倍,2つ持っていると16倍になると報告されています。最近,再び注目を集めるようになってきた遺伝子です。

 

生化学バイオマーカー

脳脊髄液中のアミロイドβ1-40,1-42,リン酸化タウを測ることができるようになっています。これにより,画像検査だけでなく,髄液検査でも早期からアルツハイマー病の診断が可能となってきています。ただ,早期に発見しても完治する治療法がない現状では,診断の困難なアルツハイマー病の診断に利用するといった段階でとどまっています。

 

認知症の薬物療法と基本的な対応

シナプスの働き

神経細胞は電気信号の伝達によって情報をやり取りしており,信号を伝えるうえで重要な働きをしているところが「シナプス」です。

図10海馬錐体細胞においてアクチン-EGFPを発現させた顕微鏡写真

海馬錐体細胞においてアクチン-EGFPを発現させた顕微鏡写真

 

図10では,アクチンと呼ばれる蛋白質にEGFPという緑の発光物質をつけた物を発現させた神経細胞を示しています。たくさんある小さな顆粒がシナプスです。1つの神経細胞は数多くのシナプスを持ち,ここで他の神経と情報をやり取りしています。

シナプスでは電気信号が伝わってくると,「シナプス小胞」と呼ばれる小さな袋から神経伝達物質がシナプス間隙に放出されます。この神経伝達物質がシナプス後膜にある受容体につくと受容体の入り口が開き,電流が流れる仕組みになっています(図11)。

図11シナプス

シナプス

 

抗認知症薬の作用(図12

図12抗認知症薬の作用機序(文献89を参考に作成)

抗認知症薬の作用機序

 

アルツハイマー病では,アセチルコリン(ACh)と呼ばれる神経伝達物質を放出するシナプスの働きが落ちてきます。

シナプス間隙には,出てきたAChを掃除する分解酵素(AChE)が待ち構えています。アルツハイマー病では放出されるAChが少なくなっていますので,頑張って掃除をされてしまうと,伝達物質がACh受容体に届く前に一掃され,信号が伝わらなくなってしまいます。

この掃除屋さんの働きを邪魔するのがコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬という認知症の薬です。

シナプスは,別の神経伝達物質であるグルタミン酸を放出する場合もあります。

この伝達物質がNMDA受容体につくと,カルシウムオン(Ca2+)が入り口から細胞内に入ります。大量のCa2+流入は細胞毒性を示し,細胞が死んでしまいます。この入り口をブロックし,Ca2+の流入を適度に防いでくれるのがNMDA受容体拮抗薬です。

 

薬の種類と処方の仕方

AChE阻害薬はドネぺジル塩酸塩(アリセプト),ガランタミン(レミニール),リバスチグミン(リバスタッチパッチ,イクセロンパッチ)の3種類が保険適用となっています。これらの薬は初期〜中等度のアルツハイマー病に適応があり,どれか1つを処方すると他の併用はできません(アリセプト10mgは重度のアルツハイマー病に適応があります)。

NMDA受容体拮抗薬であるメマンチン(メマリー)は,中等度〜重度のアルツハイマー病に保険適応があり,AChE阻害薬との併用が可能です。

どの症状にどの薬を処方すべきかについては,明確な指針がありません。私が処方する際の大まかな判断基準を表5に示しますので参考にしてください。

表5アルツハイマー型認知症の薬物治療

アルツハイマー型認知症の薬物治療

 

認知症の看護・介護をするうえで,認知症の行動・心理症状(BPSD)が大きな問題となってきます。どのような薬を使うかについては,いくつかの選択肢があります。1つの例を表6に示します。

表6BPSDに対する薬物療法(文献10より引用)

BPSDに対する薬物療法

 

大切なことは,薬の処方は最後の手段と考えていただくということです。

高血圧や便秘を治療するだけで,精神症状が消えるといったことは珍しくありません。発熱や顕在化しない痛みもBPSDを悪化させます。安定剤や睡眠薬の過剰投与も認知症の症状を明らかに進めてしまいます。まず薬ではなく,環境を整え適切な介護構築を行ったうえでBPSDに対する内服治療を考慮してください。

アメリカ食品医薬品局(FDA)は,抗精神病薬の投与は死亡率を1.7倍にすると警告しています。原則として,これらの薬を使用する際には本人または家族にこの点を説明し了承を得る必要があります。

 

非薬療法と治療としての介護

図13に非薬物療法について示します。大切なことは「脳のリハビリ」と「介護構築」です。

図13非薬物療法

非薬物療法

 

デュアルタスク

最近では,認知症予防も含めてデュアルタスクが推奨されています。これは,運動をしながら頭を使うことで,脳リハビリの効率を高める方法です。

早歩きの散歩をしながら「しりとり」をしたり,計算をしたりといった方法がありますが,コミュニケーションが効果的と考えられますので,1人でするのではなく,ぜひ誰かと一緒にお話をしながら散歩をするようにしてください。

循環器疾患を持っている患者は,心拍数を上げる運動には限界がありますので,様子をみながら,できる範囲で行っていただければ結構です。

 

人と会話をする

社会に触れ,人と会話をすることも重要です。可能なら,デイサービスなどをうまく利用してください。

表7に認知機能訓練の有効性について示します。介護者教育,あるいはBPSDの対処訓練がグレードAの評価となっています。

表7認知機能訓練の有効性について(文献11より改変)

認知機能訓練の有効性について

 

薬に頼らない看護・介護

記憶障害で何度も同じことを聞いてくる患者に「いい加減にしろ」は言ってはいけません。

夕方,焦燥感が強くなり,見当識障害もあって自分のいる所がどこかわからなくなる。早く家に帰らないといけないと思って家から出ていく。徘徊されてはたまらないと,家族は玄関に外から鍵をかける——少し,想像力を働かせてみてください。

自分が,どこともわからないところに閉じ込められたらどうしますか。何とか脱出しようとするのではないでしょうか。2階から出ようとして大けがをするといったことも起こるかもしれません。

このようなときは,「家に帰りましょう」と一緒に外に出てみてはどうでしょうか。その辺を一周してきた後に,「ここが家ですよ」と話すと落ち着いていられるといったケースもあります。

いろいろな場合があり一概にはいえませんが,正しい知識,対応の仕方を知っていればいるほど,薬に頼らない看護・介護が可能となります。

 

パーソン・センタード・ケア

最後に,看護・介護の考え方のヒントをお話ししたいと思います。介護法に関しては,バリデーション,ユマニチュードなどいくつかの方法が提唱されています。それぞれのケースに合ったものを選択していただければと思いますが,ここではパーソン・センタード・ケアについて紹介します。

パーソン・センタード・ケアとは図14に示すように,BPSDを問題行動ととらえず,何らかの原因がある行動と解釈する,という考え方です。薬を飲まない,すぐに怒るといったときに,想像力を働かせて患者の立場で考えてみましょう。

図14パーソン・センタード・ケア(文献12を参考に作成)

パーソン・センタード・ケア

 

「真面目な顔は怖い顔」と言われます。一生懸命説明し,説得しようとする顔は,患者から見ると怒っている怖い顔になっているかもしれません。

いつも笑顔で,患者のペースに合わせて,怒鳴らず,やさしく接してくれる看護師さんが「味方」なのです。味方になれば多少の無理もきいてくれますが,敵になってしまうといくら説得してもかたくなに拒否をされます。これは認知症の患者に限ったことではないかもしれません。

また,「感情は感染する」という言葉もあります。

看護する側に気持ちの余裕がなくなれば,自然と態度に出てしまいます。認知症の患者は理性が鈍っているぶん,感性は鋭敏になっています。忙しいなかにも気持ちの余裕を持って,ゆったりと接してあげることでBPSDは改善し,入院中のせん妄も大いに減らすことができるはずです。

 

おわりに

認知症患者の数が約800万人といわれる現在でもなお,認知症に対する誤った理解を至るところで目にします。日頃から循環器疾患をみておられる看護師の方からすると,認知症に対する対応方法は異質なものに映るかもしれません。

しかし,早期に発見し,早期に対応することが重要という点においては,循環器疾患と同じなのです。早期発見・対応により病気の進行を抑制し,BPSDを軽減することが可能です。

この機会に,認知症に対する理解を深めて正しい対応を行い,認知症患者が落ち着いた生活を送る手助けをしていただければと思います。

 

 


[引用・参考文献]

  • (1)谷向 知:ステップアップ講座 中核症状+周辺症状マップで特徴をつかむ!日常生活から診る初期アルツハイマー病.CNS today,1(1):29,メディカルトリビューン,2011.
  • (2)公益社団法人認知症の人と家族の会:家族がつくった「認知症」早期発見の目安.http://www.alzheimer.or.jp/?page_id=2196(2015年6月閲覧)
  • (3)石井一成:認知症 脳血流SPECT 読影のポイント.日本メジフィジックス,pp18-19,2014.
  • (4)武田雅俊:Ⅰ.総論:認知症の診断・治療について.アルツハイマー病のバイオマーカーを利用した新しい疾患概念.日本老年医学会雑誌,22:17-24,2011.
  • (5)田中千賀子ほか(編):痴呆診療マニュアル.1999.
  • (6)荒井啓行ほか:慢性硬膜下血腫.系統看護学講座 専門分野II 老年看護 病態・疾患論(第3版).医学書院,p110,2009.
  • (7)水村 直:ダットスキャン読影のポイント.日本メジフィジックス,p10,2015.
  • (8)Parsons CG et al.: Memantine: a NMDA receptor antagonist that improves memory by restoration of homeostasis in the glutamatergic system--too little activation is bad, too much is even worse. Neuropharmacology, 53: 699-723, 2007.
  • (9)McGleenon BM et al.: Acetylcholinesterase inhibitors in Alzheimer's disease. Br J Clin Pharmacol, 48: 471-480, 1999.
  • (10)日本神経学会(監修):認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012.医学書院,2012.
  • (11)鳥羽研二:アルツハイマー病における中核症状とBPSDの治療の基本.Cognition and Dementia,10(Suppl.1):16,2011.
  • (12)高瀬義昌ほか(監修):認知症の気づき方・接し方.社会保険出版社,p10-11,2014.
  • (13)兵庫県立姫路循環器病センター(認知症疾患医療センター)ほか(編):認知症と上手に付き合うための手引き書.2014.

[Profile]
寺島 明(てらしま あきら)
兵庫県立姫路循環器病センター 高齢者脳機能治療室 室長,
中播磨認知症疾患医療センター長

1989年 神戸大学医学部卒業,医学博士。兵庫県立高齢者脳機能研究センター,英国ブリストル大学MRCセンター,米国国立衛生研究所(NIH)/NINDSにて記憶に関する基礎研究を行う。2010年より兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室に勤務,現在は 同 室長および中播磨認知症疾患医療センター長。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2015 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2015年8月号

循環器ナーシング2015年8月号

P.45~「循環器ナースに知ってほしい認知症の診断と基本的な対応」

著作権について

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以下の中で、産科医療補償制度の補償対象になるものはどれでしょうか?

  • 1.出産による母体の後遺症
  • 2.産科危機的出血による母体死亡
  • 3.医療者の過失による新生児もしくは母体死亡
  • 4.新生児の脳性麻痺
今日のクイズに挑戦!