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2015年09月28日

リンパ浮腫に対する診断とフットケア

『WOCNursing』2014年11月号<足病変の診断とフットケアの実際>より抜粋。
リンパ浮腫に対する診断とフットケアについて解説します。

 

Point

  • むくみを生じる疾患は多岐にわたる。とくに全身性浮腫,静脈疾患などとの鑑別が必須である
  • リンパ浮腫は個別性が高いため,患者の生活様式などを考慮し治療計画を立てよう

佐藤佳代子
(学校法人後藤学園附属リンパ浮腫研究所所長)

〈目次〉

 

はじめに:リンパ浮腫とは

リンパ浮腫は,リンパ節やリンパ管の先天的な発育不全や乳がん・子宮がん・前立腺がんなどの外科的療法,放射線療法などにより,リンパ管系が圧迫,狭窄,閉塞されるなどの損傷を受けて発症する可能性があります。これにより本来,組織間隙からリンパ管系に回収されるはずの組織間液やタンパク質が過剰に貯留し,びまん性の浮腫を生じた状態をいいます。

発症時期には個人差があり,術後まもなく生じる場合もあれば,5年,10年経過してからということもあります。術後すべての患者がむくみを発症するわけではありませんが,適切な治療をせずに放置すると増大することもあるため,違和感があればできるだけ早い段階で専門医や主治医を受診し,状態を確認するようにしてください。

 

リンパ系の解剖・生理

リンパ系は,リンパ組織・臓器とリンパ管系からなり,免疫応答とリンパ運搬機能を担っています。リンパ管系は全身の皮下組織内に網目状に分布して,組織間隙から組織間液に含まれた細菌類や老廃物を回収するシステムとして機能しています。このリンパ管系が損傷されると,なぜリンパ浮腫の特徴的な症状を呈するのかを理解するうえで,解剖生理の知識はとても重要です。

 

リンパ管の解剖

体表のリンパ管は,身体の正中線,鎖骨や臍の高さに存在するリンパ分水嶺によって流入経路(所属領域)が分けられています(図1)。

図1表在リンパ管と流入経路

表在リンパ管と流入経路

 

リンパ分水嶺により区分けされた各領域では,組織間隙より毛細リンパ管を介して生成されたリンパ液が,集合リンパ管内を流れ,各所属リンパ節に至ります。そこから,より深部(筋膜下)へと運ばれ,深部リンパ管(リンパ本幹)を通って,最終的には左右の鎖骨上窩(右リンパ本幹,左静脈角)に流入します(図2)。

図2深部リンパ管

深部リンパ管

 

 

リンパ管の生理

毛細血管壁(動脈側)より漏出した栄養素や酸素を含んだ組織液は,隅々の細胞に供給された後,細胞の代謝により老廃物や二酸化炭素を含み,大部分は毛細血管(静脈側)に再吸収されます。毛細血管に取り込まれなかった老廃物や細菌類は,毛細リンパ管よりリンパ管系に回収され,鎖骨上窩に到達するまでに,細菌処理として関所となるいくつものリンパ節を経由し,浄化され,再び血液循環に戻ります。

 

リンパ浮腫の病期

リンパ浮腫は以下の病期に分けられ,リンパ浮腫診療の指標となっています(表1(1)。実際には患肢が全体的に同じような状態になるのではなく,部分的に組織変化が異なることが多いため,症状が最も進行した部位の病期から判断されています。

表1リンパ浮腫の病期

リンパ浮腫の病期

 

リンパ系の機能低下の影響

がん手術でリンパ節を切除していても,十分にリンパ管系が正常に機能していれば体内の恒常性が保たれますが,機能が低下するとリンパ浮腫特有の症状が顕在化する可能性が高くなります。

リンパ管系の解剖機能が低下すると,組織間隙から十分に水分を回収できなくなるため,症状として,むくみや重だるさを感じるようになります。同時に生理機能が低下するために,分子構造の大きいタンパク質や炎症物質,疲労物質などが組織間隙から十分に排泄されず,疲れやすさ,皮膚の乾燥,皮膚線維化,皮膚硬化,脂肪組織の増加などを生じやすくなります。症状はゆっくりと進行していきますが,頻繁に炎症を繰り返すと象皮病にまで進むこともあります(図3)。

図3子宮がん術後右下肢リンパ浮腫

子宮がん術後右下肢リンパ浮腫

 

 

リンパ浮腫の診断と検査

リンパ浮腫治療は,リンパ浮腫の病期や合併疾患により対処法が異なります。治療開始にあたり,必ず医師の診察を受け,基本的な診察(問診,視診,触診)および諸検査を行い,重症度の判断,合併症の有無,療法の適応・禁忌などを考慮しながら,総合的に治療方針を決定していくことになります。とくに,全身性浮腫や静脈疾患およびその他の浮腫をきたす疾患との鑑別は,安全で効果的な治療を行うために必須となります。

 

問診

現病歴既往歴,薬剤歴,手術歴,放射線治療の有無,化学療法の有無,浮腫発症のきっかけ,浮腫や皮膚状態,蜂窩織炎の既往有無,自覚症状,痛みや歩行障害などを問診します。

 

視診

患肢や体幹の浮腫の左右差,皮膚状態,色調変化,静脈の見え方,手指・足趾の形状や真菌感染などをみます。

 

触診

患肢の皮膚をよせることにより表皮の硬さや浮腫の範囲を確認する「シュテンマー徴候」,患部の皮膚を約10秒間指腹で圧迫することにより圧迫痕が残るかどうかを確認する「圧痕性テスト」,皮膚温や線維化の状態などを確認します。

 

検査

問診,視診,触診により浮腫の有無や状態を確認できますが,リンパ浮腫とその他の浮腫を鑑別する方法として,血液・尿,血液生化学,内分泌検査,胸部X線撮影,心電図超音波断層法,超音波ドップラー検査,四肢別体脂肪率測定(体組成計など),CT検査,MRI検査,リンパシンチグラフィー,蛍光リンパ造影,リンパ管造影などが挙げられます(2)

近年では,インドシアニングリーン(ICG)を皮内注射し,患部に赤外線を当てることにより,リンパ管内に取り込まれたICGが発する蛍光をカメラで捉えるICG蛍光造影(photodynamiceye;PDE)(3)なども取り入れられるようになりました。これに加え,リンパシンチグラフィー,リンパ管造影(侵襲的)の3つが確定診断の指標とされています。

 

リンパ浮腫の治療

リンパ浮腫に対する代表的な保存的治療として「複合的理学療法」(complexphysicaltherapy;CPT)(4)を紹介します。本療法は古く欧州にて体系化され,医師と知識と技術を習得した医療リンパドレナージセラピストにより実施されています。

 

複合的リンパ浮腫療法による治療の流れ

本療法は,「スキンケア」「医療徒手リンパドレナージ」「圧迫療法」「圧迫下で行う運動療法」を基本に,患者の基礎疾患・禁忌症・皮膚状態を確認し,個別の状態に応じて施行していきます。これに患者への日常生活指導(患肢挙上,リスク管理など),セルフケア指導などを含め,奏功的に効果を生み出します。

適応は,主にリンパ浮腫や慢性静脈不全などによる局所性の浮腫であり,禁忌として原則的および局所的なものがあります。未治療の悪性腫瘍や終末期にみられる浮腫に対するケアは相対的禁忌に位置づけられます(表2)。

表2複合的治療の適応禁忌

複合的治療の適応禁忌

 

下肢に対する治療とケアの留意点

下肢にリンパ浮腫を発症したケースの治療とケアの留意点をまとめます。

スキンケア

治療開始前に,左右肢の温度や皮膚状態(発赤,発疹,熱感,冷え,外傷,創傷,足趾や関節肥厚部などの真菌感染などの有無など),急性皮膚炎や蜂窩織炎などの有無を確認します。とくに外性器のリンパ小疱やリンパ漏などは,気がつきにくいため注意します。皮膚の状態はリンパ浮腫症状にも影響を与えるため,スキンケアの重要性について患者に正しく伝える必要があります。

 

医療徒手リンパドレナージ(manuallymphdrainage;MLD)

MLDは,皮膚を直接手で触れて伸張させることにより表在リンパ管系に対して刺激を与え,リンパ浮腫を改善させるマッサージ技術です(図4)。

図4医療徒手リンパドレナージ(MLD)

医療徒手リンパドレナージ(MLD)

 

毛細リンパ管に刺激を与えることでリンパ液の生成を促し,リンパ管の自動運搬機能を高めます(3)。病期によって,また症状の度合いによって個人差があるため,MLDにより皮膚の状態を整えてから圧迫療法を実施することにより,より安全に症状を改善させることができます(図5)。

図5MLDによるリンパ浮腫の改善

MLDによるリンパ浮腫の改善

 

症状の軽い症例では,セルフマッサージの手順に沿って入浴時に石けんの泡を使って手のひらで「なで洗い」したり,スキンケア時にクリームを塗布したりすることで,よい状態を維持したり,身体の小さな変化にも気がつきやすくなります。

 

圧迫療法

圧迫療法には,①弾性包帯を用いたバンデージ療法,および②弾性着衣を着用する方法があります。

これらの方法を用いて患肢を外部から適度に圧迫することにより間質組織圧を高め,毛細血管の透過性を抑えるとともに,組織間液やリンパの再貯留を防ぐ効果があります。原則として,患肢の末梢部にかかる圧が最も強く,中枢部に向かうに従い漸減する,段階的な圧勾配を考慮して行います。

 

バンデージ療法

皮膚に直接当たる医療用品は,通気性に長け,皮膚に優しいものを選びます。患肢へのMLD後に,保湿用ローションやクリームなどでスキンケアを行った後,その日の身体および患肢の状態に応じ,微調整しながら多重層に弾性包帯を巻きます(図6)。

図6弾性包帯を巻いた様子

弾性包帯を巻いた様子

 

集中治療で弾性包帯を着用する時間について,ドイツのガイドラインでは18〜22時間が目安とされていますが,患者の感じ方や生活環境を配慮して,装着可能な範囲内で判断して行います(5)。症状が軽度の場合にはこのような圧迫療法を必要としないことが多いです。

 

弾性着衣(弾性ストッキング)

弾性着衣は,患肢の長さ,周囲径の値から,単純にS/M/Lなどのサイズに合わせるのではなく,その他に患者の基礎疾患(高血圧症・静脈疾患など)の有無なども考慮したうえ,患者の身体状況と浮腫症状を鑑みて適したものを選択してください(図7)。

図7弾性着衣を着用した状態

弾性着衣を着用した状態

弾性着衣を着用する直前の保湿は控えます

無理な圧迫や症状に合わない弾性着衣の使用は,痛みやしびれ,症状悪化や炎症を招く原因となるため,使用前には必ず医師の指示を受けるようにします。患肢の左右差が強くみられる場合には,夜間はバンデージを巻くなどして,圧迫状態を継続することが望ましいですが,軽度の場合には,夜間は脱いで皮膚を休めるようにします。とくに,潜在期に予防のために弾性着衣を着用すると,皮膚に過度な負担をかけることもあるため,この時期の使用は控えます。

 

排液効果を促す運動療法(圧迫下にて)

弾性包帯や弾性ストッキングにて圧迫した状態で運動をすると,圧迫要素による皮膚の外壁と筋収縮により組織間隙が挟まり,適度に圧迫されることでリンパ液の排液効果を高めることができます。運動療法の内容は,患者の全身状態を考慮したうえで行える筋ポンプ作用を中心とするもので,日常生活のなかでも無理なく繰り返し行えるものがよいです。

 

合併症について

リンパ浮腫患者において最も注意を払う必要のある合併症の1つに,急性炎症(蜂窩織炎)が挙げられます。

長期にわたり患肢に組織液やリンパ液が停滞することにより免疫力が低下し,感染症を起こしやすい状態となっています。つまり,浮腫が顕在化していなくとも,潜在期(0期)でも,蜂窩織炎を起こすリスクはありますし,これをきっかけにリンパ浮腫が顕在化することもあります。創傷や外傷から細菌感染を起こすことが原因とされていますが,過労,精神ストレス,季節の変わり目などの体調変化なども誘因となることがあります。

症状として,強い悪寒,発疹,発熱(局所に継続的な熱感を感じる,38℃以上の高熱)などがあります。このような炎症を頻繁に起こしてしまう場合には,医師の適切な処置を受けるとともに,日常生活を振り返ってどこかに原因がないか患者と話し合うことが大切です。

炎症発症時には,さらに炎症症状を悪化させる可能性があるため,マッサージ,圧迫療法,運動療法は一時休止し,炎症消失後は,患肢の赤みが取れた後も数日間はできるだけ安静を優先させてください。患者のなかには急性炎症を経験していない人も多いのですが,事前に対処法について知っておくことで,いざというときに安心して対処することができるでしょう。

 

 


[引用・参考文献]

  • (1)Földi M,& Kubik S eds.: Lehrbuch der Lymphologie : fürMediziner,Masseure und Physiotherapeuten,6.Auflage. Urban & Fischer Verlag,p252,2005.
  • (2)松尾汎(編):むくみの診かた−症例で読み解く浮腫診療−.文光堂,p7,2010.
  • (3)加藤逸夫(監修)小川佳宏・佐藤佳代子(著):浮腫疾患に対する圧迫療法−複合的理学療法による治療とケア−.文光堂,p24,2008.
  • (4)International Society of Lymphology : The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema. Consensus document of the International Society of Lymphology. Lymphology,36:84-91,2003.
  • (5)ドイツ語圏リンパ学者協会ガイドラインDiagnostik und Therapie der Lymphödeme.2009.

[Profile]
佐藤佳代子(さとうかよこ)
学校法人後藤学園附属リンパ浮腫研究所所長
2007年より現職。日本医療リンパドレナージ協会副理事長。日々の治療に取り組むほか,リンパ浮腫治療セラピスト育成,リンパ浮腫外来設立支援活動,医療機関実技指導,リンパ浮腫に関する医療用品の開発などを行う。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014医学出版
[出典]WOCNursing2014年11月号

WOC Nursing2014年11月号

P.66~「リンパ浮腫に対する診断とフットケア」

著作権について

この連載

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