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  4. 摂食嚥下障害の看護|脳神経外科術後の看護

2015年09月11日

脳神経外科術後の「摂食嚥下障害看護」のポイント

脳神経外科看護の専門誌『BRAIN』2013年第1号<疾患・手術方法から理解をつなげる! 脳神経外科手術の合併症と術後ケア>より抜粋。
脳神経外科術後の「摂食嚥下障害看護」のポイントについて解説します。

 

Point

  • 術後意識障害が改善するまでは,口腔ケアを徹底し,誤嚥性肺炎の予防に努めます。
  • 全身状態安定後は,間接訓練,覚醒・離床への援助を行います。
  • 経口摂取ができない状態でも栄養管理を十分に行います。
  • 経口摂取開始基準に達したら,スクリーニングを行い,嚥下評価を行います。

金澤典子
(独立行政法人 労働者健康福祉機構 東京労災病院 4東病棟 看護師,摂食・嚥下障害看護認定看護師)

〈目次〉

はじめに

急性期医療では気管内挿管や人工呼吸器,静脈栄養や経腸栄養など,さまざまなカテーテル類による全身管理および安静が必要です。

これは治療上やむをえないことではありますが,長期臥床による心肺機能の低下をはじめとして,さまざまな身体機能の廃用性機能低下を引き起こします。とくに脳神経外科手術後には,このような状況が起こりやすく,術後の合併症を予防するとともに,術後早期から生活者としての回復・改善を目指したリハビリテーションを行うことが重要です。

本コラムでは,脳血管手術後急性期から経口摂取開始となる時期までの摂食・嚥下障害看護について述べます。

 

術後嚥下障害の特徴

術後の嚥下障害は,さまざまな原因や誘因によって生じます。

 

手術による影響

脳腫瘍・脳出血の病巣部位によっては,下位脳神経や延髄に手術操作が直接的に及ぶことがあるため,術後長期にわたって嚥下障害が生じることがあります。一方,病巣部位が摂食・嚥下に関する脳神経に損傷がない場合であっても,手術操作により下位脳神経の圧迫や術後の脳浮腫などにより,一時的に嚥下障害を生じることがあります。

この鑑別を行うには,どのような手術が行われたか,その手術操作の情報を十分に得ることが必要です。

 

麻酔や鎮静剤による影響

手術直後は,全身麻酔,鎮静剤による筋弛緩や意識レベルの低下,呼吸筋の低下がみられ,嚥下機能は低下しています。呼吸状態の改善を図り,唾液誤嚥を予防するために,十分な酸素投与,吸引,口腔ケア・肺ケアを行います。

 

気管内挿管による影響

挿管困難症で頻回に咽頭操作を行ったときや長時間に及んだときに,過度に頚部を屈曲する体位をとることにより反回神経の圧迫を生じ,一時的な反回神経麻痺をきたすことがあります。

反回神経麻痺の症状の1つとして,声帯の動きが悪く声門閉鎖が不十分となり声がかすれる「嗄声(させい)」があります。また,声門閉鎖が不十分であると,食物が気管へ流れ込むリスクが高くなります。

そのため,本人や家族からの問診で患者の声の変化を確認しておくことが重要です。ファイバースコープにより確定診断が可能で,3か月から半年間で回復することがほとんどです。

 

嚥下障害を引き起こすその他の誘因

加齢に起因するもの

加齢による構造・機能上の変化(不可避)を表1に分類します。

表1加齢による構造・機能上の変化

加齢による構造・機能上の変化

 

栄養チューブに起因するもの

鼻腔より挿入したチューブが,鼻腔と反対側の梨状窩(りじょうか)へ斜走した場合,嚥下時に喉頭蓋の反転を阻害します。左鼻腔から挿入の際には右回旋位をとる(右下を向いてもらう介助をします)ことで,左梨状窩を通過しやすくなります(図1)。

図1栄養チューブによる嚥下への影響

栄養チューブによる嚥下への影響

胃へ続く食道入口部は,普段は閉じており,嚥下反射のときだけ開大しますが,経鼻経管栄養チューブを留置することにより常に開いている状況となるため,胃食道逆流を引き起こす可能性が高くなります。

胃食道逆流を予防するには,栄養剤を半固形化とし,注入の際に姿勢を45°以上に保つことが有効です。

 

薬剤に起因するもの

降圧薬や睡眠剤,パーキンソン病治療薬,向精神病薬,抗うつ薬などの長期服用による副作用によって,嚥下障害への悪影響をきたすことがあるので注意が必要です。

 

既往歴に起因するもの

既往歴に誤嚥性肺炎がある患者には注意が必要です。一度誤嚥性肺炎を患うと,気道の防御機能が低下することにより,気道の感覚が低下してしまいます。そのため咳嗽(がいそう)反射が低下し,「誤嚥(ごえん)」しても「むせ」にくくなります。これを「silent aspiration:不顕性誤嚥(むせない誤嚥)」といいます。

常に不顕性誤嚥を念頭に置き,痰の性状・量,呼吸状態の変化や持続する微熱がないか,食欲低下や活動性の低下を観察することが大切です。

また,既往歴に脳血管疾患がある場合も注意が必要です。既往の病巣と反対側を手術することになり結果的に左右両側の大脳が損傷される場合や,多発性脳梗塞がある患者が手術を受ける場合には,術後に仮性球麻痺をきたす可能性があるので,術前からのインフォームド・コンセントや術後の嚥下評価は慎重に行います。

 

脳神経外科手術後の摂食・嚥下への援助

術直後から全身状態安定まで

この時期の患者の特徴は,意識レベルが低下し,ドレーン挿入や全身管理をするうえで鎮痛・鎮静剤を使用することもあり,唾液分泌の低下に伴い口腔内の自浄作用が低下し,口腔内乾燥や分泌物の貯留による汚染を認めることです。

 

援助の目的

この時期の援助の目的は,次の2点です。

(1)口腔ケアの徹底による誤嚥性肺炎の予防に努める

(2)体位ドレナージにより肺の換気とガス交換を改善させて肺ケアに努める

急性期は全身管理を行いながら,術後呼吸器合併症を起こさないことが重要です。

意識レベルが低下している患者は嚥下反射が低下しているため,誤嚥のリスクを伴います。この時期は気道の確保を行いながら唾液誤嚥を予防することや,口腔ケアを強化することにより,唾液誤嚥を生じても肺炎への移行を予防することが大切です。分泌物の流れ込みは誤嚥性肺炎につながります。

 

誤嚥性肺炎の予防方法

具体的な予防方法は次のとおりです。

口腔ケア

口腔ケアを行うときには,口腔内をよく観察し,唾液の貯留や乾燥,汚染の有無を観察します。歯のある患者には歯ブラシを用いたブラッシングと,吸引しながら水による洗浄を行います(表2)。

表2誤嚥リスクが高い患者への口腔ケアの留意点

誤嚥リスクが高い患者への口腔ケアの留意点

体位ドレナージ

気道分泌物が上側になる体位をとることによって,重力を活用して分泌物の誘導排出をします(図2)。

図2体位ドレナージ

体位ドレナージ

 

全身状態安定後から意識回復までの援助

この時期の患者の特徴は,覚醒している時間が長くなり,チューブや抑制への反応を示したり,ベッド柵やコード類を握ったりすること,発語がみられたり,安楽への欲求を表現する行動を示したりすることです。

意識レベルが低下した状態から覚醒を促し,嚥下関連筋群の他動運動などにより廃用性機能低下を予防することが重要です。また,栄養状態を良好に保ち,口腔ケアを十分に実施することで,誤嚥性肺炎の発症を予防します。

 

援助の目的

この時期の援助の目的は,次の4点です。

(1)覚醒を促す

(2)口腔ケアを徹底して誤嚥性肺炎の予防に努める

(3)嚥下関連筋群の他動運動や間接訓練を行い,廃用性機能低下を予防する

(4)栄養状態を改善し,体力・免疫力を維持・強化する

 

具体的な援助方法

全身状態が安定したら,意識レベルが改善していない(JCSⅡ桁)場合であっても,口唇や頬(口輪筋や頬筋)のマッサージ,舌の他動運動など,嚥下関連筋群の他動運動が可能です。また,超急性期から口腔ケアを行うことにより口腔内の清潔を保ち,かつ口腔内の知覚入力を高めることにより覚醒を促すこともできます。

できるかぎり体幹を起こし,手浴や足浴などにより末梢から温度による刺激を増やすことや,味覚刺激を用いるなどの上行性網様体賦活系への働きかけを行うことも,覚醒を促すために有効です。さらに,頚部が伸展拘縮しないような臥位姿勢を保持すること,四肢・体幹,手指の関節拘縮をきたすことがないように可動域を可能なかぎり維持することが重要です。

経口摂取の再開やADLの拡大を目指すために栄養状態を良好に保ち,体力や免疫力を維持・強化することが重要です(表3)。

表3栄養管理のポイント

栄養管理のポイント

 

間接訓練のポイント

間接訓練は,食物を用いない訓練を指します。摂食・嚥下に関係する器官の運動性や協調性の改善をはじめとして経口摂取に必要な準備をします。ポイントとなる身体部位は,頚部・肩・頬・口唇・舌で,リラクゼーション,発声,呼吸を意識しながら行います。

間接訓練の優先順位を決める際は,身体のどこの部位が患者の弱点(麻痺・廃用・緊張)となっているのかを見きわめながら考えます。

訓練の進め方は,弱い部分を他動運動から開始し,自動運動を引き出すことで,さらに抵抗運動を進めます。もちろん患者は自分でも動かせますが,筋力低下や関節の拘縮,麻痺などがある場合は介助をします。優先度の高い訓練を集中的に行い,改善がみられたら次の課題へ進みます。

評価や修正のポイントは,回数・時間・量をできるかぎり数値化し,評価を定期的に行うことです。訓練を継続しても変化がない場合は,訓練の難易度が高すぎる可能性や訓練方法や手技に問題がないか,医師やセラピストを含めて再度検討します(図3図4図5図6)。

図3頬の他動運動と自動運動

頬の他動運動と自動運動

図4口唇の他動運動・自動運動

口唇の他動運動・自動運動

図5舌の他動運動と自動運動

舌の他動運動と自動運動

図6頚部・肩の運動リラクゼーション

頚部・肩の運動リラクゼーション

 

日常ケアに取り入れられる間接訓練

臨床場面においては,間接訓練をどう取り入れられるかがポイントであり,患者にとって安全かつ最良の摂食条件・環境を作りだすことが大切です。たとえば次の(1)~(3)のように,日常ケアに間接訓練を取り入れることができます。

(1)口腔ケアや洗面介助・体位交換の一環に加える

温かいタオルで,頬・顎・首のマッサージ・リラクゼーションを行うことで筋緊張を解きほぐします。また,唾液腺のマッサージを行います(図7)。やむなく抑制されている場合には,いったん抑制を解除し,抑制部位の自動運動を促します。

図7唾液腺のマッサージ

唾液腺のマッサージ

(2)コミュニケーション

患者に積極的に言葉かけをしながら徐々にADLを上げていくことが,自発性を引き出し,コミュニケーション意欲を高めます。同時に,会話や構音に関わる筋肉(口唇・舌・頬・声帯など)の廃用予防につながります。

失語がある患者には,絵や文字を書いて表現したり,ジャスチャーを用いたりしてコミュニケーション手段を確保し,徐々に発話誘導をします。また,義歯を装着することで発話も明瞭となるため,覚醒時間は装着し,生活のリズムに組み入れましょう。装着しない時間が長くなると,頬や口腔咽頭筋の痩せに伴い,適合しなくなります。

(3)臥床時の姿勢を見直す(頚部の高さに注意する)(図8

脳血管疾患の患者は中枢神経の障害のため,痙性を伴う麻痺が出現し,筋緊張が高まり,頚部が伸展しやすい状況にあります。長期臥床を伴う場合は筋肉も萎縮し,吸引などによっても影響を受けます。

頚部伸展位は気管内挿管をする姿勢でもあり,喉頭挙上を妨げ,唾液や食物が気道に流入しやすくなり,誤嚥リスクが高まります。術後発熱している患者に氷枕やアイスノン®を使用する際は,それだけでは低いため,バスタオルを追加し,顎の下に指が縦に4指入るくらいの頚部前屈位を保ちます。

図8臥床時の姿勢

臥床時の姿勢

 

意識状態の改善から経口摂取開始まで

この時期の特徴は,会話ができるようになり,失語を伴っていても快・不快なんらかの表現をします。口唇を閉じ,唾液の嚥下が可能になっており,口腔内も比較的きれいに保てるようになります。

 

援助の目的

この時期の援助の目的は,次の3点です。

(1)離床を促し,ADLの拡大を図る

(2)肺ケア・呼気訓練を強化し,誤嚥予防ができる

(3)安全な経口摂取に向けて嚥下機能を評価し,必要な間接訓練を行う

 

具体的な援助方法

離床を促し,ADLの拡大を図る

意識が回復したら,可能なかぎり座位で過ごす時間を増やし,顔や手を洗う,ひげを剃る,シャワー浴や入浴をする,などの日常生活動作(ADL)を積極的に取り入れ,患者がこれまでの生活を想起できるような働きかけを行います。目と手,口などの協調運動を強化することで,覚醒した状態を維持し,脳機能の活性化につながります。

肺ケア・呼気訓練を強化し,誤嚥予防

経口摂取の開始に向けて,深呼吸や呼気,咳嗽の強化を図ることで,誤嚥と呼吸器合併症の予防に努めることが大切です(図9図10)。

図9呼気訓練

呼気訓練

図10咳嗽訓練

咳嗽訓練

また,口唇や舌,頬などの嚥下関連筋群の自動運動や抵抗運動を取り入れることは,廃用性の筋力低下を予防し,1日でも早い経口摂取へのアプローチとなります。

嚥下評価と間接訓練

長い闘病生活の過程で患者が回復するなかで,“食べられるかもしれない”と思う場面があると思います。経口摂取開始にあたっての判断基準(表4)を念頭に置き,開始基準に達していればスクリーニングを実施し,嚥下評価を行います。

表4経口摂取開始基準(参考文献(9),(10)より一部改変)

経口摂取開始基準

脳血管手術後,意識レベルもよく,神経学的所見の悪化もない患者には,間接訓練としての自動運動や他動運動を行わずに経口摂取を開始する場合もあります。しかし高齢であったり,脳卒中の既往があったりする場合は顕在化していないリスクが潜んでいる場合があるため,スクリーニングを行い,安全に経口摂取を開始するための配慮が必要です。

 

経口摂取を開始する前のチェックポイント

経口摂取を開始する前に確認しておきたい点は次のとおりです。

血液データの確認(WBC,CRP,TP,Alb,Hb,コリンエステラーゼ)

炎症所見の改善の有無,栄養状態を確認します。低栄養では途中で疲労が出現するため,栄養状態を改善しておきます(表3)。

胸部X線所見の確認

呼吸状態の安定・肺炎の有無を確認します。

口腔内環境の観察

口腔機能が保たれている場合には,自浄作用により,ある程度の汚れは除去されています。著しい汚染状態は摂食・嚥下機能低下を疑います。

腹部症状の観察(排便の有無)

便秘では食欲もわかず,食べたら逆に嘔吐の危険を生じます。

環境の配慮(リスク管理)

経口摂取開始に備えて,常に誤嚥・窒息に注意することが必要です。ベッドサイドには吸引器を用意し,すぐに使える状態にしておきます。実施時間は,日中のスタッフが多くいる時間帯や主治医がいる時間帯に行います。1人で始めるのではなく,熟練した看護師と一緒に行います。

 

スクリーニングテスト〜経口摂取が安全にできるかを,ふりわけるテストです〜

反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test;RSST)(図11

図11反復唾液嚥下テスト(RSST)

反復唾液嚥下テスト(RSST)

【目的】

患者に空嚥下をしてもらい,嚥下反射の随意的な惹起能力を評価します。

【手技】

示指で舌骨を,中指で甲状軟骨を触知し,30秒間に何回嚥下できるかをみます。

【判定方法】

2回/30秒以下を異常とします。嚥下障害患者は,嚥下の繰り返し間隔が延長されていると報告されています。簡易で安全性が高いものの,認知能力の低下した患者には適応できません。

 

改訂水飲みテスト(modified water swallowing test;MWST)(図12

図12改訂水飲みテスト(MWST)

改訂水飲みテスト(MWST)

【手技】

(1)冷水3mlを口腔底に注ぎ,嚥下を指示します。

(2)嚥下後に反復嚥下を2回行ってもらいます。

(3)評価基準4点以上なら最大2回施行を繰り返します。

(4)最も悪い点を評価します。

【評価基準】

1:嚥下なし,むせる and/or 呼吸切迫

2:嚥下あり,呼吸切迫(不顕性誤嚥の疑い)

3:嚥下あり,呼吸良好,むせる and/or 湿性嗄声

4:嚥下あり,呼吸良好,むせない

5:上記4に加えて反復嚥下が30秒以内に2回可能

4以上がテスト合格です。

【ポイント】

実施体位も記録に残します。病態や機能や患者の背景に応じて,水で誤嚥する可能性があると判断した場合,1%前後のとろみ水を使用し,嚥下機能を予測したうえで機能を引き出すことも大切です。

麻痺や嚥下障害がなく,発話明瞭な患者でも,もし喉頭進入した場合に,むせることができる,意図的に咳ができる,という意味の評価は大切です。

 

フードテスト(food test;FT)

図13フードテスト(FT)

フードテスト(FT)

【目的】

口腔内における食塊形成能,咽頭への送り込みを評価します。

【手技】

(1)プリン茶さじ1杯4gを舌背前庭部(図13)に置き,嚥下を指示します。

(2)嚥下後,反復嚥下を2回行ってもらいます。

(3)評価基準が4点以上なら最大2回施行します。

(4)最も悪い点を評価します。

【評価基準】

1:嚥下なし,むせる and/or 呼吸切迫

2:嚥下あり,呼吸切迫(不顕性誤嚥の疑い)

3:嚥下あり,呼吸良好,むせる and/or 湿性嗄声

4:嚥下あり,呼吸良好,むせない

5:上記4に加えて反復嚥下が30秒以内に2回可能

4以上がテスト合格です。

【ポイント】

重度の送り込み障害のある患者は,リクライニング角度30°から開始します(図14)。

図1430°のベッドアップ

30°のベッドアップ

喉頭蓋が咽頭の後壁に近づき気道の入り口がせまくなること,喉頭蓋谷が広がり食べ物がたまる場所ができること,舌根部が咽頭の後壁に近づき,のどに食塊を運ぶのに必要な舌の動きを助けることから,誤嚥のリスクを下げるといわれています。
これは飲み込むときに喉頭蓋が反転して気道の入り口をふさいで,気道に食べ物が入らないようにしている,という動きを助けたり,早期咽頭流入した食べ物や水分を一度受け止める場所を作ることや,のどに食べ物を送り込む働きを助ける目的があります。

医療用のベッドは,頭部の端とフレームの上が同じ高さになったときに30°になるといわれます。分度器や定規を持ち歩かなくてもA4用紙を対角線上に折ると,底辺:高さが2:1の直角三角形ができます(図15)。体位の工夫・食物の選択・最も良好な状態の時間帯を患者の状態に合わせることも,看護師の腕です。

図1530°–60°–90°の直角三角形のつくり方

30°–60°–90°の直角三角形のつくり方

 

頚部聴診法(図16

図16頚部聴診

頚部聴診

【目的】

食塊を嚥下する際に嚥下音ならびに嚥下前後の呼吸音を頚部より聴取して,誤嚥・咽頭残留を判定します。

【適応】

誤嚥が疑われる患者

【手技】

(1)口腔内,咽頭内の唾液や痰を吸引します。

(2)澄んだ呼吸音を出すことができることを確認した後,液体または粘度の低い液体を,患者の能力に応じて少量(1~5ml)を口腔内で保持させます。

(3)聴診器を頚部に当て,嚥下するように指示し,嚥下音を聴取します。このときに咽頭や舌骨の動きを妨げないように聴診器を軽く当てます。聴診器を当てる際は患者の頚部を過伸展させないようにします。

(4)嚥下音聴取直後に呼気をさせ,呼吸音を聴取します。

【判定】

飲み込んだ際に,力強い嚥下音を1回認め,その後,澄んだ呼吸音の場合は合格です。嚥下音が長い,弱い,複数回の場合は問題があります。また,泡立ち音やゴロゴロとした振動音がある際は,誤嚥や咽頭残留を疑います。

***

訓練中やスクリーニング中に誤嚥や肺炎の徴候,呼吸状態悪化などがみられた場合は,ただちに中止し,主治医へ報告します。経過観察だけでは重大な問題になりかねません。

 

おわりに

脳神経外科手術後は,治療や合併症予防と同時に,患者が私たちと同じ生活者になることを意識し,早期から退院後を見据えた看護介入を行います。

しかし,脳血管疾患の患者は,食べる機能や器官の障害だけでなく,意欲も低下することがあります。また,それらが複雑に重複する場合もあり,経口摂取スタートへの道のりが長期になることもあります。

患者の“食べたい”思いを念頭に置いたとき,その過程のどこに問題が生じているかアセスメントし,適切な訓練を取り入れることが大切です。そして,回復の過程で何が効果をもたらしたのか評価し,言葉として伝えるのも,看護師の重要な役割です。

患者が食べられるようになり,日々回復していく姿に携わるのは,これから看護を続けるなかでも大きな喜びや意欲につながります。

 

 


[参考図書/文献]

  • (1)馬場元毅:絵でみる脳と神経―しくみと障害のメカニズム(第3版).医学書院,2009.
  • (2)藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害(第2版).医歯薬出版,1998.
  • (3)鎌倉やよい(編):嚥下障害ナーシング―フィジカルアセスメントから嚥下訓練へ.医学書院,2000.
  • (4)藤島一郎:口から食べる―嚥下障害Q&A(第3版).中央法規出版,2002.
  • (5)才藤栄一・向井美惠(監修)/鎌倉やよいほか(編):摂食・嚥下リハビリテーション(第2版).医歯薬出版,2007.
  • (6)聖隷三方原病院嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル(第2版).医歯薬出版,2003.
  • (7)小山珠美(監修)/東名厚木病院摂食・嚥下チーム:早期経口摂取実現とQOLのための摂食・嚥下リハビリテーション.メディカルレビュー社,2010.
  • (8)小山珠美・所 和彦(監修):脳血管障害による―高次脳機能障害ナーシングガイド(第3版).日総研出版,2008.
  • (9)塚本芳久:急性期嚥下障害へのアプローチ.臨床リハ,4:721-724,1995.
  • (10)近藤克則・二木 立:急性期脳卒中における段階的嚥下訓練.総合リハ,16:19-25,1988.

[Profile]
金澤典子(かなざわ のりこ)
1992年 青森労災看護専門学校卒業。1995年 救急救命士資格取得,2009年 摂食・嚥下障害看護認定看護師資格取得,2010年 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士資格取得。現在,東京労災病院 4東病棟に勤務。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2013 医学出版

[出典]BRAIN 2013年第1号

P.70~「脳神経外科術後・摂食嚥下障害看護のポイント」

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