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2015年07月30日

麻酔の役割と生体への影響

『オペナース』2014年創刊号<術前・術後看護の視点 -フィジカルアセスメントを中心に>より抜粋。
麻酔の役割と生体への影響について解説します。

 

Point

  • 麻酔薬には,主に眠らせる目的の薬,痛みをとる目的の薬,筋弛緩を得る目的の薬があります。
  • 硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔は交感神経をブロックします。
  • 麻酔中は体温の上昇(悪性高熱)や下降(術後のシバリング)に注意を払います。
  • ダントロレンの場所は決めておき,記憶しておきましょう。

窪田靖志
(杏林大学医学部 麻酔科学教室 講師,医学博士)

〈目次〉

はじめに

手術や検査など,ヒトの体に侵襲的なことを行うと,痛みや恐怖をはじめとしたさまざまなストレスがかかります。それを防ぐためには「麻酔」が不可欠です。麻酔をかけることにより痛みをなくすことや,意識をなくすことができますが,麻酔薬の副作用や合併症をよく理解し,安全に行わなければなりません。

麻酔をかけるということは,それ自体が体にとってストレスになることもあり,またさまざまな生理的変化を引き起こします。本コラムでは,麻酔の種類と役割,生体への影響の重要な部分を概説します。

 

麻酔の種類

麻酔には,大きく分けて全身麻酔と区域麻酔とがあります。

全身麻酔

全身麻酔はセボフルラン(セボフレン®)(図1)などの吸入麻酔薬を気化器(図2)で気化し,亜酸化窒素(笑気)などのガスと一緒に肺から呼吸させることにより吸収させたり,プロポフォール(ディプリバン注®)(図3)などの注射薬を静脈注射することにより体内に入れ,脳組織に作用させることにより意識をなくし,麻酔をかけます(図4)。

図1セボフルラン(セボフレン®

セボフルラン

 

図2気化器

気化器

左がセボフルラン用,右がイソフルラン用。

 

図3チオペンタール(ラボナール®)とプロポフォール

チオペンタールとプロポフォール

主に麻酔導入に使用します。

 

図4全身麻酔

全身麻酔

経静脈的あるいは吸入経路によって血液中の麻酔薬濃度を上げて,脳をターゲット(効果部位)として作用させます。

 

区域麻酔

区域麻酔とはリドカイン(キシロカイン®)(図5)やブピバカイン(マーカイン®)(図6),ロピバカイン(アナペイン®)(図7)などの局所麻酔薬を使って,局所の神経終末を麻痺させたり(局所浸潤麻酔),太い神経を麻痺(伝達麻酔,超音波ガイド下神経ブロック)させたりして,一定の部位に限局して麻酔をかけるという方法です。

図5リドカイン注(キシロカイン®

リドカイン注

 

図6ブピバカイン(マーカイン®

ブピバカイン

 

図7ロピバカイン注(アナペイン®

ロピバカイン注

 

また,とくに脊髄周辺(図8)に麻酔薬を作用させて腹部〜下半身の知覚を麻痺させる脊髄くも膜下麻酔や,多椎間にわたる硬膜外腔に局所麻酔薬を作用させて帯状に知覚を麻痺させる硬膜外麻酔は手術麻酔に多く用いられます(図9)。なお,脊髄くも膜下麻酔は脊椎麻酔とも呼ばれ,スパイナル(spinal)などと呼ばれたりSAB(subarachnoid block)とチャートに表記されたりしますが,すべて同じ意味です。

図8脊椎周辺の構造

脊椎周辺の構造

硬膜の内側(くも膜下腔)は脳脊髄液で満たされており,この液体中を比重に従って麻酔薬液が広がります。硬膜外麻酔ではくも膜・硬膜の外側の硬膜外腔に局所麻酔薬を注入します。

 

図9区域麻酔と麻酔域

区域麻酔と麻酔域

硬膜外麻酔では,麻酔薬は液体の量に従って注入部位より上下に広がり,帯状に麻酔がかかります。脊髄くも膜下麻酔では薬液が到達した部位より下位はすべて麻酔がかかります。

それぞれの使う薬剤の種類や,区域麻酔をかける場所によって,ヒトの体にさまざまな影響があり,それを考慮して麻酔法を選択しなければなりません。

 

麻酔の役割

手術を行うということは,身体にをつけるということであり,当然痛みや恐怖感が伴います。それらを患者さんが感じないで済むようにするのが,麻酔の役割です。全身麻酔の目的は意識を取ることであり,区域麻酔(脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔など)は,痛みの伝達を遮断することが目的です。しっかりと麻酔がかかっていて意識がなくても,皮膚を切開すれば,血圧は上がり脈拍も速くなります。

麻酔薬には,吸入麻酔薬,亜酸化窒素,静脈麻酔薬,局所麻酔薬,筋弛緩薬,麻薬性鎮痛薬があり,それぞれを組み合わせて麻酔法を選択します。それぞれ薬剤ごとに鎮痛作用・意識をなくさせる作用・体を不動化する作用・筋弛緩を得る作用があり,その程度が異なるため,特徴をよく理解する必要があります(表1)。

表1全身麻酔に用いる薬剤の種類と特徴

全身麻酔に用いる薬剤の種類と特徴

 

これらの特徴をふまえて,たとえば,患者さんが動いてしまっては安全に手術が行えないような顕微鏡下の手術などでは,不動化するために深い麻酔をかけたり,筋弛緩薬を併用します。

また,腹部の手術では,腹壁の筋肉が緊張していると腸管が手術創からはみ出してきてしまい,手術になりません。あるいは,腹腔鏡下の手術では腹腔を二酸化炭素でドーム状に膨らませて視野を確保して手術をしますが,このときにも筋弛緩剤がないとうまく腹腔が膨らみません(図10)。

図10腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術

腹腔鏡は内視鏡の先にスペースが確保されないと,空間を見ることも,鉗子を操作することもできないため,腹腔鏡下手術では筋弛緩薬が必須となります。

逆に,神経を傷つけないように神経刺激装置を用いながら手術する場合や,脳の手術などで運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)などを測定しながら行う場合には,筋弛緩薬が結果に影響するため,用いることはできません。

 

麻酔の生体への影響

自律神経系

全身麻酔そのものは,あまり交感神経と副交感神経のバランスには大きな影響を与えません。気管挿管をしたり,皮膚切開を行うと,交感神経が興奮し血圧上昇や頻脈になります。それを抑えるためにフェンタニルやレミフェンタニルなどの麻薬性鎮痛薬を使用するとやや交感神経が抑えられ,徐脈気味になります。鎮痛に脊椎くも膜下麻酔や硬膜外麻酔などを追加併用すると,交感神経が抑制されてさらに血圧や脈拍が下がります。

 

循環

麻酔薬そのものに循環抑制作用のあるもの(吸入麻酔薬など)や,前述のとおり自律神経系を介して影響するものなどがありますが,ケタミンを除いてどの薬剤も用量依存的に血圧や脈拍数を下げる作用があります。感染症や脱水など全身状態が悪い患者さん,高齢者などはとくにその影響を受けやすく,血圧低下に注意が必要です。

しかし麻酔薬には麻酔を維持できる最低濃度というものがあり,それを超えて麻酔濃度を薄くするわけにはいきません。

たとえば吸入麻酔薬では,最少肺胞内濃度(minimum alveolar concentration;MAC)といわれる指標があります。1気圧下で100人に皮膚切開を加えて,このうち50人が体動を示さない吸入麻酔薬の肺胞濃度を指します。実際の麻酔で半分のヒトが動いては困るため,1 MACの1.2〜1.3倍程度の濃度で実際には麻酔をかけます。代表的な吸入麻酔薬セボフルランの1MACは1.71 %ですが,年齢によってその値は大きく異なり,高齢になるほどその値は低くなります。

亜酸化窒素や麻薬性鎮痛薬などを吸入麻酔や静脈麻酔に併用すると,その使用量を減らすことができます。鎮静作用や鎮痛作用(あるいは筋弛緩作用)を適度に保って,バイタルサインを安定させ麻酔を維持することをバランス麻酔といいます。

必要に応じて,エフェドリンやフェニレフリン(ネオシネジン®),カテコールアミンなどの昇圧剤を使いながらの麻酔維持が必要になります。

 

呼吸

麻酔薬により,低酸素性肺血管収縮が抑制されることや,人工呼吸による陽圧換気によって換気血流比の不均等が起きると,微小なシャント血流(酸素化されない血液が肺静脈に流れ込むこと)により動脈血酸素飽和度が低下します(図11)。

図11低酸素性肺血管収縮によるシャント血流の減少

低酸素性肺血管収縮によるシャント血流の減少

麻酔薬によりこの機能が阻害されるため,肺酸素化能の低下が起こります。

気管挿管の刺激や麻酔薬の気管粘膜への刺激により気道分泌物が増加します。また,気管粘膜の繊毛運動が抑制され,気道分泌物()が溜まりやすくなります。これは,長時間の麻酔になるほど長く影響を受けるため,術後の肺合併症リスクが高くなります。

気管平滑筋は,麻薬性鎮痛薬によって収縮し,吸入麻酔薬によって拡張します。

 

尿量

麻酔薬により体内の血行動態が変化し,腎血漿流量が減少することによる尿量の減少,手術侵襲による抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)の分泌増加が起こり,尿量が減少します。

 

体温調節

ヒトは本来,体温を一定に調節する機構を持っています。通常は0.2 ℃の閾値間隔であり,それを上回ると発汗や末梢血管の拡張,下回ると立毛筋反射や末梢血管の収縮が起こり,体温を調節しようとします。

全身麻酔中は体温の調節閾値の幅が約4 ℃に拡大します。とくに脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔を併用していると,交感神経ブロックにより副交感神経が優位となるため,末梢血管が拡張し,さらに熱を放散してしまいます。

つまり,麻酔中は体温の保持,とくに体温の低下に注意が必要です。

体温が低下してしまうと,免疫能に悪影響を及ぼしたり,薬物の代謝に影響し覚醒遅延の一因となります。極端な低体温では心機能にも悪影響を与えます。体温の低いまま麻酔覚醒させると,一気に体温調節の閾値間隔がもとに戻るため,シバリング(強い震え)を起こしてしまいます。シバリングは患者さんにとって悪寒として体感され強く不快であるだけでなく,酸素消費量の増大や創部の安静が保てないなど術後管理の質を低下させます。

 

特異的な合併症(悪性高熱)

1万例に1例程度の発症率といわれ,吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム)によって起こる合併症で,15分間に0.5 ℃以上の体温上昇があればこの合併症を疑います。適切な治療が行われなければ致死率は高く,ダントロレンが特効薬です。看護上重要なことは,適切な体温モニタリングと監視,ダントロレンの配置を覚えておくことです。

 

代謝臓器への影響(肝臓,腎臓)

現在の麻酔薬で,肝臓・腎臓などに代謝負荷により障害を起こすことは比較的まれです。

 

後遺症

術後の嘔気嘔吐(postoperative nausea and vomiting;PONV)は,患者さんの不快感,手術創の安静が保てない,誤嚥性肺炎などの原因となります。亜酸化窒素ガスや吸入麻酔薬,麻薬性鎮痛薬などが原因となることが多く,とくに術後の嘔気嘔吐を経験された患者さんの手術に対し,可能であればそれらの薬剤を避けた麻酔を計画します。

 

脊髄くも膜下麻酔,硬膜外麻酔特有の合併症

  • 硬膜穿刺後頭痛(post dural puncture headache;PDPH):脊髄くも膜下麻酔単独または,硬膜外麻酔時の硬膜の誤穿刺により硬膜から髄液が漏出し低髄液圧性の頭痛や嘔気を起こすこと。通常,安静と輸液により1週間程度で治ります。
  • 針による穿刺手技であるため,硬膜外膿瘍髄膜炎,血腫などのリスクは0ではありません。
  • 他に,局所麻酔薬の副作用(神経毒性)による知覚麻痺や運動麻痺,誤穿刺による麻痺,神経障害性疼痛などの合併症が報告されています。

 

おわりに

全身麻酔や局所麻酔の仕組みや生体への影響に関する理論は,それだけで何冊もの本になってしまうほど,これまでに研究され記述されてきています。

本コラムでは,手術室に勤務する,あるいはこれから手術室看護の勉強をしたいと思う看護師さんにとって必要最低限の量で表現してみました。今回は,手術室で比較的よく出会う現象を理解しやすいように内容を述べたつもりです。

しかし,気道確保法などいくつか敢えて割愛した内容もあり,手術室のエキスパート向けとしては,やや足りない点もあるかもしれません。本コラムを足がかりにして,不思議に思ったことやわからなかったことなどは,ぜひ成書をひもといてみてください。

 


[Profile]
窪田靖志(くぼた やすし)
杏林大学医学部 麻酔科学教室 講師,医学博士
1965年生まれ。2005年より現職。日本麻酔科学会専門医・指導医。
主要著書:麻酔器の保守点検の要点と耐用年数(岩崎 寛:麻酔科診療プラクティス19「麻酔器・麻酔回路」文光堂,pp74-7,2006)。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]オペナース創刊号

オペナース創刊号

P.18~「麻酔の役割と生体への影響」

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