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2015年07月10日

人工呼吸器(侵襲的陽圧換気/IPPV)装着患者の看護

『循環器ナーシング』2015年6月号<安全・安心なケアを目指して!ICU・CCUのME機器を理解する!>より抜粋。
人工呼吸器(侵襲的陽圧換気/IPPV)装着患者の看護について解説します。

 

Point

  • 人工呼吸(陽圧呼吸)の目的は,①ガス交換(酸素化・換気)を改善すること,②呼吸仕事量を減らすことである!
  • 人工呼吸は,あくまでも原疾患が改善するまでの補助的治療であり, 根本的治療ではない!
  • 看護師のアセスメントに基づいたケアは,患者の呼吸状態の安定化と 二次的合併症の予防につながる!
  • 人工呼吸器の早期離脱に向けて,ABCDEバンドルやPADガイドラインを参考にし,チームでかかわることが大切である!

津田泰伸
(聖マリアンナ医科大学病院 看護部 ハートセンター・CCU 主任,急性・重症患者看護専門看護師)

はじめに

人工呼吸器は,呼吸不全をきたしているさまざまな患者に使用されます。

気管挿管または気管切開を必要とする侵襲的陽圧換気(invasive positive pressure ventilation;IPPV)は,その名のとおり侵襲が加わることから無害の治療ではなく,管理次第では人工呼吸関連肺障害(ventilator associated lung injury;VALI)などを引き起こし,患者の生命予後に影響します。そこで肺障害を最小限にする呼吸管理(肺保護戦略:lung protective strategy)が必要となり,看護師には,人工呼吸器装着患者に安全で安楽な療養環境を提供することが求められます。

本コラムでは,適切な人工呼吸管理を行ううえで必要なIPPVの原理,適応,合併症,ME機器の観察点,看護のポイントについて説明します。

 

〈目次〉

 

人工呼吸の原理

呼吸の仕組み

呼吸は,中枢および末梢の神経系からの刺激が呼吸に関与する筋肉に伝わり,実際に筋肉が動くことで開始されます。筋肉が動いた後に,圧較差により空気(ガス)が気道を通り肺まで到達します。ガスが肺胞に流入するとガス交換が行われます。この一連の流れのどこかに何らかの異常が発生すると,呼吸不全につながります。

陰圧呼吸(自発呼吸)と陽圧呼吸(人工呼吸)

体外⇔肺へのガスの流れは,圧較差によって(高い圧から低い圧へ)生じます。健常人の呼吸は,吸気時に胸腔内圧を下げる「陰圧呼吸」です。一方,ほとんどの人工呼吸器は,外から陽圧をかける「陽圧呼吸」となります(図1)。

図1陰圧呼吸と陽圧呼吸

陰圧呼吸と陽圧呼吸

 

吸気・呼気・ガス交換

吸気と呼気

体外から肺へガスの流れが生じると,ガスは気道を通り肺胞に向かいます。ガスが肺胞まで到達するために必要な圧は,「気道抵抗」(気道の通りやすさ)と「コンプライアンス」(肺のふくらみやすさ)の2つの要素に大きく左右されます。

コンプライアンスは肺の膨らみやすさだけでなく,肺を囲んでいる「胸郭」の動きやすさにも左右されます。正常な肺は膨らんだ後に,もとに戻ろうとする(縮もうとする)力が働きますが,これを肺の「エラスタンス」と呼び,コンプライアンスと逆の意味になります。陰圧呼吸でも陽圧呼吸でも,呼気努力がないかぎり,呼気は受動的に行われ,肺のエラスタンスによってガスが呼出されます。

気道と肺をストローとゴム風船に例えると,進行した肺気腫では風船(肺)のゴムが伸びきってしまっており,コンプライアンスは高く,エラスタンスは低くなっています(図2)。

図2気道抵抗とコンプライアンス

気道抵抗とコンプライアンス

 

ガス交換

呼吸の最終的な目的は,肺に取り込んだ酸素を血液を介して全身に供給し(酸素化),また全身から血液によって運ばれてきた二酸化炭素を排出(換気)すること,つまりガス交換にあります。

ガス交換は肺胞と肺毛細血管の間で行われるので,ガスが肺胞内に出入りしない(無気肺など),血液が流れていない(肺梗塞など)場合はガス交換ができません。このような状態を「VQミスマッチ」(換気血流比不均等)といいます。また,肺炎心不全・急性呼吸促迫症候群(ARDS)など,肺実質に異常をきたす疾患はガス交換不良となります。

人工呼吸(陽圧呼吸)の目的

人工呼吸(陽圧呼吸)の目的は,①ガス交換(酸素化・換気)を改善することと,②呼吸仕事量(メモ1)を減らすことにあります。

メモ1呼吸仕事量

中枢神経からの刺激は,脊髄末梢神経を経て呼吸筋に達します。呼吸筋は収縮し,胸腔を広げることで胸腔内を陰圧にして,空気を肺に流します。空気が肺に流れるためには,呼吸筋が収縮して胸腔を広げるという「仕事」をしなければなりません。ここでする仕事の量を「呼吸仕事量」と呼びます。

 

ガス交換(酸素化・換気)の改善が必要な状態として,前述の「呼吸の仕組み」からもわかるように,呼吸に関与する神経系や筋肉の異常,気道の問題(細いストロー),コンプライアンスの低下(厚く硬い風船),肺胞のガス交換不良といった状態が挙げられます。

一方,呼吸仕事量が増える原因には,「呼吸の仕組みの異常」に加え,運動や熱発による代謝亢進に伴う分時換気量(=1回換気量×呼吸回数)の増加などがあります(メモ2表1)。

表1人工呼吸が必要な状態

人工呼吸が必要な状態

 

メモ2人工呼吸管理の注意点

人工呼吸器の設定は,呼吸仕事量を増やすため,患者の呼吸を邪魔しないような設定とし,同調性を高めることが重要になります。また,重症肺炎患者に対して人工呼吸器を用いた場合,「人工呼吸=肺炎の治療」ではありません。人工呼吸器は,抗生剤や原疾患の治療の効果が出て病態が改善するまでのサポートとして使用します。

 

挿管・人工呼吸の適応

「挿管」と一言でいってもさまざまな種類があり,必ずしも適応が同じとは限りません。

例えば,意識障害や上気道閉塞の際の挿管は気道確保が目的であり,重症肺炎や心不全,ARDSでは挿管後に陽圧呼吸を行いガス交換を改善させることが目的になります。大切なことは,挿管の適応があるか,人工呼吸(陽圧呼吸)の適応があるかを必ず分けて考えることです(表2)。

表2人工呼吸の適応

人工呼吸の適応

 

人工呼吸器のモードと設定

モードと換気様式

モードには,「強制(調整)換気」と「補助換気」があり,臨床的に使用する基本的なモードとして,A/C,SIMV,CPAPがあります。人工呼吸を開始するときにまず選択しなければなりませんが,どれだけ患者の呼吸(吸気)を助けたいかによって選択されます(図3)。

図3A/C,SIMV,CPAPの関係

A/C,SIMV,CPAPの関係

 

次に換気様式を決めますが,様式には「量規定」(volume control ventilation;VCV)と「圧規定」(pressure control ventilation;PCV)の2種類があります。

VCVでは設定した1回換気量によって,PCVでは設定した吸気圧と吸気時間によって吸気の終了が規定されます。VCVでは患者の状態によって吸気圧が異なり,逆にPCVでは患者の状態によって1回換気量が異なります。どちらの設定が優れているかは,現在のところ明確なエビデンスはありません。

A/C

A/C(assist/control)は,自発呼吸があれば補助呼吸(assist),なければ調節呼吸(control)を行い,すべての吸気に対して一定の1回換気量(VCVの場合)または一定の吸気圧と吸気時間(PCVの場合)が与えられます。適切に設定されれば最も患者の呼吸仕事量が少なくなるモードであるため,急性期の呼吸管理に適すると考えられています(図4)。

図4A/Cモード

A/Cモード

 

SIMV

SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation;同期式間欠的強制換気)は,設定した回数だけ補助呼吸または調節呼吸が行われますが,設定回数以上の吸気は患者自身によって行われます(設定回数以上の自発吸気に対してPS〔後述〕をかけることもできます)。設定呼吸回数により患者の呼吸仕事量が決まります。

自発呼吸と機械呼吸両方の利点を生かし,設定呼吸回数によって段階的に患者自身の呼吸仕事量を調節できることが期待されていましたが,設定呼吸回数が全呼吸回数の80%未満になると急激に呼吸仕事量が増えることが知られています。ウィーニングにSIMVを用いると,ウィーニング期間が長引くことが複数の研究で示されています(1)

PS

PS(pressure support)は吸気の度に設定した圧がかかり,患者の吸気を助けます。吸気開始と終了は患者が決めるため,吸気時間と1回換気量は吸気ごとに異なります。患者の自発吸気があるときのみサポートするので,自発呼吸がまったくない状態では使用できません(図5)。

図5PS

PS

CPAP:自発呼吸にPEEPを付加したモード

 

その他の設定項目

PEEP

PEEPは人工呼吸の呼気相に一定の陽圧を付加して,肺胞の虚脱を防止するもので,①機能的残気量を増やして酸素化を改善する,②無気肺を予防する,③肺のコンプライアンスを改善して膨らみやすくする,④静脈還流を減らして心不全を改善するなどの効果が期待できます。

FIO2

100%の高濃度酸素は肺にとって有害なので,FIO2(吸入酸素濃度)は初回評価の後に速やかに低下させ,SpO2をみながらできるだけ低い値に維持します。重症呼吸不全ではSpO2を88〜92%程度に低く維持するためにむしろFIO2を下げ,肺を保護する戦略が一般的です。

 

人工呼吸器の合併症

人工呼吸器の使用によって,人工呼吸関連肺障害(ventilator associated lung injury;VALI)が起こることが知られており,VALIは患者の生命予後に影響するとされています(表3)。そのため患者の呼吸と同調し,肺障害を最小限にする呼吸管理(肺保護戦略:lung protective strategy)が必要になります。このような合併症を避けるために,1回換気量は理想体重に基づいて設定(6〜8mL/kg)されます。

表3人工呼吸関連肺障害(VALI)

人工呼吸関連肺障害

 

また,人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia;VAP)もあり,「人工呼吸器開始48時間以内に新たに生じた肺炎」と定義されます。

VAPは生命予後に影響し,人工呼吸期間・入院期間が延長することが知られているため,予防が重要となります。早期の抜管が最大の予防であることから,日本集中治療医学会の『人工呼吸関連肺炎予防バンドル』(2)では,①手指衛生を確実に実施する,②人工呼吸器回路を頻回に交換しない,③適切な鎮静・鎮痛を図る,とくに過鎮静を避ける,④人工呼吸器からの離脱ができるかどうか,毎日評価する,⑤人工呼吸中の患者を仰臥位で管理しないことが提示されています。

 

ME機器の観察ポイント

人工呼吸器の作動には,酸素,圧縮空気,電気が必要です。このなかの1つでも供給が止まった場合は警報を発します。したがって,コードが電源プラグに接続されているか,酸素・空気のガス配管に正しく接続されているか,確認が必要になります。

吸気ガスは,加温加湿器もしくは人工鼻によって,温度と湿度が最適に調節された後に回路から肺へと流入します。加温加湿器のスイッチおよびチャンバー内の滅菌精製水の水位,温度設定を確認しましょう。温度は口元(Yピース部)で39℃前後,チャンバー(水槽)出口では39〜41℃程度の設定が理想的です。

その他,人工呼吸器使用中の機器点検は,すでに自施設で使用されているチェックリストがあるかと思います。日本呼吸療法医学会の『人工呼吸器安全使用のための指針』(3)に示されている点検表は,機器管理をしていくうえで確認すべき項目が示されていますので,ご参照ください。

注意が必要なグラフィック

吸気・呼気の圧,流量センサーからのデータは人工呼吸器のグラフィック画面に表示されます。その数値やグラフィックモニター波形の情報から,気道と肺の状態をアセスメントすることができます。とくにフロー波形は,人工呼吸器の吸気時間や圧設定が適切かどうか判断したり,肺と気道の状態をある程度表現したりすることができるため,観察する必要があります(図6)。

図6注意が必要なグラフィック

注意が必要なグラフィック

 

アラーム対応

アラームの種類

人工呼吸器は患者の命を司る機械であるため,重要なアラーム(メモ3)についての知識・対応の習得は欠かせないものになります。

アラーム対応の手順

あらかじめ決められた手順に沿って行うと迅速に対応できます。

対応の流れは,①アラームの種類の確認,②消音ボタンを押す,③原因検索,④原因の除去,⑤確認,⑥観察・記録になります。

原因検索には,DOPEアプローチ(表4)が有用になります。原因がすぐに確認できない場合は,用手的換気をしながら応援を呼びましょう。人工呼吸器をテスト肺に装着し正常に作動することが確認できれば,アラームの原因は患者側にあることがわかります。

人工呼吸器側と患者側どちらが問題なのかを分けて考えることがポイントです。

表4DOPE

DOPE

 

メモ3アラームの種類

・緊急事態アラーム

 (人工呼吸器がうまく作動しないときに発生)

 電源供給異常,作動不能,ガス供給圧低下

・救命アラーム

 (患者の命に大きくかかわるおそれのある変化がみられるときに発生)

 分時換気量下限,気道内圧下限,無呼吸

・合併症予防アラーム

 (患者にとって好ましくない状況のときに発生)

 気道内圧上限,呼吸回数上限,分時換気量上限

 

IPPV患者の看護のポイント

人工呼吸器装着患者においては,①人工呼吸器の離脱・抜管まで適切な呼吸サポートが維持されること(状態の安定化と適切なガス交換の維持),②合併症が発生することなく治療が行われること(二次的合併症の予防)が必要になります。

そのため看護師は,呼吸状態を含め全身状態が安定しているか,バイタルサイン測定とフィジカルアセスメントを通して確認していくことが大切になります。さらに,先述したVALI・VAPだけでなく,せん妄や神経筋障害も二次的合併症に当たります。「早期に人工呼吸器から離脱させること」こそ,最大の合併症予防になります。

看護師だけではできないこともありますので,医師や理学療法士,薬剤師などと一緒にチームでかかわっていくことが大切になります。

全身状態のアセスメントに必要な知識〜人工呼吸(陽圧呼吸)の影響〜

人工呼吸器は,呼吸機能を補助・維持するという利点がありますが,胸腔内が陽圧になるため全身への影響が現れます。

具体的には,肺内圧の上昇,胸腔内圧の上昇,腹腔内圧の上昇が連動し,さまざまな臓器の血流低下,血流障害を引き起こします。全身の酸素化を考える際には,この影響を踏まえてアセスメントすることが大切になります(表5)。

表5人工呼吸の全身への影響

人工呼吸の全身への影響

 

呼吸状態の評価とケアの選択

フィジカルアセスメント

呼吸状態が安定しているかは,バイタルサインや身体所見,動脈血液ガス分析,X線所見などを踏まえて判断していきます。グラフィックばかりに目が向きがちですが,まずはフィジカルアセスメントを通して,今の状態を評価します。

まず問診によって,意識レベルや鎮静深度,自覚症状の確認を行い,視診によって呼吸補助筋活動の有無や胸郭の上がりに左右差がないか,二段呼吸になってないかを判断していきます。併せて触診や聴診,打診によって含気の減弱を評価し,無気肺や胸水の貯留,気胸や肺気腫がないかを確認します。

そのうえで,フィジカルアセスメントの結果とグラフィックに表示される数値や波形の変化から今の状態を評価していくことが求められます。

痰の溜まりがみられる場合には,ドレナージ体位とし吸引をします。二段呼吸のような異常パターンを認める場合は,呼吸器設定が吸気努力に見合っていない(吸い足りない)可能性があるため,吸気圧を上げることを医師に相談しましょう。設定変更やケアの前後で,呼吸状態がどのように変化したかを観察し記録しておくことが大切です。

動脈血液ガス分析

動脈血液ガス採取をした場合,ガス交換の評価が可能です。

PaO2動脈血酸素分圧:基準値 80〜100mmHg)は血中に溶け込んだ酸素を圧力で表わしたもので,肺が酸素を血液中に取り込めるかの指標になります。

SaO2(動脈血酸素飽和度:基準値 97±2%)は血液中のヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを示しており,パルスオキシメーターで表示されるSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)とほぼ同じ意味を表します。

PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧:基準値 35〜45mmHg)は血液中の二酸化炭素の分圧のことです。換気の指標となり,組織でのCO2産生と肺でのCO2排出のバランスを表します。換気量が多いと低下し,換気量が少ないと上昇します。

また,ガス交換評価のための指標として,P/F ratio(P/F比〔酸素化係数〕:基準値400以上)があります。これは,PaO2は酸素の影響を受け,FIO2(吸入酸素濃度:投与されている酸素濃度)に比例して上昇することから,純粋に肺の酸素化能を評価するためFIO2で割ることにより求められます(P/F ratio <400:軽症呼吸不全,<300:中等症呼吸不全,<200:重症呼吸不全)。

また,A-aDO2(肺胞−動脈血酸素分圧:基準値10mmHg以内)は,呼吸によって肺胞に吸い込んだ酸素がどれだけ血液に取り込まれたかを示し,「A-aDO2=(760−47)×FIO2−PaCO2÷0.8−PaO2」の計算式で求められます。この肺胞と動脈血の酸素分圧の差(A-aDO2)が10mmHg以内であれば,「ガス交換能がよい」と評価できます。

 

ガス交換障害が生じているときは,原因を考えそれを改善させるケアを行うことが重要になります。

たとえば,P/F ratioが低いときは,酸素消費量を増加させないようなケアを行うことが大切です。患者の負担を少なくするために,ルーチンでの吸引や体位変換,一度に多くの処置を行うなど,不必要な侵襲を与えないようにしましょう。また,PaCO2が上昇している場合,CO2を排出しやすいように安楽な体位に調整し,呼吸がしにくい状況を解除することで改善されることもあります。

人工呼吸器離脱

人工呼吸器からの離脱が遅れるとVAPや気管チューブによる気道損傷のリスクが増える一方,離脱が早すぎると再挿管のリスクが増えます。再挿管になると死亡率,ICU滞在日数,入院日数が増加する(4)といわれており,離脱・抜管時期の適切な見きわめが必要になります。

具体的には,①原疾患のコントロールがついている,②意識レベルが保たれている(自発呼吸がある),③循環動態が安定している(昇圧薬の使用がない,または最小限),④酸素化が保たれている(FIO2≦0.4〜0.5,PEEP 5〜6cmH2OでPaO2>60mmHg)のような状態での離脱が望ましいとされています。

そのうえで,気道が保護でき,上気道閉塞がなく,気道分泌物を喀出できる状態であれば,抜管が可能と判断されます。このことから人工呼吸器からの離脱は,原疾患のコントロールがついた状態で「鎮静からの離脱」→「人工呼吸サポートからの離脱」→「人工気道からの離脱」というステップが必要になります。

このステップを実施していく際に有用なのが,「ABCDEバンドル」(5)や「PADガイドライン」(6)(7)です。

ABCDEバンドル

ABCDEバンドルとは,人工呼吸患者管理指針として紹介された概念であり,5つの戦略(A:毎日の自発覚醒トライアル,B:毎日の人工呼吸離脱トライアル,C:AとBの調整および鎮静薬の選択,D:せん妄管理,E:早期離床)のケアプランが組み合わされています。人工呼吸器からの早期離脱と早期離床を通して,合併症予防を目的としています。

ICU入室中の重症患者に発症するせん妄(ICU-acquired delirium;ICU-AD)と神経筋障害(ICU-acquired weakness;ICU-AW)は,発症頻度は高いものの,複雑な病態に隠れ見過ごされやすく,長期予後(QOL)や死亡率の上昇に影響を及ぼすとされています。したがってICU-ADやICU-AWは,早期から迅速に取り組まなければいけない問題になります。

具体的には,図7のようなプロトコルとなっており,鎮静下にある人工呼吸器装着患者に毎日実践することにより効果が認められるといわれています。医師や看護師,理学療法士を含めた医療チームが協働して実践することにより,最も高い効果が得られると考えられています。

図7ABCDEバンドル(文献5より引用)

ABCDEバンドル

 

自発覚醒トライアル(SAT)(8)

自発覚醒トライアル(spontaneous awakening trial;SAT)とは,鎮静薬を中止または減量し,自発的に覚醒が得られるか評価する試験です。この際,麻薬などの鎮痛薬は中止せずに継続し,気管チューブによる苦痛を最小限にすることも考慮します。観察時間は30分〜4時間程度を目安とし,鎮静スケール(RASS)を用いて覚醒の程度を評価します。

自発呼吸トライアル(SBT)(8)

自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial;SBT)とは,人工呼吸による補助がない状態に患者が耐えられるかどうかを確認するための試験です。患者がSBT開始基準を満たせば,人工呼吸器設定をCPAPあるいはTピースに変更し,30分〜2時間程度観察します(開始・成功基準については文献8を参照)。SBT成功基準を満たせば抜管を考慮します。

PADガイドライン

2013年に策定された『日本版 集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン』は,P(pain:痛み),A(agitation:不穏),D(delirium:せん妄)のケアガイドラインです。

人工呼吸中の患者は,挿管による喉の違和感,のどの渇き,不安や抑うつ,話すことや十分に息を吸うことができないなど,さまざまな苦痛体験を記憶している(9)といわれています。

「P:痛み」では,ICU患者の痛みは軽視されがちなため,定期的にBPSやCPOTなどの客観的な評価ツールを使うことが推奨されています。また,痛みが生じる前に鎮痛することが推奨されています。

「A:不穏」では,浅めの鎮静管理(light sedation)が提案され,RASS 0〜−2を目標にすることで過鎮静を減らせるとしています。

「D:せん妄」では,せん妄(メモ4)の定期的なモニタリング,早期離床,環境・睡眠調整が推奨されています。薬剤に関してはベンゾジアゼピン系薬よりも非ベンゾジアゼピン系薬(プロポフォール,デクスメデトミジン)が推奨されています(ツールについては,各ガイドライン参照)。

メモ4せん妄

米国精神医学会の定義(DSMIV-TR)では,注意力の障害,認知の変化,知覚障害の発現,変動性があるといわれています。したがって,せん妄モニタリングツール(CAM-ICU,ICDSCが推奨されている)による連続的なモニタリングが必要になります。

***

ABCDEバンドル・PAD ガイドラインには,早期離床,環境・睡眠調整など,看護師が担える非薬理学的ケアがいくつか紹介されています。

しかし,看護師が行っていることはもっとたくさんあります。例えば,コミュニケーション方法を工夫することによって,みずからの意思を伝えにくい患者のニードを察し,患者の苦痛・不快感の緩和を図ることが可能です。それ以外にも,感染対策,栄養管理,皮膚ケア,口腔ケア,ポジショニング,面会調整,不安・尊厳ケアなどもあります。

看護師は,ケアを通して患者との関係性を築き,離脱過程をともに乗り切るパートナーとして,全人的に支えていく重要な存在になるはずです。

 

おわりに

本コラムでは,人工呼吸器(IPPV)装着患者の看護をするうえで,最低限必要になる知識を概説しました。自分もそうでしたが,人工呼吸管理は苦手意識を持ちやすいものかと思います。ですが,なぜ人工呼吸/挿管が必要なのかをシンプルに考えてみると理解が進むのではないでしょうか。

常に患者のそばでケアをする看護師は,わずかな変化をキャッチしやすい存在です。フィジカルアセスメントと人工呼吸器グラフィックからのデータを通して今の状態を判断し,患者に安全で安楽な呼吸を提供しましょう。また,いち早く人工呼吸器から離脱できるように,そのプロセスを多職種を巻き込みながら支えていきましょう。

 

 


[引用・参考文献]

  • (1)Hess DR: Ventilator modes: Where have we come from and where are we going? Chest, 137: 1256-1258, 2010.
  • (2)日本集中治療医学会ICU機能評価委員会:人工呼吸関連肺炎予防バンドル2010 改訂版.2010.http://www.jsicm.org/pdf/2010VAP.pdf(2015年3月閲覧)
  • (3)日本呼吸療法医学会:人工呼吸器安全使用のための指針 第2版.人工呼吸,28(2):210-225,2011.
  • (4)Thille AW et al.: Outcomes of extubation failure in medical intensive care unit patients. Crit Care Med, 39: 2612-2618, 2011.
  • (5)Vasilevskis EE et al.: Reducing iatrogenic risks: ICU-acquired delirium and weakness-crossing the quality chasm. Chest, 138: 1224-1233, 2010.
  • (6)Barr J et al.: Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation, and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med, 41: 263-306, 2013.
  • (7)日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日本集中治療医学会雑誌,21(5):539-579,2014.
  • (8)日本集中治療医学会,日本呼吸療法医学会,日本クリティカルケア看護学会3学会合同人工呼吸器離脱ワーキング:人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル.2015.http://www.jsicm.org/pdf/kokyuki_ridatsu1503b.pdf(2015年3月閲覧)
  • (9)Samuelson KA: Stressful experiences in relation to depth of sedation in mechanically ventilated patients. Nurs Crit Care, 12: 93-104, 2007.
  • (10)田中竜馬:人工呼吸に活かす!呼吸生理がわかる,好きになる(第1版).羊土社,2013.
  • (11)日本呼吸療法医学会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン.人工呼吸,24(2):146-167,2007.
  • (12)Robert CH: Modes of mechanical ventilation. UpToDate, 2014.(Accessed March, 2015)
  • (13)Robert CH: Physiologic and pathophysiologic consequences of mechanical ventilation. UpToDate, 2014.(Accessed March, 2015)

[Profile]
津田泰伸(つだ やすのぶ)
聖マリアンナ医科大学病院 看護部 ハートセンター・CCU 主任, 急性・重症患者看護専門看護師
山形県立保健医療大学卒業後,亀田総合病院に勤務。その後,北里大学看護学部助手を経て,2010年 聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター,2012年より同院ハートセンター/CCUに勤務。聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)大学院看護学研究科急性期看護学修士課程(修士論文コース)修了。2014年 急性・重症患者看護専門看護師に認定。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2015 医学出版
[出典]循環器ナーシング 2015年6月号

循環器ナーシング2015年6月号

P.53~「人工呼吸器(IPPV)装着患者の看護を理解する」

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【シフト】休みの希望はどのぐらい通る?

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実施期間:
2017年01月10日 2017年02月09日

使っている聴診器の価格、おいくら?

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実施期間:
2017年01月13日 2017年02月12日

【2025年問題】病棟ナースが減るかも…そのときどこで働きたい?

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実施期間:
2017年01月17日 2017年02月16日
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