『オペナース』創刊号<術前・術後看護の視点 -フィジカルアセスメントを中心に>より抜粋。
開腹術後患者の観察ポイントについて解説します。
Point
小野知恵美1),柴 優子2)
1)筑波大学附属病院 ICU,2)筑波大学附属病院 ICU 副看護師長,集中ケア認定看護師
〈目次〉
はじめに
開腹術は腹腔内臓器疾患を治療するための手段として,消化器系や産婦人科系をはじめ,さまざまな診療科で適応とされます。近年は腹腔鏡下手術などの比較的侵襲の少ない治療法の普及も著しく,疾患へのアプローチ方法は多様化してきました。どのような術式の患者さんを看護する場合でも,それぞれの臓器・術式の特徴を踏まえたうえで,術後合併症に十分に留意しなければなりません。
本コラムでは,はじめに一般的な開腹術後患者の看護について述べたいと思います。その後,開腹術のなかでも最も侵襲が大きい手術の1つで,術後合併症発現頻度の高い手術である膵頭十二指腸切除術を例にとり,術後起こりうる異常と看護の際の観察ポイントについて考えていきます(図1)。
開腹術の術後合併症と観察ポイント
開腹術後では,他の手術と同様に手術侵襲に伴う生体の変化を理解したうえで,患者さんの呼吸・循環動態を注意深く観察します。さらに,手術内容を把握して考えられる変化を念頭に置きながら,観察から得られた情報をもとにアセスメントすることが重要となります。
術式の違いによって術操作時間が変わりますが,開腹から閉腹までに時間を要するほど不感蒸泄は多く,また,術中出血,癒着・腹水の程度などが,血管内外の水分出納(IN/OUTバランス)に大きな影響を与えます。
加えて,患者さん自身の術前状態も循環変動を引き起こす原因となります。とくに開腹術では,腹水の流出や腸液の損失などが他の部位の術式より多いことが予想されます。そのため,帰室後のバイタルサインに加えて,それらの術中情報をアセスメントに加える必要があります。
他の手術同様に起こりえる合併症は多くありますが,ここでは術後出血やイレウスに焦点を当てたいと思います。
術後出血
術後出血は,術直後から24時間以内に起こることが多い早期出血と,術後しばらく経ってから膵液瘻などの合併症が原因で起こる晩期出血に分類されます。
早期出血は手術操作に起因する出血であり,臓器を剥離・切離した組織,消化管吻合部,血管を結紮・切離した部位などから出血する可能性があります。
晩期出血は,術後2週間程度経過してから起こることが多く,とくに肝臓・胆管・膵臓領域の術後に,切離断端や吻合部の縫合不全部から漏出した消化液の直接作用や,二次感染の影響により周囲組織や血管が破綻することで起こります。
ドレーン
術後出血では,まずドレーン排液量とその性状の変化に注意が必要です。急に排液の色調が赤く濃くなり,かつ排液量も増え,とくに1時間に100 ml以上の血性排液が続く場合や凝血塊が混ざる場合は,術後出血を考えます。
ドレーン排液量と色調(濃血性),心拍,血圧などのバイタルサインを含め,速やかに医師に報告する必要があります。一時的な出血量の増加があってもバイタルサインなどに影響がない場合,体内に貯まっていた血液が体位変換などで排出された可能性もありますが,その後の排液やバイタルサインを注意深く観察する必要があるでしょう。
バイタルサインと腹部所見
心機能が正常な患者さんの場合では,中等量の出血に至らなければ収縮期血圧は正常値を維持することが多くあります。これは交感神経活動によるもので,心拍上昇が先に現れ,その後収縮期血圧の低下が起こります。
早期診断のためにも,①頻脈(100 回/分以上),②頻呼吸(20 回/分以上),③冷たく湿潤した皮膚,チアノーゼ,④尿量減少(0.5 ml/時/kg以下),⑤毛細血管再充満時間の延長(2秒以上),などの身体所見を見逃さないようにしましょう。
さらに,ドレーンやバイタルサインと併せて観察するポイントとして,腹部所見があります。腹腔内出血が持続すると腹部膨隆(腹部膨満)が進行します。また,切開創やドレーン挿入部の皮下出血による皮膚の色調変化にも注意が必要です。
術後出血は開腹術にかぎらず起こる合併症ですが,ドレーン排液の量・性状はもちろん,バイタルサインや腹部所見と併せて観察し,総合的なアセスメントが必要となります。
消化器症状の出現
開腹術には麻酔による消化管運動の減退や,術操作による腸管露出,乾燥,機械的圧迫などがあり,それに由来した消化器症状が出現することがあります。近年では,ほとんどの開腹術で胃内容物の停滞を避けて腹部膨満を予防するために,胃管ドレナージで胃内減圧がされています。そのため,急性胃拡張など上部消化管の合併症がみられることはまれです。
一方,長時間の開腹を余儀なくされる手術や再建操作が煩雑である手術症例では,しばしば術後腸閉塞などの合併症を起こすことがあります。
イレウス
全身麻酔下で開腹し,消化器の手術を行った場合,腸管が空気にさらされ,手術操作が加わることなどにより腸蠕動運動が停止します。これは,腸管が運動麻痺した状態であり,麻痺性イレウスと呼ばれます。しかし,遅くても術後3~5日目には腸管運動は回復し,排ガスが認められるようになります。そのため術後5日程度経過しても排ガスがない状態は異常であり,癒着による機械的イレウスの可能性があります。
癒着は創傷治癒機転によって生じる正常な生体反応です。腹壁と腸管,リンパ節郭清部位と腸管,腸管同士の癒着が起こりますが,癒着により腸管が捻れたり屈曲したりすることにより機械的イレウスが生じます。
機械的イレウスは,腸管の血行障害を伴わない閉塞性(単純性)イレウスと,血行障害を伴う絞扼性(複雑性)イレウスに分類されます(図2)。
機械的イレウス(閉塞性・絞扼性)
腸管の通過障害により腸管内ガスや腸液が貯留し,腸管内圧は上昇します。通常,胃液,胆汁,膵液,腸液などの消化液は1日に約8 L分泌されており,その90%は再吸収されています。しかし,腸管内圧の上昇により腸管内上皮機能は低下し,腸管の吸収能は低下します。
さらに,腸管内液体は貯留し,体内の水分・電解質を喪失することになり,循環血液量減少,電解質異常や代謝性アルカローシスをきたします。そのため,頻脈,血圧低下などのバイタルサインの変化や尿量減少などに注意して観察する必要があります。
また,絞扼性イレウスは腸管壊死や穿孔の危険性が高く,急性腹膜炎などに至り重篤な状態に陥るため,一般的に緊急手術の適応となります。そのため,閉塞性・絞扼性イレウスの鑑別が重要となります(表1・図3)。とくに,絞扼性イレウスでは腹痛は激しい持続性腹痛であり,腹膜刺激症状がみられることが腹部所見を観察するうえでのポイントになります。
看護では,早期発見のための観察も重要ですが,麻痺性イレウスの遷延や機械的イレウスの発生を防ぐために,術後の早期離床を積極的に進めていくことも重要となります。
表1機械的イレウスである閉塞性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別
図3術後の癒着による閉塞性イレウス絞扼性イレウス(文献(1)より引用改変)
麻痺性イレウス
麻痺性イレウスでは,腹痛,嘔吐,排ガス・排便の停止,腹部膨満感,腸雑音の低下・消失などが主な所見です。腹部X線ではガスが主体で液体貯留が少ないため,ニボー像はあまり多くみられません。この場合,積極的な消化管内容物の吸引や,消化管運動促進薬・コリン作動薬の投与が選択されます。
ドレーン管理と腹部所見の見方
ここでは,開腹術後に必要とされるドレーン管理と腹部所見の見方について説明したいと思います。
ドレーン管理
腹腔ドレーンの基礎知識
消化器外科術後では,ほとんどの場合,腹腔(術式によっては胸腔内)に数本のドレーンが留置されます。ドレーンには,減圧や体内への漏出予防を目的とするものや,術中に貯留した血液の性状を観察するために留置されるものなど,それぞれ役割があります。一般的には,感染などを防ぐための予防的ドレナージや,出血などの異常を早期発見するための情報的ドレナージが行われます(表2)。
腹腔ドレーンの方法
腹腔ドレーンの方法には,開放式と閉鎖式ドレーンがあります。開放式ドレーンとは,体外に出ているドレーン端が外界に開放されているものです。貯留用バッグが必要ないため,患者さんの行動に制限が少ないという利点があります。しかし,腹腔内が外界と通じているため,ドレーンを通して細菌が腹腔内に入り,逆行性感染を起こす可能性があります。
閉鎖式ドレーンとは,挿入されたドレーン端を貯留用バッグや吸引器に接続し,外界に触れないように閉鎖腔にしたものです。排液は貯留バッグに回収され,外界との交通がないため,逆行性感染のリスクは低くなります。
腹腔ドレーンの留置部位
腹腔ドレーンは,患者さんが仰臥位になったときに貯留液が貯まる部位に留置されます(図4)。縫合不全が危惧される場合には,ドレーン先端を吻合部の近くに留置します。
図4ドレーン留置部位(文献(2)を参考に作成)
※消化器外科術後では,食道切除後に留置されます。
看護と観察ポイント(表3)
ドレーン管理では,そのドレーンがなんのために挿入され,先端がどの部位に挿入されているのかを把握する必要があります。また,表3の観察項目に加えて,ドレーン排液の量・性状の観察と同時に,患者さんのバイタルサインの変動がないかを観察することが重要です。
そのためには,どのようなドレーン排液が異常で,その場合には何が考えられるのか,を知っている必要があります。
腹腔ドレーンからの排液の色は,通常術直後は血性または淡血性であり,時間経過とともに淡々血性→淡黄血性→漿液性へと変化していきます(表4)。
腹部所見の見方
腹部のフィジカルアセスメントは,患者さんにとって侵襲の低い順(視診→聴診→打診→触診)に行っていきます。また,フィジカルイグザムを行ううえで,便宜上腹部は4つあるいは9つの境界域に分けられます(図5)。
図5腹部の境界域(文献(3)より作成)
視診
創部の発赤の有無や創部からの浸出の性状・量,ドレーン刺入部の状態,皮膚の色調,湿潤状態,腹部膨満,血管拍動の様子を観察します。
聴診
聴診では主に腸蠕動音を観察します。腹部聴診はさほど特異的ではなく,症状や他の所見と併せて,腸管の動きが亢進しているのか減弱しているのかを判断します。聴診器は腹壁に強く押しつけると腹腔内圧や腸管内圧に影響を与えるため,そっと腹部にのせるように行います。腸蠕動音の聴取のためには腹部1か所で十分であり,聴診器は膜型を使用します。
正常では5~15秒に1回の割合でやわらかい音が聴こえます。それ以上の割合で聴こえる場合は,腸蠕動音亢進と判断します。閉塞性イレウスの可能性がある場合や,下痢の場合に聴かれます。逆に,それ以下の割合で聴こえる場合は腸蠕動音減弱です。
5分以上聴診しても蠕動音がない場合は,腸蠕動音消失です。麻痺性イレウスや腹膜炎の可能性を考えます。また,高い音の金属音が聴取される場合は,閉塞性イレウスを考慮します。イレウスでは腹部を手で揺らしながら聴診すると振水音(水がはねるような音)が聴こえる場合があります。
打診
ガスの貯留があれば,鼓音が聴こえます。術操作や鎮痛剤の影響で腸蠕動が減弱していて排ガスが認められない場合など,視診と併せて腹部のどの部位に貯留しているかを考えます。
触診
創部や患者さんが痛みを訴えている部位は,最後に触診します。触診を行う際には,腹筋の緊張を取るために仰臥位とし,可能なら膝を屈曲して行います。触診には片手で行う単手触診,両手で行う双手触診,深さや強さによって表在性触診と深達性触診,手指の動かし方によって滑走性触診と衝動触診など,さまざまな方法があります。ここでは,触診によって得られる重要な所見である腹膜刺激症状について説明します。
圧痛
腹壁を指で圧迫したときに生じる痛みです。腹部の4あるいは9区分のうち,どこに痛みがあるのかを判別します。汎発性腹膜炎を起こした場合は,腹部全体に圧痛と筋性防御が広がり,局在ははっきりしなくなります。
反跳痛
局所を静かに圧迫して急に手を離すときに痛みが増強します。緊急処置を要する腹膜炎の存在を示唆します。反跳痛の確認は強い痛みを誘発し,その後の触診が不可能になる場合があるため,最後に行います。
筋性防御
局所を覆う腹壁を手で圧迫すると,腹壁筋が急に収縮し硬く触れます。このとき,指を下から突き上げるような印象を受けます。
膵頭十二指腸切除術
膵臓の手術は,腫瘍ができた部位により術式とその再建方法が異なり,さまざまな方法があります。なかでも,膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy;PD)と膵体尾部切除(distal pancreatectomy;DP)が代表的な術式です。とくにPDは侵襲が大きく,かつ難易度も高く,複雑な再建操作を伴うため,それに関連したさまざまな合併症を引き起こすことが知られています。
施設間の差はありますが,全体の30~50%の割合で術後合併症を発症するといわれています(図6・図7・図8)。
図6膵臓周囲の解剖(文献(4)より作成)
図7膵頭十二指腸切除術(文献(4)より作成)
十二指腸を後腹膜から遊離した後,幽門輪から2 cm口側で胃を切離,膵臓を頭部と体部の間で切離します。また,胆管・空腸も切離し,膵-空腸吻合,胆管-空腸吻合,胃-空腸吻合を行います。幽門輪と胃を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus preserving pancreatoduodenectomy;PPPD)と,胃の3分の2を切除する古典的PDがあります。
最近では胃機能を温存することで,術後の栄養状態の改善を目的とし,前述のPPPDや胃の出口付近(幽門輪)のみを切除する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(subtotal stomach-preserving PD;SSPPD)の割合が増え,古典的PDはほとんど行われなくなりました。
本術式を適応とする患者さんは,現疾患の影響により術前からさまざまなリスク(内分泌機能低下,閉塞性黄疸に伴う肝機能障害や消化管潰瘍,食欲減退による低栄養など)があることを考慮しましょう。
膵液瘻
膵切除後の術後管理において,手術後の腹腔内への膵液の漏出が最大の問題となります。膵液が腹腔内に漏出することを膵液瘻といい,吻合部の縫合不全などにより引き起こされます(表5)。
膵液は強い消化作用があるため,膵液が漏出すると膵臓自身も壊し(自己消化),他の臓器や血管壁などの周囲組織を溶かしたりします。そのため,膵液瘻は大出血や腹腔内膿瘍などを引き起こすこともあり,治療に難渋する合併症といえます。膵液瘻は膵切除だけでなく,膵臓周囲に手術操作が及ぶような胃全摘,胆管切除術などでも起こりえます。
膵液は腸液や胆汁と接触すると活性化するため,膵消化管吻合に伴う膵液瘻は重症化しやすく,とくに注意が必要です。そのため,看護師はドレーン排液の量・性状を注意深く観察する必要があり,術後合併症が重篤化する前に対処するためには適切なドレーン管理が必須といえます。また,PDでは膵液瘻だけでなく,胆汁が漏出する胆汁漏が起こる可能性もあり,その場合にもドレーン管理は重要となります。
腹腔ドレーン管理
吻合部などの腹腔内に留置したドレーンの排液が褐色~ワインレッドに変化した場合や,とくに粘稠な黄白色に変化した場合は,膵液瘻を疑います。多くの場合,膵液漏出の指標としてドレーン排液のアミラーゼ値を測定します。膵液瘻では血管壁の破綻により仮性動脈瘤が形成され,この動脈瘤が破裂し出血すると出血性ショックなど重篤な状態となる可能性があります。
そのため,ドレーン排液に血液が混じっている場合は,しばらくして大出血をきたす可能性があるので要注意です。この場合,術直後だけでなく,術後1週間ほど経過してから起こる可能性があります。また,膵液瘻に感染を伴うと腹腔内膿瘍の原因となります(図9)。
膿瘍形成や出血を防ぐためには良好なドレナージが重要であり,ドレーンの屈曲や閉塞には十分注意します。
膵管ドレーン管理
通常,膵管ドレーンからの排液は無色透明です。残存している膵臓の状態により排液量は異なります。膵臓の線維化が進んでいて膵管拡張が著明な場合は,排液量が比較的少ないことが予想されますが,膵管拡張がない場合は膵液の流出は500 ml/日前後となります。
一般的に術後早期は少ないですが,徐々に流出量は増加します。ドレナージが有効で,周囲の腹腔内ドレーン(吻合部など)から膵液瘻の徴候がみられない場合は,3週間前後で抜去します。
膵管ドレーンが完全ドレナージか不完全ドレナージなのかを必ず確認します。不完全ドレナージでは膵液の一部は腸内に流れますが,完全ドレナージでは膵液はすべてドレナージされる必要があります。
排液のルート内進行や排液バックへの貯留は術直後から時間経過とともに観察します。
ルート内進行や貯留が停止すればドレーン閉塞や膵液瘻を疑い,速やかに医師へ報告しますが,不完全ドレナージの場合は緊急性がさほど高くない場合もあります。しかし,膵管ドレーンの閉塞は膵管内圧の上昇,膵管空腸縫合不全につながる可能性があるため,排液量やドレーンの屈曲などに常に細心の注意を払う必要があります。
排液が黄色の色調を帯びている場合,膵管の径が太いため腸液が膵管内に流入している場合と,膵管ドレーンが膵管から空腸内に逸脱し腸液をドレナージしている場合が考えられます。他のドレーンから膵液瘻の徴候がみられない場合は,膵管チューブを抜去することも検討されますが,膵液瘻がある場合は再挿入を試みます。
排液が白濁している場合は,不完全外瘻が予想されます。膵液漏がない場合は,経過観察することもありますが,膵液瘻が認められる場合はチューブ内閉塞を解除しドレナージを有効にする必要があります。
患者さんの観察
膵液などの消化液が腹腔内に貯留し,さらに腹腔内膿瘍の状態となった場合,しばしば患者さんは腹部の激痛を訴え,悪心・嘔吐,発熱,浅呼吸,頻脈などの症状を呈します。さらに,症状が進むと,敗血症性ショックや,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC),多臓器不全症候群(multiple organ dysfunction syndrome;MODS)へと進行していく場合があります。
ドレーンの管理をすると同時に,患者さんの腹部の疼痛の訴え方や,バイタルサインの変化に十分留意しましょう。
膵内分泌能低下
耐糖能異常
膵切除を行うため,インスリン分泌細胞減少によりインスリン分泌低下が起こります。また,手術の侵襲に伴い高血糖になりやすい状態です。そのため,術後は定期的な血糖測定と,インスリン製剤での血糖コントロールを行うことが重要となります。
さらに,術後のコントロール不良な創痛は患者さんにとってストレス(=侵襲)となり,血糖上昇に作用します。患者さんの訴えを逃さず,適切に鎮痛を行う必要があります。さらに,膵切除が広範囲となればグルカゴン分泌も減少するため,低血糖を呈することも考えられます。膵全摘となった場合には膵由来のホルモン分泌はなくなるため,インスリンの自己注射が必須となります。
消化機能障害
PDでは消化管吻合が行われるため,一般の消化管手術と同様に食事開始後の縫合不全に注意し,経口摂取開始後の発熱や腹痛の有無の観察が必要です。しかし,膵切除により消化液の分泌量が減少し,さらに胃や十二指腸も切除するため,消化吸収障害が起こります。また,上腸間膜動脈周囲の神経叢を操作するため,下痢をしやすくなります。
そのため,縫合不全の徴候だけでなく,一回の食事量を減らしたり,低脂肪の食事摂取を進めるなどの工夫が必要で,さらに便の性状にも注意を払う必要があります。
また,PDでは胃内容排出遅延が引き起こされることがあり,嘔気・嘔吐,食欲不振,上腹部膨満感などにも注意が必要です。
おわりに
一般外科同様に,開腹術にも多くの合併症があります。知っていれば避けられるものや,早期発見しすぐに対処が必要なものなど,多くのことを知識として持っておくことは,術後管理にかかわる看護師にとって重要なことだと思います。そして,手術中にどのような操作が行われたのかは,術後の観察においてとても重要な情報となります。
今回紹介できたのは一部分ではありますが,今後の皆様の看護の一助となれば幸いです。
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[引用文献]
[参考文献]
- ・永井秀雄ほか(編):臨床に活かせるドレーン&チューブ管理マニュアル.学研メディカル秀潤社,2011.
- ・跡見 裕(編):イラストでらくらくわかる!−術式別 消化器外科術前術後 ケアの要点.消化器外科NURSING,07年秋季増刊:2007.
- ・田中雅夫(編):消化器外科術後観察&対応マニュアル.消化器外科NURSING,09年秋季増刊:2009.
- ・Bassi C, et al.: Postoperative pancreatic fistula: an international study group(ISGPF)definition: Surgery. 138: 8-13. 2005.
[PROFILE]
小野知恵美(おの ちえみ)
筑波大学附属病院 ICU
2008年 岩手県立大学看護学部卒業。同年 筑波大学附属病院HCU入職。2012年よりICU勤務。
柴 優子(しば ゆうこ)
筑波大学附属病院 ICU 副看護師長,集中ケア認定看護師
2003年 茨城県立医療大学を卒業。同年 筑波大学附属病院入職。成人重症病棟(HCU)を経て,2006年 ICUに配属。2011年 集中ケア認定看護師取得。現在,ICU副看護師長。
*略歴は掲載時のものです。
本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]オペナース 創刊号
P.97~「開腹術後患者の観察ポイント」