1. 看護roo!>
  2. 看護・ケア>
  3. WOC Nursing>
  4. 高齢者の排尿ケアにおける飲水指導の重要性

2015年07月03日

高齢者排尿ケアにおける飲水指導の重要性

『WOC Nursing』2014年8月号<高齢者排尿障害のアセスメントと対処~適切な排尿ケアの普及・啓発のために>より抜粋。
高齢者排尿ケアにおける飲水指導の重要性について解説します。

 

Point

  • 水分摂取過剰は下部尿路症状を悪化させる
  • 水分を過剰に摂取しても脳梗塞や心筋梗塞を予防することはできない
  • 高齢者の熱中症の予防には,高温多湿な環境にいないことが最も重要である
  • 排尿日誌から,適正な水分摂取量は計算できる
  • 適正な水分摂取指導を含めた生活習慣指導は下部尿路症状を改善する

岡村菊夫
(国立病院機構 東名古屋病院 臨床研究部 部長,泌尿器科 医長)

〈目次〉

はじめに

患者を悩ませる「おしっこの症状」を下部尿路症状(lower urinary tract symptoms;LUTS)と呼び,下部尿路症状のうち尿を膀胱にためる間に生じる症状を蓄尿症状,尿を排出している間に生じる症状を排尿症状,排尿後に生じる症状を排尿後症状と呼びます(表1(1)

こうした下部尿路症状は加齢とともに増加し,困窮度も増加していくことが知られています(図1(2)

表1下部尿路症状

下部尿路症状

図1下部尿路症状の頻度(文献2)より引用)

下部尿路症状の頻度
水分摂取を多くすると,当たり前ですが,尿量が増加します。

下部尿路症状,とくに蓄尿症状のある人は,尿量が多くなると,おのずと頻尿や尿意切迫感,尿失禁の頻度が増し,困窮度が増幅されます。

1日尿量が体重あたり40 mlを超えることを「多尿」と定義するため,体重50 kgの人の尿量が2000 mlを超えていたら,「多尿がある」と判断できます(1)。多尿は蓄尿症状を悪化させる要因の1つといえます。下部尿路症状を訴え泌尿器科を受診する高齢者のおよそ20%は多尿があり(3)(4),夜間多尿(24時間尿量の33%以上あるいは体重1 kgあたり10 ml以上)は30~50%程度に認められるとされています(1)(3)

日本では,マスコミのみならず,医師,看護師が「水分摂取を多くすると,血液の粘稠度が下がり,脳梗塞や心筋梗塞が生じにくくなる」と患者に説明しており,一般の人は脳梗塞や心筋梗塞の予防のために水分を過剰に摂取している状況があります。

また,水分を多く摂れば熱中症も防止できるとの誤った認識も横行しています。そのため,食事以外に1日2 Lの水やお茶を摂取しなければならないと信じ込んでいる高齢者は実に多いのです。

本コラムでは,適正な水分摂取が重要であることを解説し,指導方法についても示します。

システマティックレビュー

「過剰に水分摂取しても梗塞性疾患は予防できない」とするこのレビューは,泌尿器科医だけで行ったのではなく,結論がかたよらないように,神経内科医,内科医,循環器科医が合同で行いました(5)。PubMedを使用して,① dehydration OR hydration OR water intake OR fluid intake と② cerebral infarction OR cerebrovascular disease OR apoplexy,③ myocardial infarction OR angina pectoris OR ischemic heart disease,④ blood viscosity OR hemorheologyの条件を組み合わせて文献検索し,抽出された英語・日本語論文を評価したのです。選択した論文を5つのレベルに分類し,そのレベルをもとに「証拠の強さ」を定めました(表2)。

表2研究レベルと証拠の強さ

研究レベルと証拠の強さ

Aは,論文の結論の証拠の強さが最も高く,Cは根拠がしっかりしていないことを示しています。611論文を収集・読破し,22論文を最終的に選択しました。レベルⅠの研究は存在せず,レベルⅡは1研究のみ,レベルⅢは4研究,レベルⅣは8研究,レベルⅤは9研究存在しました。


この研究で明らかとなったことをまとめて,表3に示します。

表3システマティックレビューの結果(文献5より引用)

システマティックレビューの結果

このレビューから,病的な脱水に陥ると脳梗塞や心筋梗塞が生じる可能性が高くなりますが,脱水状態にない人がさらに水分を摂取しても脳梗塞を予防できないことがわかりました。

脳梗塞・心筋梗塞の根源は,動脈硬化や動脈硬化性粥腫にあります。フィブリノゲン,中性脂肪,LDLコレステロール,総コレステロール,組織プラスミノゲンアクチベーター,プラスミノゲンアクチベーターインヒビターといった物質は動脈硬化と密接に関係し,血液粘稠度上昇に影響を与えています。また,高血圧や喫煙も血液の粘稠度上昇に関連することが知られています。

動脈硬化や高脂血症,高血圧,糖尿病など生活習慣病を予防することが梗塞性疾患を予防する根本対策です。

そのためには,若いうちから低脂肪でバランスのとれた食事,減塩,減量,運動,禁煙,節酒,ストレス防止など健康的なライフスタイルを確立する必要があります。

すでにリスクが高くなっている人には,適切な薬剤による降圧治療,スタチンによる高脂血症治療,抗血小板療法,糖尿病の治療などを継続的に行わなければなりません。

「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン2006」や「脳卒中治療ガイドライン2009」のなかにも,水分摂取が虚血性心疾患や脳卒中を予防するという記載はありません(6)(7)

一方,Chanらは,1日に水をマグカップ5杯以上飲む人は2杯以下の人よりも有意に心筋梗塞の発症率が低いことを示しました(8)。しかし,この米国での前向きコホート研究では,人種,食事内容,生活パターンなどが日本人とはきわめて異なるため,そのまま結果を受け入れられません(5)

水の出納

2007年に,Sugayaらによって水分過剰摂取と血液粘稠度の関連が明らかにされました(9)

31~65歳の10人と65~75歳の11人に1週間の間,毎日最低2 Lの水道水を飲んでもらい,前後で早朝の血液粘稠度を測定したところ,血液粘稠度が低下することはなく(5.61±0.44 mP/s vs 5.56±0.43 mP/s),排尿回数が有意に増加しました(図2(9)

「過ぎたるは及ばざるが如し」ということがわかりました。

図21週間2 Lの水分過剰摂取前後の血液粘稠度と排尿回数の変化(文献9)より引用)

1週間2 Lの水分過剰摂取前後の血液粘稠度と排尿回数の変化

 

1日に摂取する水分量と排泄する水分量は等しいはずです。

国立長寿医療研究センターで行われている長寿縦断疫学研究では,3日間の食事記録により,摂取水分量が調べられています。それによると,食事に含まれる水分量も含めて1日の平均水分摂取量は,40~80歳代の男性で2330 ml,女性で2089 mlでした(10)。一方,通常の環境で1日に排泄される水分量は,発汗や呼吸に含まれる不感蒸泄800~1300 ml,糞便に100 ml,尿に1000~1500 mlとされています。

摂取される水分は食事から800~1000 ml,代謝水が300 mlぐらいあるため,お茶や水などの飲料で1000 mlほど摂取できれば,だいたい辻褄が合います。

個人の体格差を考慮すれば,通常の環境下では,体重×20 mlが適当な1日水分量であるといえます。

熱中症は水分摂取では防げない

高齢者の熱中症の多くは,屋外で運動中に起きる若い人の熱中症とは異なり,高温多湿な環境にいることが原因で生じます。こうした環境では,汗をかいても,汗が蒸発せず,体温を下げることができません。

したがって,高齢者の熱中症を予防するには,風通しのよい居住空間にいる,扇風機やクーラーを使って室温を下げるといったことが最も重要です。高齢者は渇きを自覚しにくく,こまめに適切な水分摂取をしたほうがよいということは重要ですが,必要以上に水分摂取する必要はないでしょう(11)

適切な水分を摂取するよう指導する

Sodaらは,適切な水分摂取量は体重×2%(kg)がよいと述べています(12)。これは体重×20 mlと同じ意味です。

食事に含まれる水分量は,個人個人の嗜好,食事内容によって異なるため,1回ごとの排尿量を24時間測定する排尿日誌を2,3日つけてもらうとよいでしょう。出納を検討すれば,お茶などで摂取すべき適切な水分量を見きわめることができます。水分摂取が少なくて尿量が少ないようなら,もちろん水分摂取を勧めるのがよいでしょう。

尿意切迫感や切迫性尿失禁の頻度を減らそうとして,極端に水分摂取を控えている高齢者もいます。また,糖尿病で多尿になっている場合は糖尿病のコントロールを改善するよう勧めます。安易に水分制限してはいけません。

生活習慣改善と下部尿路症状の改善

排尿日誌をつけてもらうことによって,1日尿量以外にも膀胱容量,昼間・夜間排尿回数,昼間・夜間尿量を知ることができ,排尿に関して生活指導をすることが可能です。

Sodaらは,夜間頻尿のある患者に,①飲水制限,②必要以上にふとんの中にいないこと,③日中に運動すること,④布団の中を暖かくすることを勧めたところ,夜間・1日尿量が減少し,夜間排尿回数も減少できたと報告しています12)。

また,筆者たちも,前立腺肥大症の患者に,①1日尿量が体重×20 mlになるように適切な水分量を摂取しよう,②15時以降の水分(とくにお茶,コーヒー,アルコール飲料などの利尿作用のある飲み物)や果物などを控えて夜間尿量を減らそう,③塩分や糖分の摂りすぎに注意しよう(生活習慣病とLUTSには関連があるため),④夕方から夜にかけて1時間程度の散歩をしよう,⑤骨盤底筋を鍛えよう,⑥尿をしっかりためて排尿する訓練をしよう,と指導しました。

それにより,自覚症状の改善のみならず,排尿日誌上での昼間・夜間排尿回数を有意に減少できることがわかりました(13)

おわりに

高齢化がさらに進行していく日本では,高齢者が生きている間に,日常生活に差し支える煩わしい症状をできるかぎり取り除いて,安楽に暮らすことができるようにすることが重要です。

高齢期では,排泄の問題は「生活の質」を傷害する大きな問題で,その頻度はきわめて高いといえます。

排尿日誌をつけることによって,昼間・夜間・1日尿量,1回排尿量,昼間・夜間頻尿の程度を知ることができます。適正な水分摂取やその他の生活習慣指導を行うことができれば,下部尿路症状に悩まずにすむ高齢者が多くなると考えます。

 

 


[文献]

  • (1)本間之夫・西沢 理・山口 脩:下部尿路機能に関する用語基準:国際禁制学会標準化部会報告.日本排尿機能学会誌,14:278-289,2005.
  • (2)Osuga Y, Okamura K, Ando F, et al.: Prevalence of lower urinary tract symptoms in middle-aged and elderly Japanese. Geriatr Gerontol Int, 13: 1010-1017, 2013.
  • (3)岡村菊夫・長田浩彦・長浜克志ほか:一般内科医向きの排尿障害重症度評価基準.日本泌尿器科学会雑誌,97:568-574,2006.
  • (4)Homma Y, Yamguchi O, Kageyama S, et al.: Nocturia in the adult: classification on the basis of largest voided volume and nocturnal urine production. J Urol, 163: 777-781, 2000.
  • (5)岡村菊夫・鷲見幸彦・遠藤英俊ほか:「水分を多く摂取することで,脳梗塞や心筋梗塞を予防できるか?」システマティックレビュー.日本老年医学会雑誌,42:557-563,2005.
  • (6)北畠 顕・大内尉義・ 清原 裕ほか:虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2006改訂版). http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2006_kitabatake_d.pdf
  • (7)篠原幸人・小川 彰・鈴木則宏ほか:脳卒中治療ガイドライン2009. http://www.jsts.gr.jp/jss08.html
  • (8)Chan J, Knutsen SF, Blix GG, et al.: Water, other fluids, and fatal coronary heart disease: the Adventist Health Study. Am J Epidemiol, 155: 827-833, 2002.
  • (9)Sugaya K, Nishijima S, Oda M, et al.: Change of blood viscosity and urinary frequency by high water intake. Int J Urol, 14: 470-472, 2007.
  • (10)大菅陽子・下方浩史・岡村菊夫ほか:生活習慣は夜間頻尿の危険因子となるか.第60回日本泌尿器科学会中部総会,2010.12.1-2,名古屋.
  • (11)厚生労働省:熱中症を防ぐために ~国民の皆さまに取り組んでいただきたいこと~. http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001ei44-att/2r9852000001ei82.pdf
  • (12)Soda T, Masui K, Okuno H, et al.: Efficacy of nondrug lifestyle measures for the treatment of nocturia. J Urol, 184: 1000, 2010.
  • (13)岡村菊夫・大菅陽子・野尻佳克ほか:男性下部尿路症状・前立腺肥大症に対する生活習慣改善の効果.医療,68:223-229,2014.

[Plofile]

岡村菊夫(おかむら きくお)
国立病院機構 東名古屋病院 臨床研究部 部長,泌尿器科 医長
1954年 生まれ。1979年 名古屋大学 医学部 卒業,1994年 名古屋大学 医学部附属病院 講師。2004年 国立長寿医療センター 手術・集中医療部 部長。2012年 国立病院機構 東名古屋病院 泌尿器科部 医長。現在に至る。

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2014 医学出版
[出典]WOC Nursing 2014年8月号

p.53~「高齢者排尿ケアにおける飲水指導の重要性」

著作権について

この連載

  • 便秘|便秘のタイプ別アプローチ [12/04up]

    『WOC Nursing』2015年8月号<排尿・排便障害のアセスメント>より抜粋。 便秘のタイプ別アプローチについて解説します。   Point 患者の便秘がどのタイプにあたるのかを分類できる 便... [ 記事を読む ]

  • 在宅における失禁管理とスキンケア [07/23up]

    『WOC Nursing』2014年10月号<在宅で考える、褥瘡治療の基本と実際>より抜粋。 在宅における失禁管理とスキンケアについて解説します。   Point 高齢者の皮膚特徴と,失禁を伴うことによ... [ 記事を読む ]

  • 高齢者排尿ケアにおける飲水指導の重要性 [07/03up]

    『WOC Nursing』2014年8月号<高齢者排尿障害のアセスメントと対処~適切な排尿ケアの普及・啓発のために>より抜粋。 高齢者排尿ケアにおける飲水指導の重要性について解説します。   Point ...

  • 乾皮症,皮脂欠乏性皮膚炎 [12/01up]

    『WOC Nursing』2015年1月号<高齢者のかゆみ>より抜粋。 乾皮症,皮脂欠乏性皮膚炎について解説します。   Point ドライスキンとは何なのかを説明できる 乾燥を防ぐ対策と保湿剤を理... [ 記事を読む ]

  • 壊死性筋膜炎 [05/16up]

    『WOC Nursing』2015年9月号<創傷と細菌感染を考える~細菌感染を考慮した創傷管理>より抜粋。 壊死性筋膜炎について解説します。 Point 壊死性筋膜炎の早期診断のポイントを説明できる 壊死... [ 記事を読む ]

関連記事

いちおし記事

ナースコールが多い人の特徴

ナースコールがないのは、平穏な証拠…とは限りません。 [ 記事を読む ]

結核疑いの患者さんは「◯◯室」に入室。さて、◯◯に入るのは?

結核は、集団感染が起こりやすい疾患の一つです。集団感染を引き起こさないために、結核の疑いのある患者さんにはどのような部屋に入ってもらうでしょうか?検査法などとともに解説します。 [ 記事を読む ]

人気トピック

もっと見る

看護師みんなのアンケート

夜勤手当、いくらが妥当?

投票数:
639
実施期間:
2017年11月24日 2017年12月15日

院内勉強会…。忙しくても「出席したい」と思うテーマは?

投票数:
1417
実施期間:
2017年11月28日 2017年12月19日

摘便って得意?

投票数:
543
実施期間:
2017年12月01日 2017年12月22日

インフルエンザの症状、何がいちばんツラい?

投票数:
520
実施期間:
2017年12月05日 2017年12月26日

「これは腰にくる…」どの場面が一番ツラい?

投票数:
456
実施期間:
2017年12月08日 2017年12月29日

仕事で使うボールペン、推しメーカーある?

投票数:
385
実施期間:
2017年12月12日 2018年01月02日
もっと見る

今日の看護クイズ 挑戦者196

88歳男性の入院患者のAさん。強い便秘症状があり、自宅では毎日下剤を内服しており、入院後もその下剤を持参して服薬しています。「昨日は少量の便が出たが、下の方の腹が重苦しいし、腹が膨れてきた。張って苦しい」と訴えます。今日は硬便が少量あり、医師により指示されたグリセリン浣腸を実施しました。しかし、反応便は水様便少量と排液のみで、腹部症状の改善は見られませんでした。看護師のあなたがAさんに次に行う対応で最も適切なものはどれでしょうか?

  • 1.直腸に便がないか直腸診を試みる。
  • 2.再度グリセリン浣腸を実施する。
  • 3.グリセリン浣腸後、摘便を実施する。
  • 4.経過観察とする。
今日のクイズに挑戦!