『循環器ナーシング』2011年9月号<基礎から学び看護に活かす心電図・不整脈の3ステップ>より抜粋。
心電図波形の読み方について解説します。
Point
- まずは正常な心電図波形をしっかり覚えて,理解する.
- 正常な心電図波形を覚えると,「なにかおかしい?」と異常に気づけるようになる.
- 不整脈の出現,心拍数や波形の異常があった場合は,必ず患者のもとを訪れ,患者の状態を確認する.
山本夕子
(東京女子医科大学病院 心臓病ICU)
〈目次〉
心電図の基礎知識
心電図の種類
心電図とは,心臓の電気的刺激を図に表したものです.心電図には,標準12誘導心電図とモニター心電図(3点誘導)があります.
標準12誘導心電図
標準12誘導心電図とは,四肢にひとつずつ装着した4個の電極(四肢誘導)と,胸部に装着した6個の電極(胸部誘導),合わせて10個の電極で,12の方向に電気の流れ(12誘導)を測定するものです.患者を横にして10~20秒間安静にして測定をします.
図1標準12誘導心電図
四肢にひとつずつ装着した4個の電極(四肢誘導)と,胸部に装着した6個の電極(胸部誘導),合わせて10個の電極で,12の方向に電気の流れ(12誘導)を測定する.
標準12誘導心電図は心電図の基本となるもので,心臓に起きている異常を把握するうえで必要不可欠です.通常,医師が心臓病の診断を行う際に使用します.とくに虚血性変化などの詳細な判定に優れています.
しかし,装着する電極数が多く,患者の安静が必要なので,24時間連続した観察には向きません.また,不整脈などを感知してアラーム音を鳴らすことはできません.
モニター心電図 (3点誘導)
モニター心電図は私たちが患者のベッドサイドやナースステーションで目にする機会が多い心電図です.
図2モニター心電図
患者のベッドサイドやナースステーションに設置してある.胸部に3個の電極を装着し,3点誘導で測定する.現在のモニター心電図の多くはマルチモニターと呼ばれ,心電図波形だけが表示されるのではなく,血圧や呼吸数,体温など複数の項目をモニターできる.
モニター心電図とは,胸部に3個の電極を装着して,3点誘導で測定するものです.
標準12誘導心電図とは異なり,少ない電極数で,患者が安静にしていなくても,24時間連続して心電図波形を観察することが可能です.リアルタイムで異常の早期発見・対処が行えます.
また,自動的に不整脈を判別して数えてくれるので,不整脈の早期発見ができます.適切なアラーム設定を行えば,突発的な異常をアラーム音で知らせてくれます.その他さまざまな機能がありますので,使用している心電図モニターの取り扱い説明書で確認してください.
ただし,詳細な心臓の状況を確認するには,モニター心電図だけで判断せず,標準12誘導心電図をとる必要があります(2).
現在のモニター心電図の多くはマルチモニターと呼ばれ,心電図波形だけが表示されるのではなく,血圧や呼吸数,体温など複数の項目をモニターできます.モニター心電図は,使用する場所などにより,いくつか種類があります.
- 患者のベッドサイドに設置する,ベッドサイドモ ニター
- ナースステーションなどに設置し,各患者のベ ッドサイドモニターから送信された複数患者の 情報を一括して観察できる,セントラルモニター(図3)
- 患者が移動するときにベッドなどに引っ掛けて, 移動中も観察できる移動時用モニター
などです.
図3セントラルモニター
ナースステーションなどに設置し,各患者のベッドサイドモニターから送信された,複数患者の情報を一括して観察できる.
皆さんが日頃目にしている心電図モニターに実際に触れて,どんな機能があるのか確認をし,取り扱いに慣れておくと安心です.
心電図波形の読み方
心電図の基本波形
心電図とは,心臓の電気的活動を体表面から波形として記録したものです.
図4心電図の基本波形
正常な心電図波形は,おもに4つの波からできている.まず「P波」という小さな波から始まり,それに続くP波よりも尖って大きな波の「QRS波」,そしてなだらかな波の「T波」が続き,最後に小さい「U波」がみられ,これが繰り返されていく.それぞれP・R・S・T・Uの高さ,P・QRS・T・U波の幅,PQ時間,QT時間の範囲を示している.
正常な心電図波形は,主に4つの波からできています.
まず「P波」という小さな波から始まり,それに続くP波よりも尖って大きな波の「QRS波」,そしてなだらかな波の「T波」が続き,最後に小さい「U波」がみられ,これが繰り返されていきます.
この4つの波が,1回の心臓の収縮と拡張を表し,1心拍となります.また,P波の始まりから次の始まりまでを結んだ線を「基線」といい,基線より上向きに現れる波を陽性波,下向きに現れる波を陰性波といいます.
心臓は「洞結節」から規則的に刺激を出しています.この洞結節から発生した刺激は心房に伝わり,房室結節→ヒス束→右脚・左脚へと興奮が伝わります.この心房から心室までの正常な心臓のリズムを「洞調律(sinus rhythm)」といいます.
P波
P波とは小さな波で,正常の心拍では一番初めに始まる刺激で,心房の興奮を示しています.
心臓の刺激は,右心房の一番右上にある「洞結節」というところから発生し,それがまず右心房を興奮させ,それに続いて左心房を興奮させます.そのため,P波の前1/3は右心房の興奮を,中1/3は右心房と左心房の両方の興奮を,後1/3は左心房の興奮を表しています.右心房に負荷がかかるとP波の前1/3に変化が,左心房に負荷がかかるとP波の後1/3に変化が表れ,P波の形がふたこぶになったり,谷ができたりします.
また,P波の幅は0.12秒(3mm)以内が正常です.3 mm以上の場合は,心房に負荷がかかって拡大していることを示します.高さの正常は0.25 mV以下です.ちなみに,洞結節の興奮は非常に小さいので,心電図でみることができません.
QRS波
QRS波はP波に続き,P波より尖って大きい波です.心房からの刺激が刺激伝導系を通って,心室(ヒス束→右脚・左脚)が興奮したときに起こる波形です.
最初の下向きの波をQ波,それに続く大きな山をR波,その後ろに続く下向きの波をS波といいます.これら3つの波を合わせて「QRS波」と呼びます.QRS波の幅は0.06~0.10秒(2.5mm)以内が正常です.またR波は25mmまでの高さ,S波は25mmまでの深さが正常です.
T波
T波とは,QRS波の後に続くなだらかな山で,心室が興奮から醒めていく過程(再分極)を表します.
T波の幅の基準は0.10~0.25秒です.高さは1.0mV以下で,かつR波の1/10以上です.
T波の高さが異常を示す原因は,左室肥大,心筋梗塞,電解質異常(T波の高さが増す:高カリウム血症,T波の高さが減る:低カリウム血症)があります.
U波
T波の後にとても小さな山がある場合があり,それをU波といいます.U波の成因は,再分極の終わりやプルキンエ線維の興奮を表すなどありますが,いまだはっきりとわかっていません.U波の幅の基準は0.16~0.25秒,陽性波で高さは0.2mV未満ですが,モニター心電図上でははっきりみることができません.
PQ時間 (間隔)
P波の始まりからQ波までをいいます.洞結節から心房,房室結節を通って心室へ伝わるまでの時間を示します.PQ時間の正常範囲は0.12~0.20秒であり,0.20秒以上はI度房室ブロックとなります.
QT時間 (間隔)
Q波の始まりからT波の終わりまでをいいます.心室の興奮開始から興奮がすべて終わるまでの時間を示します.QT時間は心拍数によって変化してしまうので,心拍数(RR時間)で修正した値で評価する必要があります.
修正QT時間(QTC)=実測のQT時間/√RR時間
QT時間の基準は0.30~0.45秒です.
QT時間の延長は心室細動が起こりやすいので注意が必要です.目安としては,実測したQT時間が0.48秒(12mm)を超えている場合です.その他にQT時間が延長する原因として,抗不整脈や向精神薬の一部などの薬剤性や電解質異常があります.
RR間隔
RR間隔とは,R波の頂点と次のR波の頂点までの長さのことを示します.これから心拍数を計算することができます.
ST部分
QRS波の終わりからT波が始まるまでをいいます.電気的に安定している箇所なので,正常な場合は基線と一致しますが,電気的に不安定な場合は基線から上下にずれが生じます.心筋梗塞の特徴的な所見のひとつに挙げられていて,重要なポイントです.
ST上昇の原因は急性心筋梗塞や急性心膜炎など,ST低下の原因は狭心症や左室肥大などです.ただし,モニター心電図での判別は難しく,標準12誘導心電図で判定する必要があります.
MEMO1 心筋梗塞の特徴的な3つの所見
- ST変化
- 異常Q波:幅が広く,深いQ波で,幅が0.04秒以上,深さがR波の幅の1/4以上のQ波のことをいいます.
- 冠性T波:通常T波は上向きに示されますが,虚血性の変化により下向きに表れるものをいいます.
正常洞調律(normal sinus rhythm)
洞調律とは,洞結節(sinus node)がペースメーカー(歩調取り)としての役割を正常に果たしていて,その刺激が心房・心室に伝わって,心臓が正常に動いている状態です.
洞結節から発生した刺激は心房に伝わり,房室結節→ヒス束→右脚・左脚へと伝わって,心室が正常に収縮します.
心電図では,P波,QRS波,T波が正しく規則的に現れて,一定のリズムで繰り返されます.
図5正常洞調律
P波があることが重要なポイントなので,モニター心電図では,P波がはっきり確認できるⅡ誘導を選択します.Ⅱ誘導でP波が確認できない場合には感度を調整し,それでもP波が確認できないときは,他の誘導に切り替えてみます.
図6正常洞調律波形
P波,QRS波,T波が正しく規則的に現れて,一定のリズムで繰り返される.
MEMO2 正常洞調律波形のポイント
- P波:必ずある,正常
- PQ間隔:整で,0.2秒(5マス)以内
- QRS波:幅は狭く(0.10秒以内),形は正常
- PP間隔とRR間隔:それぞれ整
- 心拍数:60~100回/分(成人)
心電図の記録用紙の見方
記録用紙の見方
図7心電図記録用紙
記録用紙は方眼紙になっていて,横軸は電気的興奮が心臓を進む時間,縦軸はその電位の大きさを表しています.
この方眼紙は,縦と横が1mm(1マス)で,5mm(5マス分)ごとに太い線で区切られています.横軸は1mmが0.04秒で,縦軸は1mmが0.1mV(ミリボルト)です.
つまり,5マス分の太い線(5mm)は,0.04秒×5=0.2秒になり,太い線5つ分(25mm)で,0.2秒×5=1秒になります.記録用紙の速度は1秒間に25mmの速さで流れています(25mm/秒).
心拍数の計算の仕方
正常洞調律の心電図から心拍数を計算することができます.
心拍数は自動的にモニター画面に表示されるので,計算の必要があるのか? と思われるかもしれません.しかし,画面に表示される心拍数は,心電図波形の形や大きさによって,実際の心拍数と異なった値が表示されることがあるので注意が必要です.
心拍数とは,1分間に心室が収縮する回数です.1回の心拍はR波で示されます.つまり,1分間(60秒)にRR間隔が何個あるのかを計算すればわかります.
計算には2つの方法があります.
①心拍数=60(秒)÷RR間隔(秒)
②心拍数=1500mm(60秒のmm)÷RR間隔(mm)
例)RR間隔が28mmであった場合
①28mmは,28(mm)×0.04秒(記録用紙1mmの秒数)=1.12(RR間隔の秒),60(秒)÷1.12(RR間隔の秒)≒53で,心拍数は53回/分です.15mmの場合は,15(mm)×0.04=0.6,60÷0.6=100回/分です.
②記録用紙の1秒は25mmなので,60秒は25mm×60=1500mmとなります.RR間隔が28mmの場合は,1500mm÷28mm≒53回/分,15mmの場合は,1500mm÷15mm=100回/分です.
RR間隔のなかに太い線(5mm)がいくつあるかを数えることでも,およその心拍数がわかります.
太い線5個(25mm)が1秒,よって1分間にある太い線は60(秒)×5個=300個なので,RR間隔のなかに太い線がいくつあるかを数えます.
300÷RR間隔のなかにある太い線の数
=およその心拍数(図8)
図8およその心拍数の数え方
RR間隔のなかに太い線(5mm)がいくつあるかを数えることでも,およその心拍数がわかる.太い線5個(25mm)が1秒,1分間にある太い線は60(秒)×5個=300個なので,RR間隔のなかに太い線がいくつあるかを数える.300÷RR間隔のなかにある太い線の数=およその心拍数であるので,RR間隔のなかに,太い線がひとつならば300回/分,2つなら150回/分,3つなら100回/分,4つなら75回/分,5つなら60回/分,6つなら50回/分となる.
RR間隔のなかに太い線がひとつならば300回/分,2つなら150回/分,3つなら100回/分,4つなら75回/分,5つなら60回/分,6つなら50回/分となります.
正常洞調律の心拍数は,年齢や個人によって正常範囲が異なるので注意が必要です(表1).
表1正常洞調律の心拍数
モニター心電図観察中の注意点
アーチファクト
アーチファクトとは,「人工産物(ノイズ)」という意味です.
心電図波形にこのアーチファクトが混入すると波形判定に支障をきたすので,できるかぎり除去をします.もしみられた場合は,必ず患者の元を訪れ,患者の状態を確認しましょう.
アーチファクトの種類と対処
(A)交流障害:周辺電気機器類などの電流が混入すると起こります.
⇒周辺電気機器類の電源を切ったり,遠ざけたり,アースを使用したりすることなどで改善します.
(B)モニターや電極の外れ,接触不良
⇒電極やコードが正確に接続されているか確認をします.電極は平坦で動きが少なく,剥がれにくい場所に貼ります.電極が乾燥している場合は新しい電極につけ替えます.
(C)筋電図の混入:体動時の筋肉の収縮によって,基線の細かい揺れがみられます.患者が緊張や寒さで震えている,また咳などで起こります.
⇒保温や精神的安定を図り,電極の装着部位を筋肉の動きが少ない場所に変えてみます.
(D)体動や呼吸に伴う基線の揺れ
⇒患者の行動を確認するとともに,電極の装着部位やモニターの誘導を変えるなどして,きれいな波形が出るようにします.とくに呼吸性変動は,横隔膜付近や肋骨の間に電極を貼ると起こりやすいので注意しましょう.
図9アーチファクト 4つの波形
モニター心電図観察中の注意点
- 不整脈の出現,心拍数や波形の異常があった場合は,必ず患者のもとを訪れ,バイタルサイン・呼吸・循環動態や患者の意識レベルを確認します.そしてすぐに医師や他の看護師に報告して適切な処置を行います.
- 必ず各勤務の始めに心電図波形を記録します.心電図の判読には,波形を比較することが重要だからです.そのためにも,正常時,臥床での波形は必ず記録をとります.また波形の変化があれば,その都度すぐに記録をします.
- 必ず以前の心電図波形と比較をし,変化がないかを確認します.正常な波形だと思っていても,以前と比べて変化をみる必要があります.
- 体動時,ケアや処置時に波形が変化することがあるので,注意して観察をします.
- なんらかの理由で電極の位置を変えたとき,不整脈出現時,胸痛時などは忘れずに記録します.
- アーチファクトはできるかぎり除去しましょう.
- 必ず適切なアラームの設定を行い,アラームが鳴ったときは必ずその理由を確認し,観察や対応を行います(アラームの設定は医師に確認し,患者個人の状態に合ったものを設定します).
- ナースステーション内でモニタリングしている場合は,ステーション内を長時間にわたって無人にしないようにします(3).
[関連記事]
[引用文献]
[Plofile]
山本夕子(やまもと ゆうこ)
東京女子女子医科大学病院 心臓病 ICU
1971年9月19日生まれ.東京女子医科大学看護短期大学卒業.東京女子医科大学病院 心臓病ICUに勤務.2010年 東京女子医科大学大学院 看護学研究科 博士前期課程(看護職生涯発達学専攻)修了.
*略歴は掲載時のものです。
本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2011 医学出版
[出典]循環器ナーシング2011年9月号
P.21~「心電図波形の読み方」