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2015年07月02日

心臓の解剖と刺激伝導系の役割|心電図の基礎を学ぼう

『循環器ナーシング』2011年9月号<基礎から学び看護に活かす心電図・不整脈の3ステップ>より抜粋。
心臓の解剖と刺激伝導系の役割について解説します。

 

Point

  • 心臓の構造は,機能と対比させながらみていくとその理解が深まる.
  • 洞房結節は,右心基部にある.
  • 特殊刺激伝導系の走行には原則がある(例:ヒス束は貫通部と分枝部に分かれる).
  • 房室結節の機能と構造の関係はいまだ確立されていない.

井川 修
(日本医科大学多摩永山病院 内科・循環器内科 臨床教授)

〈目次〉

心臓の解剖と刺激伝達系の役割

心臓(図1)は重量300〜400g,握りこぶしよりやや大きめの筋肉ポンプです.1日に約10万回,一生では約25億回,ひとときも休むことなく打ち続ける神秘的な臓器です.

図1心臓の概観 AV groove:房室間溝

心臓の概観 AV groove:房室間溝
ポンプといえば,貯めた液体に圧力をかけて前に送り出そうとする機械をイメージします.

決して間違いではないのですが,この心臓ポンプは,①全身に血液を送り出す機能(収縮機能)に加えて,②全身から血液を吸い込む機能(拡張機能)を備えています.この心臓の収縮機能と拡張機能のどちらが障害されても,機能不全(心不全)に陥ります.

このポンプ機能は自律神経により,100〜1000分の1秒単位で厳密にコントロールされています(正確にいえば,電気的にコントロールされています).

ここでは,心臓の機能をイメージし,それに対応させて心臓構造を詳細に考えていきましょう.

心臓構造・機能のイメージについて

上述のとおり,心臓のイメージはたしかにポンプです.

しかし,このポンプは勝手に動くわけではなく,「動け(収縮せよ)」という命令がきてはじめて動きます(収縮する)(機械的作業).規則正しい命令がくれば,ポンプは規則正しく動き,不規則な命令がくれば不規則に動きます.このポンプは,とても素直な機械なのです.

では,この命令とはどのようなものなのでしょうか?

答えは,電気的な命令(興奮)です.その電気的命令(興奮)は,私たちの身体のなかに備わった発電所のなかで常に生成され,電線を伝わりポンプへ送られます.

図2に描いたこれだけの事実から,心臓システムは2つのパート,つまり,①電気的命令系統と②機械的作業系統から成り立っていることがわかります(表1).

図2心臓のイメージ 発電所とポンプの関係

心臓のイメージ 発電所とポンプの関係

表1心臓のシステムの考え方とその障害に伴う病態

心臓のシステムの考え方とその障害に伴う病態

この電気的命令系統の様子を表現したものが心電図検査です.

ちなみに,機械的作業系統の様子を表現したもののひとつが心臓超音波検査です.

したがって,心電図はどのような電気的命令がポンプに送られているかを表現しているものであり,決して機械的作業系統の様子,つまりポンプがどのように収縮しているかを表現したものではありません.

心臓は,電気的命令系統と機械的作業系統の両系統が正常であってはじめて正常なポンプとして機能し,正常な血圧を作り出します(表1①).

たとえば,電気的命令系統が正常(心電図所見が正常)であっても,機械的作業系統に異常(心筋障害)があれば血圧は上がりません(表1②,心不全).また,いくら健常なポンプ(正常心筋)があっても,よい命令がポンプにこなければ(あるいは異常な命令〔不整脈〕がポンプにくれば)正常な心拍出は得られず,血圧は上がりません(表1③).

心臓システムの両系統はいずれも筋肉です.機械的作業系統は心臓の収縮を担う役目の筋肉であり,固有心筋と呼ばれます.一方,電気的命令系統は興奮生成・伝播を担う役目の筋肉であり,収縮には関与しません.

これを特殊心筋(別名:特殊刺激伝導系)といいます(表2).

表2心臓のシステムからみた心臓疾患の考え方

心臓のシステムからみた心臓疾患の考え方


特殊心筋のうち,電気的命令(興奮)を作り出す機能を持ち,発電所の役割を果たしている組織が洞房結節(sinoatrial node;SAN)です.

この組織は全身状態に合わせて,しかるべき数の電気的命令(興奮)を作り出しポンプに送っています.

図3刺激伝導系のイメージとその構成組織との対応関係

刺激伝導系のイメージとその構成組織との対応関係

図3に示すとおり,洞房結節で作られた電気的命令(興奮)は,洞房結節→心房→房室結節→ヒス束→脚→プルキンエ系→心室(ポンプの根源)へと送られていきます.

図4胸部X線写真正面画像の心陰影内に心臓システムを描いたもの

胸部X線写真正面画像の心陰影内に心臓システムを描いたもの

図4は,胸部単純X線写真正面像の心陰影内に心臓システムのイメージを描いたものです.

この特殊刺激伝導系の機能(興奮の生成と伝播)が,自律神経系によりコントロールされているのです.


心室に電気的命令(興奮)が到達し,「心室筋全体(ポンプ)に収縮せよ」との命令(興奮)が行きわたってはじめて電気的命令系統の役割が完了します.ここから先は機械的作業系統の役割となります.

正常な収縮が行われ血圧が上がるかどうかは,心筋収縮力の状態によります.

心臓疾患の考え方

表1表2に示したとおり,心臓システムは2つのパートから構成されていますが,心臓疾患のイメージもそれぞれパートに分けて考えるとわかりやすいです.

つまり心臓疾患は,①電気的命令系統が障害される病態・特殊刺激伝導系が障害される病態(特殊刺激伝導系が撹乱される病態ともいえます),②機械的作業系統が障害される病態(固有心筋が障害される病態)に分けることができます.

①の病態がまさに不整脈です.②には心筋梗塞,心筋症,心筋炎,その他の心筋疾患などが含まれます.

心筋が障害されると不整脈源性を獲得するようになるので,②の病態は,よく①の不整脈を合併しています(表2).

電気的命令系統(特殊刺激伝導系)と心電図の関係

正常心電図所見について

心電図上には3つの成分が認められます.P波,QRS群,そしてT波です.

この心電図波形と上述の刺激伝導系との対応関係は,どのように考えればよいのでしょうか?

図5に,その対応関係を示します.

図5心電図上に表現される刺激伝導系構成組織の脱分極と再分極波形

心電図上に表現される刺激伝導系構成組織の脱分極と再分極波形

心電図上には心房の脱分極波形(P波)と心室の脱分極波形(QRS群)および再分極波形(T波)のみが表現され,それ以外の波形は記録されない.

正常心電図所見と特殊刺激伝導系

発電所(洞房結節)で生成された電気的命令(興奮)は,電線(刺激伝導系)を伝わってポンプ(心室)に伝播します.

その興奮生成および興奮伝播過程で,興奮が通過していくそれぞれの組織は必ず,2つの状態(興奮する状態〔脱分極〕と興奮からさめる状態〔再分極〕)をとります.

たとえば,興奮が房室結節に進入し,その組織内を伝播すると,その過程で房室結節は必ず,脱分極状態と再分極状態をとります.これら2つの状態変化は,2つの電位変化といい換えることもできます.

したがって,理論的にはその電位変化に対応する2つの電位波形が存在し,心電図波形としても存在するはずです.つまり,2×(通過する組織の数)だけの状態が存在し,その状態の数に対応するだけの心電図波形が存在しているはずです.

しかし上記のとおり,心電図上には3つの波形(心房の脱分極波〔P波〕,心室の脱分極波〔QRS群〕および再分極波〔T波〕)しかありません(図5).

理論的に存在する波形の数より明らかに少ないのは,本来,多くの微小電位変化があるにもかかわらず,心電図記録システムでは捉えきれないためです.

捉えられたのがP波,QRS群そしてT波だけなのは,心電図記録システムの限界を示しているといえます.

心電図記録にみえるもの

以上より,私たちが心電図上で確認できるものは,「心房の現象(P波)」と「心室の現象(QRS群とT波)」しかなく,それ以外の特殊刺激伝導系組織の機能は,この2つの現象から推測・評価していくしかありません.

大切なことは,心電図上に「心室の現象(脱分極と再分極)」のすべてが完璧に表現されているということです.

特殊刺激伝導系について

洞房結節にはじまる刺激伝導系は,洞房結節→(心房)→房室結節→ヒス束→脚→プルキンエ系→(心室)と表現できます.

房室結節細胞群は中心線維体(central fibrous body;CFB)に進入してヒス束に移行します.ヒス束はCFBを貫通すると(ヒス束貫通部),膜性中隔下縁(別な言い方をすると筋性中隔上縁)に沿って走行し,脚へ移行します(後述).

ヒス束は,CFBを貫通すると,その直後より左側へ枝分かれしはじめます(ヒス束分枝部).刺激伝導系はヒス束から右脚と左脚に分かれ,右脚は,右室中隔縁柱および調節帯のなかを走行しながら右室前乳頭筋基部に到達します.

左脚はさらに前枝と後枝に分かれ,左脚前枝は左室前乳頭筋基部に,左脚後枝は左室後乳頭筋基部に到達します(後述).いずれも心内膜に張り巡らされたプルキンエ線維網に移行します.

興奮はこのようにして心室筋にbreakthroughし,速やかに心室全体に行きわたり,心室への「打て」という命令を完成させます.

心臓の構造

心臓の概観

図1は,心臓を胸郭より取り出した直後の様相です.

心臓は黄色の脂肪組織(pericardial adipose tissue)で覆われています.図上では確認が難しいですが,この心臓標本は,その表面にある臓側心膜(visceral pericardium,別名:心外膜;epicardium)によって覆われています.

心筋表面の観察は,このepicardiumを除去し,脂肪組織を取り除くことで可能となります.

図6は別の標本ですが,図1のような心臓表面にある脂肪を除去後,やや右斜め前上方より観察したものです.

図6右側前上方からみた心臓の様相

右側前上方からみた心臓の様相

右側前上方からみた心臓の様相

右室前壁に存在した脂肪組織を用手的に除去し,心室表面・右冠動脈を剖出したものである.右心耳のlateral free wall が観察できる.解剖学的に右心耳は分界溝(TG,赤矢印)の前方領域と定義される.

右心系がよく観察でき,上大静脈(SVC),右心耳(RAA),右室(RV),肺動脈幹(PT),右冠動脈(RCA)などが確認できます.また,上行大動脈(AAo)も認めます.

右房をみてみると,右房は明らかに表面の様相を異にする2つの領域から構成されていることがわかります.

前方の暗紫色の部分は原始心房由来の組織,後方の淡い桃黄色の部分は静脈洞右角に由来する組織です.両者の境界は明瞭で,分界溝(terminal groove;TG)と呼ばれる線で分けられています.

解剖学的定義では,この分解溝より前方を右心耳と定義しています.この分解溝は,右房内腔に突出する分界稜(terminal crest;TC〔後述〕)と呼ばれる稜状構造物に対応する構造物です.胎生期,原始心房と静脈洞の間には洞房口と呼ばれる境界が存在しますが,この洞房口に由来する筋肉組織が右房内腔に突出したものが分界稜です.

分界溝は右心耳基部から右房側壁に確認できます(図6).

洞房結節は,この分界溝上の右心耳基部近傍に位置します(後述).

図6ではみえにくいのですが,RCAの分枝の洞房結節動脈(黄矢印,sinus node artery;SNA)が洞房結節を栄養しています.ときに,洞房結節は左冠動脈回旋枝の分枝により栄養されます.

心臓内腔の概観

右心系内腔の様相

●右室内の様相

図7は,剖検心において上大静脈から右房,右室へ前外側で切開を入れ,さらにはその切開を右室流出路にまで延長し,右心系全体を展開したものです.

図7右室流出路内腔の様相

右室流出路内腔の様相

心臓を心室間中隔(白線)に沿って右室側で切開し(A),左右に展開したもの(B).右室側の心室間中隔で,内腔に突出する中隔縁柱(SMT)および調節帯(MB)を認める.

右室壁厚は5mm,右房と右室は三尖弁によって分けられ,それは前尖,中隔尖,後尖の3つの弁尖で構成されています.図ではわかりにくいのですが,その大きさは前尖>中隔尖>後尖の順となっています.

右室は臨床的に流入路と流出路に分けられますが,構造からみるとそれを分けている境界は,中隔縁柱(septomarginal trabecula;SMT)と呼ばれる筋肉束です.その一部は心室間中隔(interventricular septum;IVS)を走行しますが,この筋肉束はしだいに中隔を離れ右室内を走行し(調節帯:moderator band;MB),その先端は右室前壁で右室前乳頭筋基部に付着します.

重要な点は,この筋肉束のなかを右脚が走行していることです.

右脚から右室前壁に至った興奮は,プルキンエ線維から右室心筋にbreakthroughします.右室の肉柱は後述する左室の肉柱よりも粗いのですが,右室流出路中隔に肉柱は存在せず,その表面は平滑です.

右房内の様相

前述したとおり,洞房結節は右心耳基部の分界稜上に位置していますが,そのおおまかな位置を右心耳造影の正面透視像でみると,図8の赤丸あたりに相当します.

図8右心耳造影の正面透視像(A)およびその模式図(B)における洞房結節の位置

右心耳造影の正面透視像(A)およびその模式図(B)における洞房結節の位置

理論的には右心耳基部(赤丸)に洞房結節が存在するものと考えられる.

よく,その存在部位を右房外側縁領域に示してある図をみかけますが,それは正確ではありません.

この組織は線維性成分に富むやや小型の細胞群で,その組織の中心を,上述の洞房結節動脈が貫通しています.この解剖学的な特徴を利用すれば,洞房結節の位置を胸部X線透視下に推測できます.

洞房結節で生成された興奮が,心房に伝播することによりP波が形成されます.

この洞房結節から心房までの伝導時間は洞房伝導時間(sinoatrial conduction time)といわれ,心臓電気生理検査(electrophysiological study;EPS)によるおおまかな測定は可能ですが,心電図上では確認できません.その時間は約100msec程度(心電図記録上では半マス程度)※とされています.

※1マス(5mm)が0.2秒(200msec)

右房内には陥凹した卵円窩(oval fossa;OF)がみられます.

卵円窩は心房間中隔(interatrial septum;IAS)の中心と考えてよい構造物ですが,IASはその周辺の限られた部分であることに注意してください.

また,櫛状筋(pectinate muscle;PM)によって凹凸表面を呈している領域が右心耳です.右心耳基部から上大静脈を前方より取り巻く稜状構造物がみられますが,これが上述の分界稜です.また,三尖弁中隔尖−後尖交連部近傍の右房側に冠状静脈洞開口部(CSos)がみられます.

分界稜は,心房中隔に始まり上大静脈前方を横切って下降し,右房側壁から下大静脈前方に至る右房構造物のひとつです.下大静脈前方からは下大静脈弁(the valve of IVC,別名:eustachian ridge;ER)となって冠状静脈洞(coronary sinus;CS)開口部へ至ります.このERは冠状静脈洞開口部で冠状静脈洞弁(the valve of CS,別名:テベシウム弁〔Thebesian valve;Th.V〕)に移行します(図9).

図9心臓四腔断面

心臓四腔断面

右房では下大静脈−三尖弁輪間峡部(CTI)が明瞭に観察でき,ERが移行するテベシウス弁も冠状静脈洞開口部に確認できる.

図10右房内腔の様相

右房内腔の様相

標本は右房側壁から右室基部にかけて切開し展開したもの.標本の背面,つまり左房および左室より光を照射しているが,その薄い壁厚のために光を透過する卵円窩(OF)および膜性中隔(MS)が印象的である.

図10は,標本の背面(左房および左室)より光を照射したときの様相ですが,卵円窩の部位と同様に,三尖弁中隔尖−前尖交連部の三尖弁弁輪をみると光を透過している部位が認められます.

この部位は膜性中隔と呼ばれる楕円形の線維性膜状構造物ですが,この構造物は,右心側からみると三尖弁中隔尖により,右房側膜性中隔(房室中隔膜様部)と右室側膜性中隔(心室中隔膜様部)に分けられます.また左室側からみると,膜性中隔は大動脈弁無冠尖直下の左室領域の一部として認識できます(図11).

図11右心系および左心系を切開・展開した像

右心系および左心系を切開・展開した像

いずれも標本に裏側から光を照射している.光を透過する部位(赤矢印先端で囲む領域)が膜性中隔である.両方の図は表と裏の関係となっている.

重要な点は,膜性中隔は筋性中隔(心房間中隔および心室間中隔)の上に張っており,特殊刺激伝導系(ヒス束)が膜性中隔下縁(いい換えれば,心房間および心室間中隔上縁)を走行していることです(図12).

図12膜性中隔と特殊刺激伝導系の位置関係を示した模式図

膜性中隔と特殊刺激伝導系の位置関係を示した模式図<

Kochの三角(Koch's triangle)

この膜性中隔を頂点とし,上述した冠状静脈洞開口部,三尖弁輪を結ぶ三角形はKochの三角と呼ばれ,この部位に刺激伝導系の房室結節(解剖学的情報より正確にいえば,房室結節およびヒス束)が存在するとされています(図12).

同部位近傍(房室結節遅伝導路)を,電位指標をもとにアブレーションすることで,房室結節リエントリー性頻拍の根治が得られることはよく知られているところです.しかし,この部位に関する解剖学的情報と電気生理学的情報の正確な対応関係は,いまだ不明といわざるを得ません.

三尖弁輪−下大静脈間峡部(cavotricupid isthmus;CTI)

図9では,三尖弁輪(正確にいえば,三尖弁後尖〔PTL〕弁輪)−下大静脈(IVC)間領域(峡部)が確認できます.

同部位をリエントリー回路に含む通常型心房粗動に代表される頻拍は,峡部依存性リエントリー性心房頻拍と呼ばれ,カテーテルアブレーション治療のよい適応とされています.同部位へのカテーテルアブレーション治療によりCTI領域での伝導ブロックが得られ,頻拍根治が得られるからです.

左心系内腔の様相

左室内の様相

図13左室・左房後壁を切開し展開した固定前の標本

左室・左房後壁を切開し展開した固定前の標本

前乳頭筋は前交連部,僧帽弁前尖および後尖の前半部を,後乳頭筋は後交連部,前尖および後尖の後半部を腱索を介して支えている.

図13は左房後壁,僧帽弁後尖中央,左室後壁に沿って左心系を切開,左右に展開したものです.

左房と左室は僧帽弁(mitral valve)によって分けられます.僧帽弁は,前尖(anterior mitral leaflet;AML),後尖(posterior mitral leaflet;PML)の2つの弁尖で構成されています.左室壁厚は10mmです.

図13のとおり,弁尖の弁輪への付着領域は前尖<後尖ですが,その大きさ(面積)は前尖=後尖です.図左が後壁側,図右が前壁側です.弁尖は乳頭筋より伸びている多くの線維性支持組織(腱索;tendinous chordae)により支えられています.

前乳頭筋群からの腱索は前交連および前尖および後尖の前方部分に,後乳頭筋群からのそれは後交連,前尖および後尖の後方部分にそれぞれ伸びて弁尖を支持しています.左室の肉柱は右室程には粗くありません.

図14大動脈弁直下左室流出路の様相

大動脈弁直下左室流出路の様相

大動脈から左室にかけて心室間中隔に沿って切開,展開したもの

一方,図14に示す大動脈弁直下領域の表面は平滑です.

重要な点は,前乳頭筋群には左脚前枝が,後乳頭筋群には左脚後枝が分布しているということです.刺激伝導系を下降してきた興奮は,この部位でプルキンエ線維を介して前・後乳頭筋をまず興奮させ,やや遅れてこれらの部位より左室プルキンエ線維網に興奮が伝播して心室筋全体を興奮させます.

つまり刺激伝導系からの命令は,まずは前・後乳頭筋を収縮させて僧帽弁をしっかり支持し,その反転を防ぎ,次にその周辺左室筋を収縮させて血液を押し出させようとしています.

したがって前・後乳頭筋群の興奮は,QRS群の初期成分を形成していることになります.

左房内の様相

左房は,櫛状筋の発達した左心耳以外は比較的表面が滑らかな印象を受けます.

左房後壁の壁厚は3mm以内です.心房中隔も,右房にある卵円窩のような明瞭な陥凹はなく,どこが心房中隔と左房自由壁との境界か見分けがつきません(図13).ただ,心房中隔の一部の皺(1次中隔の遺残)は確認できます(図13赤矢印).

心房細動の機序として,左右の上・下肺静脈内の異常電気的現象はよく知られています.剖検時,心臓・大血管取り出しにあたり肺静脈は,基部のごく一部しか切り出すことができません.このため,肺静脈を末梢まで追うことができず,残念ながら図中には明瞭に示されていません.

心臓の静脈系

心臓血管系は,動脈系については他コラムに譲り,ここでは不整脈機序・治療に関係する静脈系のみについて簡単に紹介します.

図15は心臓の静脈系の模式図です.きわめて個人差があるため,ひとつの図では書けません.しかし,基本骨格は同様であるため,ここにその代表的な模式図を示します.

図15心臓の静脈系

心臓の静脈系

基本骨格であるが,心臓静脈系は個人差がきわめて大きい.

静脈系で押さえておきたいのは,冠状静脈洞,左心房斜静脈(別名:Marshall静脈),大心静脈,小心静脈,前室間静脈,後室間静脈,辺縁静脈,左室後静脈です.

冠状静脈洞は静脈といってもその周囲に筋肉(心筋鞘;myocardial sleeve)が取り巻いています.この冠状静脈洞開口部は右房内腔から観察できます.

大心静脈および左心房斜静脈の合流点には,ときにVieussens弁と呼ばれる静脈弁が存在し,それより中枢側を冠状静脈洞と呼びますが,その長さは2〜4cm程度です.教科書的に冠状静脈洞調律(左房調律)と呼ばれる無害なリズムをときどきみかけますが,この部位の筋肉からの自動能と考えられなくもありません.

以上,心臓の構造の基礎を機能と関連づけて紹介しました.

 

参考心臓に関連する略語一覧

 

 


[参考・引用文献]

  • 井川 修:臨床心臓構造学—不整脈診療に役立つ心臓解剖.医学書院,2011.

[Profile]

井川 修(いがわ おさむ)
日本医科大学多摩永山病院 内科・循環器内科 臨床教授

1976年 大阪府立大学工学部航空工学科卒業.1987年 鳥取大学医学部大学院内科系卒業.1999年 ノースウェスタン大学 客員講師,2003年 鳥取大学循環器内科 准教授,2009年 同 循環器内科 科長・附属病院 診療教授を経て,2010年より現職.

*略歴は掲載時のものです。


本記事は株式会社医学出版の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2011 医学出版
[出典]循環器ナーシング2011年9月号

循環器ナーシング2011年9月号

p.10~「心臓の解剖と刺激伝導系の役割」

著作権について

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今日の看護クイズ 挑戦者634

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