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2019年07月01日

患者の言葉を封じ込める「お変わりないですか」|患者を癒す言葉、傷つける言葉

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

安藤 亮=日経メディカル

 

 

53歳、在宅医療や緩和ケアに精力的に取り組むさなかに、自身の食道癌が判明――。

 

1年弱の闘病生活を経て、現在は緩和ケア医として復職した行田泰明氏(わたクリニック船堀院長)。

 

自身の癌患者経験や、それ以降患者に対して向き合う中で大事にしている「言葉」について聞いた(文中敬称略)。

 

ぎょうだやすあき氏〇1987年日本大学卒。大学病院や都内基幹病院を経て、癌研究会附属病院(現・がん研究会有明病院)の麻酔科医として勤務。その後、要町病院(東京都豊島区)にて緩和ケア、要町ホームケアクリニック(東京都豊島区)で在宅医療に携わる。都内の在宅専門診療所に転籍後、2014年にステージ3の食道癌が見つかる。退職して治療を開始し、1年弱の闘病生活の後、2015年にわたホームクリニック(東京都葛飾区)の診療部長として復職。現在はわたクリニック船堀(東京都江戸川区)の院長を務め、緩和ケアに取り組んでいる。
(写真:秋元 忍)

 

癌が見つかった当時の様子を教えてください。闘病期間中、どのような思いでしたか。

行田 2014年2月に、以前から患っていた逆流性食道炎が悪化したように感じたため、勤務していた要町病院で内視鏡検査を受けました。

 

その内視鏡の映像を一目見て、自分でも食道癌だと診断できるくらいに進行していました。ですから、実は正式な癌宣告は受けていないんです。

 

それから2カ月間、かつて所属していたがん研究会有明病院で抗癌剤治療を受けましたが、やはりその期間中、気持ちの浮き沈みがかなり激しくなりました。

 

お見舞いに来てくれた家族や友人たちの顔を見て勇気づけられるのが、数少ない救いでした。

 

医師という立場で見れば、癌の標準的な治療が行われていることはよく認識していましたが、それでも抗癌剤の副作用がこんなにつらいものなのかと驚きました。

 

口の中全体に口内炎ができて真っ赤になり、食欲はあるのに口の中があまりにも痛くて、食べ物が喉を通らないのです。

 

倦怠感も想像以上に激しく、体を少し動かそうとするだけですぐに動けなくなってしまうほどでした。

 

抗癌剤の副作用は、治療が終わればいずれ良くなるとは分かっていたので、時の経過に任せるしかない、とどうにか耐えていました。

 

しかし、そのつらい抗癌剤治療を受けても、癌があまり小さくならなかったのにはかなり落ち込みました。

 

その治療が癌の縮小を目的としたものではないと分かっていたにも関わらず、です。

 

そんな時、主治医であり以前からよく知っていた腫瘍内科の先生に、「これは目に見えない癌をたたくための治療で、目に見える癌は手術ですっかり切除するのだから、心配しなくていいですよ」と言われたのには、とても救われました。

 

自分が医師である以上、そうしたことは分かっていたつもりなのですが、改めて主治医からそうした言葉を掛けられると、患者として随分気持ちが楽になりました。

 

その後、4月に手術を受けて、無事に癌は切除されたのですが、縫合不全を起こしたり、誤嚥性肺炎を4回も発症したことで、入院が6月まで伸びてしまいました。

 

その間に、想像していた以上に筋力が落ち、体重は27kgも減ってしまいました。

 

また手術以降、頸部の絞扼感が今に至るまで続いていますし、グルテンを摂取すると下痢を起こしてしまうため、パンや大好物のラーメンも食べられなくなりました。

 

バイパス手術で胃を細くしているので、食べられる量が減ること自体は予想していましたが、絞扼感や食材の制限が生じるとは考えてもいませんでした。

 

それから5年が経ちましたが、癌は寛解状態にあり、再発や転移はありません。現在は、体力的に無理のない範囲内ということで、基本的に週3日訪問診療を行っています。

 

 

医師であっても闘病中は予想していなかったことが多かったのですから、多くの患者にとっては病気を前にして分からないことばかりでしょうね。

行田泰明氏(わたクリニック船堀院長)

 

行田 そうですね。そうした状況にある患者は、疑問を持ったら主治医に何でも尋ねられる方が良いはずです。

 

医師としては、患者が感じた疑問や持っている希望を自分から発してもらえるような接し方、言葉の掛け方をするのが大事だと思うようになりました。

 

よく、医師が患者に「お変わりないですか」と聞くことがあります。それに対して患者が「変わりありません」と答えたときに、医師は「患者が一番良い状態を維持できている」と誤解しがちです。

 

しかし、患者にとっては、単に以前と変わらない、あるいは悪い状態が変化しないという意味でそう答えている場合もあるのです。

 

そうしたすれ違いが起こると、患者としても「これ以上何か言っても意味がないな」と思って、自分から医師に何かを伝えようとしなくなってしまうかもしれません。

 

私は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問ではなくて、「最近は暑いけれど調子はどうですか」など、必ず患者が自分の言葉で返せる形で問いかけるように心掛けています。

 

もちろん以前から心掛けていたことではありますが、患者の立場に置かれた経験からさらに強く意識するようになりました。

 

「はい」「いいえ」の答えしかない問いかけでは、本当は患者が進みたい方向があるのに、「医学的に正しい」治療をしようとするあまり、患者の希望とは異なる方向に連れて行ってしまう恐れがあります。

 

あくまでも医師は、患者が疲れたときに肩を貸す存在であって、決して患者をおぶって進んではいけないと思っています。

 

患者や家族がどういう希望を持って、どのように進んでいきたいのかを受け止めて、彼らの傍らに寄り添って一緒に歩くという意識を常に持っています。

 

患者と同じ目線に立つという意味で、患者の顔を正面から見て話す、ベッドに寝ている患者なら腰かけて話しかけるといったことも意識しています。

 

また、診察の終わりには「また会いましょうね」と声を掛けて、次回も私が来るよ、安心していいよ、というメッセージを言葉として伝えているつもりです。

 

経験上、そうした信頼関係の中で会話していると、患者の方から自然に「どんなことをしたいか」という希望を発してくれます。

 

「最後に家族で旅行に行きたい」「少しでいいから息子の結婚式に出たい」など、色々な相談を受けてきました。

 

もちろん100%叶えられるわけではありませんが、できる限り希望に添えるような形でお手伝いしています。

 

 

患者からどうしても叶えられない相談をされたり、医学的にプラスにならないような治療を望んでいる場合には、どのような言葉を掛けますか。

行田 無理な相談をされるケースは多くはありませんが、それが叶わない理由をはっきり説明する必要があると思います。

 

例えば、旅行に行きたいと希望しているけれど体力的に無理だろうという場合には、「今の体力では逆に負担になってしまうし、それによって得られる利益よりも被る不利益の方が大きいよ」と伝えます。

 

中には、医学的に意味のないような代替医療を望む人もいます。

 

何十万円もかけて効果のない治療を受けているような場合は、「それはエビデンスのない治療で、お金をどぶに捨てるようなものだから決して勧められない」とは伝えます。

 

ただ、患者がサプリメントなどに頼っていて、それに肉体的な悪影響がなく、経済的にも負担にならない範囲内であれば、あえてやめさせようとはしません。

 

毒にも薬にもならないものが心の拠り所になっているのなら、その支えまで奪ってしまう必要はないと思います。

 

以前からこうした考え方を実践していましたが、闘病を経てその思いがますます強くなりました。

 

私自身、癌が判明した後は何かにすがりたい一心で、各地の神社仏閣を巡って祈りましたし、それは復職した今でも続けています。

 

特に緩和医療の世界では、医学的に正しいことが必ずしも患者の生き方にとっても正しいとは限りません。

 

例えば、食事が十分にとれないから点滴を入れるというのは、医学的には正しいでしょう。

 

しかし、点滴の開始は患者にとってひとところにつながれることを意味しますし、それは患者の人生にとっては正解でないかもしれません。

 

緩和ケア医としての20年、そして癌の闘病を経て、この人にとって本当に必要なことは何なのか、この人の希望に添うためにはどうすればよいのかということを、より深く、より丁寧に考えるようになりました。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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