うつ病患者のターニングポイント|マンガ・病院珍百景

ふとした会話が変化のきっかけになるとき。

タイトル:うつ病患者のターニングポイント。

ある日、精神科のカンファレンスで、進藤さんという患者さんのうつの原因が不明だという話があがりました。

「仕事は順調みたいだし。」「家庭も円満というしね~。」と原因は思い当たりませんでした。

そんなある日。私は、進藤さんの血圧を計るとき、外に桜が咲いていることに気がついて、「入学式シーズンですね、私の初恋、小学校の先生だったんですよね~。」と昔を思い出して言いました。

すると、進藤さんも「初恋か…僕も先生だったな~。」と話し始めたので、「どんな先生だったんですか?」と尋ねました。

進藤さんは窓の外を見ながら、「体育の先生で優しくて、サッカーがうまくて。」とぽつぽつ話し始めました。

私は何気なく、「女性でサッカーがうまい先生ってかっこいい~。」というと

進藤さんは、何も言わず口をつぐんでしまいました。

その様子をみて、私は、進藤さんの初恋の相手が男の先生だったことを察しました。

「血圧120の65です。」計測が終わった血圧機をはがしながら言いました。進藤さんは、黙ったままひどくつらそうな顔をしています。

進藤さんは子供のころからずっと、ワンピースやドレスの女性らしいことに憧れを持っていたのでした。

でも周りに悟られないように、言葉も行動も男の真似をして、友達が美人を見つけたら便乗するように、生活してきました。それでも…

自分のこの感情が周りや家族にバレてないか。怖くて、怖くて…と進藤さんは頭を抱えて震えました。

涙を堪える進藤さんの肩に触れながら、「…つらかったですね。」私はそう、一言声をかけました。

それからというもの、進藤さんは抑圧していたものと向き合い始め、翌月退院していきました。

半年後、外来で見かけた進藤さんは、長い髪の毛にスカート、ハイヒールをはいて颯爽と歩いていて、以前の進藤さんとは別人でした。

私は進藤さんの後ろ姿を見送りながら、『精神科に来る方の抱えているものは大きく、難しい。でも全身を感じるこういう時、精神科ナースって楽しいな』としみじみ思いました。

 


【著者】とげとげ。

 元看護師のイラストレーター。有名女性誌などで幅広く活躍しながら、2児の母としても絶賛奮闘中。

子育てエッセイマンガブログ『ママまっしぐら!』

http://www.togetoge.net/

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