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2019年03月25日

医療事故を起こした医療者本人にも心のケアを|普及なるか、院内「ピア・サポーター」

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

満武 里奈=日経メディカル

 

医療事故を起こした医療者の心のケアを行う「ピア・サポーター」を院内に配置する病院がこの半年で2施設登場した。ピア・サポート制度を導入した経緯や、その効果について聞いた。

 


医療事故が発生すると、病院は原因究明と再発防止に掛かりきりになり、医療事故を起こしてしまった当事者へのサポートがおろそかになりがちだ。そんな医療事故当事者の心のケアを行うのがピア・サポーターだ。

 

2018年11月に院内にピア・サポート制度を導入した埼玉医科大学総合医療センター(埼玉県川越市)神経精神科の吉益晴夫氏は、その導入の理由について、「医療事故の当事者にもしっかりと心理的サポートを行う必要があるし、ピア・サポーターがいることで『万が一の時でも病院がサポートしてくれる』という安心感が職員に生まれ、それが提供する医療の質向上にもつながることを期待した」と話す。

 

ピア・サポーターは、海外では2000年ごろから、ジョンズ・ホプキンス病院やブリガム・アンド・ウィメンズ病院が導入したことで注目されるようになった。日本でのピア・サポート導入支援は、一般社団法人Heals(Healthcare Empowerment and Liaison Support)が旗振り役を務める。

 

Healsのコアメンバーには、「医療対話推進者」の原型となる医療メディエーションの概念を提唱した、早稲田大学法務研究科教授の和田仁孝氏も名を連ねる。「医療事故が発生したとき、患者や患者家族だけでなく、事故に直面した医療者も深く傷つき苦悩する。その結果、バーンアウトや自殺といったSecond Victimにつながることもある。医療事故当事者である医療者にも心のケアは不可欠であり、それを行うのがピア・サポーターだ」と和田氏は説明する。

 

Heals代表理事で看護師の永尾るみ子氏は、「ピア・サポーターは、仲間(ピア)として医療事故当事者の話を共感的に受け止め傾聴するのが役割。必要があれば、より専門的なケアへとつなぐ役割も果たす」と紹介する。

 

日本でのピア・サポート導入支援を行う一般社団法人Heals。Heals代表理事で看護師の永尾るみ子氏(左)と早稲田大学法務研究科教授の和田仁孝氏(右)。

日本でのピア・サポート導入支援を行う一般社団法人Heals。Heals代表理事で看護師の永尾るみ子氏(左)と早稲田大学法務研究科教授の和田仁孝氏(右)。

 

一般的なピア・サポートの流れはこうだ。医療事故が発生したら、まず上司らがピア・サポート管理者に連絡し、管理者が担当のピア・サポーターを選定する。その後、担当ピア・サポーターから本人にサポートをしてほしいかどうかを確認する。事故当事者が直接、ピア・サポートを申し込むこともできる。

 

担当ピア・サポーターを決定する際は、「職種や診療科が同じだったり、年齢が近い方が、境遇や心情を理解してもらえると感じやすい」(永尾氏)。

 

ただし、診療科が全く同じピア・サポーターだと、話の内容が上司に筒抜けになるのではないかと本人が不安に思うケースもあるので、あくまで本人の希望を尊重しながらピア・サポーターを選出する。

 

担当のピア・サポーターが決まり、本人からサポートの希望があれば面接日時を設定する。面接の際は、記録を残さないことに加え、ピア・サポートを受けている事実を他の誰にも分からないように配慮する。

 

ピア・サポーターが医療事故当事者から聞いたことは、他言しないし、分析もしない。ピア・サポーターによる面接は原則1回のみ。必要に応じて、臨床心理士や精神科の受診、院内弁護士の紹介などにつなげていく。

 

 

国内で導入した2施設の様子は…

既にピア・サポート制度を導入している国内2施設の状況を紹介しよう。

 

いち早くピア・サポーターを配置したのは、埼玉医科大学病院(埼玉県入間郡)だ。同病院の病床数は970床で、医師420人、看護師820人。ピア・サポ―ト室は、2018年9月に設置した。脳神経外科の小林正人氏が、同僚に紹介されたピア・サポートに興味を持ったのがきっかけだった。

 

「責任感がある人ほど任される仕事量が多くなり、受け持つ患者数も多くなりがち。不慮の医療事故に巻き込まれる確率も当然高くなる。こうした人たちを組織として守るシステムが必要だと以前から考えていた」と小林氏は話す。

 

「ある程度キャリアを積んできたスタッフからは、『医療事故当事者へのこういったサポートが必要だと思っていた』いう声も数多く届いており、手応えを感じている」と話す埼玉医科大学病院の小林正人氏の写真。

 

院内での承認を得た後、Healsに相談しながら半年ほどかけてピア・サポーター室の設置にこぎつけた。

 

院内にピア・サポーターを配置する上で注意したのは、ピア・サポ―トを行う部署と「医療安全対策室」の関係だ。

 

「医療安全対策室はその業務の性質上、どうしても病院側もしくは患者さん側の視点に立つので、医療事故を起こしてしまった当事者を『調査する』立場になる。ピアサポーターは、医療者の心の健康を守るという立場なので、医療安全対策室とは切り離して、健康管理部門の下に設置することにした」(小林氏)。

 

ピア・サポート制度の導入に当たっては、職員への周知が何よりも重要だ。2018年11月には、院内でHeals代表理事の永尾氏の講演会を実施。患者と接する職員1900人ほどを対象に、これまでに医療事故当事者になった経験があるかなどを尋ねる無記名式のアンケートを実施した。さらにはピア・サポートへの理解を深めるためのe-learningプログラムも用意した。

 

その間、ピア・サポーターは小林氏を含め7人を養成。内訳は、医師が4人(脳神経外科医、循環器内科医、総合診療内科医、神経内科医)、看護師が3人だ。ピア・サポーターの選出は、Healsのアドバイスを受け、他薦にした。

 

小林氏は、「医療事故当事者をサポートする『ファーストステップ』ということだったので、あえて精神神経科の医師はピア・サポーターに入れなかった」と話す。

 

同院では、ピア・サポート制度導入から4カ月間で、3人の医療事故当事者にピア・サポートを実施した。3人とも看護師だった。所要時間は、それぞれ60分弱ほど。本人から直接ピア・サポートの希望を申し入れてきた例はなく、いずれも上司の打診を起点としたサポート依頼だったという。

 

ピア・サポーターによる面談では、診察室は使用せず、職員が普段使用している会議室や応接室を使用する。時間を気にせず話ができるように時計は置かず、花や絵が飾ってある部屋を選び、リラックスして話ができるようにしたという(写真1)。

 

埼玉医科大学病院でピア・サポートを行う部屋の一例

写真1 埼玉医科大学病院でピア・サポートを行う部屋の一例

 

「ある程度キャリアを積んできたスタッフからは、『医療事故当事者へのこういったサポートが必要だと思っていた』いう声も数多く届いており、手応えを感じている」と小林氏。

 

ピア・サポーター間では、3カ月に1回ほどの頻度で会議を開き、どういったケースをサポートしたのかを共有するようにしている。今後は、現在7人いるピア・サポーターを10人まで増やす方針だ。

 

 

医療安全の取り組みの一環でピア・サポート制度構築に着手

2施設目にピア・サポート制度を導入したのは、埼玉医科大学総合医療センター(埼玉県川越市)だ。2017年夏から検討を開始し、2018年11月からピア・サポ―ト制度をスタートした。

 

同病院の場合、ピア・サポート制度導入のきっかけとなったのは病院長の堤晴彦氏の方針だった。医師450人、看護師1200人を擁し、病床数1053床の同病院は、3b以上のアクシデント(行った医療または管理により本来必要でなかった治療や処置が必要になった場合)が年120件発生している。

 

2000年に発生した医療事故を契機に、その日を「医療安全の日」と定め、院内で医療安全に力を入れており、そうした医療安全の取り組みの一環でピア・サポート制度の構築に着手したという。

 

1例目の埼玉医科大学病院と同様、「ピア・サポートセンター」は「医療安全対策室」とは別組織とし、健康診断や産業医による面談などを実施する「健康推進室」の下に設置。面接を行う場所には、健康診断や産業医による面談を行う部屋を利用することにした(写真2)。

 

埼玉医科大学総合医療センターでピア・サポートを行う部屋の一例

写真2 埼玉医科大学総合医療センターでピア・サポートを行う部屋の一例

 

埼玉医科大学病院と異なる点は、これまで職場でメンタルサポートなどを精力的に行ってきた精神科医師の吉益氏をはじめ、精神看護専門看護師や臨床心理士、産業医などをコアメンバーに据えた点だ。その上で、16人のピア・サポーターを他薦で集め、全員がHealsの研修を受講した。

 

ピア・サポート制度のスタートから4カ月ほどたったが、今のところ面談を実施した医療者はいない。制度導入に尽力した神経精神科の吉益晴夫氏は話す。「特に医師からの反響が大きい。ピア・サポートセンターを設置した院長の思いも職員にしっかりと伝わっており、職場への満足感につながっているようだ」。

 

「特に医師からの反響が大きい。ピア・サポートセンターを設置した院長の思いも職員にしっかりと伝わっており、職場への満足感につながっているようだ」と語る埼玉医科大学総合医療センターの吉益晴夫氏の写真。

 

医師らからは、災害医療や救急医療に携わる医療者のケアにも活用できるのではないかとの提案もあったという。「患者や家族の苦しみや悲しみに触れ、医療事故当事者と同じようなつらさを抱えている医療者が少なくない。医療事故当事者以外でも、そうした医療者の心のサポートをすることも視野に入れている」と吉益氏は話す。

 

目下の課題は、ピア・サポートセンターへのアクセスしやすさをどう確保するかだ。

 

「医療安全対策室とは別部門にはしているものの、当事者がピア・サポートセンターに連絡するのにはハードルがあるのかもしれない。医療事故情報などに基づいて、センターから当事者に声がけをした方がよいのかどうかを検討中」と吉益氏は話している。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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