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2019年03月18日

「透析しない選択肢」も意思決定支援に必要|インタビュー◎透析終了は医療倫理に反することですか

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

小板橋 律子=日経メディカル

 

公立福生病院(東京都福生市)で行われた「維持血液透析中止」をめぐる報道が続いている。事実関係は未解明だが、この一連の動きの中で、透析療法を行わない選択肢および一旦開始した透析療法を終了する選択肢を患者に提示することは倫理に反するかのような報道もみられる。

 

透析療法を行わない選択肢の提示は倫理に反するのか、臨床倫理の専門家である東京大学の会田薫子氏に聞いた。

 


毎日新聞に端を発した透析中止に関する新聞報道に、大きな違和感を覚えます。このような報道が続くことで、「人工透析はやるべきもの」「やめてはいけないもの」との誤解が医療者や市民の中に広がらないかと危惧するためです。

 

また、「死の選択」というとらえ方ではなく、「人生の最終段階の生き方の選択」ととらえてほしい。その選択の中には、本人にとって不要な治療は終了することも含まれると思います。

 

透析の終了という選択肢について、公立福生病院のケースを離れて一般論として、医学的観点と臨床倫理的観点に分けて考えてみたいと思います。

 

まず、医学的観点ですが、透析療法はその開発当時は夢の治療と考えられ、これまで多くの腎不全患者の社会生活を実現してきましたが、昨今、フレイル(加齢による心身機能と生理的予備能の低下)が進行した患者ではその有効性が疑問視されつつあります。

 

最初に高齢者における透析の意義に疑問を投げかけ注目されたのは、2009年のNEJM誌に掲載された論文でした。同論文は、全米におけるナーシングホーム在住の75歳以上の高齢者3702人を対象に、透析導入後の日常生活動作(ADL)と死亡率を調査したものです。透析導入後、ADLは大幅に下がり、かつ1年後の死亡率は6割近いという衝撃の結果でした(N Engl J Med.2009;361:1539-47.)。

 

この論文ではフレイルという概念には言及されていませんが、ナーシングホーム在住ということで、対象患者の多くにおいてフレイルが重度に進行していた可能性があります。

 

その後も同様の研究が継続して行われています。最近では、1施設におけるレトロスペクティブな解析ではありますが、透析導入患者と非導入患者を比較すると、80歳未満では透析導入により生存率が上がるものの80歳以上では有意差がないこと、また、重度の合併症を有する患者群では70歳代でも生存率の有意な改善を認めないという報告もあります(BMC Nephrology.2018;19:205.)。

 

これらは、透析導入による医学的なメリットが少ない、または、透析療法によるデメリットがメリットを上回る患者群の存在を示唆します。透析導入の対象群を医学的に再検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。

 

 

本人の「透析は受けたくない」は尊重すべき

選択肢でNOを選ぶイラスト
 

臨床倫理的な観点からすると、透析療法を行わない選択肢や、一旦開始しても終了する選択肢は患者さんに提示されてしかるべきです。

 

本人が自分の医学的な状態と透析療法のメリットとデメリットをよく理解した上で、自分の価値観・信条を踏まえて「透析は受けたくない」と判断したのであれば、誰かに気兼ねした発言ではないことなどをしっかり確認した上で、その信条を尊重すべきだと思います。

 

少なくとも、患者本人が判断能力を有する場合に、本人からインフォームド・コンセントを得ることができない医療行為を医師が強制することはできません。もちろん、患者本人の気持ちの変化を汲むこと、家族の心情への配慮もとても大切です。

 

私たちは透析療法に携わる看護師や医師と研究班を作り、『高齢者ケアと人工透析を考える ― 本人・家族のための意思決定プロセスノート』(医学と看護社、2015)という書籍を発行していますが、その中で、腎不全の治療選択として、血液透析療法、腹膜透析療法、腎移植という腎代替療法だけでなく、「透析療法を行わない=自然にゆだねる」も選択肢としています。

 

「透析療法を行わない=自然にゆだねる」選択肢では、医療行為を何もしないのではなく、透析療法以外の治療法、つまり、薬物療法や食事療法、生活管理を行って、QOLを優先した療養生活を送っていただくことを提案しています。

 

その場合、穏やかな最終段階の実現のために、呼吸困難や高カリウム血症、吐き気・嘔吐などへの緩和ケアも必要ですので、それらのケアについても併せて解説しています。

 

 

「透析中止で20人が死亡」報道が遺族にもたらすもの

一連の報道の中には、透析を行わずに死亡した患者さんが20人ほどいたというものもありました。このような報道をするメディアの方々には、「この記事を読んだ遺族がどのような心境になるか想像してみたことがありますか?」と問いたいです。

 

このような報道を読んだ遺族は、間違ったことをやってしまった、本人をひどい目にあわせたと後悔し、悩み、その結果、うつ病を発症してしまうことだってあり得るでしょう。もしそうなってしまったとして、その責任は誰が取るのでしょう。

 

20人の患者さんについてまとめて「透析中止」と報道することには意味がないだけでなく、誤解の基になるので有害だといえます。患者さん一人ひとりにおいて、どのようなプロセスを経て透析の終了に至ったのか、記事からは何も分かりません。そもそも、医学的な適応がなくなっていたのかもしれません。

 

重視すべきは、患者本人の医学的な状態と透析終了に至るプロセスがどのようなものだったのか、本人の意思を十分尊重できていたか、患者が意思決定するための支援を医療者側がきちんと行えていたかです。

 

「必ず透析を受けるべき」という主張は医療における父権主義(パターナリズム)です。現在は、患者本人と医療者が共同で意思決定する共同意思決定(SDM: shared decision-making)の時代なのに、その流れに逆行し、患者は必ず治療を受けるべきと医師が決める時代に戻すような報道は、バッド・ジャーナリズムです。

 

今回の報道を受けて日本透析医学会が病院を調査すると聞いています。また、もしかしたら既存の提言を改訂することもお考えになるかもしれません。

 

その際は、患者の意思決定支援におけるプロセスをより重視していただきたいです。患者の選択肢を狭めるような方向に舵を切ることのないよう、応援したいです。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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